解説シリーズ

 

第3弾:SDGsって一体どうやって実施されるの?

昨年7月に、17の目標、169のターゲット(*1)からなるSDGs案が国連で合意され、ニューヨークでの交渉も指標や実施手段といった議題に議論がシフトしつつあります。国際目標であるSDGsをどうやって国内での実施につなげればいいの?という声に答えるべく、リオ+20会議以降、SDGsの研究に携わってきた吉田主任研究員が解説しました。

 

最近のSDGs・ポスト2015年開発アジェンダ交渉の動向を教えてください。

吉田:

SDGsは国際交渉によって決められる国際開発目標だが、最終的に加盟国国内で関連の施策が取られ、目標の達成につながらなければ意味がない。目標を設定してそれだけで終わっていてはどれだけ進捗があったのかも分からないし、目標達成年以後の新たな課題の同定、目標設定にもつながらない。このような見地から、MDGs(*2)では弱かったとされる実施手段、フォロー・アップとレビューなどについて現在国連で議論が活発化している。また、実施可能なターゲット、計測可能な指標等については意見が分かれている。先進国は、現在の17の目標、169のターゲットは数が多すぎるため、数を絞ってより簡潔で実施につながりやすい目標にするべきであると主張しているのに対して、途上国は合意するのにあれだけ苦労したのだからSDGsの内容に関して交渉を再開するのは得策ではないと主張している。

 

国際目標であるSDGsを国内での実施につなげるためにはどうしたら良いのでしょうか? MDGsの教訓等があれば教えてください。

吉田:

これらの国際目標を国レベルに落とし込むには、国レベルでの強いコミットメントとリーダーシップが必要である。またSDGsは、MDGsと同様、国際レベルで設定されたものであるので、全ての国の異なる現状にマッチするわけではない。SDGsでカバーされていない課題が国レベル、地域レベルで浮かび上がってくることは自然であり、国レベルでSDGsを調整し、各国の現状に即した目標を設定することが重要である。

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例えばインドネシアは、大統領府や計画省にMDGsの実施推進を担当する部署を設置し、MDGsを国家計画に反映させ、MDGs達成のための資金の配分調整を行っている。また、MDGsに即して独自の国レベルのターゲットも設定した。地方レベルでは、全ての州でMDGsに基づいた計画、モニタリング・システムが導入されたほか、進捗の目覚ましかった地域を表彰するシステムも導入された。こういった主流化の結果、インドネシアは貧困、ジェンダー平等、結核の有病率に関するターゲットを達成している。

タイでは、急速な経済成長を背景に、達成期限である2015年より前に多くのターゲットを達成したため、「MDGsプラス」というより野心的な目標を国レベルで設定して実施を進めている。例えば、MDGsの1つ目の目標である貧困半減(1990年の27.2%比から13.6%に半減)目標は早々と達成したため、2009年までに4%まで貧困レベルを削減するというターゲットを設定したほか、2015年までの達成可能性が高いとみられる普遍的な初等教育へのアクセスについても、普遍的な中等教育へのアクセスを同年までに達成するという目標を追加した。(*3)カンボジアではMDGs の8分野に加えて、国内的に大きな課題である地雷、不発弾、被害者支援に関する目標を追加し、MDG9として取り組んでいる。貧困削減や妊産婦の健康、環境持続可能性などの進捗状況は残念ながら芳しくないが、進捗が遅れている分野を認識することは新たな目標設定に向けて意義がある。

実際にこれらの目標達成に向けて関連施策を実施するには、中央政府のみならず、ドナー、地方政府や企業、NGO、地域住民等様々なステークホルダーの協力が必要である。また、これらのステークホルダーの開発課題に関する共通理解を醸成するためには、国レベル、地方レベルで設定された目標が重要となる。目標設定の際に幅広くコンサルテーションをして現地のニーズに即した目標を設定することが望ましい。このような目標設定のプロセスからMDGsでカバーされていない課題が見えてくることもある。また、実施に向け、指標に関して信頼性の高いデータの入手が困難な場合、測定可能性を高めるために、データの整備や収集能力を強化すること も重要である。

 

これらのMDGsの教訓を踏まえてSDGsを国内で実施する際に新たな課題となることは何でしょうか?

吉田:

SDGsでは、エネルギー等の新しい課題も盛り込まれることが合意されている。エネルギーは、貧困削減や生活の質の向上、教育、自然エネルギーの利用を通じた気候変動対策など、まさにマルチ・ベネフィットをもたらすことが可能なセクターである。その意味では、社会、経済、環境の3つの柱を統合するとした持続可能な開発を実現する上でエネルギーは重要な分野であると言える。しかし、エネルギー分野では、国、州、市などそれぞれのレベルで優先事項についての考えが異なるケースや、コミュニケーションがうまく取れていないケースが多いため、実際に国内政策の実施を円滑に行うことが難しい。これは他の分野にも当てはまる問題である。

こういった現状がある中、グローバルで野心的な目標に沿って全てのレベルで一貫した目標設定がなされることは有意義である。また、開発計画やターゲットを設定した後、モニタリングやレビューをしていないというケースもよく見られるため、しっかりと評価体制を設けることも重要である。野心的な目標を設定しておきながら、資金や技術などの実施手段が明らかに欠如しているケースもある。目標設定に際しては、政策決定者、実際にプロジェクトを実施する企業やNGO、ドナーなどが情報を共有し、開発ニーズに関する共通認識を持った上で、現実に即した目標を設定することが望まれる。

 

*1. 本文では、「SDGs」が「持続可能な開発目標」と一般に訳されていることを踏まえ、「Goal」を「目標」、「Target」を「ターゲット」と和訳。

*2. ミレニアム開発目標(MDGs)。2000年に各国首脳により採択された国連ミレニアム宣言と過去の主要な国際会議で採択された国際開発目標を統合し設定された8つの目標(MDG1-8)からなる国際開発目標。2015年が達成期限。

*3. タイMDGs報告書(2004)参照。http://www.th.undp.org/content/dam/thailand/docs/Thailand%20MDG2004.pdf

 

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