G7、すなわちGroup of 7は、日本、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランスの7カ国に加えて欧州連合(EU)から構成され、首脳級のサミットのほかに、特定の分野に関する大臣会合を毎年開催しています。2023年のG7は日本が議長国を務め、5月19日~21日に広島でサミットが開催されるほか、気候・エネルギー・環境大臣会合をはじめとする14の大臣会合が日本各地でそれぞれ開催されます。日本は議長国としてG7の優先議題を設定し、議論を牽引するなど、リーダーシップを発揮することが期待されています。本特集ページでは、気候変動、エネルギー、環境分野における主要テーマの動向や注目ポイント等を解説します。
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G7のハイライト
2022年度のG7首脳コミュニケでは気候変動、生物多様性の損失、汚染という3つの世界的危機が表裏一体で相互に強化されており、これらの課題は主に人間活動と持続不可能な消費・生産パターンに起因しているという認識が改めて示されました。ここでは昨年のG7からの動きや、2023年の気候変動、エネルギー、環境分野分野における優先課題、そして今年のG7に期待される成果等をまとめました。
研究者の視点
G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケには、「脱炭素で豊かな暮らし(ウェルビーイング)のためのG7プラットフォーム」を設立することが盛り込まれました(コミュニケ第53段落)。
この背景には、暮らしや消費行動を変革していくことが、1.5℃目標を達成する上で重要な役割を担うことが、近年広く知られるようになったことがあります。具体的には、2022年に公開されたIPCC第三作業部会報告書によると、ライフスタイルを含む需要側の緩和策を活用することで、分野によってGHGを2050年までに40から70%も削減できる可能性があります。本年、G20の議長国を務めるインドもライフスタイル変革を重視し、「Lifestyle for the Environment」イニシアティブを提唱しています。また日本がリードしてきた国連「持続可能なライフスタイル及び教育プログラム」でも、脱炭素型ライフスタイルの普及を促進するために、G20、G7等との協力を強化する方策を検討しています。
IPCC報告書は、世界の豊かな10%の人の暮らしが世界のカーボンフットプリントの半分に関連するというデータを引用しています。しかし、ここから、「ライフスタイルの変革で大きな削減が可能」とか、「豊かな人々の過剰な消費とエネルギー利用の削減に注力すべきだ」等と結論づけるのは早計です。同報告書では、すべての人が「まともな暮らし(Decent Living)」を送ることができるような「サービス供給システム」を構築する議論に紙幅を割いています。
世界の多くの人が安全な水、調理に必要なエネルギーに安定的にアクセスできていない現状では、エネルギー利用を減らすという対応は、普遍的な解決策ではありません。また、経済的に恵まれない人も含め、「まともな暮らし」に必要な光熱、食、移動のサービスにアクセスしやすい社会では、エネルギー需要とGHG排出が少ないこともわかっています。そのため、脱炭素型の暮らしを実現するための課題とは、「一人ひとりの過剰な消費・エネルギー利用を減らす」ことではなく、GHG排出の多いサービスや製品に頼らずに、誰もが「まともな暮らし」に必要なサービスや財を手に入れられるような供給システムを作ることにあります。
これまでの製品・サービス供給システムは、できるだけ多くの資源を安く手に入れ、エネルギーや資源を大量に浪費しながら加工し、世界中の多くの市場に流通させ、いらなくなれば廃棄するものでした。この仕組みは複雑で専門化されています。食べ物、エネルギー、健康や移動などのサービスと財が、どこで誰の手を経て私達のもとに届いているか、その過程でどんな影響(例えば、環境破壊、労働者の健康被害や貧困)があるか理解することは困難です。
近年、資源を使い捨てにするのではなく循環させながら長く使う「循環型経済」を作ろうという動きが広がりつつあります。資源を循環させ長く使うことは重要ですが、これだけで、すべての人が「まともな暮らし」を送るような仕組みが実現するわけではありません。資源が循環し、なおかつ誰もが「まともな暮らし」を送れるようなサービス供給を実現するには、作る人や届ける人と使う人との間の役割を混ぜていくことがヒントになります。ものの所有ではなく機能を活用するサービス、製品や容器を使い捨てにせずに何度も使えるような回収システム、地域住民が主導する食やエネルギー生産などは、資源を節約し循環すると同時に、生産者と消費者の役割分担の変化に繋がります。
