気候変動下における日本とインド太平洋地域の安全保障の実現:経済安全保障との関連を中心に

日本語 / English

 

気候安全保障に関する特集ページでは、気候安全保障に関連する研究成果と関連情報を発信しています。具体的には、国際動向の調査をはじめとして、エネルギー安全保障、食料安全保障、気候変動を一因とする人の移動、気候変動適応と安全保障、海洋安全保障など、多岐にわたるテーマを掘り下げ、多様な観点から議論していきます。

最新情報

APCSプロジェクト 第2フェーズ移行に伴うホームページ更新

 

関連出版物

ブリーフィングノート
This briefing reviews key international developments in climate change adaptation in 2025–2026 and considers their implications for the Asia-Pacific region ahead of COP31. It examines the shift from global framework-setting toward implementation across major areas, including the global goal on adaptation (GGA), transformational adaptation, locally...
ポリシーブリーフ
UNU-IAS Policy Brief Series
著者:
The adoption of the 59 Belém Adaptation Indicators in 2025 marked a major step toward assessing progress on the Paris Agreement’s global goal on adaptation. This policy brief examines how the indicators can support global assessment, national monitoring, evaluation and learning while preserving country-driven adaptation. It identifies...

本研究事業について

本事業の問題意識は、「伝統的な安全保障の前景化は、不可避的に気候変動対策の後退を招くのだろうか」という問いに対し、その打開策として気候変動を外交・安全保障のアジェンダに効果的に統合する必要があるというものである。アジア各地域や大洋州島嶼国等において気候変動が如何に安全保障上の脅威となっているかを検討した上で、気候変動対策が地域・世界の平和・安定のために如何に貢献するかを総合的に検討し、それを日本及び地域の外交・安全保障政策に取り込むことが求められている。

本事業の目的は、気候変動を日本およびインド太平洋地域の安全保障戦略に統合するための方策を探ることにあり、大きく2つの軸を有する。まず、経済安全保障との関係性である。ウクライナ戦争・第二次トランプ政権以後、今や経済が外交・安全保障の武器となり、食料・重要物資のサプライチェーン確保等経済安全保障の重要性が高まっている。再エネ移行に伴うエネルギー関連資源の地政学的変化や食料生産への影響、災害に対するサプライチェーンの強靭化に至るまで、様々な形で経済安全保障に影響しうるテーマについて研究する。次に、地域化を含む国際協調の模索である。多国間主義が動揺するなか、パリ協定を中核とする国際的な気候変動対策と並び、各地域における同志国による協働の重要性が増している。そのため、気候対策に係る国際情勢を把握し、外交的アプローチを見出すためには、国連システムのみならず、ASEANやPIF等の地域組織も交えた地域化の動向把握を行い、国際協調を維持するアプローチを見出す研究を行う。

プロジェクトメンバー

  • 【プロジェクト統括】 水野 理 IGES プログラムディレクター
  • 【アドバイザー】 兒玉 良則 IGES 統括研究ディレクター/プリンシパルフェロー/TERI名誉顧問

テーマ① 食料・エネルギーに関する研究

テーマ② シーレーン防衛に関する研究

  • 関山 健 京都大学大学院 総合生存学館 教授
  • 坂出 健 京都大学大学院 経済学研究科 教授
  • 宇治 梓紗 京都大学大学院 法学研究科 准教授

テーマ③ インド太平洋における気候安全保障の「地域化」に関する研究

テーマ④ 気候安全保障の国際ルール形成に関する研究

  • 岡野 直幸 国連大学サステイナビリティ高等研究所 プログラムオフィサー
  • 前川 美湖 公益財団法人 笹川平和財団 主任研究員
  • マヘスティ オキタサリ 国連大学サステイナビリティ高等研究所 リサーチフェロー
  • ヒマンガナ グプタ 国連大学サステイナビリティ高等研究所 リサーチフェロー
  • 松尾 茜 IGES リサーチマネージャー

