気候変動モントリオール会議:決定事項と今後の課題

ディスカッションペーパー
気候変動モントリオール会議:決定事項と今後の課題

2005 年11月28日から12月9日まで、カナダ・モントリオールで第11回気候変動枠組条約締約国会合(COP11)及び第1回京都議定書締約国会合(COP/MOP1)が開催された。今次会合では、COP11の議長を務めたカナダのステファン・ディオン環境大臣が定めた3つの課題 -実行(Implementation)、改善(Improvement)、革新(Innovation)- に取り組んだ。「実行」は京都議定書の実施を意味するもので、マラケシュ合意を含む21決定が採択された。「改善」は条約及び議定書の短期的(第一約束期間中)な強化を狙ったものであり、「革新」は京都議定書の第1約束期間が終了する2012年より後の行動に関する議論のプロセスを開始することである。
これまでのCOPの中ではもっとも多い10,000人近くが参加したモントリオール会議では、上記3つの課題に対し国際社会が期待していた以上の成果があげられた。これは主要国と25以上もの事前協議を重ねるなど幅広い事前準備を行ったカナダの努力によるものだけでなく、2005年に入って2月の京都議定書の発効、気候変動に焦点をあてた7月のG8サミット、技術に焦点をあてた「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」の立ち上げなど気候政策に関する国際的な大きなイベントが続き、気候変動問題に関する市民の関心が高まったことによるものであろう。しかしながら、我々が気候変動への挑戦に包括的に対応するためには、多くの課題が残されている。本稿の目的は、重要と思われる事項についてモントリオールでの主要な決定事項をまとめ、 COP12以降の課題を明らかにしようとするものである。


1. クリーン開発メカニズム(CDM)とその他の市場メカニズムについて

決定事項:
2000 年1月から2004年11月18日までに実施が開始され、CERの発生が予想されるCDM事業の登録期限が2006年12月31日までに延長された (2005年12月までに方法論の提案などがなされており、2006年12月までに事業が登録されれば、遡及してCERが得られる)。また、CDM理事会(EB)の運営資金不足を補足するために820万ドルの拠出が約束された。EBの運営経費に充当されるCDMの事業収益の割合については、事業に対して発行される最初の15,000CERsに対して0.1米ドル、それ以上については0.2米ドルが毎暦年課されることが定められた。さらに「追加性」要件についてパブリックコメントを募集するようCDM理事会に要請した。

CDM に関する最も重要な決定として、「プログラム活動」の下での事業活動に関する決定があげられる。プログラム活動は、承認されたベースラインとモニタリング手法を用いること、適切な境界、二重カウントの防止、リーケージの計上を定めることにより、単一CDMとして登録できることが合意された。しかし、地方、地域、国家の政策や基準はCDM事業として考慮されない。複数地点での複数大型案件をまとめて一案件とすることも認められることになった。

共同実施(JI)管理委員会(JI Supervisory Committee)と呼ばれるJIの管理母体が設立された。CDMの指定国家機関(DNA)が暫定的かつ条件付でJIの第2トラック事業を評価する公認独立機関として活動する。JIの事業主体は、JIの手続きが制定されるまで、CDMの方法論とCDMのプロジェクトデザインドキュメントの要素を利用することができる。

国際取引ログ(ITL)に関する登録簿システムとのデータ交換に関する技術基準に対する設計要件が正式に採択されるとともに、2007年4月までに登録簿システムをITLに接続できることを視野に、2006年にITLを実施することがITL管理者に対して求められた。

課題:
COP11 での交渉期間中27件のCDM改正議案が提示されたが、決定に至ったのはわずか数件だった。将来解決すべき課題としては、炭素回収及び貯蔵技術(CCS)事業がCDMとしての適格性を有するかどうか、HFC-23破壊に焦点をあてた新規事業をCDMから除外するか、提案されている事業の追加性をどう取り扱うか、事業の地理的分布の公平性をどのように確保するか、等があげられる。

事業実施者にとって最も重大な問題は、CDMによって発生するCERsが第1約束期間後も価値を持つかどうかである。これは、2013年以降の枠組に関する交渉が進展しなければ決定できない。
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2. 気候変動への適応

決定事項:
COP11 は、適応に関するワークショップや専門家グループの開催、テクニカルペーパーの作成などを含む適応5ヵ年計画を採択した。5ヵ年計画は、脆弱性と影響、適応計画・手段・行動という2つのテーマと、方法論・データ・モデル、持続可能な発展への統合という2つの横断的問題を扱う。脆弱性と影響という第1のテーマは、脆弱性評価のツールや気象観測・予測の改良、異常気象の理解を通じて、脆弱性、影響、適応について締約国の理解を深めることを目的とする。適応計画・手段・行動という第2のテーマは、適応手段に関する分析の促進と情報共有、適応技術の研究、経済多様化戦略の策定を通じて、気候変動と脆弱性に対応する、実務的な行動と手段に関する締約国の決定を導くことを目的とする。

