COP28
UAEUNFCCC COP28 特集
国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(UNFCCC COP28)が11月30日からアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで開催されます。本特集ページでは、COP28に先立ち、IGESが関与する気候変動交渉やCOP28関連イベントの情報をお伝えするほか、IGES研究員がCOP28の焦点となるトピックを解説します。また、IGESの関連出版物やCOP28開催期間中のサイドイベント情報も随時更新していきます。
最新情報
COP28直前ウェビナーシリーズ
「政治的局面を迎えるグローバル・ストックテイク 世界の軌道修正成るか」
「パリ協定6条(炭素市場)ルール交渉の最新状況および実施に向けた取り組み(6条実施パートナーシップセンターなど)」
「分岐点に立つ世界全体の気候資金目標:COP28で新しいアプローチを見出せるか」
「適応・損失と損害の動向」
「COP28の焦点 1.5℃目標に向けた最新動向」
COP28関連イベント
Shaping ‘Climate Security’ in Asia-Pacific
Engaging Regional Non-State Actors in the Follow-up Period of the First Global Stocktake (GST): Insight from the Independent Global Stocktake
2023年11月13日から17日にマレーシアで開催されるアジア太平洋地域気候ウィーク(APCW)では、COP28に先立ち、国、地方自治体、企業、市民社会などの代表者が集まり、野心的な解決策の共有を行います。
IGESは、グローバル・ストックテイク(GST)を地域の行動から後押しするため、東南アジアにおける非政府主体(NSA)のプラットフォームであるindependent Global Stocktake Southeast Asia Hub(iGST東南アジア・ハブ)を構築する活動を行なってきました。9月に発表された、GSTの技術的フェーズの成果をまとめた統合報告書の中で、政府だけでなく、企業、自治体、NGO、大学などのNSAの重要性が強調されたことは重要な進展でした。また、10月に公開された、COP28に向けた各国・各機関によるGSTへのサブミッションの概要をまとめたレポートでは、IGESの名前が記載されるとともに、NSAがコミュニティや市民社会が利用しやすい方法でGSTの成果を伝えることを求めていることが記載されています。
この基盤を強固なものにしていくため、本イベントではこのセッションでは、GSTの後続プロセスに焦点をあて、アジア太平洋地域におけるNSAのの役割と取り組みについて議論します。(イベントは英語のみ)
COP28では、COPでは初の「健康、復興、平和(Health, Recovery and Peace)」デーが開催され、気候変動と安全保障に関連するトピックに焦点が当てられる予定です。
気候変動の影響を安全保障の観点から捉えなおす、気候安全保障へのイントロダクション
研究者の視点
COP28の結果の気候安全保障への示唆
COP28では初めて気候安全保障に直接関連する「健康/救援、復興、平和(Health/ Relief, Recovery & Peace)デー」が設置されるなど、交渉外のイニシアティブとしてこの分野の注目すべき動きがありました。では、肝心の交渉結果であるUAE合意は、気候安全保障へのどのような示唆があるでしょうか。COP28は主たる決定を「UAE合意(UAE Consensus)」とグルーピングし、気候行動のより一層の加速を目指すとしています。ここではUAE合意から特に気候安全保障と関連すると思われるポイントを、以下の3つに整理しました。
気候変動による「損失と損害(ロス&ダメージ)」に対応するための基金を含む資金ファシリティの運用方針に合意
ロス&ダメージは、気候変動の緩和・適応の努力を積み重ねてもなお残ってしまう被害について対処をすることを目的とするもので、その内容は大きく気候安全保障の取り組みと重なり合います。例えば、COP28のGST決定においても、防災・減災、人道支援、復旧・復興、強制退去(displacement)、計画移転(Planned Relocation)や移住などが、ロス&ダメージへの対処として挙げられています(-/CMA.5、パラ125、131参照)。気候安全保障では、気候変動が非常に多岐にわたる問題に直接・間接的な影響をもたらしており、社会の不安定化や分断、紛争を生みかねないことに注目しています。今後想定される損失と損害(ロス&ダメージ)基金による具体的な対応の進展は、気候安全保障の確保に向けた政策の欠かせない要素と言えます。