このような取り組みは国内外にありますが、熱意ある人の多大な努力と犠牲で成り立つ特別なもの、あるいはたくさんお金を払い時間を使うゆとりのある、限られた人のためのサービスである場合も少なくありません。もっと多くの地域で、多くの企業や市民が日常的に参加できるものにしていくことが、これからの課題です。私達が、製品やサービスの消費者、受益者としてだけではなく、脱炭素型で、誰もが安心して暮らしていける社会を作る共同制作者、共同経営者としての役割を担うことができるようになるために、行政、企業と市民や消費者との新しい接点を増やしていく必要があります。
G7やG20での脱炭素型ライフスタイルへの注目をきっかけに、「個人が頑張って行動を変える脱炭素化」ではなく、「安心で公平な暮らしをみんなで作ることによる脱炭素化」が実現するよう取り組んで行きたいと思います。
G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合では、1.5℃目標と整合するためにG7がリーダーシップを発揮していくとの共通認識のもとで議論が進められましたが、石炭火力発電所の廃止について、その時期など踏み込んだ合意は実現しませんでした。その代わり、石油、ガスも含めて「排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる(コミュニケ第49段落)」ことが合意されました。また、共通の目標として「2035年までに電力部門の完全又は太宗の脱炭素化の達成(同66段落)」が再確認され、「2035 年までにG7の保有車両からの CO2 排出を少なくとも 2000 年比で共同で 50%削減する可能性に留意(同79段落)」という文言も合意文書に書き込まれました。
「排出削減対策が講じられていない(unabated)」化石燃料をフェーズアウト、ということは、裏を返せば排出削減対策を講じれば化石燃料を使い続けられる、という意味とも取れます。しかし、どういった「対策」が講じられればよいのかは明確にはされていません。例えば、石炭火力発電の「フェーズアウトを加速させる(accelerating the phase-out)」、電力部門の「太宗の(predominantly)」脱炭素化、保有車両からの CO2 排出を少なくとも 2000 年比50%削減する「可能性に留意(note the opportunity)」という書きぶりからは、どのぐらいのペースで化石燃料による発電を廃止するのか、火力発電の高効率化やアンモニア混焼といった対策で良いのか、電力部門の何%を脱炭素化すれば達成とみなすのか、車両からのCO2排出量の50%削減を実際に実行するのかどうか、明らかではありません。交渉文書として、これらは敢えて曖昧な表現に留められたと理解することができます。
さらには、「各国のエネルギー事情、産業・社会構造及び地理的条件に応じた多様な道筋を認識(同49段落)」、「ゼロエミッション火力発電に向けて取り組むために、電力セクターで低炭素及び再生可能エネルギー由来の水素並びにその派生物の使用を検討している国があることにも留意(同67段落)」、「(世界全体の保有車両から迅速かつ相当な温室効果ガス排出削減を行う)目標のためにG7及びG7以外のメンバーが採る多様な道筋を認識する(同79段落)」など、日本が目指す既設火力発電所への水素・アンモニアの混焼や、内燃機関によって走行する自動車を合成燃料によって脱炭素化していくことが、少なくとも認識されるような内容となっています。
日本政府が議長国として自国に有利な方向に合意形成が行われるよう尽力したことが垣間見え、交渉に当たられた方々には敬意を表したいと思います。しかし、今回の交渉で日本の主張が認識されたからといって、気温上昇を1.5℃に抑えるための非常に険しい道のりが何ら変わるわけではありません。1.5℃整合の道筋には多様性が存在するのは事実であり、それを認めることは重要ですが、道筋として選択しうる幅は非常に狭いということは十分に理解しておく必要があるでしょう。
日本の「GX実現に向けた基本方針(案)参考資料」に記載されているロードマップでは、2030年時点で水素・アンモニアは発電部門の1%を占める見通しに過ぎず、CCSも2030年までに事業開始ができるような環境整備を目指していますが、その後ただちにすべての発電所にCCSが適用できるとは考えにくいでしょう。自動車部門での合成燃料の商用化も2040年代とされています。つまり、水素・アンモニア、CCSや合成燃料による対策は、2040年以降の排出削減としては効果があるものの、「この決定的に重要な 10 年に、強力で野心的かつ効果的な緩和行動を実施し、強化する(コミュニケ第46段落)」と定める国内の緩和策の目的達成への貢献度は低いと考えられます。