第1フェーズの研究成果
アジア太平洋気候安全保障(APCS)ディスカッション・ペーパーシリーズ

アジア太平洋気候安全保障(APCS)ディスカッション・ペーパーシリーズは、アジア太平洋地域における気候変動と安全保障に取り組む研究者、政策立案者、実務者を主な対象とした政策分析・研究を取りまとめた、本事業の集大成です。

世界で特に脆弱な、戦略的重要性の高い地域において、気候変動がいかにリスクを増幅させる要因となっているかを、南アジア、東南アジア、太平洋地域の事例に基づき検証しています。また、気候安全保障を人間・国家・経済の各側面から多角的に捉え、今後の課題について包括的な全体像を描いています。

3年間にわたる研究の積み重ねを経て作成された本シリーズは、環境科学、政策と地域の現実をつなぐ実践的知見の蓄積を通じたIGESの取組を示しています。

関連イベント

過去のイベント
APCS国際シンポジウム

変動する地政学的状況下におけるアジア太平洋地域の気候安全保障

IGESは、外務省の支援を得て「アジア太平洋気候安全保障(APCS)」研究プロジェクトを2023年より実施してきました。世界では、国際司法裁判所(ICJ)による気候変動に関する勧告的意見の発表、そして気候ファイナンスに関する進展をはじめとする国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)での成果が見られる一方で、米国がパリ協定を再離脱するなど、気候行動をめぐる情勢が大きく動いています。こうした状況を地政学的見地から統合的に捉え、気候行動の継続的進展に寄与する分野として...
過去のイベント
Asia-Pacific Climate Security (APCS) Project

International Workshop on Climate Security in Asia-Pacific

IGES organised the Asia Pacific Climate Security (APCS) International Workshop, together with our partner - the Institute for Future Initiatives of the University of Tokyo, and our collaborators from Sasakawa Peace Foundation. The two-day workshop...
過去のイベント
アジア太平洋の気候安全保障事業 (APCS)

国際ワークショップ「気候危機における食料安全保障の確保」

本ワークショップでは、気候危機下において食料安全保障を確保するための最近の議論、研究がより必要とされる領域、可能な政策介入について検討しました。 1996年の世界食糧サミットで発表されたコミュニケは、食料安全保障を次のように定義しています。「食料安全保障とは、すべての人々が、いかなるときでも、活動的で健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養価ある食料を、物理的、社会的および経済的にも入手可能であるとき達成される状況である」。...
過去のイベント
アジア太平洋の気候安全保障事業 (APCS)

国際シンポジウム:アジア太平洋地域における気候安全保障

気候変動による影響が深刻化する中で、安全保障と気候変動との連関は政策・研究の両面から注目を集めています。しかしながら、その社会的・政治的な重要性にもかかわらず、安全保障や外交の観点から気候変動を考慮することの意義は、特に政策や実践的な取り組みとの関係では、まだ十分に検討されてきていません。政策決定者には、気候変動と安全保障の複合的な関係を踏まえた効果的な政策を形成するための知見と指針が必要とされています。
5つのテーマ研究

本研究では、エネルギー安全保障、食料安全保障、気候変動を一因とする人の移動、気候変動適応と安全保障、海洋安全保障の5つのテーマに焦点を当てます。これらのテーマについて、フィールド調査も交えながら、課題の特質とありうる対応を明らかにしていきます。今後公開される各テーマの紹介をご覧ください。

本研究では、こうした各テーマの研究に横断的な洞察を提供し、捉えどころがないという印象を持たれることもある気候安全保障について、わかりやすい見取り図を示すような貢献をすることを目指しています。具体的には、気候安全保障を新たなアプローチとして導入することがそもそも有益か、そして導入するとすればどのようなあり方が考えられるかについて、政策決定者に示唆を提供します。気候リスクの顕在化やその対策の推進は、対立や紛争の一因となる可能性がある一方で、国際協調を推進するための契機ともなりうるものです。本研究がそうした協調的な方向に国際社会が進んでいく一助となるように取り組みます。

