研究者の視点

生物多様性減少の直接要因が対策の要-『Science Advances』掲載に寄せて

髙橋 康夫 生物多様性と森林領域 リサーチマネージャー

民間、行政または研究で生物多様性に関わっている方には下図を目にしたことのある方も多いのではないだろうか。これは、2005年から2018年の間に発表された学術論文に報告された生物多様性減少の直接要因を5つに分類した上で、それぞれ陸域、淡水域、海洋において相対的にどの程度支配的な影響があるかをメタ分析した結果を図示したもので、IPBES地球規模評価報告書の政策決定者向け要約に掲載された。ビジネスセクター向けにはScience-Based Targets for Nature(SBT-n)のガイダンスにも転載されている。11月9日に、IPBES地球規模評価報告書の専門家チームが、この元になった分析結果を異なる角度からより詳しく解説した学術論文を『Science Advances』誌にて発表した。私も、IPBES地球規模評価報告書の分析に加えて、今回発表された論文にも貢献している。

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出典:IPBES地球規模評価報告書政策決定者向け要約(和文)
https://www.iges.or.jp/jp/pub/ipbes-global-assessment-spm-j/ja

図から、陸域と淡水域では土地利用変化が、海洋では直接採取(漁業)が最も支配的な要因であることがわかるだろう。新たに発表された論文ではこれらに加え、次のポイントを指摘している。

  • 生物多様性減少の支配的な直接要因には地域差があり、ヨーロッパ、アジアおよび太平洋地域では土地や海域の利用変化が最も支配的であるのに対し、北・中・南米とアフリカ大陸では直接採取が最も支配的である
  • 生物多様性のどの側面を見るかによって支配的な直接要因は異なり、例えば種の個体群サイズの減少には土地・海域利用変化の影響が最も支配的であるが、種群構成の変化には気候変動の影響が最も支配的である

生物多様性保全には、生物多様性減少を引き起こす直接要因を特定し、解消する対策を打つことが求められる。したがって本論文が示す知見は、場所によってどの対策を優先すべきかのガイダンスとなる。

ただし、直接要因は変化し続けていることや、発表済みの学術論文が用いた直接要因と生物多様性の指標や地域などには偏りが存在することに留意しなくてはならない。例えば、気候変動の影響は、分析対象とした2005年から2018年までの間に発表された実証研究論文の中では、陸域では5要因中5位、海域では2位の支配的要因であったが、地球温暖化の進行とともに、影響が大きくなることが予想される。さらには、気候変動に伴う、あるいは気候変動対策がもたらす土地利用変化など、直接要因間の相互作用についての示唆も見受けられる。これらを念頭に置いた実効性のある対策が求められる。なお、詳細は以下もご覧いただきたい。

査読付論文
Science Advances所収
著者:
Jaureguiberry
Pedro
Titeux
Nicolas
Wiemers
Martin
Bowler
Diana
Coscieme
Luca
Golden
Abigail
Guerra
Carlos
Jacob
Ute
Settele
Josef
Diaz
Sandra
Molnar
Zsolt
Purvis
Andy

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