冒頭の説明の通り、1.5℃整合の排出経路に関する科学的知見や石炭火力・ガソリン車の期限を定めた廃止などに取り組んでいる各国のコミットメントを踏まえれば、この合意文書では、2035年までに電力部門からの排出量を限りなくゼロに近い水準とすることや、ゼロエミッション車への早急なシフトが想定されていることは明白です。これに対し、今回の交渉において、日本が1.5℃目標に貢献することよりも、逃げ道を作ることがもし優先されたとすれば、それは残念だと言わざるを得ません。今後、現状の日本が追求している道筋は本当に1.5℃目標の達成に貢献するのか、より良い道筋はないのか、国内でも議論を尽くして検証していく必要があるのではないでしょうか。
今次会合では、環境汚染、気候変動、生物多様性損失の三つの危機に取り組むためには、より大規模な資金が必要であることが再確認されました。しかし、共同声明では、従来からの公約である、あらゆる金融・政策手段を活用し、大規模に財源を動員することを表明するに留まり、資金に関する具体的な施策や突破口となるような進展は見られませんでした。
例えば気候変動に対処するために必要な資金動員において、高炭素排出セクターでは、パリ協定の温度目標に沿ったネットゼロへの移行を支援するための金融サービスや商品を提供することが重要です。この分野をトランジションファイナンスと呼び、ネットゼロへの移行を促進する資金調達の分野のひとつとして、重要な役割を果たしています。現在、世界ではトランジションファイナンスの拡大に向けて様々なレベルで取り組みが進められています。
日本政府は、石油・ガス・鉄鋼などの高炭素排出セクターを対象とした「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」と、「トランジションファイナンスにむけた分野別技術ロードマップ」を策定し、トランジションファイナンスのモデル事業を実施するなど、その取り組みを進めています。他のG7諸国でも、EUやカナダでトランジション・タクソノミーを検討するなど、トランジションファイナンスの枠組みやツールを通じて、民間資金動員の環境整備が進められています。
世界規模では、19の国家金融当局で構成される「サステナブル・ファイナンスに関する国際的な連携・協調を図るプラットフォーム(IPSF)」が、G20の持続可能な金融の枠組み策定に関与し、9つの自主的なトランジションファイナンス原則を提案しました。そして市場レベルでも国際資本市場協会(ICMA)が「気候トランジションファイナンスハンドブック」を発行し、ネットゼロへの移行を促進する目的を持って、市場で資金調達を行う際に参照できるようなガイダンスを示しています。IPSFの分析によれば、2022年夏の時点でトランジションファイナンスに関連したフレームワークやガイダンスが地域、国、あるいは金融関係者などによって20以上作成されています(IPSF, 2022 P42)。
共同声明(P55)では、トランジションファイナンスの重要性に言及しているものの、より具体的な推進策については触れられていません。他方、G7には、2022年のG20で合意されたG20 トランジションファイナンスフレームワークの実施に関して重要な役割を果たすことが期待されています。例えば、2023年2月24-25日にインドで開催された第1回G20会財務大臣及び中央銀行総裁会合では、G20トランジションファイナンスフレームワークの実施に向けてキャパシティ・ビルディングや技術支援の拡大していくための更なる努力などが求められました。本フレームワークは、トランジション活動の特定、トランジション活動に関する情報の報告、トランジション関連の金融手段、政策措置の設計、そして社会・経済的な負の影響の評価という5つの柱と22の原則で構成されています。採用については国や金融機関などが、自主的に決定することとなっています。
G20メンバー国がG20トランジションフィアナンスフレームワークの原則を維持しつつ、各国の状況に応じたローカル版のトランジションファイナンスを拡大していくための政策枠組みを検討し、実施を支援する上で、G7は重要な役割を果たすことができます。G7とG20のメンバー国がこのような協力を促進することで、1.5℃目標の実現にむけてトランジションファイナンスの規模が国際的に拡大されることに期待します。
