ブラジルが議長国を務める2024年のG20サミットが、11月18日から19日にかけてリオデジャネイロで開催されます。世界は今、気候変動、生物多様性の損失、環境汚染といった同時多発的かつ連動した危機に直面しています。さらに、長引く紛争や貧困により、持続可能な開発への道のりは険しいものとなっています。G20は今年のスローガンとして”Building a Just World and a Sustainable Planet (公正な世界と持続可能な地球の構築)”を掲げています。G20は、人類と自然にとって危機的な状況を回避しつつ、持続可能な開発と繁栄を脅かしている様々な課題に対処するため、結束してリーダーシップを発揮することが求められています。
本特集ページでは、10月3日に開催されたG20環境・気候持続可能性大臣会合と、10月4日に開催されたG20エネルギー移行大臣会合の成果を取り上げ、気候、エネルギー、環境、持続可能性に関する主要な動向や注目ポイントを解説する記事、関連するIGESの出版物などをご紹介します。
最新情報
G20とは
G20はGroup of 20の略で、G7加盟国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)に加え、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中華人民共和国、インド、インドネシア、大韓民国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、そして欧州連合(EU)とアフリカ連合(AU)が加盟しています。G20は各国のそれぞれの分野の閣僚が一堂に会し、共通の課題について話し合う重要な場となっています。
G7同様、G20のプロセスにおいても、各国団体の代表によって構成されるステークホルダーがG20の審議に向けた政策提言を行う「エンゲージメント・グループ」が組織されています。エンゲージメント・グループには、B20(ビジネス)、U20(都市)、J20(最高裁判所)、P20(国会)、C20(市民)、STARTUP20(イノベーション、起業、協働)、T20(シンクタンク)、SAi20(最高監査機関)、S20(科学)、Y20(若者)、W20(女性)、L20(労働)、O20(海洋)といった様々なものがあります。IGESは主にT20の一員として、G20の政策への提言を行っています。
研究者の視点
「G20における新たな試み:財政・金融政策と気候変動対策の融合」
TF-CLIMAの設立
2024年のG20議長国であるブラジルは、パリ協定の1.5℃目標の達成に向け、世界経済・金融と気候変動対策の連携を強化することを目指し、「G20気候変動に対する世界的な資金動員のためのタスクフォース(TF-CLIMA)」を創設し、議論を重ねてきました。そして、10月に開催されたG20財務大臣、気候・環境大臣、外務大臣及び中央銀行総裁合同会合においてG20財務大臣、気候・環境大臣、外務大臣及び中央銀行総裁合同会合閣僚宣言が発出されました1。
従来、G20では政策課題ごとにシェルパトラック2での議論が行われ、それと別建てという形で財務大臣・中央銀行総裁会議で国際財政・金融政策が扱われてきました。TF-CLIMAは気候変動に関するシェルパトラックと金融トラックの連携を強化し、両者を統合して議論する場を提供しました。気候変動対策の推進には財政・金融政策における各国の協調が不可欠であり、このような統合された議論の場が設立されたことには意義があると考えます。
G20議長国は近年「グローバルサウス」諸国が担っており(インドネシア(2022年)、インド(2023年)、ブラジル(2024年)、南アフリカ(2025年))、その存在感を高めています。今回、ブラジルは「公正な世界と持続可能な地球の構築」を共通テーマとして掲げており、各国、特に途上国が公正で持続可能な社会に移行するためには、世界全体での協力による資金が必要であることを、TF-CLIMAの設立を通じてより明確に示したものと言えます。
TF-CLIMA閣僚声明
10月に開催されたTF-CLIMA閣僚会合では、専門家グループが「グリーンで公正な地球:世界の産業・金融政策を統治する1.5℃アジェンダ」3と題した報告書を発表しています。本報告書は、G20諸国に対し、経済成長と気候変動対策を両立させる新たな開発の道筋を示すとともに、すべての国がグリーン成長の恩恵を享受できる公平なグローバルガバナンス構造の構築に取り組むよう求めています。