COP28の初日に合意されたロス&ダメージ基金の内容は、昨年のCOP27で基金と資金ファシリティの設立に合意してからの一年、移行委員会の場で重ねられた議論を踏まえたものです。早速基金への資金プレッジ(拠出公約)が相次ぎ、計7億米ドル超のプレッジが行われました。今後の基金や資金ファシリティの運用は、UNFCCC下でロス&ダメージについての技術的な議論を牽引してきたワルシャワ国際メカニズムやサンティアゴ・ネットワークにおける議論と併せて、気候安全保障の観点からも要注目と言えるでしょう。
グローバル・ストックテイク(GST)成果文書に、化石燃料からの「脱却」という文言が盛り込まれれる(‐/CMA.5, paras. 28(d))
本決定を受けて、化石燃料をゼロに近づけていくことに向けたエネルギー移行の加速が見込まれます。各国は、この文言を含むGST決定を踏まえて、2025年までに新たな削減目標を国が決定する貢献(NDC)として提出することとなっています。エネルギー移行において、再生可能エネルギーの大規模導入に必要な重要鉱物の確保などをはじめとした、エネルギー安全保障の観点を持つことは非常に重要です。エネルギー安全保障の確保に努めつつ脱炭素を進めていく、慎重かつ大胆な意思決定が各国の今後の政策形成において迫られると言えるでしょう。
パリ協定7条に示される適応の世界全体の目標(GGA)を具体化する、GGAフレームワークへの合意
気候リスクへの対応を目指す気候変動適応においても、大きな決定がなされました。GGAフレームワークへの合意によって、各国の適応努力により明確な指針が与えられることが期待されます。とりわけ、適応に関連するセクター別の目標として、水、食料、健康、生態系、インフラ・居住、貧困削減、文化遺産に関連する目標が示されたことは注目に値します(-/CMA.5、パラ9)。これは、適応と多様な分野との結びつきを示すことで統合的な気候リスク対応を促進しうるもので、気候安全保障の確保に向けた政策のあり方にも示唆的です。GST決定における越境的・連鎖的リスクの重要性の認識(-/CMA.5、パラ52)などを含め、気候リスク対応の方向性についての国際的な議論は着実に前進しており、気候安全保障分野の政策形成もこれと有機的に結びついたものである必要があると言えるでしょう。
COP28の決定には、これ以外にも、気候安全保障に示唆をもたらすものが多く含まれていると思います。APCSとしても、COP28の結果を受けた議論のさらなる展開に積極的に関与していきます。
Matters relating to the global stocktake under the Paris Agreement
Glasgow–Sharm el-Sheikh work programme on the global goal on adaptation referred to in decision 7/CMA.3
COP28における気候安全保障の進展 -世界のリーダーたちの宣言は行動へとつながるのか-
COP28では気候安全保障に関わる議題が取り上げられ、また、毎日異なるテーマで開催されるThematic Programでは、12月3日に「健康/救援、復興、平和(Health/ Relief, Recovery & Peace)デー」が初めて設定されるなど、気候安全保障に国際社会の注目が集まりました。ここでは、COP28で開催された気候安全保障に関連するふたつのイベントを取り上げます。
12月1日に議長国イベントとして、ミュンヘン安全保障会議が主催したハイレベル・イベント「今こそ気候安全保障の一致団結を(Climate Security Moment: Assuming Joint Leadership)」では、気候に関連するリスクに対処するため、全世界での協力の重要性が危機感をあらわにして強調されました。ハイレベル・イベントと題されているように、スピーカーにはエストニアとアイスランドの首相や、北大西洋条約機構(NATO)の事務総長、米気候問題担当大統領特使などが名を連ねました。気候変動を、海面上昇や異常気象など、物理的影響にどう対応するかという単純化された一面的な問題として捉えるのではなく、気候変動が世界中でもたらしている新たな安全保障上の脅威やリスクについて、もっと幅広く、批判的かつ戦略的に考えるための議論が深められました。
12月3日にはThematic Programの一環として国連防災機関(UNDRR)主催のイベント「気候、救援、復興、平和に関する宣言の意義(Launch of the Climate, Relief, Recovery and Peace Declaration)」が行われました。ソマリアの副首相、ノルウェーやマーシャル諸島の大臣、緑の気候基金(Green Climate Fund)やWFP国連世界食糧計画の事務局長などが登壇し、同日に発表された「気候、救援、復興、平和に関する宣言」の意義について議論しました。同宣言は日本を含む70カ国以上、40以上の国際機関が賛同しており、紛争に直面し、気候変動に脆弱な地域に対して、適応資金を増やすための解決策のパッケージを提供しています。
このように気候安全保障に関する世界の機運は高まり、少しずつではありますが動きはじめています。気候変動による安全保障上のリスクを軽減するためには、各国がリーダーシップを取って行動につなげていくことが重要です。国家間で行われる行動は、気候にレジリエントな社会や、人道的支援や平和構築に直結すると考えます。
