インパクト志向ファイナンス:社会価値創出の新たな波

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金融セクターの貢献と民間資金への期待

パリ協定の1.5℃目標や持続可能な開発目標(SDGs)の達成をはじめとする喫緊のサステナビリティ目標に対し、金融セクターには、これら目標に取り組む企業のプロジェクト、金融商品、不動産等への融資や投資等を通じた貢献が期待されています。

近年は、民間資金を取り込むことの重要性への理解が国際的に醸成されつつあり、政府だけでなく、世界中の企業や投資家が気候変動を含むサステナビリティの課題のリスクと機会に対して様々な取り組みを実施しています。

国際的には、2006年の国連によるESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則(PRI)」の提唱、2012年の国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)による「持続可能な保険原則」や2019年の「責任銀行原則」の枠組みの発足などが挙げられます。日本においても、2015年のSDGsとパリ協定の誕生を背景に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によるESG投資の取り組み、政府による持続可能性に焦点を当てた民間資金に関する政策の導入等を背景に、サステナブルファイナンスが金融機関に浸透し、近年その規模が拡大しています。

ESG投資の位置づけ

しかしながら未だにサステナブルファイナンスは世界の資金フローのごく一部にすぎません。差し迫った課題を解決するためには、より広範な資金フローをサステナビリティ課題に向けることが求められています。

環境(Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の観点への配慮や対応が、十分でないことによる企業のリスクを投融資の判断に組み入れるESG投融資がその手法のひとつとして関心を集めています。ただし、ESG投融資は本質的にはESGに関連するリスクへの対処や、中長期的なリターンの追求を狙ったもので、サステナビリティ課題の解決に貢献するポジティブなインパクトを掲げているものではありません。差し迫った課題解決の要請に対して、サステナビリティ課題への資金の動向を変える必要性が強調される近年、サステナブルファイナンスの普及と発展において、リスクとリターンに加えて、サステナビリティ課題の解決にどれだけ貢献できるのかというアプローチが注目されています。

ポジティブインパクトの創出を主流化

このように自社や投資先への影響を超えて、より積極的に社会と環境課題へのポジティブなインパクトを考慮する機運が高まっています。2017年にはUNEP FIが「ポジティブ・インパクト金融原則」を、2022年には日本の金融機関が「インパクト志向金融宣言」を発表し、また環境省はポジティブインパクトファイナンスに関する一連の政策を打ち出しました。インパクト投資も近年増加傾向にあり、2021年末時点で世界の運用資産残高は1.164兆米ドルに上りますが(GIIN, 2022)、例えば2030年までのSDGs達成のための資金ギャップは未だ4.2兆ドル(世界の金融資産の1.1%の規模)あるとの試算もあります(OECD, 2020)。

このように、ポジティブインパクトの創出を金融セクターの行動に主流化させ、金融セクターが融資や投資を通じてサステナビリティ課題の解決に果たすポジティブインパクトを強化することが重要です。

ファイナンスタスクフォースでは、世界のサステナビリティ課題の解決に貢献するようなインパクトをもたらす民間資金動員の促進を目指し、3つの分野に重点を置いた上で、独自の調査・研究を通じた提言ならびに各種政策の実施支援事業などを戦略的に実施していますが、その一つが「ポジティブインパクト創出の主流化」です。

本特集サイトでは、サステナビリティ課題の解決にポジティブなインパクトをもたらす資金を、「ポジティブインパクト創出の主流化に貢献するファイナンス」と呼んでいます*。そして、サステナビリティ課題の解決のためにポジティブインパクトをもたらすファイナンスに関連するテーマ(例: サステナビリティ関連の金融商品による環境や社会へのインパクト、インパクトを測る指標・経路または目指しているインパクトの目標、これらに関連する政策)について、関連する出版物やイベントを金融セクターの実務関係者、サステナブル金融商品に興味を持つ企業や、本テーマに関心を持つ政策担当者や市民社会に向けて紹介しています。

*「ポジティブインパクト創出の主流化に貢献するファイナンス」は、UNEPFIのポジティブインパクト金融原則(PIF原則)で定義されるポジティブインパクトファイナンス、及び、財務リターンと並行し環境・社会の測定可能なインパクト創出を意図する投資行動であるインパクト投資よりも、より広い範囲を想定しています。

参考文献:
OECD・UNDP(2020)”Closing the SDG Financing Gap in the COVID-19 era Scoping note for the G20 Development Working Group” 
https://www.oecd.org/dev/OECD-UNDP-Scoping-Note-Closing-SDG-Financing-Gap-COVID-19-era.pdf
GIIN (2022) “Sizing the Impact Investing Market ”
https://thegiin.org/assets/2022-Market%20Sizing%20Report-Final.pdf

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