世界共通の課題である気候変動、生物多様性、環境汚染という三つの地球規模の危機への対処に向けて、経済成長と環境劣化や一次資源の利用とのデカップリングそしてバリューチェー ン全体における資源効率性及び循環性の向上が重要という共通認識の下、日本が提唱し、資源効率性・循環経済を推進する意欲のある企業に向けた共通指針「循環経済及び資源効率性の原則(CEREP:Circular Economy and Resource Efficiency Principles)」が採択されました。
社会がより持続可能な未来を実現するためには、資源の使用とその影響を総合的に考慮することが必要で、公共部門と民間部門が協力して循環経済を推進することが重要です。CEREPは、企業が循環経済に向けて取り組むための管理体制や取り組みの指針を提示することで、企業の自主的な循環経済イニシアティブ構築を奨励することを目的としています。循環経済に取り組むためにどこから着手すれば良いかわからない企業については、取り組みのきっかけとして、金融機関などに対しては、循環経済に関する評価実施に向けた理解の一助となるものと考えられます。CEREPをベースに、G7は今後、エンゲージメント・グループB7(Business7:経済団体)や、他の民間ステークホルダーとの協力も前進していく方向で、日本でも循環経済パートナーシップ(J4CE)や経産省で計画されている産官学パートナーシップも含め、循環経済達成には不可欠な官民連携が強化されていくことが期待されます。
資源効率性・循環経済の役割は、持続可能なバリューチェーンの構築や資源安全保障の観点からも、重要性が再確認されました。今次会合では、「サプライチェーン全体の透明性及び報告の強化、及びグリーンな公共調達の強化」等へコミットすることで、バリューチェーンにおける持続可能性と強靭性にインセンティブを与えたこと、循環性及び環境影響を測定し、バリューチェーン全体でデータを共有・活用することの重要性が示されたことが評価できます。
電気自動車の電池など脱炭素技術の普及に欠かせない重要な鉱物資源(critical minerals)に関する計画がまとめられたことや、電子電気機器などからの国内・国際の重要鉱物の回収、リサイクルの増加にコミットしたことも注目に値します。
プラスチック課題については、「2040 年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする野心を持って、プラスチック汚染を終わらせる」ことを示したことが、プラスチック汚染に関する条約での今後の議論に影響を与えるでしょう。
今次会合では生物多様性に関する深い議論が交わされ、共同声明にも重点的に記載されました。声明の第1章、「気候、エネルギー及び環境の合同セクション」では、昨年12月に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)、ならびに今年3月に妥結した国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全及び持続可能な利用に関する協定の重要性が強調されました。また、森林と土地劣化、ならびに気候変動をはじめとする社会課題の解決に資する自然環境の保全や再生(NbS)についても、それぞれ独立の段落を設けて取り組みの重要性が強調されています。
環境セクションでも生物多様性が冒頭で取り上げられ、GBFとBBNJの実施に向けてG7諸国が世界的な取り組みを主導する意思が明確に示されました。特に注目すべき点は、これらの目的を推し進めるための国家予算の配分についても言及されていることです。中でも気候変動資金を活用して生物多様性コベネフィットを創出することが重要な目的の一つとされています。 企業活動の生物多様性への依存や影響の評価とその情報公開の促進、ならびに資金導入の基盤を整えていくための強いコミットメントが示されたことに、重要な意義があります。この一環で、GBFターゲット15およびTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に沿ったネイチャーポジティブ経済の実現に向けて、国家や非国家主体、特に民間セクターの間で知識を共有するためのG7 ネイチャーポジティブ経済アライアンスの設立が宣言されました。
