2024年12月4日~6日、IGESはドイツのシンクタンクadelphiと協力し、IGES葉山本部において、気候関連の安全保障リスクに焦点を当てた研修会を開催しました。本イベントは、外務省・外交・安全保障調査研究事業費補助金に基づくIGESの研究事業「アジア太平洋の気候安全保障事業」の一環として、同時に、ドイツ外務省の支援を受けたadelphi globalの「気候・平和・安全保障活動の強化」プロジェクトの一部である同機関の気候外交・安全保障プログラムと共に実施されました。
本イベントは、政策立案者、専門家、研究者のキャパシティを高め、気候変動と平和構築、安全保障に関する研修の機会を提供することを目的に実施されました。より具体的には、以下の3点が挙げられます。
- ● 国際平和と安全保障に対する気候変動のリスク、特にアジア太平洋地域におけるリスクを理解し、分析する
- ● 包摂性と脆弱性に焦点を当てて、局所的な気候リスク評価を実施する
- ● 統合的なアプローチを通じて、気候関連のリスクに対処する方法を学ぶ
ワークショップは、adelphiのLukas Rüttinger氏と、IGESの岡野 直幸氏(適応と水環境領域 研究員)がリードする形で実施されました。IGESをはじめとする研究機関の研究者、国際協力機構(JICA)の職員に加え、大学生・大学院生など、約20名の参加者が研修に参加しました。本イベントは、政策と実践において気候関連安全保障リスクを理解し、対処することの重要性を強調し、協調的な取り組みと統合的なアプローチを重視しました。
1日目:気候関連安全保障リスクの理解
初日は、参加者の気候変動に関する基本的な知識をカバーすることを目的に、インタラクティブなアイスブレイクセッションから始まりました。岡野氏は、アジア太平洋地域における気候変動がもたらす課題について概説しました。続いて、Rüttinger氏は、気候変動が安全保障と平和に及ぼす多面的な影響について指摘し、特に脆弱な状況下での天然資源の入手可能性や生活の安全保障への影響を通じて、紛争を悪化させる可能性があることについて強調しました。参加者は3つのグループに分かれ、アジア太平洋地域における気候安全保障リスクの将来的なホットスポットを3箇所特定し、全体に共有する「気候安全保障ホットスポットマッピング」演習を行いました。後半部には、JICA企画部サステナビリティ推進室(気候変動、自然担当)副室長兼地球環境部参事役である三戸森 宏治氏による講演が行われ、JICAの国際協力の経験に基づく、気候変動対策と平和構築へのアプローチ、サステナビリティ政策と気候資金の取り組みの詳細について説明がなされました。
2日目:気候関連安全保障リスクの評価
2日目は、Rüttinger氏がadelphiの「Weathering Risk Initiative」を紹介し、気候関連安全保障リスクの評価に焦点を当てたレクチャーを行いました。既存の平和、紛争、環境評価フレームワークに基づき、現在と将来のリスクを特定する方法、介入の切り口、対応策を概説しました。 岡野 氏がファシリテーターを務めたパネルディスカッションでは、Lukas Rüttinger氏に加えて、IGESのNanda Kumar Janardhanan氏(気候変動とエネルギー領域 副ディレクター/戦略マネージメントオフィス 地域コーディネーター(南アジア担当))、Pankaj Kumar氏(適応と水環境領域 リサーチマネージャー/IPBES-TSU-SCMヘッド)がパネリストとして参加し、気候安全保障リスクが日本にとってなぜ重要であるかを議論しました。トピックは地政学、日本のエネルギー安全保障、気候変動適応戦略における人的移動を考慮することの重要性など多岐にわたりました。2日目は、参加者が「プレッシャーマップ」を作成するグループワークで締めくくられました。「プレッシャーマップ」は、環境ストレスと社会的圧力が相互作用し、潜在的に紛争につながる可能性のある地域を視覚化及び分析するためのツールです。参加者は3つのグループに分かれ、コロンビア、ハイチ、チャドの各ケーススタディについて作業を行いました。
3日目:分析から行動へ:統合的なプログラム
最終日は、気候関連安全保障リスクを軽減するための統合的なプログラムの開発に焦点を当てました。Rüttinger氏によるレクチャーでは、自然資源への平等なアクセスを確保し、気候変動へのレジリエンスを高めるための様々な介入ポイントが強調されました。コミュニティ内の紛争を管理するための平和構築委員会の開発や、脆弱性を軽減し、武装勢力への勧誘を防ぐための生計手段の多様化などの革新的な実践についても議論されました。また、本セッションでは、気候関連安全保障リスクに対する統合的な対応の検討における有効なツールとして「変化の理論(Theory of Change)」が紹介されました。参加者は、担当するケーススタディの事情に資するような、グループごとに統合的なアプローチに基づくプロジェクトを企画し、全体に向けて発表し、包括的に議論しました。トピックは、国連安全保障理事会の役割や、平和構築プログラムに気候安全保障を統合する最近の動向について議論し、気候関連安全保障のリスクに対処するためのグローバル及びリージョナルな実施プロセスについても及びました。本研修は、参加者が3日間の研修から得られた知見を今後の業務や学習にどのように活用・応用するかについて振り返るセッションで締めくくられました。