参考: “Climate, Relief, Recovery and Peace Declaration” https://www.cop28.com/en/cop28-declaration-on-climate-relief-recovery-a…
気候変動に関する国別報告の透明性強化の重要性と途上国への支援
パリ協定第13条の「強化された透明性枠組み(ETF)」は、すべての締約国に対して、自国の目標(NDC)の実施、達成状況を2年毎に報告することを義務付けています。この各国による報告は、「隔年透明性報告書(BTR)」と呼ばれ、最初のBTRの提出期限は2024年末となっています。BTRには、下記の情報が含まれます。
- 国家温室効果ガスインベントリ
- NDCの実施・達成の進捗
- 気候変動インパクト及び適応
- 先進国によって提供された資金等の支援
- 途上国によって受託された資金等の支援
各国は、UNFCCCの下、30年近くにわたって、BTRの前身にあたる国別報告書(NC)等を定期的に報告してきました。ただ、この期間は、先進国のみが削減目標を有するなどしたため、先進国と途上国では、求められる報告要件に明確な違いがありました。ETFは、パリ協定の下で全ての国がNDCを実施することを受けて、これまでの報告システムを強化することを目的として設けられました。今後は、原則、先進国と途上国の両方が、共通の報告ガイドラインにしたがってBTRを提出していくこととなります。 当然ながら、多くの途上国にとって、ETFの実施は簡単なことではありません。そこで、ETFには、途上国に対して、能力に照らして必要とする場合、柔軟性を容認するなどの工夫が盛り込まれています。また、途上国の能力(技術面、制度面など)を高めるため、国際的にBTR作成のための能力構築支援を進めることも重要です。IGESでは、途上国のBTR作成に向けた能力構築を支援するため、透明性向上のための相互学習プログラム(MLP)を実施しています。 COP28では、他機関と協力し、MLPに関するサイドイベント等を開催します。この機会に是非ご参加ください。
- [12月4日 13:00 – 14:15 (UAE現地時間)] COP28 Azerbaijan Pavilion Side Event: Lessons Learned from Reporting on Article 13 within the MLP in Eurasia, Central Asia and the Caucasus
- [12月6日 17:00-19:00(UAE現地時間)] COP28 UNFCCC Roundtable exchange: Getting ready for the ETF: support opportunities
COP28の焦点「グローバル・ストックテイク」とは(2023年11月20日 東洋経済オンライン)
専門家に聞く「グローバルストックテイク」難しさと期待 COP28 温暖化対策、進捗の「ものさし」なく(2023年11月18日 東京新聞 TOKYO Web)
気候変動で健康被害が深刻化:COP28で求められる行動
気候変動が及ぼす健康被害に対する認識の高まりから、COP28では、人々の健康に焦点を当て、「Health Day(健康の日)」を初めて開催することが決定されました。では政策決定者は、国際的な気候変動交渉や関連政策において、どのように人々の健康とウェルビーングを位置づけ、反映していくべきでしょうか。
気候変動対策の文脈で考える人々の健康と医療システム
世界の多くの地域では、気候変動の影響が現実のものとなり、異常気象、干ばつや海面上昇などの脅威の増大に直面しています。これらの要因は、いずれも人々の健康とウェルビーングに影響を及ぼしています。気候変動は、健康に直接的な影響(負傷や人命の損失など)を与える一方で、間接的な影響(媒介感染症リスクの変化など)や拡散的な影響(安全保障関連リスクなど)をももたらします。世界各地での経済成長により、人々の健康につながる不可欠なサービスが普及した反面、持続可能ではない開発が進み、気候変動を悪化させる温室効果ガス(GHG)の排出量1も増加し続けています。気候変動の悪化により、最も脆弱な人口を含む人々の健康リスクが高まっています。
すでに起きている気候変動による被害を踏まえ、強靭性(レジリエンス)を強化することに重点が置かれるべきです。すべての経済部門のレジリエンス強化は欠かせませんが、グローバルサウスのヘルスケア・セクターでは特に重点が置かれるべきです。例えば、アジア太平洋地域の開発がまだ十分には進んでいない地域にある医療施設では、普段から水と衛生(WASH)サービスを含む基本的なサービスを提供することが難しく、気候変動によってさらに悪化する懸念があります。2したがって、国や国際機関は、これまでの施策に加え、気候変動の文脈においても基本的サービスへのアクセスを強化し、維持するためのインフラ・プロジェクトを実施していくことが不可欠です。同時に、ヘルスケア・セクターでも気候変動によって引き起こされる疾患、例えば熱中症などの治療における医療従事者の能力を強化し、そのような疾患の治療を健康保険制度の対象にしていくために働きかけ、レジリエンス強化につなげていくことが求められます。気候ガバナンスの面では、国の適応計画にヘルスケア・セクターのニーズや役割を主流化すべく、アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)3などの能力構築のプラットフォームを通じて、連携を深めていくのもひとつの方法です。
