実潮流に基づく電力系統運用シミュレーションを用いた日本の再生可能エネルギー実質100%シナリオにおける電力需給構造分析

ワーキングペーパー
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本分析では、100%という最大限の再生可能エネルギー(以下、再エネ)比率を想定した状況下において、送電線や電源などの電力系統内に揚水式水力、貯水池式一般水力発電、地熱発電、バイオマス発電、家庭用ヒートポンプ式給湯器、系統に接続される電気自動車(EV)の蓄電池、水素製造装置、既存ガス火力発電を改修した水素専焼火力といった電力需給調整に必要な柔軟性 (Flexibility) を供給する能力(以下、柔軟性供給力)がどのように利用されるかを明らかにする。


そのために、系統電力需要量に対応する電源構成において、国内再エネ由来の電源が実質的に100% となるシナリオを含む6つのシナリオ(RE60海外水素、RE100、RE100α、RE90α、RE100β、RE90β)を構築した 。電力需要量を算定の際には、すべての部門で電化が飛躍的に進むとともに、電化が難しい部門では水素利用が進み、化石燃料を使用しないことを想定した。なお、RE60海外水素シナリオ以外では、既存の高圧ガス導管ネットワークが水素流通用に整備されることで、水素専焼火力発電、水素製造設備、水素地下貯蔵施設間で水素の流通が可能となり、安定的な国内グリーン水素の日本各地への供給が可能になると想定した。これらのシナリオに対して、1時間毎の潮流計算によるメリットオーダー方式発電指令による広域電力系統運用(以下、「実潮流に基づく電力系統運用」という)を想定する電力系統シミュレーションを上位2系統の送電線の運用容量による制約条件を考慮して行った。


分析の結果、国内グリーン水素を製造する際には、電力系統内の余剰再エネも用いて水素製造することで、再エネの出力抑制率を5%以下に抑えつつ、国内再エネ比率を実質的に100%まで高められる可能性を示すことができた。この場合、EVは、再エネの短期の出力変動に対する大きな柔軟性供給力となることが確認できた。さらに、産業部門や運輸部門のエネルギー用途の水素を、電力系統の需要とディマンドレスポンスとして連動して製造することで、水素専焼火力の発電電力量を抑えられることが確認できた。また、再エネの発電電力量が少ない時間帯が多い季節における電力供給など、数か月単位の長期の変動に対応するには、グリーン水素製造・貯蔵及び水素専焼火力のような大量かつ長期にエネルギーを保存・供給する設備が必要であることが明らかとなった。仮に、これらの水素を製造場所近辺の新潟及び磐城沖休廃止ガス田に地下貯蔵する場合、本分析で想定したガス田の貯蔵能力は、水素の貯蔵必要量よりも十分に大きいことが確認された。国内グリーン水素製造需要が大きいというシナリオにおいては、電力の広域融通の傾向は強まることが示された。


今後の課題として、水素専焼火力発電と水素製造装置の設備容量の経済性を考慮した最適化、洋上風力の出力パターンの精緻化、生産プロセスの革新、人々の移動の変化、人々の消費嗜好の変化を考慮した電力需要量や水素需要量のシナリオ化などがある。
 

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