G7、すなわちGroup of 7は、フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7カ国に加えて欧州連合(EU)から構成され、サミットとも呼ばれる首脳会合のほかに、特定の分野に関する大臣会合を毎年開催しています。2024年のG7はイタリアが議長国を務め、6月13日~15日にプーリアで首脳会合が開催されるほか、気候・エネルギー・環境大臣会合をはじめとする21の大臣会合がイタリア各地でそれぞれ開催されます。
本特集ページでは、4月28日~30日に開催された気候・エネルギー・環境大臣会合のコミュニケの内容から、気候変動、エネルギー、環境分野における主要テーマの動向や注目ポイント等を解説する記事、関連するIGESの出版物などをご紹介します。
研究者の視点
今次会合における適応とロス&ダメージの議論では、昨年に引き続き気候変動の影響に対して最も脆弱な人々に対する支援の拡大が中心的に取り上げられました。その背景には、COP28でのロス&ダメージの新たな基金の設立、適応に関する世界全体の目標(GGA)を達成するためのUAE枠組の策定があったと考えられます。また、2009年の気候資金動員計画において、先進国が開発途上国に対する気候資金を2025年までに年間1000億ドル動員するという目標があることを受け、気候変動に脆弱な国々に対する公的資金の導入や、民間の適応資金拡大について強調されました。
適応の決定のひとつとして、「適応アクセラレーター・ハブ(Adaptation Accelerator Hub)」と呼ばれる新しいイニシアティブの立ち上げがありました。同ハブは、現在の適応行動と、気候変動に脆弱な人々のニーズの間にあるギャップを埋める橋渡しとなることが期待されており、開発途上国を支援するためのパートナーシップの強化を意図しています。パートナーシップの仕組みについてはこれから詳細を詰めていく段階にありますが、NAPグローバルネットワークなどの既存のイニシアティブとの相乗効果を図っていくという方針がコミュニケで示されました。
日本は、2019年に「アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)」を立ち上げており、適応アクセラレーター・ハブとの今後の連携も期待されます。適応に関するイニシアティブは複数存在しており、国際協力を通じて気候変動に脆弱な人々を支援するという目的に立ち返って、各イニシアティブの強みを活かしながらパートナーシップを強化することが重要です。
今回のG7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケでは、生物多様性の果たす重要な役割に関する強いメッセージと、その損失に関するG7参加国の強い危機感が打ち出されました。例えば、生物多様性に関しては、2030年までに損失を食い止め反転させる生態学的な必要性を訴えるだけでなく、社会的・経済的にも必須であることが強調されました。これは、生物多様性の継続的な損失が、人類の生命維持システムを脅かし、気候変動に対処する能力を危うくし、持続可能な開発を弱体化させるという認識に基づいています。
また、森林生態系に関しては、複数の生態系サービスを提供している森林の減少・損失・劣化の速度が依然として憂慮すべき速さであることへの深刻な懸念が共有されました。そして、世界の気温上昇を1.5℃以内に止め、生物多様性の保全と保護を実現するためには、森林の減少を速やかに食い止め回復させなければならないと、改めて森林の果たしている重要な役割が強調されました。
さらにコミュニケでは、世界の海洋の健全性について深い懸念を再確認し、気候変動・生物多様性の損失・汚染という地球環境の三重の危機に対応するための海洋ガバナンスに関する変革的行動を求めています。2023年6月に合意された新たな「国家管轄権外区域の生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国連海洋法条約の下での協定(BBNJ協定)」に関しても速やかに発効させることを支持しています。
