中国全国炭素排出量取引制度の進捗と展望

ワーキングペーパー
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 本稿は、全国炭素排出量取引制度(以下、全国ETS)の進捗状況について整理し、制度の特徴や既存地域炭素市場への影響等を分析し、今後の方向性を展望する。要点は以下の通りである。

  • 全国ETSの構築は2017年12月から開始し、2018年3月に中央省庁の再編により担当部署の変更及び2020年の新型コロナウイルス流行の影響も受けて、当初の計画より約1年遅れるが、概ね順調に進められている。
  • 2020年末に全国ETSの法的基盤である「炭素排出割当量取引管理弁法(試行版)」が公布され、2021年2月1日から施行された。同時に、制度初期段階の対象とする発電部門の重点排出事業者及びその排出割当量の設定・配分方法が確定した。今後、発電部門の排出割当量の予備配分を行い、登録システムや清算システム及び取引システムの稼働の準備が整い次第、2021年6月末までに本格的に取引を開始する。
  • 発電部門における排出割当量の設定にはベンチマーク方式を採用する。排出割当量は、実際の電力または熱の供給量に依存するため、現段階では割当総量の上限(キャップ)は設けられていない。中国の電力価格は今でも政府に規制されているため、全国ETSの導入による追加コストを電力消費者に転嫁できない。政策効果をもたらすために、発電時の直接排出量と電力使用による間接排出量両方を規制する。
  • 現在実施中の9つの地域炭素市場の中で、北京・上海・深圳以外の地域炭素市場の対象業種は全国ETSと大きく重なっている。このため、全国ETSが発電部門以外のエネルギー集約度の高い業種へ拡大する代わりに、これらの地域炭素市場は徐々に縮小し、無くなる可能性は高い。今後、拡大した全国炭素市場はサービス業・交通部門・建築部門を対象としている北京・上海・深圳等3つの地域炭素市場と併存することが考えられる。
  • 2011年の地域パイロット炭素市場の構築から、2021年の全国ETSの稼働までに10年を要したが、オフセットメカニズムの導入、市場安定措置等、不明確な部分が残っている。制度の実施効果検証に加え、こうした点についても、引き続き注目したい。
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