IGESは今後、アジア太平洋地域を主な対象に、気候安全保障について戦略的な研究を進める研究機関として、多くのパートナーと協働していきたいと考えています。ぜひ、幅広いご関心とご支援をいただければと思います。

本研究の3つのアプローチ

気候安全保障については、各国・地域における先行する考え方や取り組み、研究の蓄積があります。本事業では、これらの情報をもとに、日本に関連する示唆を考慮しながら分析および検討を行い、以下のアプローチを重視して、オリジナルな研究の推進を目指します。

科学をベースとした政策アプローチ
本研究では、気候変動の影響に関する科学的知見の到達点と限界を見定めつつ、必要な政策的アプローチを考えます。例えば、気候変動を一因とする人の移動(「気候難民」と呼ばれる場合もあります)は、しばしばそれらを受け入れる先進国における移民危機の問題として国家安全保障上の課題と認識されますが、実際の人の移動を見ると国内移動が圧倒的に多く、またそもそも移動することさえできない人々もいます。また、気候変動予測を盛り込んだ意思決定を行うといっても、予測における不確実性の取り扱い方や、そもそものデータの欠如など、様々な困難があります。このように、不十分かつ多様な解釈の可能性に開かれた知識を基盤としながら、どのように安全保障にかかわる意思決定を行うべきかを考えます。
多層的な安全保障のアプローチ
本研究では、伝統的な国家安全保障を含みつつも、それに留まらず、人間の安全保障、経済安全保障などの多層的な視点があることを念頭に気候安全保障について考察します。また、日本などが主導する自由で開かれたインド太平洋(FOIP)など、地政学的な視点も、検討の対象に含めます。さらに、気候リスクへの脆弱性が比較的に高い国が多く含まれる、いわゆるグローバルサウスの視点も、安全保障アプローチを考えるにあたって、今後重要性を増していくと考えています。
諸外国の機関とのネットワークをベースにした協働
IGESはこれまでも、環境問題へのグローバルな戦略を考えるというミッションのもと、社会に大小の変革をもたらす学際的かつ実践的な研究に取り組んできました。本事業においても、多様な学術的背景を持つ国際的なチームで、諸外国における関連機関との幅広いネットワークを構築しながら、問いを育てる過程から政策的示唆の導出に至るまで、パートナーとの共創を重視して進めます。安全保障に関わる問題にこうしたアプローチを導入することの意義や限界に特に配慮しつつ、社会へのインパクトを持つ研究の実施を目指します。
活動記録
2025年11月14日 気候変動と安全保障のネクサス
サステイナビリティ統合センター
主任研究員 / レンズ・ファシリテーター

欧州安全保障協力機構(OSCE)は、ヨーロッパ、北米、中央アジアの57カ国を擁する世界最大の地域安全保障組織です。OSCEは、紛争予防、危機管理、政治的対話と現場での活動を通じた安定の促進に取り組んでいます。日本は、OSCEのアジア協力パートナー5か国(アフガニスタン、オーストラリア、韓国、タイを含む)の1つであり、専門知識を共有し、共通の安全保障上の課題に対処するために積極的に協力しています。
今回、OSCEの「アジアパートナー・グループ」会合にて、IGESで実施している気候安全保障に関する研究(APCS)からの成果を元に、発言する機会を得ました。以下はその発言の概要です。

安全保障パラダイムの変化
気候変動はすでに重要な安全保障上の課題であり、安全保障政策や防衛戦略がどのように策定されるかにおいて、パラダイムシフトを起こしています。気候変動の影響は相互に連関しており、国の安全保障だけでなく、エネルギー、食糧、そして個人の生活にも影響を及ぼします。私たちは、安全保障の概念、そして「気候安全保障」という言葉自体が、アジア太平洋地域全体で異なる受け取られ方をしていることについて、十分に認識する必要があります。また、リスクはその地域特有のものであり、データに基づく地域協力と地域に根ざした解決策が不可欠です。