COP/MOP1は、適応基金(CDMプロジェクトの利益の2% を拠出金とする)を採択し、適格性基準、費用対効果、協調融資といった運営面・手続面について合意した。適応基金に関する作業部会が2006年春に開催され、次回会合でその他の指針を採択する。

課題:
適応基金の管理・運営方法についての問題を早急に解決しなければならない。途上国は、GEFの運営方法は資金供与国の選好に偏っており、CDM収益によってファイナンスされる基金には不適切であると主張している。

適応問題、特に後発開発途上国(LDCs)や小島嶼開発途上国(SIDS)における適応問題に取り組むための資金をより多く確保することは依然重要である。適応問題への基金に関連して一部の締約国からは次のような議論が出てきている:現状の自発的な資金供与ではなく、義務的な資金提供を行う必要性があること;適応問題への資金源をより広く他の京都メカニズム(JIや国際排出量取引)から徴収すること。
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3. 京都議定書の遵守手続きとメカニズム

決定事項:
モントリオール会議では京都議定書の遵守手続とメカニズムに関する、相互に関連する2つの問題、すなわちその採択方法と法的拘束力の有無について議論した。 2005年6月、サウディアラビアは、議定書の遵守手続は法的拘束力を有する、したがってその採択は議定書第18条に従い、COP/MOP決定ではなく、議定書の改正による必要があると主張し、改正案を提出していた。コンタクトグループおよび非公式協議で、締約国の意見はこの2つの問題について4つに分かれた。すなわち、(i) 法的拘束力ある遵守手続を改正の形式で採択することを主張するサウディアラビアなどOPEC諸国、(ii) 遵守手続をCOP/MOP採択で合意することには同意しつつも、京都議定書第1約束期間の終わりまでに遵守手続に法的拘束力を付与するために、 COP/MOP2で改正に合意することを条件とするその他の途上国、(iii) 遵守手続をCOP/MOP1で採択するのであれば、議定書改正について議論を開始することには同意するという多くの附属書I国、そして(iv) 遵守は懲罰的ではなく促進的手段によってのみ確保されるとして、遵守手続のCOP/MOP採択を主張し、改正については議論を開始することにも反対を唱える日本などである。

交渉の結果、締約国は (1) COP7決定24付則の、京都議定書の遵守に関する手続とメカニズムを「承認(Approve)し、採択(Adopt)する」こと、及び(2)議定書改正に関する議論を2006年5月の補助機関会合で開始し、COP/MoP3で結論を報告することを決定した。また遵守手続が採択されたことを受けて、遵守委員会が立ち上がり、執行部と促進部各10名の遵守委員が選出された。遵守委員会は2006年の早期に第1回会合を開催する。

遵守手続およびメカニズムが採択され、遵守委員会が遅延なく立ち上がったことは、COP/MOP1の主要な成果の一つであり、京都議定書の「実施」の確保につながる。

課題:
今後の改正に関する議論では、以下について考慮する必要がある。1)二重レジーム問題:遵守手続に法的拘束力を付与するために議定書改正が合意されたとしても、改正は議定書第20条によれば4分の3の多数決で採択されうるため、改正議定書を批准しない締約国が出てくることが予想される。その場合、改正前議定書(法的拘束力のない遵守手続)と改正後議定書(法的拘束力のある遵守手続)という2つの異なるレジームが存在することになる。2)遵守の効果:遵守は、懲罰ではなく促進的手段確保されると主張する締約国がある一方で、法的拘束力のある遵守手続は京都議定書上の目標の達成を確実にする上で不可欠であると主張する締約国もある。どのような遵守手続が効果的なのか、議論する必要がある。3) 参加拡大への影響:現在、ほとんどの非附属書I国は、遵守手続に法的拘束力を付与するべきであると主張している。しかし、一旦、遵守手続に法的拘束力を付与してしまうと、数値目標を負う国が拡大した後に変更することは困難であり、厳しい遵守手続は議定書非批准国や非附属書I国の参加を阻む要因となる危険性もある。
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4. 途上国への資金供与

決定事項:
COP11では、後発開発途上国基金(LDCF)が、国家適応行動計画(NAPA)によって特定された緊急の活動を後発開発途上国が実施することを支援し、そのための追加費用をファイナンスすることを決定した。また、LDCFの資金が限られていることから、 (1)協調融資を促進し、資金への公平なアクセスを確保するための柔軟な融資手続きを開発すること、(2)GEF信託基金とLDCF の事務および活動を区別すること、を地球環境ファシリティー(GEF)に要請した。

GEF は、第4次財源充当に割当てられた資金について資源配分枠組(RAF)を適用すること、その適用が途上国の資金獲得にもたらす影響に関する情報をCOPに定期的に報告することを要請された。また、GEFは、非附属書・国を援助すること、そして、炭素回収・貯留技術への支援がその戦略と目的に沿うかどうかを検討することとされた。