気候緩和策による健康のコベネフィットの最大化するためには
気候変動緩和策も健康の向上につなげることができます。例えばクリーンエネルギーの導入や持続可能な運輸などの緩和策の多くは、大気の質を改善し健康状態を向上に寄与します。このような健康面でのコベネフィットは、緩和策に必要なコストを相殺し、気候変動の取り組みを強化し、ウェルビーイングの多くの分野を改善することができることが研究結果として出ています。気候変動政策に健康を組み入れるための認識とより良いインセンティブをさらに生み出す手段としては、宣言されている気候行動による微小粒子状物質(PM2.5)や障害調整生存年数(disability-adjusted life years; DALYs)の削減量を推計することも挙げられます。このようなデータを通じて、国が決定する貢献(Nationally Determined Contributions; NDC)や長期的なネットゼロ戦略に気候変動緩和における健康上の利益を主流化することも可能になります。また、医療従事者や保健の専門家がパリ協定第6条4項(市場メカニズム)のための持続可能な開発の利益を評価する取り組みに従事している人々へ関連情報を提供することも有効だと考えられます。
受け身から行動へ:今後の役割
COP28は、公衆衛生と気候変動の専門家が協力し、両者にとっての成果をもたらす機会です。チャンスをつかみ取るには、保健に携わる人々が、リアクティブ(反応的)ではなく、プロアクティブ(積極的)に行動することが不可欠です。上記の提案のいくつかを実施することで、保健および関連部門が、ドバイやその先の議論において、人々の健康を気候変動対策の中心に位置づけていくことを期待します。
1医療セクター自体の排出量も世界の4〜5%を占めます。詳細はこちら:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jan.15671#:~:text=On%20their%20part%2C%20healthcare%20systems,and%20to%20act%20as%20a.
2例えば、詳細はこちら: https://www.who.int/laos/our-work/protecting-health-amid-a-changing-climate.
3ウェブサイトはこちら: https://ap-plat.nies.go.jp/.
グローバル・ストックテイクにおける非政府アクター(NSA)の役割:発信し続ける2つの目的
COP28の最大の焦点であるグローバル・ストックテイク(GST)に注目が集まっています。COP28に先駆けて発表された第1回GST統合報告書では、17個のキーファイディングが発表されました1。IGESでは、GSTを地域の行動から後押しするため、東南アジアにおけるNSAのプラットフォームであるindependent Global Stocktake Southeast Asia Hub(iGST東南アジア・ハブ)を構築する活動を行なってきたことから、キーファイディングの中でNSAの役割について提示されたことは、ハブにとっても重要な進展でした。また、10月に公開された、COP28に向けた各国・各機関によるサブミッションの概要をまとめたレポートでは、IGESの名前が記載されるとともに、NSAがコミュニティや市民社会が利用しやすい方法でGSTの成果を伝えることなどを求めていると記載されました。
iGST東南アジア・ハブの活動では、GSTに対してNSAの立場を「発信し続けること」に取り組んできました。今年6月にボンで開催された補助機関会合(SB)58に参加し、複数機関と一緒にサイド・イベントを共催し、東南アジア、西アフリカ、ラテン・アメリカにある3つのiGSTハブの代表者がNSAとしてGSTにかかわることの意義と課題を議論しました。
GSTのプロセスに対してNSAの立場として発信することには、2つの目的があります。まずは、政府アクターに対して、GSTにおけるNSAの役割を認識してもらうための発信です。SB58でのサイド・イベント開催はその意図があり、東南アジアからの取り組みを知ってもらうきっかけになりました。2つ目の目的は、NSAに対してGSTを理解し、そのプロセスに参加してもらうための発信です。iGSTの活動を通じ、気候変動に取り組むNSAの間でも、GSTに対する理解の構築はまだ不十分だと感じます。そのため、iGST東南アジア・ハブの活動では、NSAがGSTに関わる意義を発信し、より多くのNSAの参画を得ていくことも重要な目的の一つとなっています。