概念的な課題と政策のギャップ
主な課題は、共通の理解と効果的な協力を促進することにあります。アジア太平洋地域の国々では、これまで欧米を中心に議論されてきたのとは異なる方法で気候安全保障を捉えられていることがわかってきました。また、トップダウンの科学的シナリオだけでは、これらの視点の橋渡しはできません。科学は「提供される」ものから、地域のステークホルダーと「共同開発」されるものへと転換する必要があります。

科学的な課題の克服:共同開発と人間の安全保障
気候関連リスクの科学的評価に、社会経済的および文化的要因を統合することが極めて重要です。これは複雑な課題ですが、そのダイナミクスを理解する努力は最も重要です。トップダウンのアプローチだけでなく、影響を受けるコミュニティが、彼らが理解できる言語で意思決定のプロセスに参加できるような、ボトムアップで参加型のプロセスも必要であり、複数の視点がそのプロセスに確実に情報をもたらします。

この「共同開発(Co-development)」と「地域化(Localisation)」のプロセスには、科学者、政策立案者のみならず、市民社会や地域専門家がリスク評価の初期段階から参加することが必要です。IGESがアジア太平洋地域で行ってきた調査で確認されたように、土地や文化的アイデンティティの喪失の危機などを含む、地域の多様な状況やニーズに貢献するように、得られた科学的知見は適切に変換、活用されなければなりません。

文化的、経済的、政治的に多様なこの地域において、個人の尊厳と生存の保護に焦点を当てた「人間の安全保障」の概念は、対話を促す、強力で共通の基盤として役立つ可能性があります。協調的な行動を可能にする共通の枠組みを構築し、科学的知見その地域特有のプロセスに活かすことで、データギャップを克服して前進することが肝要です。

2025年4月28日 T7ポリシーブリーフを執筆し、G7へ政策提言を行いました

Think7(T7)は、G7に対して、シンクタンクがそれぞれの研究成果をもとに政策提言を行うエンゲージメントグループです。今回は、IGESのアジア太平洋気候安全保障事業(APCS)の成果の一部として、ドイツのシンクタンクであるadelphi、および、パキスタンの研究機関であるManzil Pakistanとの共同で提言を行いました。もともとは、adelphiとIGESの共同提案でしたが、テーマの親和性からManzil Pakistanとも共同で提言をまとめることとなりました。T7には、例年、議長国の意向を反映しつつ提言を求めるテーマがいくつか設定されるのですが、今年は、変革をもたらす技術(AIと量子技術)、グローバル経済のデジタル化、環境・エネルギー・持続可能な開発、およびグローバルな平和と安全保障の4つがテーマとして設定されていました。私たちの提言である「未来の安全を確保する:気候変動とエネルギー安全保障のリスクおよびG7の役割」は、これらのうち、環境・エネルギー・持続可能な開発のカテゴリーのもとでの提言です。主要なメッセージは以下のとおりです。

  • 気候変動は、G7諸国を含む世界中で、特に脆弱な地域において、生計の崩壊や移住、食料・水資源の不安定化、資源競争といった間接的な経路を通じて、国家安全保障と人間の安全保障を脅かしています。
  • G7諸国は、エネルギー安全保障の必要性とグローバルな気候目標を調和させる必要があります。これには、重要な鉱物資源のサプライチェーンを確保しつつ、エネルギー転換と脱炭素化を加速化することが含まれます。
  • 重要鉱物は、その不均衡な分布と集中により地政学的な重要性を有しています。G7諸国は、外交関係と貿易関係を強化することで、地政学的リスクを軽減しつつ、世界規模での持続可能な採掘実践を促進できます。
  • G7諸国は、グローバル・サウスに対する気候正義のコミットメントを履行し、多国間主義と国際的な連帯を強化する必要があります。

IGESのアジア太平洋気候安全保障プロジェクトでは、エネルギー、食料、人の強制移住など、多様なリスクを取り扱っています。今回の提言では、この研究で得られた知見も踏まえて、グローバルサウスに集中する気候変動に脆弱な地域での課題に対処するにあたってのG7の役割を強調し、また、特にエネルギー安全保障に注目し、重要鉱物の偏在などがもたらす地政学的なリスクに対応すべきことを主張しました。これらは、従来の気候変動の緩和・適応の取り組みでは必ずしも十分に取り扱われてこなかったものの、気候行動の強化と持続可能な発展の実現には欠かせない観点です。今回私たちが打ち出したメッセージが、多くの政策担当者の目にとまり、実際の行動に繋がることを期待します。

