国連が毎年開催する「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF*)」は、持続可能な開発目標(SDGs)を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030 アジェンダ)」のフォローアップとレビューを目的としています。HLPF2024は、7月8日~17日に「2030アジェンダの強化と複合危機の時代における貧困撲滅:持続可能で強靭かつ革新的な解決策を効果的に実施する(IGES仮訳)(Reinforcing the 2030 Agenda and eradicating poverty in times of multiple crises: the effective delivery of sustainable, resilient and innovative solutions)」をテーマにニューヨークの国連本部で開催されました。
HLPFでは毎年、SDGsの17の目標のうち、いくつかの目標についてのレビューが実施されます。今年は目標1「貧困をなくそう」、目標2「飢餓をゼロに」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標16「平和と公正をすべての人に」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」について実施されました。今、世界ではCOVID-19やウクライナ、パレスチナなどにおける侵攻など、国際的に複合的な影響をもたらしている近年の危機に対して、効果的で包括的な復興策が求められています。G7でも、2022年以降、気候変動、生物多様性の損失、汚染という三重の世界的危機(トリプル・クライシス)が取り上げられ、複数の不可分な危機への対処として、統合的なアプローチが不可欠であるとされています。
こうした背景のもと、HLPFの開催に先立ち、その準備として今年のレビューの対象となる目標1、目標2、目標13、目標16について国連および関連組織、各国政府、企業、学術界、市民社会などから専門家を集め、専門家会合が実施されました。専門家会合では、これら4つの目標に限らず、その他の目標との相互連関を認識し、目標間のトレードオフを最小化し、シナジーを最大化するような統合的な解決策について議論し、成功事例や教訓が共有されました。このうち3月に開催された、気候変動とSDGsのシナジーに関する専門家会合では日本がホストとして議論を深め、2022年に発表されたものの第二弾となるレポートの作成を後押ししました。
また、HLPFでは毎年いくつかの国が自発的国家レビュー(VNR)を実施していますが、今年は11月に開催される国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(UNFCCC COP29)の議長国を務めるアゼルバイジャンもVNRを実施する予定です。特に目標13「気候変動に具体的な対策を」がレビューの対象となっていることもあり、注目されています。
この特集ページでは、IGESが関連するHLPFでのサイドイベントや公式イベントの情報を中心に、その注目ポイントや、9月に開催が予定されている国連未来サミット(Summit of the Future)に向けて押さえておくべき議論の行方などを解説します。
本特集ページでは、IGESの関連イベント情報および関連出版物を紹介します。
*HLPF:国連総会のもとで4年に1回開催される首脳級(SDGサミット)と、国連経済社会局のもとで毎年開催される閣僚級フォーラムがある。
研究者の視点
2015年に策定された持続可能な開発目標(SDGs)達成の目標年である2030年に向け、昨年はその中間年であった。その昨年のHLPFでは、SDGsの進捗に関して深刻な遅れが指摘され、今後乗り越えるべき課題について議論された。SDGsの後半戦の幕開けともいえる本年は2030年までのSDGs達成に向けていかに進捗を加速させていけるか、様々なアプローチや取り組みが共有されることが予想される。同時にSDGsの後継となるアジェンダ(ポストSDGs)の策定をにらんで、各国・団体からアイディアが発信されることが予想される。
シナジー強化に向けて