統合報告書のキーファイディングでNSAの役割が取り上げられたことを契機として、iGST東南アジア・ハブではアドボカシー活動に力を入れていきたいと考えています。アジア太平洋気候ウィーク(APCW)やCOP28などの国際会議に参加し、イベントの開催を通じて関連するステークホルダーとの連携を深め、GSTにおけるNSAの役割を発信するとともに、ハブのメンバーに第1回GSTの結果を伝えていきます。そして、どのように発信を行動に変えていくのか、考え続けたいと思います。
1 詳細はこちら
https://unfccc.int/sites/default/files/resource/SYR_Views%20on%20%20Elements%20for%20CoO.pdf
気候変動問題を中心に、グローバルな問題への若者の参画が世界的に注目され、官民を問わず多くのイベントで若者が登壇し、意見を述べる機会が増加しています。「若者は若者の問題の専門家である」というように、実際に、若者が関与することで、画期的で先進的なアイディアがもたらされ、学校教育など若者に関する政策が改善されるという研究成果も上がってきています。1
ただし、「若者」という言葉が一体誰を指すのかについて考える必要があります。若者の中にも多様性が存在し、社会的な要因などによって、疎外されがちなグループもあります。一部の参画できる力を持つ積極的な若者だけに焦点を当て、機会を提供することは、むしろ格差を拡大させる可能性があると、さまざまな先行研究が指摘しています。2,3この視点は日本では見落とされがちであり、むしろ大人側のマインドセットを修正し、若者を政策や、社会をよくするパートナーとして認識することが必要です。
COP28の開催を目前に控え、若者を単なる象徴的な存在として利用するのではなく、若者の効果的な参画を考える際に重要な、以下の4つの視点を紹介します。
- 代表性:若者の中にも多様な立場、見解、意見があることが理解された上で、その場に適切な代表の参画機会の担保および意見の集約がなされる
- 包摂性:特に脆弱で少数派の若者の存在に配慮し、幅広い若者を対象とした協議プロセスが設計され、意見聴取の機会が整備されている
- 透明性と説明責任:若者や一般社会に対して透明性が担保された参加プロセスであり、若者が期待される役割や意思決定に対して有する権限など、必要な情報が公開されており、説明責任を追求できる
- エンパワーメント:欧州の若者協議会(Youth Council)のような公的な若者支援機関を通した多様な機会が設けられ、若者の継続的な参画を可能とする時間・金銭的な支援や、知識・スキルと自信を育む教育や能力開発が提供される
つまり、多様な背景を持つ若者が安全で意義ある参画ができる機会を設けること、そしてそれを可能にする教育とエンパワーメントが欠かせないのです。4これは若者に限らず、同様にケアの対象として見られがちな、他の脆弱な立場にいる人々やマイノリティ・グループにも当てはまります。こういった人々が、気候変動やSDGsなどの世界の諸課題に対してオーナーシップを持ち、パートナーシップを組み、行動を加速化させることが欠かせません。
- 古田雄一「教育経営における「生徒の声」の意義と課題 近年の国際的動向の検討と考察をもとに―」『日本教育経営学会紀要』 第63 号、2021 年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasea/63/0/63_19/_pdf
- Feldmann-Wojtachnia, Eva ; Gretschel, Anu ; Helmisaari, Vappu et al. (2010) “Youth participation in Finland and in Germany : Status analysis and data based recommendations. (The Finnish Youth Research Network Internet Publications; No. 32). Nuorisotutkimusseurary. http://www.nuorisotutkimusseura.fi/images/julkaisuja/youth_participation_in_finland_and_in_germany.pdf
- Thomas, Nigel (2007) "Towards a Theory of Children's Participation", The International Journal of Children's Rights 15, 2: 199-218, https://doi.org/10.1163/092755607X206489
- UNICEF (2020) “Engaged and Heard! Guidelines on Adolescent Participation and Civic Engagement” https://www.unicef.org/documents/engaged-and-heard-guidelines-adolescent-participation-and-civic-engagement