2025年4月24日 大洋州における気候安全保障研究の進捗
戦略マネージメントオフィス
シニアプログラムコーディネーター

気候変動適応と安全保障をテーマとする研究のため、フィジーへ調査出張に出向きました。現地のコーディネーターに調整してもらい、気候変動によって影響を受けている村に入りました。

調査では、最初にコミュニティの中で短期的・長期的に何が目標となっているかを聞き取りました。そして、今後予測されている気候変動の影響を踏まえ、その目標を見直し、達成の困難さや優先順位がどのように変化しているかを細かく分析していきました。こうしたプロセスを経ることで、コミュニティとその人々が思い描く将来像が、気候変動の影響を受けながらもも安心・安全に実現可能なものへ適応していく過程を捉えることができます。調査の中で明らかになったのは、コミュニティの人々が気候安全保障を世界的に過度の注目を浴びている避難や移住といった問題としてではなく、食料、生計、生活水準、健康、教育、エネルギーを含んだ包括的な問題として見ている、ということでした。私たちの研究チームはスリランカでも同様の手法を用いて調査を実施しており、両国での比較分析も念頭に置いています。

フィジーは世界に先駆けて国家適応計画(NAP)を2018年に策定しており、現在はその更新作業が進められている段階です。新たなNAPがどのようにコミュニティレベルでの気候安全保障を強化し、気候変動に適応することで人々が理想とする将来像の実現にどのように寄与していくのか、フィジー政府やその他のステークホルダーの話も聞き取りながら、今後、研究成果としてまとめていく予定です。

2025年3月3日 日本のエネルギー転換における気候安全保障の課題
気候変動とエネルギー領域
研究員
気候変動とエネルギー領域
プログラムディレクター

アジア太平洋地域がエネルギー転換を加速する中、気候安全保障に関連するいくつかの課題がエネルギー部門の主要な懸念事項として浮上しています。今まさに進めているIGESの研究では、気候安全保障の観点から、日本のエネルギー部門にとって重要なさまざまな課題を特定しています。

まず、2050年までにネット・ゼロへの転換を計画していることに関して、日本が燃料や資源の輸入に依存し続けると、政策主導のリスクや地政学的課題に直面します。安価で豊富な水素や海外の炭素貯留地へのアクセス確保は日本の脱炭素戦略にとって課題となります。第二に、日本が国境を越えた長いサプライチェーンを持つ化石燃料の輸入に依存していることは、気候変動に伴う様々な物理的リスクに対する脆弱性を高めています。異常気象に晒されやすい地理的条件性は、大規模集中型のエネルギーシステムの脆弱性を明らかにしています。第三に、気候安全保障への懸念は、国内の産業および貿易の競争力にとって大きな課題となります。産業の大幅な脱炭素化が実現しなければ、潜在的な供給先における貿易障壁が日本に大きな影響を及ぼす可能性があります。

私たちの研究はこうした課題を洗い出し、それらに対処するための効果的な戦略を日本の国内政策に統合する方法を模索しています。

2024年8月30日 岡野直幸研究員が日本平和構築協会のセミナー「紛争影響下における気候安全保障」に登壇しました。

気候変動は我々の日常生活により深刻な影響を及ぼす要因となっていますが、本セミナーでは特に、気候変動が「紛争」や「平和構築」にどのように関わるかを議論しました。

http://www.gpaj.org/ja/2024/08/30/20820

2023年12月21日 COP28の結果の気候安全保障への示唆

COP28では初めて気候安全保障に直接関連する「健康/救援、復興、平和(Health/ Relief, Recovery & Peace)デー」が設置されるなど、交渉外のイニシアティブとしてこの分野の注目すべき動きがありました。では、肝心の交渉結果であるUAE合意は、気候安全保障へのどのような示唆があるでしょうか。COP28は主たる決定を「UAE合意(UAE Consensus)」とグルーピングし、気候行動のより一層の加速を目指すとしています。ここではUAE合意から特に気候安全保障と関連すると思われるポイントを、以下の3つに整理しました。