G7気候・エネルギー・環境大臣の共同声明には、第1回グローバルストックテイク(GST)に関する段落が盛り込まれています。声明では、現在実施されている第1回GSTの評価結果は、2025年に提出される次期NDCの策定に向けた明確な方針を示す必要があるとし、次期NDCには全種類の温室効果ガスと全ての分野を対象とした、経済全体における排出の絶対量での削減目標を含めるべきであると述べられています。また声明中でG7は、第1回GSTにおける野心的な成果物の作成に積極的に貢献し、気候変動対策の要と言われる決定的に重要な10年間およびそれ以降の気候行動の強化に向けた政治的機運の醸成にコミットするとしました。
GSTの成果物はパリ協定の目標達成に向けたギャップを示すだけでなく、今後の気候行動を強化するための具体的な道筋と対策を示し、行動を後押しするための強い政治的メッセージを発信しなければなりません。G7からGSTに向けたメッセージが発信されたことは、COP28に向けた世界全体での政治的機運を醸成する上での大きな一歩です。今後、G20や9月に開催される国連気候野心サミットからどのようなメッセージが発信されるか注目されます。
今次会合では、気候変動に対して特に脆弱な途上国に対する支援に関する活発な議論が展開されました。特に、気候変動に伴うロス&ダメージに対する支援の要請が国際的に高まる中、G7各国による既存の支援を取りまとめた「G7気候災害対策支援事例集」が策定されたことに注目できます。また、途上国が気候リスクに基づいた意思決定を行い、気候変動の影響に対する適応やロス&ダメージへの対応を進めていく努力を支援していくことで、パリ協定の実施を後押しすることも強調されました。昨年12月に開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)において、ロス&ダメージに対する新たな資金アレンジメントを設置することが合意されましたが、今回のコミュニケでは、これを成功裏に実施することに加え、G7各国が多様な手段でロス&ダメージの問題に取り組んでいく姿勢が示されたといえます。
適応やロス&ダメージに対応するための資金について、民間セクターの役割の認識が強調されたことも重要なメッセージです。具体的にはインフラやバリューチェーンの強靭性の強化、気候変動の悪影響に適応するための製品やサービスの提供などが挙げられ、さらに、これらの役割を強化していくことが盛り込まれました。現在では、公的セクターが中心となって提供されている国際的な適応資金と気候変動に脆弱な途上国のニーズとの間に、依然としてギャップがあることが知られています。適応資金の拡大について、G7による継続的な資金動員の加速のみならず、G7以外の国や、民間を含めた様々な資金提供主体の努力が奨励されたことは、こうしたギャップに対処する上での重要なシグナルであるといえるでしょう。G7によるこうしたメッセージを、各主体が受け止め、具体的な行動につなげていくことが期待されます。
G7は石炭火力発電所の段階的廃止に向けて踏み込んだ目標を合意することができるでしょうか。3月に公開されたIPCCの第6次統合報告書では、2035年に温室効果ガスを60%減らす必要があることを特筆して強調し、議長声明では、2035年の削減目標を「1.5度目標と整合する」ことが明記されました。一方、昨年5月にドイツで開催されたG7以降、国際社会の足踏みが続いています。その要因のひとつに既存インフラの最大活用を重視する日本の国内政策が追いついておらず、日本政府が消極的な姿勢を示していることが考えられます。今後は日本の脱炭素の取り組みが1.5度目標と整合しているかが一層厳しく問われるでしょう。
1.5度目標と整合したカーボンニュートラル戦略を考えるには、何をいつまでに実施するのかを示すロードマップ作りが重要となります。そのようなロードマップが押さえておくべきポイントは二つあります。ひとつ目は脱炭素社会を2050年に限らず、できるだけ早期に実現しなければならないことです。1.5度目標との整合性は、2050年の排出量だけで考えるのではなく、今からカーボンニュートラル達成までの累積排出量を十分に少なく抑える必要があります。そのため、G7などの国際会議では、2035年の温室効果ガス排出量削減目標が注目されています。二つ目はエネルギー利用の変化を通じて私たちの生活や社会に変化が起こることを想定しておくということです。脱炭素社会をなるべく早く実現していくためには、より多くの方が担い手となって持続可能性の高い再生可能エネルギーを利用する、自立・分散型の社会に転換することが必要です。
