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Volume (Issue): Vol. 28 No.5 2017

全文
「日本では、実感はまだそれほど大きなものではないかもしれないが、2015年に合意されたパリ協定と持続可能な開発目標(SDGs)は、画期的な国際合意であったと言えるだろう。2015年は、1992年と並んで、持続可能性を政策目標の中心に据えるように、世界が大きく舵を取った年として記憶されることとなると考える。
本書は、「持続可能な開発目標」についての国際交渉の最中の2013年に開始され、合意が行われた2015年まで3年間実施された『持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合研究(S-11)』の成果をまとめたものである。第1部ではSDGsの前進であるミレニアム開発目標との比較を行うと同時に、進捗を測る上での新たな統合的評価の必要性を説いている。第2部では、教育や気候変動問題といった具体的な課題との関連を論じている。第3部では、SDGsが目標ベースの新たなグローバルガバナンスの手法であることが論じられた上で、目標の実施へ向けての資金動員、ステークホルダー及びコミュニティの参画・協働、さらには日本への示唆を論じている。本書は、まだSDGsの検討段階で開始された研究に基づいているため、具体的実施例には乏しく、全体的に議論がプロセス分析中心で概念的であることは否めない。またSDGsが内包する多様な価値と共生といった価値観についてはあまり強調されていないように感じた。その一方で、編者らが主張したい点は、第9章によく現れている。すなわち、SDGsは「目標、ターゲット、指標と言う構造と、それらの進捗をモニタリングし、評価するというメカニズム」という点で画期的なグローバルガバナンスの方向性を示していると言うのである。
こうしたアプローチは、気候変動分野においても、パリ合意と言う画期的な突破口を切り開いた。また、欧州からは、循環経済という、中長期的な政策目標設定をベースにした、大きな政策潮流のうねりが起きている。
翻って日本を見るに、循環型社会基本法と循環型社会基本計画にみられるように、中長期的な目標を設定し、関係者の役割を設定し、それらの参画を促し、目標の進捗確認を指標により行い、モニタリングし、評価するというガバナンスについては先駆的な経験を有している。その一方で、目標によるガバナンスが国際的に主流化する中で、中長期的で野心的な目標設定という点から、2018年に決定される第5次環境基本計画および第4次循環基本計画のあり方も問い直されるのではないか。また、廃棄物分野についても、本来はローカルな課題である一方で、持続可能な資源管理(例えば、1次資源と2次資源の競争)、持続可能な消費と生産(例えばフードロスといった課題やプラスチックと海洋ごみ)といったグローバルな課題との関係性の中で、再度位置づけられていくこととなるのではないだろうか。その点で、本書を通じて、SDGsとはどのようなガバナンスの仕組みとして検討されていったのかを知ることは大変有意義であると考える。」
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Volume (Issue): Vol. 28 No.5 2017