気候変動による「損失と損害(ロス&ダメージ)」に対応するための基金を含む資金ファシリティの運用方針に合意
ロス&ダメージは、気候変動の緩和・適応の努力を積み重ねてもなお残ってしまう被害について対処をすることを目的とするもので、その内容は大きく気候安全保障の取り組みと重なり合います。例えば、COP28のGST決定においても、防災・減災、人道支援、復旧・復興、強制退去(displacement)、計画移転(Planned Relocation)や移住などが、ロス&ダメージへの対処として挙げられています(-/CMA.5、パラ125、131参照)。気候安全保障では、気候変動が非常に多岐にわたる問題に直接・間接的な影響をもたらしており、社会の不安定化や分断、紛争を生みかねないことに注目しています。今後想定される損失と損害(ロス&ダメージ)基金による具体的な対応の進展は、気候安全保障の確保に向けた政策の欠かせない要素と言えます。

COP28の初日に合意されたロス&ダメージ基金の内容は、昨年のCOP27で基金と資金ファシリティの設立に合意してからの一年、移行委員会の場で重ねられた議論を踏まえたものです。早速基金への資金プレッジ(拠出公約)が相次ぎ、計7億米ドル超のプレッジが行われました。今後の基金や資金ファシリティの運用は、UNFCCC下でロス&ダメージについての技術的な議論を牽引してきたワルシャワ国際メカニズムやサンティアゴ・ネットワークにおける議論と併せて、気候安全保障の観点からも要注目と言えるでしょう。

グローバル・ストックテイク(GST)成果文書に、化石燃料からの「脱却」という文言が盛り込まれれる(‐/CMA.5, paras. 28(d))
本決定を受けて、化石燃料をゼロに近づけていくことに向けたエネルギー移行の加速が見込まれます。各国は、この文言を含むGST決定を踏まえて、2025年までに新たな削減目標を国が決定する貢献(NDC)として提出することとなっています。エネルギー移行において、再生可能エネルギーの大規模導入に必要な重要鉱物の確保などをはじめとした、エネルギー安全保障の観点を持つことは非常に重要です。エネルギー安全保障の確保に努めつつ脱炭素を進めていく、慎重かつ大胆な意思決定が各国の今後の政策形成において迫られると言えるでしょう。

パリ協定7条に示される適応の世界全体の目標(GGA)を具体化する、GGAフレームワークへの合意
気候リスクへの対応を目指す気候変動適応においても、大きな決定がなされました。GGAフレームワークへの合意によって、各国の適応努力により明確な指針が与えられることが期待されます。とりわけ、適応に関連するセクター別の目標として、水、食料、健康、生態系、インフラ・居住、貧困削減、文化遺産に関連する目標が示されたことは注目に値します(-/CMA.5、パラ9)。これは、適応と多様な分野との結びつきを示すことで統合的な気候リスク対応を促進しうるもので、気候安全保障の確保に向けた政策のあり方にも示唆的です。GST決定における越境的・連鎖的リスクの重要性の認識(-/CMA.5、パラ52)などを含め、気候リスク対応の方向性についての国際的な議論は着実に前進しており、気候安全保障分野の政策形成もこれと有機的に結びついたものである必要があると言えるでしょう。

COP28の決定には、これ以外にも、気候安全保障に示唆をもたらすものが多く含まれていると思います。APCSとしても、COP28の結果を受けた議論のさらなる展開に積極的に関与していきます。

Matters relating to the global stocktake under the Paris Agreement
Glasgow–Sharm el-Sheikh work programme on the global goal on adaptation referred to in decision 7/CMA.3