一方、現在日本において議論されている脱炭素に向けたロードマップは、2050年を目標としているため、2035年までにいかに早く、過去の延長線上にはない変革を進めていくかという視点が不足しています。既存のエネルギー需要と供給を維持し、2040年以降に実用化が期待されるエネルギー技術に希望を託すことは、1.5目標に整合するロードマップとしては不十分で、国際社会からは問題の先送りと評価されてしまいます。様々な要因による国際社会の変化を見据えた上で、日本にも便益がもたらされる戦略を考えつつ、足下から社会やエネルギー供給のあり方の変化を最大限に促すことができなければ、国際社会の信頼に足るロードマップとしての評価を得ることは困難です。エネルギーの分散化やそれを取り巻く社会の変革の過程では、国、自治体、地域、企業、市民の共創も必要となり、その道筋を示すことも重要です。こうした変化は、気候変動のためだけではなく、分野横断的な視点を持って進めれば、産業イノベーション、地域再生、少子化、防災、生物多様性等の諸問題を統合的に解決する機会を見出すことができます。その結果、将来に向けて何に投資するべきかも決めることができます。国際競争力を高めるカーボンニュートラルの戦略には、対策にかかる費用をいかにして小さくするかではなく、日本の将来の社会にとってより高い便益を得るために、いかなる投資を行うか、そしていかに早く、地域や企業など社会の構成員との共創によって社会の転換を進められるかが問われているのです。
例えば、デジタル・トランスフォーメーション(DX)によって物質の消費や物理的な移動がデジタルで置き換わることや、シェアリングによってモノの稼働率が高まること、地域に眠る資源を循環的に有効活用することなど、より大きな付加価値を生み出しながらエネルギー消費量を飛躍的に下げていく方法を十分に検討し、地域や関係組織の意思決定に反映されなければなりません。1.5度目標に整合したロードマップでこのような新しい経済社会への転換の道筋を明らかにすることは、国際社会が一致して速やかな排出量削減の目標を定め、その実現に取り組むために極めて重要と言えるでしょう。
1. 「3つの危機」に対応するための資金動員
G7はこれまで環境汚染、気候変動、生物多様性の3つの世界的危機に関して深い懸念を表明してきたが、今年度は議長国日本のリードのもとで、それらに対処するために必要な、資金を動員するための議論が深められることが期待される。具体的にはプラスチック汚染の撲滅、クリーンエネルギーへの転換、陸地や海洋の保全や持続的利用などの課題である。 これらの分野に取り組むために必要な資金を動員することは、同時に、資源効率と循環型経済を促進し、最終的には、持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)の達成に貢献することにつながる。その際には持続可能な経済・社会システムへの移行が公正かつ包括的に実現するという視点が不可欠であり、ジェンダーの平等、エンパワーメント、社会的包摂といった社会的側面にも議論が及ぶことを期待する。
2. 資金を動員するための政策と優先分野
パリ協定と昆明・モントリオール生物多様性枠組みの国際的かつ長期的な目標にむけて資金を動員するうえで必要となる政策、優先分野や手法についても議論されるであろう。以下、いくつか想定される例を挙げる。
資金動員に関する政策 (例) | 資金動員における優先分野・手法 (例) |
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3. 資金を動員するための国際的連携
持続可能な開発を実現するためには、巨額の資金を必要とする。特に気候変動適応やレジリエンス、自然を基盤とした解決策(NbS:Nature-based Solutions)のように、今後更に資金が必要となる分野では、民間資金の動員を拡大する方策についての検討が期待されており、近年は、民間、公的、国内外を問わず、様々なアプローチが議論されている。たとえば民間投資家による持続可能な投資機会を創出するためには、公共部門が適切な規制の枠組み、政策、財政・経済的施策を講ずる必要があるが、いずれも多国間協力が必要でグローバルな観点が欠かせない。多国間開発銀行、二国間開発金融機関、多国間基金、公的銀行、輸出信用機関に対して、投融資における分析、政策助言、意思決定等において気候変動や生物多様性を主流化が進むのが今後の流れであろう。
G7首脳声明は、ここ数年、排出削減に向けたコミットメントを年々、引き上げてきました。しかし、1.5℃目標の達成に向けては、まだまだ不十分なレベルです。今年議長国を務める日本が、具体的な行動強化につながる声明を取りまとめることが期待されます。
他方、米国や欧州の内向きな姿勢が気がかりです。米国は、2022年8月に成立したインフレ抑制法によりエネルギーや気候変動分野への巨額支援を打ち出しましたが、支援対象に関する国産化要件や原産地要件など、その保護主義的な内容に懸念が高まっています。他方、欧州委員会も対抗策として「グリーンディール産業計画」の原案を今年2月に公表しました。こうした大国・地域での内向きな政策は、世界の「投資を吸い上げる」との指摘があるように、各国間の分断を深めかねません。G7首脳声明では、G7の枠を超えて、多くの国がより積極的な気候行動をとることを促すようなメッセージを発することができるかが注目されます。
途上国とのパートナーシップとして、途上国における石炭火力の早期退役と再エネの導入加速を目指す「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」の拡大・深化が注目されます。JETPは、G7の途上国向けインフラ投資支援の枠組である「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」の一環として、これまで南アフリカ、インドネシア、ベトナムが署名していおり、インドとセネガルが参加に向けた協議を行っています。特にインドネシアとベトナムがそれぞれ署名したJETPは、内容は異なるものの、発電部門の排出ピーク年の前倒しや石炭火力の導入上限、再エネ導入目標などに関して、既存の国内目標に比べより野心的なものとなっています。さらに参加国を拡大すべく、日本も議長国として率先して途上国に働きかけることが重要となります。
他方、日本が「アジア・ゼロエミッション共同体」構想の下で推進していこうとしている水素やアンモニアの混焼・専焼発電は、インドネシアJETPが目標設定の根拠としていると思われる国際エネルギー機関(IEA)のインドネシア2060年ネットゼロ・シナリオの中では、2060年でも4%程度の発電量が想定されているにすぎません。昨年のG7共同声明では、ネットゼロ排出やエネルギー安全保障の達成に向けた取り組みの中での、低炭素・再エネ由来の水素とアンモニアの役割が言及されましたが、アンモニアの混焼発電を石炭火力の排出削減措置としてみなすのかどうかについては明確でありませんでした。今回のG7行動声明の中で水素とアンモニア混焼・専焼がどのように位置づけられるのかが注目されます。
エンゲージメント・グループ
エンゲージメント・グループの役割
G7には、サミットと大臣会合の他に、G7 政府から独立した様々な分野のステークホルダーが提言等をとりまとめる仕組みであるエンゲージメント・グループが存在します。T7(Think7:世界中のシンクタンクで構成)、Y7(Youth 7:ユース)、W7(Women7:女性)、S7(Science7:科学者)、L7(Labour7:労働組合)、C7(Civil Society7:市民社会)、B7(Business7:経済団体)の7つが公式のエンゲージメント・グループとして組織されており、各グループの提言(コミュニケや声明など)は、多くの形でサミット・大臣会合のコミュニケに反映されています(G7 / G20におけるエンゲージメント・グループの役割について詳しくはこちら)。気候変動の緩和や、持続可能な開発目標(SDGs)の達成等、社会にダイナミックな変革を起こす上で、政府から独立した様々な分野のエンゲージメント・グループの役割が高まっています。また近年では、SDGsの目標達成や、脱炭素など、直面する課題に取り組むために「都市」が果たす重要な役割が広く認識されるようになっていることから、非公式のグループとしてU7(Urban 7:都市)が立ち上がり、Gに対して横断的な提言を行っていこうとする動きも見られます。
T7
コロナパンデミックからの回復の道半ばに始まったロシアによるウクライナ侵攻は、エネルギー・食料・資源および鉱物の安全保障を脅かしているほか、サプライチェーンの混乱と急激なインフレなどの新たな懸念を引き起こし、先進国とその他の国々の格差を急速に広げています。このような背景の下、シンクタンクコミュニティの見識を結集したT7の貢献が期待されています。今回のT7では、IGESシニアフェロー 松下 和夫が、Taskforce 2(Wellbeing, Environmental Sustainability, and Just Transition)の共同議長を務めます。IGESは、G7議長国の環境政策シンクタンクとしてT7に積極的に関与し、科学と政策決定の橋渡しに貢献していきます。
T7の提言に、IGES研究員が執筆に携わったポリシーブリーフの内容が盛り込まれました。
メディア掲載
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その様な中、IGESでは、Bloomberg New Energy Finance(ブルームバーグNE