一方で、TF-CLIMA閣僚声明では、本報告書がタスクフォースの成果として歓迎されたものの、その内容は昨年のCOP28の成果、特に第1回GSTの成果の再確認が中心であり、目新しい進展やコミットメントは見られませんでした。第1回GSTでは、2030年までに世界全体での再生可能エネルギー容量を3倍に増やすことや、化石燃料から脱却することなどが合意されましたが、こうした世界全体での目標に向けたG20としての具体的な方向性や方針は示されませんでした。
それでも、11月18日から19日にかけて開催されたG20サミットの「G20リオデジャネイロ首脳宣言」ではTF-CLIMAへの言及がなされ、同時期に開催された国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)では、2025年以降の新たな気候資金目標(New Collective Quantified Goal (NCQG))が支援総額を巡る紛糾を経て、曲がりなりにも合意に達しました。このNCQGの決定では、途上国向けの気候行動に対するすべての公的及び民間資金を2035年までに年間1.3兆米ドル以上に拡大するため、すべてのアクターにともに行動することを求めています。この準備として、「1.3兆ドルへのバクー・ベレン・ロードマップ」を立ち上げ、2025年11月にブラジルのベレンで開催予定のCOP30で成果を報告することも決定されたので、今後のブラジルのイニシアチブが期待されるところです。TF-CLIMAを通じた議論はこうした気候変動対策における途上国支援の推進に一石を投じたと言えるのかもしれません。今後、G20として気候変動対策の着実な実施と資金動員の加速をどのように後押ししていくかが、重要な課題になります。
G20議長国からCOP30議長国へ:ブラジルへの期待
今年2024年のG20議長国を務めたブラジルは、2025年にはCOP30の議長国を務めます。ブラジルは、COP28議長国のアラブ首長国連邦、COP29議長国のアゼルバイジャンとともに、「ミッション1.5へのロードマップ4」というイニシアチブを主導し、1.5℃目標達成に向けた行動と実施の強化を図り、各国の排出削減目標引き上げに向けた国際協力と環境整備の強化を進めています。このイニシアチブの一環として、TF-CLIMA閣僚会合に先立ち開催されたIMF・世界銀行年次総会では、気候変動対策における資金ギャップに関する議論が行われました。「グローバルサウス」諸国のリーダー的存在であるブラジルは2024年、財政・金融分野で気候変動を主流化する試みに挑戦しました。2025年にはCOP30議長国として、気候変動資金の拡大と動員の加速、さらには気候変動対策の一層の強化と促進に向け、南アフリカが議長国を務めるG20での議論を主導し、国際社会に対して方向性を示してくことが期待されます。
1. G20 気候変動に対する世界的な資金動員のためのタスクフォース 閣僚声明(ワシントン D.C.、2024年10月24日)(https://www.env.go.jp/content/000264241.pdf)
2.「シェルパ」とは登山用語で「登山者が山の頂上にたどり着くための手助けをする案内人」を意味します。「政策課題ごとのシェルパトラック」では、環境、農業、保健などの様々な政策課題に関連するそれぞれの省庁の担当者及び幹部が閣僚会合における合意に向けて議論し事前準備を進めることが通例です。(参考:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/g20/osaka19/jp/summit/faq/)
3. A Green and Just Planet: The 1.5℃ Agenda for Governing Global Industrial and Financial Policies in the G20: Independent Report of the G20 TF-CLIMA Group of Experts (https://www.ucl.ac.uk/bartlett/public-purpose/sites/bartlett_public_purpose/files/independent_report_tfclima_group_of_experts.pdf)
4. Roadmap to Mission 1.5 (https://unfccc.int/process-and-meetings/conferences/un-climate-change-conference-baku-november-2024/troika-mission-15#)
