生物多様性はなぜ重要か?
生物多様性とは、「地球上のさまざまな環境に適応した、特有の個性を持った生きものが存在し、それぞれがさまざまな相互作用によってつながり合っていること」です。それにより、私たちにも多くの自然の恵みがもたらされています。これを生態系サービスと呼びます。人類がどれだけの恩恵を受けているのか、一例を見てみましょう。
- 20億人——木質燃料を主要なエネルギー源に利用
- 40億人——自然由来の薬を利用
- 70%———自然由来または自然界から着想を得て合成されたがん治療薬の割合
- 75%———動物による花粉媒介が必要な食糧作物の割合
- 60%———生態系による、人為起源の大気中炭素の吸収量
(出典:IPBES「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書政策決定者向け要約」和訳)
生態系サービスには、大気や水の浄化、土壌の形成、自然災害リスクの軽減といった調節機能など、数字で表せないものも多く存在します。さらに、芸術や技術開発へのインスピレーション、学習材料ないし場の提供、人間のアイデンティティー形成といった無形の恵みにも深く、また大きく関わっています。生物多様性は、こうした自然の恵みを通じて、次のSDGsに貢献しています。
生物多様性の現状
人類は生物多様性のもたらす自然の恵みを受けながら発展を続けてきました。しかしその反面、人間活動の拡大が原因で生物多様性が急速に失われつつあります。2019年5月、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)は、地球における生物多様性の現状、過去50年間での変化、将来予測、これらが人類にもたらす意味ないし影響などを総合的に分析した報告書を発表しました。報告書は、推計100万種、地球上のすべての生物の8分の1に相当する数の生物が近い将来に絶滅の危機に直面するだろうと警鐘を鳴らしています。私たちが利用している作物や家畜の在来品種のほか、新品種の交配にも使われる近縁の野生の動物および植物も例外ではありません。
IPBES報告書は、現在の状況が続けば、SDGsは達成できないと指摘しています。
また、防災・減災、新薬開発、気候変動に適応するための作物の品種改良や開発など、現在および将来的な課題を乗り越える上でも影響が出てくる懸念があります。報告書は、この危機を克服し、将来にわたって生物多様性を守り受け継いでいくために求められる行動についても科学的な根拠を提供しています。
IPBESの概要
IPBES(「イプベス」と読む)は、「生物多様性版のIPCC」とも呼ばれる、生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間組織です。2012年4月に設立され、2024年3月現在、145カ国が加盟しています。ドイツのボンに事務局が設置されています。
IPBESの活動は、加盟国の要望を踏まえて計画・実施されます。代表的な活動が、評価報告書の作成です。評価報告書から、特に政策に関連性の高い情報を要約した政策決定者向け要約(SPM)は、IPBES総会の審議で全加盟国の合意を得た後、発表されます。これまでに4つの地域別評価報告書および2つのワークショップ報告書を含む10の報告書が発表されています。
2023年8-9月にドイツのボンで開催されたIPBES第10回総会では、侵略的外来種に関するテーマ別評価報告書の政策決定者向け要約(SPM)が採択されました。現在は5つの評価が実施中で、今後1つの評価が予定されています。
IPBESの成果は、多国間協定や各国の政策に係る意思決定に活用されています。 例えば、花粉媒介評価は、生物多様性条約(CBD)花粉媒介者の保全と持続可能な利用に関する国際イニシアティブ2018-2030行動計画に活用されました。地球規模評価は、CBDの生物多様性概観5(GBO-5)に反映され、2022年12月に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組の基盤情報としても活用されました。
IPBESの体制と機能、作業計画、概念枠組、評価報告書作成手続きなどの詳しい情報は、環境省発行のパンフレットをご参照ください。