適応基金の資金は、途上国における具体的な適応プロジェクト/プログラムに提供されるべきことが決定された。締約国および関連国際機関は、適応基金の運営に関する意見を提出して補助機関会合で検討を行うこととなった。また、適応基金の運営に関する追加的指針について意見交換を行うための作業部会を開催することが事務局に要請された。

課題:
COP/MOP1 でマラケシュ合意が正式に採択されたことにより、資金メカニズムについても、枠組条約のもとでの2つの基金(特別気候変動基金(SCCF)、LDCF)と、議定書のもとでの基金(適応基金)が本格的に実施に移されると期待されたが、モントリオール会議では、特別気候変動基金も適応基金も完全に始動するにはいたらなかった。枠組条約第11条は、「新規かつ追加的」な資金の提供について規定しているが、具体的な基金の規模やその分担方法については明示されていない。COP10で約束されたSCCFに対する3470万米ドル、およびLDCFへの拠出が約束された2780万米ドルのみでは、途上国のニーズを満たすことができないとみられており、資金供与メカニズムの改善が重要な課題となる。

適応基金については、その運営母体および手続きの両方を明確化する必要がある。途上国からは適応基金については、GEFよりもCOPがその運営を管理するほうがよいとの意見が表明された。また、透明性向上および特定の諸国に基金を配分するためにGEFが新たに設置した資源配分枠組(RAF)で求められている協調融資の要件が、LDCsやSIDSの適応基金の活用を妨げる可能性がある。


5. 2013年以降の気候政策枠組みに関する議論

決定事項:
京都議定書第3条9項に基づき、COP/MOP1は、附属書I国に対する第一約束期間(2008〜2012年)の後における「将来の約束(future commitments)」を検討するためのプロセスを開始した。すべての京都議定書批准国が参加可能で、開催期限を定めない特別作業部会を「遅延なく」開始し、「第一約束期間と第二約束期間の間に空白期間が生まれないように」完了することとした。第一回作業部会は2006年5月に開催される。

議定書プロセスとは別に、COP11は、枠組条約のもとで気候変動問題への長期的な国際協力のあり方を議論する対話を開始することを決定した。この長期協力に関する対話は2年間を予定しており、四つの作業部会がそれぞれ(1)持続可能な発展、(2)適応策、(3)技術、そして(4)市場メカニズムがもたらす可能性について議論することとなっている。対話において表明された見解等はCOP12ならびにCOP13 に報告される。しかしながら、この対話が「新たな約束についてのいかなる交渉にも結びつかない」ことが明確に述べられている。

課題:
京都議定書第9条に定められる議定書の定期的な評価・検討についての手続きを決定することは、これからの交渉課題となる。

附属書I 国の約束履行:先進国が、GHG排出量削減に関する約束を果たせないことは今後の取り組み、特に途上国による取り組みの障害となる。資金供与や技術移転に関して先進国が負っている約束に関しても、その履行が不十分であると広く認識されている。それゆえ、京都議定書を批准している附属書I国が、自らの約束を果たすためにどのような努力を行うかは今後の大きな課題となっている。

米国のより積極的な関与:米国が国際的な取り組みにより積極的に関与していくためには、気候政策に関する国内合意が形成されることが前提条件といえる。現在行われている自主的取り組み以上の行動を求める圧力が国内で高まっている兆しは見られるものの、国内合意が早急に形成される見通しはまだない。

途上国によるより強力な取り組み:途上国による取り組みを促進そして支援する革新的方法・手段を構築することは、枠組条約の究極目標を達成するためには不可欠である。いくつかの途上国が、森林伐採によるGHG排出を削減するためのメカニズム、国の政策と措置(policies and measures)や産業部門毎の排出量削減目標についての新しいアプローチを提案した。しかしながら、具体的な制度設計についてはさらなる議論が必要である。
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6. その他の決定事項

決定事項:
「能力向上」については気候変動枠組条約の下で確立したアプローチが京都議定書にも適用されるとの決定が採択された。

COP11では、森林伐採からのGHG排出削減に関するパプアニューギニア・コスタリカ提案を更に検討するために、2006年5月の補助機関会合に送ることを決定した。提案では2つの考え方が示されている。一つは、先進国および途上国の双方を含む「随意参加型議定書(optional protocol)」であり、もう一つは、CDMを拡大し、森林伐採を減らす活動にクレジットを付与するというものである。

締約国はまた、技術開発および移転の促進に関する更なるステップをとること、および炭素回収・貯留技術を更に分析することに合意した。

おわりに
モントリオール会議では、将来気候政策枠組みに対する米国の消極的な態度や遵守手続きに対するサウディアラビアの交渉態度に見られるような外交交渉上の課題が浮き彫りになった。しかし、京都議定書と京都メカニズムが発効・実施という段階に進み、さらに、2013年以降の将来枠組みに関する議論を開始したという点において、同会議は国際気候政策の新たな局面を切り開いたといえる。このことは、炭素市場や温室効果ガス濃度安定化へ向けた中長期的展望に確固たるシグナルを送っている。

日付: