9月22日〜23日、ニューヨークの国連本部で国連未来サミットが開催されました。サミットの目的は、グローバル・ガバナンスを強化し、国際的に合意された目標、特に持続可能な開発目標(SDGs)の実施を加速させることです。サミットが開催される背景には、近年の紛争やパンデミック、気候変動などの地球規模の危機に、国際システムが効果的に対応できていないという懸念の高まりがあります。このような懸念に対処するため、サミットでは、多国間システムをいかに強化し、人々や国を超えた連帯感を醸成するかに焦点が当てられました。そして、「将来世代に関する宣言」、「グローバル・デジタル・コンパクト」を含む成果文書「未来のための協定」が採択されました。
地球規模の危機への対応においては、それぞれの危機に個別に対処するのではなく、統合的でシナジー効果の高い解決策が重要な役割を果たします。IGESでは、気候変動、生物多様性損失、汚染の危機といった持続可能性の課題への取り組みにおいて、まだ十分に活かされていないシナジーがあると認識しています。それらのシナジーを活用することで、サミットの目的のひとつであるSDGsの進捗を加速させ、2030年以降の持続可能性に関する将来的なアジェンダに向けた機運を高めることにもつながります。
本特集ページでは、サミットでの議論に関連するIGES研究員のコメンタリーのほか、IGESの出版物、特に地球規模課題解決に向けて統合的に取り組むシナジーに関する研究成果等を紹介しています。
研究者の視点
国連未来サミットに関する報告
国連未来サミットの議事がどのように進行していたかについて、報告したいと思います。
「未来サミット」は2024年9月22・23日に、ニューヨークの国連本部において開催され、130以上の首脳や政府高官等が参加しました。オープニング・セグメントでは、成果文書として「未来のための協定(Pact for the Future)」が採択され、付属文書として「グローバル・デジタル協定(Global Digital Compact)」、「次世代のための宣言(Declaration on Future Generation)」が併せて採択されました。採択の直前には、ロシアやイランを含む7カ国が「未来のための協定」の内容に関して、国家主権を干渉するものだといった理由から反対を表明し、修正案を提出したものの、最終的には賛成多数で採択されました。
フィルモン・ヤング国連総会議長は、「未来のための協定」が多国間主義を強化し、持続可能で公平かつ平和な世界秩序の基盤を築くための土台となると強調しました。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、国際協力の強化と国連システム、特に国連安全保障理事会や国際金融アーキテクチャーの改革が不可欠であると述べました。また、成果文書ではユースの意見を聴取し、あらゆるレベルで意思決定に参加させるというコミットメントが示され、AIガバナンスに関する初の普遍的な合意が含まれたことを強調しました。
続いて、3名のユース代表が登壇し、障害者や難民など、社会的に脆弱で代表性が不十分な人々の声を受け入れ、より包摂的で権利に基づくグローバル・システムを求めました。「未来のための協定」の交渉プロセスを主導したオラフ・ショルツ ドイツ首相は、貧困や飢餓、人工知能(AI)などのグローバル課題と人々の運命の関連性を指摘し、ナンゴロ・ムブンバ ナミビア大統領は、「未来のための協定」の意義を改めて強調しました。
2日間にわたって行われたプレナリーでは、100名を超える各国首脳らが声明を発表し、日本からは岸田文雄首相(当時)が登壇しました。法の支配に基づく国際秩序が持続可能な開発と繁栄をもたらすとし、気候変動や貧困、その他の複雑に絡み合う危機に対処し、人間の尊厳を守るための国際協力の重要性を再確認しました。
多くの国が、中東やウクライナ、スーダンの紛争の深刻化を背景に、国連安全保障理事会の機能不全について指摘し、アフリカ諸国や小島嶼開発途上国(SIDS)の常任・非常任理事国拡大が提唱されました。ツバル、ナウルなどのSIDS諸国を中心に気候変動が喫緊の課題として取り上げられ、小島嶼国連合(AOSIS)を代表してサモアから、適応やレジリエンス強化、グローバル・ガバナンスの改革による不均衡の是正が呼び掛けられました。また、持続可能な開発の基盤としての平和構築や和解、SDGs達成のための適切な資金動員を促す国際金融アーキテクチャーの改革、デジタル協力、AIによる有害な影響の緩和、ユースや女性のエンパワーメントの重要性が強調されました。