2023年12月12日 COP28における気候安全保障の進展 -世界のリーダーたちの宣言は行動へとつながるのか-

アラブ首長国連邦で行われている国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)で気候安全保障に関わる議題が取り上げられました。また、毎日異なるテーマで開催されるThematic Programでは、12月3日に「健康/救援、復興、平和(Health/ Relief, Recovery & Peace)デー」がCOPでは初めて設定されるなど、気候安全保障に国際社会の注目が集まりました。ここでは、COP28で開催された気候安全保障に関連するふたつのイベントを取り上げます。

12月1日に議長国イベントとして、ミュンヘン安全保障会議が主催したハイレベル・イベント「今こそ気候安全保障の一致団結を(Climate Security Moment: Assuming Joint Leadership)」では、気候に関連するリスクに対処するため、全世界での協力の重要性が危機感をあらわにして強調されました。ハイレベル・イベントと題されているように、スピーカーにはエストニアとアイスランドの首相や、北大西洋条約機構(NATO)の事務総長、米気候問題担当大統領特使などが名を連ねました。気候変動を、海面上昇や異常気象など、物理的影響にどう対応するかという単純化された一面的な問題として捉えるのではなく、気候変動が世界中でもたらしている新たな安全保障上の脅威やリスクについて、もっと幅広く、批判的かつ戦略的に考えるための議論が深められました。

12月3日にはThematic Programの一環として国連防災機関(UNDRR)主催のイベント「気候、救援、復興、平和に関する宣言の意義(Launch of the Climate, Relief, Recovery and Peace Declaration)」が行われました。ソマリアの副首相、ノルウェーやマーシャル諸島の大臣、緑の気候基金(Green Climate Fund)やWFP国連世界食糧計画の事務局長などが登壇し、同日に発表された「気候、救援、復興、平和に関する宣言」の意義について議論しました。同宣言は日本を含む70カ国以上、40以上の国際機関が賛同しており、紛争に直面し、気候変動に脆弱な地域に対して、適応資金を増やすための解決策のパッケージを提供しています。

このように気候安全保障に関する世界の機運は高まり、少しずつではありますが動きはじめています。気候変動による安全保障上のリスクを軽減するためには、各国がリーダーシップを取って行動につなげていくことが重要です。国家間で行われる行動は、気候にレジリエントな社会や、人道的支援や平和構築に直結すると考えます。

参考: "Climate, Relief, Recovery and Peace Declaration" https://www.cop28.com/en/cop28-declaration-on-climate-relief-recovery-a…

2023年11月16日 G20からCOP28へー気候・エネルギー・成長
気候変動とエネルギー領域
研究員

インドの外交・安全保障政策やエネルギー・気候変動政策に影響力を持つ著名なシンクタンクであるオブザーバー・リサーチ・ファウンデーション(ORF)に招待され、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビエネルギーセンターにおいて11月12日に開催された「From G20 to COP28: Energy, Climate and Growth」に出席した。

この会議は、今年の20カ国・地域首脳会議(G20)ホスト国であるインドがその成功を広く内外に示し、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)の開催を控えた議長国であるUAEへとバトンを渡す意味を持っていた。

会議の冒頭、COP28の議長を務めるスルタン・ジャベル産業・先端技術大臣が登壇した。スルタン大臣はアブダビ国営石油会社(ADNOC)の最高経営責任者(CEO)でもあるため、気候変動を議論するCOPの議長就任を疑問視する声が欧米の一部に存在する。しかしスルタン大臣は同時に世界最大規模の国営再生可能エネルギー企業Masdar社の会長でもある。

UAEはエネルギー戦略2050を策定し、2050年までに排出をネットゼロにすることを表明している。さらに国家水素戦略を策定し、2050年までに年間1,500万トンの低炭素水素を製造する世界でトップの水素輸出国になることを目指している。 折しも2023年7月、岸田首相がUAEを訪問し、水素・アンモニアおよび再エネ分野のエネルギー安全保障と産業の加速化枠組み(Establishment of the Energy Security and Industry Accelerator)の設立に関する共同関心宣言(Joint declaration of interest)をムハンマド大統領との間に締結している。