SDGsの取り組み加速につながるアプローチの一つとしてシナジー(相乗効果)の強化があげられる。特に注目されているのはSDGsと気候変動のシナジーで、国連経済社会局(UNDESA)と国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は2019年以降、パリ協定とSDGsのシナジー強化に関する国際会議を開催してきた。日本は2022年に第3回会議をホストし、その後も継続してシナジー強化のための布石を打ってきた。本年3月に開催された第6回国連環境総会(UNEA6)では、地球規模の気候変動、生物多様性の損失、環境汚染という三重の危機への対応のためのシナジーに関する決議「シナジー・協力・連携の国際環境条約及び他の関連環境文書の国内実施における促進に関する決議」を提案し、採択に導いた。今回のHLPFでは、シナジーに関する特別セッションが開催され、気候変動とSDGsのシナジーに関するグローバル・レポートの第二弾が発表されるなど、シナジーが集中的に議論される機会がある。そこではシナジーを高めるために優先的に取り組むべき分野、具体的なシナジーの取り組み事例や課題などについて情報が共有されることが予想される。様々な国や団体がシナジーに関して理解を深めること、新たな知見を得ること、パートナーシップを構築していくことなどが、持続可能な未来の実現に向けて一つの重要なミッションになるのではないか。
ポストSDGs
シナジーはSDGsの取り組み加速に有益なアプローチであるだけでなく、ポストSDGsにも関係する重要な考え方である。ポストSDGsに関する公式な国際プロセスは、次回SDGサミットが行われる2027年に開始すると予想されるが、昨年から本年にかけて、様々なステークホルダーがポストSDGs について意見を表明し始めている。IGESも近日中にポストSDGsにおいて重要と考えられるシナジーなどの6つのトピックについて、イシューブリーフを発表する予定である。
今回のHLPFでは、ポストSDGsの内容に関する知見や視点の共有が想定されている。また、本年9月に開催される未来サミット(Summit of the Future)での議論もポストSDGsに影響してくるだろう。これらの議論を把握し、日本がポストSDGsの議論にどう貢献していくかを模索することが重要である。
日本による2025年のVNR報告書発表を見据えて
HLPFはSDGsの進捗を確認するための重要なプラットフォームであり、毎年数十ヵ国が自国のSDGsへの取り組みのレビューをまとめた自発的国家レビュー(VNR)報告書を発表している。日本は2017年に最初のVNR報告書を発表し、2021年に2本目のVNR報告書を発表した。3本目は来年発表される見通しである。そのため、今回のHLPFでは、日本のVNR作成やメッセージ発信に関して他国からヒントやアイディアを得るチャンスとなるだろう。7月17日、IGESは外務省とともに、SDGsのフォローアップ・レビューに関するサイドイベントを開催する。このサイドイベントでは、多様なステークホルダーがVNR作成を含むフォローアップ・レビューの過程にいかに携わっているかについて、他国と知見を共有する予定であり、有益な情報収集の機会となることを願っている。また、近年のHLPFでは、若者を含む市民社会の参画に焦点をあてたVNRや、他国とのピアレビューを通じたVNR作成などが見られる。一方で、SDGsの取り組みの成功している面だけに着目し、それを誇張したVNRの発表なども見られ、実質的なフォローアップ・レビューを行っているのか不明瞭な発表もある。今回のHLPFは、こうした他国の取り組みを踏まえて、来年、日本がどのようなVNRを作成し、どのような発表を行うべきか考える良い機会になるだろう。
関連出版物
IGESは、2023年7月に国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)2023の開催期間中に国連本部で実施された第4回「パリ協定とSDGs のシナジー強化に関する国際会議」において、シナジーに関する日本国内の3つの事例をまとめた「国内における気候変動・生物多様性・SDGsに相乗効果(シナジー)をもたらす取組事例」を公表した。
2024年4月から環境総合推進費「SDGs達成への変革のためのシナジー強化とトレードオフ解消に関する研究(1-2405)」が開始され、IGESもその一員としてシナジーのケーススタディ収集・分析を進めている。今回はその一環として、長く協力関係を続けているJICAの優良事例について、IGESが開発したシナジー分析のプロトタイプのフォーマットに合うように、JICAのみなさまにご記入いただいた。
本レポートは、2024年7月17日に国連本部内で日本国外務省・IGESが共催したHLPF2024公式サイドイベント”How are multi-stakeholder platforms for SDGs involved in the follow-up and review process at national level including the Voluntary National Review process?”にて公表された。