「非国家主体が気候ガバナンスのギャップを埋める手助けとなる」
気候ガバナンスのギャップを埋めるために、非国家主体(NSA)が果たす役割がますます重要になってきています。私たちが執筆したポリシー・ブリーフ"Strengthening Engagement with Non-State Actors to Bridge the Climate Governance Gap"では、気候危機への対応においてNSAが重要な役割を果たす必要性を強調しています。
地球の気温が上昇し続ける中、各国が現行の排出削減目標を完全に実施したとしても、世界は壊滅的な気候変動の影響を受けることになると、科学界はすでに指摘しています。そのため、各国政府だけでなく、NSAである企業、投資家、都市および地方自治体を含む、すべてのステークホルダーが、気候変動緩和のための活動に積極的に参加することが重要です。
しかし、NSAの関与は過去10年間で増加しているものの、その影響を把握するには依然として大きな課題が残っています。NSAによるネット・ゼロ公約の説明責任、信頼性、透明性に対する懸念が高まっているため、より明確な説明と注意が求められています。本稿では、NSAによる気候変動対策への取り組みをより強固で世界的に協調したアプローチにすることを求めています。NSAの公約を追跡するための世界全体での記録保管システムの構築、一貫した報告枠組みの構築、NSAの行動を各国政府の国家気候計画プロセスに統合することを推奨しています。また、本稿では、NSAの貢献の有効性をモニターする、デジタル化された説明責任システムの構築も提案しています。
私たちは、NSAの影響を過大評価するリスク、利害の対立、政策の断片化の可能性などの潜在的な課題も認識していますが、本稿では、国家と非国家主体間のより強力なパートナーシップを提唱し、有意義な気候変動対策の進展を促す重要な行動を呼びかけています。
「持続可能なエネルギーへの移行を推進するG20の役割」
持続可能なエネルギーへの移行は、ブラジルがG20議長国を務めるにあたっての優先事項のひとつです。G20では、公平で利用しやすく、包括的なエネルギー移行という文脈において、クリーンで持続可能なエネルギーへの世界的な移行について議論することが意図されています。
IGESが執筆を主導したT20ポリシー・ブリーフ「Brazil Presidency Must Lead G20 to Mitigate Environmental and Social Spillovers of the Energy Transition」では、再生可能エネルギーが重要鉱物に依存していること、そしてこれらの鉱物が特定の国に偏在していることを踏まえ、この移行プロセスにおける公平性と公正性を満たすためには、各国間の協力が不可欠であると主張しています。とりわけ、G20は重要鉱物の輸入国と輸出国両方を含む主要なグループであり、各国が汚染源となるエネルギーから再生可能エネルギーに持続可能かつ公平に転換していくために、いかに透明性をもって協力していくかについての議論を主導し、合意を形成するのに適した場です。
同時に、再生可能エネルギーへの移行は複雑な問題をはらんでいます。私たちはこのポリシー・ブリーフの中で、持続可能な消費と生産に関するSDG12との関連に目を向け、エネルギー転換における利益と負担の公平な分配の必要性を強調しています。
エネルギー関連商品の国際的なバリューチェーンは、循環型かつ低炭素経済への移行を目指す各国にとって不可欠ですが、社会や環境に悪影響を及ぼす可能性もあります。この移行において、先進国が循環型経済への転換に必要な天然資源を、発展途上国からの供給に依存することが多くなります。このアプローチでは、表面的には、輸出される天然資源と引き換えに、発展途上国に社会的・経済的な相乗効果がもたらされます。しかし、資源採取は社会の混乱や環境へのリスクも引き起こし、バリューチェーン全体及び国全体でコストと利益の不均衡な分配をもたらします。このため、G20メンバー国間の協力と連携も必要となってくるのです。G20という場は、こうした国際的な課題に対する解決策を提案する上で、最適です。
この課題を乗り越えるのは困難を極めますが、ブラジルには、特に来年G20議長国を務める予定の南アフリカをはじめとする他のG20メンバー国の支援を受けながら、有意義な進展に向けて議論を主導することが期待されます。