Masdar社はグリーン水素を製造するパイオニアでもあり、世界規模のバリューチェーンを展開中であるため、この両社を統括するスルタン大臣のCOP28議長就任は、化石燃料からクリーンエネルギーへと転換を図るUAEがホスト国を務めるCOP28の顔として適任と言える。

会議には、グローバルサウスと呼ばれる南半球に位置するアジアやアフリカの途上国・新興国より約100名の代表者が参加した。特に後発開発途上国では、気候変動により豪雨や洪水、旱魃等の気候災害が発生し、不作による食料不足や住み慣れた土地を追われる強制移動により気候難民が発生している。こうした被害を受けやすいのは、女性や子供、老人といった社会的弱者となる。こうした途上国の窮状を訴え、先進国の支援を求める声が会議の参加者から発せられた。

COP15においては、先進国が途上国の気候変動対策のために2020年までに官民合わせて年間1,000億ドルの気候変動資金を動員するとしながら未達になっている。COP27においては、気候変動の途上国への悪影響に伴う損失と損害を支援するロス&ダメージ基金の設置が決まり、詳細はCOP28へと持ち越しとなった。

今年の11月30日から開催されるCOP28において、産油国のUAEが議長国としてリーダーシップを発揮してどこまで世界の脱炭素を進展させ、途上国支援に資金提供する先進国の合意をどこまで取り付けられるかが注目される。

photo
基調講演するスルタン・ジャベル産業・先端技術大臣

スルタン・ジャベル産業・先端技術大臣の発言の要旨:

  • COP28において我々は成長の機会として気候行動に努め、グローバルストックテイク(GST)を通じた野心的でバランスの取れた成果を目指す。
  • 気候変動資金がグローバルサウスにとって調達可能で無理のないように解決するために開かれた対話に従事する。
  • まだ果たされていない14年前の1,000億ドルの約束は、完全に実行されなければならず、適応策の資金を倍増してロス&ダメージ基金は完全に運用可能にする。

議題:https://www.orfonline.org/research/from-g20-to-cop28-energy-climate-and-growth/

2023年10月20日 気候変動対策と平和構築のための具体的な行動 紛争リスクを削減するような適応策など ベルリン気候変動安全保障会議(BCSC)

「気候安全保障活動レポート」では、APCSの研究の過程で得られた世界各国の考え方や取り組み状況に関する知見をタイムリーに発信していきます。第一回はべルリン気候安全保障会議(BCSC)の報告です。BCSCはドイツの著名なシンクタンクであるadelphiとドイツ外務省との共催で、2019年から毎年開催されている会合です。10月6日に開催された今年の会合は「気候変動対策と平和構築(Building a Climate for Peace)」と題し、世界各国から政策立案者や気候安全保障の専門家が集まりました。

今年のBCSCでは、気候変動対策と平和構築のための具体的な行動の観点がハイライトされ、気候変動対策を通じて、食料や水の安全などの紛争につながり得るリスクを軽減する取り組みやツールが紹介されました。

また、Conflict-sensitiveな気候対策(紛争リスクを削減するような適応策等)の必要性が繰り返し強調されました。気候変動が紛争リスクを高めうるという視点に加え、紛争リスクへが気候変動対策を妨げるということも重要な視点です。紛争のリスクが高い国の多くが、気候変動に対しても脆弱であることに目を向け、国際社会が一丸となってこうした紛争と気候変動の悪循環を断つことが求められています。

会合では、気候変動による影響を大きく受け、さらに様々な理由により高い紛争のリスクにさらされているアフリカ諸国の例が多く取り上げられました。アフリカでの具体的な取り組みから得られた知見を活かしつつ、そのほかの地域においても気候変動と平和構築を結び付けたアクションが必要です。同じく気候変動を背景とする災害の増加や海面上昇の脅威にさらされているアジア太平洋地域においても、気候安全保障の考えを取り入れる価値は高いといえるでしょう。

関連スタッフ