また、これらの生物多様性の保全のための資金調達の重要性が強調され、2030年までに生物多様性保全に関する資金を大幅に増加させ年間2,000億ドル以上を調達することを目標に定めました。
G7の議論の中でも年々関心が高まってきている観点として、「包摂性(インクルージョン)」があります。昨年のG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケでは、「先住民族」、「ジェンダー平等」、「公正な移行」と並び、初めて「包摂性」について、個別にパラグラフが設けられました。そして、今回のイタリア議長国下のコミュニケでは、冒頭(シャポー)における全体を貫くテーマとして「包摂性」が大きく扱われました。イタリアは、昨年9月のSDGサミットなどの機会において、G7では「包摂性」を主軸に据える旨表明しており、コミュニケは、その意向が明確に反映された形となりました。
今回は、「G7と途上国の協働の推進(パラグラフ12~18、40)」、「気候変動の影響に最も脆弱な人々への支援(パラグラフ:19~22)」というセクションが明確に設けられました。特にアフリカの途上国や島嶼国などを念頭とした気候変動に脆弱な国々における「公正な移行」を支援するため、多数の具体的なコミットメントを示したパラグラフが取りまとめられました。
1)アフリカに焦点を置いた開発途上国との協働と支援の重視
これまでも、途上国・新興国とのパートナーシップや支援に関するコミットメントを表明することで、G7は国際社会におけるリーダーシップを強調しようと試みてきました。イタリアは、この流れを引き継ぐとともに、特にアフリカ重視の姿勢を明確に示しており、コミュニケにもそれが反映されています。同国は、近年アフリカ大陸から急増する移民・難民の受け入れ問題を抱えており、現政権は、対アフリカの外交政策として「マッテイ・プラン」を打ち出し、教育と職業訓練、農業、保健、水、エネルギーを5つの柱と掲げ、アフリカとの互恵関係を育もうとしています。他方で、そのプランには当事者となるアフリカ側の意見が十分に反映されていない、との批判もあります。途上国・新興国など、グローバル・サウスとのパートナーシップの構築については、その一国として影響力拡大を図るブラジルG20での議論との差も注目です。
2)若者の「意味ある」参画
今回のコミュニケは、全体を通して包摂性や脆弱な人々への支援に関して踏み込んだ内容を含むものになっていますが、その中でも、若者(ユース)世代の重視は特筆すべき点として挙げられます。若者は、これまでも、女児・女性、先住民族、地域コミュニティ、小規模農家など、配慮を必要とするグループのひとつとして列挙されてきましたが、本コミュニケでは、近年の中でも言及回数が最多かつ、特化した言及が見られました。
昨今、気候変動などの環境課題を中心に、若者の参画がグローバルにも注目され、彼らが意見を求められ、発信する機会が増加しています。持続可能な未来の実現に向け、次世代の関与の重要性を否定する人はいないとは思いますが、それが意思決定に対して実質的な影響力を伴わない、表面的な参加ではないかについては、注視する必要があります。
若者の中にも、既に課題意識に基づき、行動を起こせている者から、日々の生活も困難な状況に置かれた者と、多様性(ダイバーシティ)が存在します。さらに、人種や性別、性的志向、階級や年齢、障害など、人々が持つ複数の属性が交差した時に起こり得る差別や抑圧を捉える、交差性(インターセクショナリティ)の考え方も重要になってきています。それらを踏まえた上で、多様な若者の参画を可能にする教育とエンパワーメント*が欠かせません。今回初めて、若者の「意味ある(Meaningful)参加」という文言が使われ、若者重視の姿勢を表明するだけではなく、彼らが主導する活動に対して支援を表明したことは、過去のコミュニケよりも一歩先に進んだ印象を受けます。
また、同じパラグラフの中に、権利に基づく先住民族の参加と役割についても言及されているように、参加の機会の確立は、若者に限らず、他の脆弱な立場に置かれた人々や少数派(マイノリティ)の人々にも当てはまります。脆弱な人をケアし、サポートするという視点も重要ですが、それに加えて、対等なパートナーシップに基づき、彼らが気候変動や他の環境問題、SDGsなど、相互に連関するグローバルな課題に対して主体性を持ち、共に行動を加速化するボトムアップ的なアプローチもまた、今後必要となってくるでしょう。