「次世代のための宣言」の採択や、本サミットに先立ち開催された「アクション・デー」(20・21日)において、ユースが主体となって企画・運営した(youth-led)セッションが数多く開催されたことからも見て取れるように、多様なステークホルダーの中でも、ユースの参画に注目が集まりました。グテーレス事務総長は、 次世代特使(Special Envoy for Future Generations)の設置による国連システムへのユース参画の拡大・強化の意向を示しています。今後、国や地域レベルの議論や意思決定の場においても、ユースの参画を促すシステムやメカニズムの構築・整備が一層求められることになるでしょう。日本でも、昨年の「こども家庭庁」の発足もあり、子どもや若者による意見表明に関心が高まっています。ただ機会を設けるだけではなく、明確な目標設定と適切な対象(代表制)の確保、聴取された意見の活用方法などを明確にするといったことが重要です。ユースを教育やケアの「対象」に留めるのではなく、彼らが自分を取り巻く事象について意見を表明できるよう環境を整え、サステナブルな社会を「共に」作っていくというマインドセットの変革が求められます。
2030年以降の枠組みを展望する~科学者グループによる2つの提言をもとに~
「Summit of the Future」を前に、2030年以降の持続可能な開発の枠組みに関する注目すべき2つの提言が発表されました。一つは、2024年6月にNature誌に掲載された、ヨハン・ロックストロームやジェフリー・サックスらが執筆した論文「Extending the Sustainable Development Goals to 2050 — a road map」です。もう一つは、同年8月に開催されたSDGsに関する国際学術会議「GlobalGoals2024」に参加した研究者たちによる声明「Reinvigorating the Sustainable Development Goals: The Utrecht Roadmap」です。
Nature論文は、タイトル通りSDGsの枠組みを2050年まで延長する提案をしており、2030年と2040年に中間目標を設定し、最終的に2050年を目指す長期的なロードマップを提示しています。この枠組みは、気候変動や生物多様性の損失など、長期的かつ地球規模の課題に対応するためのもので、特に地球の限界(プラネタリーバウンダリー)を超えない範囲で持続可能な開発を進める必要性が強調されています。また、AIやデジタル技術の進展が社会に与える正負の影響を考慮し、これらの技術を持続可能な開発に活用するための規制や倫理的枠組みを強化する必要性が述べられています。
一方のGlobalGoals2024声明では、SDGsの進捗が遅れている現状に基づき、持続可能な開発のためのガバナンスを強化することが求められています。具体的には、国際的な枠組みをより透明性の高いものにし、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の改革や独立した評価メカニズムの確立が必要であると述べています。また、国および地方レベルでのSDGs実施の推進において、市民社会、地方自治体、企業、学術機関の協力が重要であるとしています。さらに、現在のGDP重視の経済モデルを見直し、循環型経済やウェルビーイング中心の経済政策へと転換する提案がなされています。
これら2つの提言から導かれるポストSDGsの重要ポイントは、まず現行のSDGsの未達成領域を補完し、新たな挑戦に対応するために、2050年までの長期的な視点が必要であるという点です。特に、気候変動や生物多様性損失、AIなどの技術革新に伴う課題、そして社会的包摂を含む複雑な問題に対応するために、SDGsはより包括的かつ適応性の高い目標へと進化する必要があります。そのためには、政策のセクター間の連携を強化し、環境問題と社会経済発展のシナジーを追求することが重要です。また、データの透明性と科学的根拠に基づく厳密なモニタリングが不可欠であり、データ共有や政府間の協力、地域社会や企業との連携が求められます。総じて、2030年以降の枠組みでは、実効性のあるガバナンスと国際協力が欠かせず、持続可能な開発目標の達成に向けた取り組みを加速させるべきでしょう。