本稿では、イタリア議長国が重視する「包摂性」について、アフリカを筆頭とする途上国支援、ユースとの参画という2点に着目しました。昨今、気候変動や環境課題は、脆弱な立場に置かれた人々や国々が最も深刻な影響を受けるとの研究成果が蓄積されつつあります。当事者が、ケアの対象として見られるだけではなく、必要に応じてサポートを受けつつ、意思決定に向けた議論に参加できるような、対等なパートナーシップの考え方や仕組みの構築は、今後より良い環境・気候変動政策を策定する上でも不可欠な視点となっていくでしょう。
*一人一人が本来持っている力を発揮し、自らの意思で積極的に行動できるようにすること
土地と水資源の管理に関しては、これまでよりも明確なコミットメントがG7気候・エネルギー・環境大臣会合のコミュニケで示されました。この背景として、砂漠や干ばつを含む土地劣化、洪水などの水資源問題は、アフリカや中東などの開発途上国における問題と考えられやすく、先進国が集まるG7会合では、これまで環境問題の中でもあまり重要視されてきませんでした。しかし、近年のヨーロッパ各地で発生する夏の熱波による干ばつや水不足、米国の大雨と洪水などの自然災害が先進国でも深刻化しています。この結果、今年はG7メンバー国間でもこれらの問題への対策を検討する必要性が出てきたのでしょう。
特に、土地管理に関しては、昨年までと同様にSDGsのターゲット15.3やG20の土地のイニシアティブに沿って、砂漠化対処条約(UNCCD)の「土地の劣化の中立性」を目標とする再確認に加え、土地管理のための包括的政策措置の手段となる「自然を活用した解決策」などの持続可能な解決アプローチ、生物多様性条約COP15で決まった「昆明・モントリオール生物多様性枠組」、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のパリ協定の目標、グラスゴー・リーダーズ宣言などの様々な国際的な合意を踏まえた複数のコミットメントが示されました。また、土地劣化の最大要因と言われる農業にも言及し、土地劣化、気候変動、生物多様性の損失などの問題に取り組みながら農村部の社会経済状況も改善するような相乗効果を目指すことを約束しています。
さらに今年は、土地利用に関連した国際機関、民間セクターなどの異なる組織が連携して砂漠化問題などに取り組むために、「持続可能な土地利用に関するハブ」の設置が発表されました。この点は水資源の議論でも共通し、「G7水コアリション」の設立が合意されました。昨年までの共通目標を確認するところから組織体制の構築に議論が進んだことは、評価すべきポイントだと考えられます。
エンゲージメントグループ
エンゲージメント・グループの役割
G7には、サミットと大臣会合の他に、G7 政府から独立した様々な分野のステークホルダーが提言等をとりまとめる仕組みであるエンゲージメント・グループが存在します。T7(Think7:世界中のシンクタンクで構成)、Y7(Youth 7:ユース)、W7(Women7:女性)、S7(Science7:科学者)、L7(Labour7:労働組合)、C7(Civil Society7:市民社会)、B7(Business7:経済団体)の7つが公式のエンゲージメント・グループとして組織されており、各グループの提言(コミュニケや声明など)は、多くの形でサミット・大臣会合のコミュニケに反映されています(G7 / G20におけるエンゲージメント・グループの役割について詳しくはこちら)。気候変動の緩和や、持続可能な開発目標(SDGs)の達成等、社会にダイナミックな変革を起こす上で、政府から独立した様々な分野のエンゲージメント・グループの役割が高まっています。また近年では、SDGsの目標達成や、脱炭素など、直面する課題に取り組むために「都市」が果たす重要な役割が広く認識されるようになっていることから、非公式のグループとしてU7(Urban 7:都市)が立ち上がり、Gに対して横断的な提言を行っていこうとする動きも見られます。
T7には毎年、複数のIGESの研究員が関わっており、今年もT7のポリシーブリーフの執筆に貢献しました。