再エネ100%シナリオは本当に「現実的ではない」のか?:電⼒部⾨脱炭素化の実現のため、対策オプションの幅を拡げよう

コメンタリー
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• 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会第 43 回会合において、2050 年の電源構成を「再エネ 100%」とするシナリオの電力コストが 53.4 円/kWh との試算が発表され、このシナリオは「現実的ではない」と説明された。この試算結果は多くの関係者に驚きをもって迎えられた。

• この試算において、再エネ比率を高めることで大幅にコストが上昇している最大の要因は、再エネの出力変動に対応するためのシステム統合費用が 35–40 円/kWh レベルに達するという計算結果に基づく。システム統合費用としては、従来は、送電線対策を含め、一日の中での kW の意味での出力変動への電力システム側の対応方法や費用が議論されることが多かったが、今回の大幅に高いコストは、特に、曇/雨天・無風状態が数日以上継続する稀頻度の気象現象に基づく電力量供給リスクに対応する対策コストであるようだ。

• この kWh 面での懸念自体は、たしかに再エネ比率の高いシナリオを分析する上で考慮すべきポイントであり、新たな重要な問題提起である。ただ、提示されたシナリオ分析では、その主たる対処方法として、利用頻度のきわめて低い蓄電池を新たに大量に導入するという方法が検討されたようである。このリスクに対応する方策は、この試算で想定されている蓄電池・水素貯蔵・既設揚水発電だけではない。本論考では、その他にも、大量に普及が期待されている電気自動車の蓄電池や、バックアップ用としての既設火力発電設備(再エネ由来燃料も利用可能)、需要側の各種対策などの活用により、システム統合費用がかなり小さくて済むこと(社会全体ではほぼゼロコスト)を指摘した。

• 今後の 2050 年カーボンニュートラルに向けた電源構成の議論においては、再エネ比率をできる限り高めたシナリオを含め、このようなシステム統合費用の削減に資する多様なオプションが検討され、さまざまな可能性(対応策の可能性と前提条件の可能性など)を精査・統合化して、さらにはメリット面も含めた分析に繋がり、カーボンニュートラル社会の実現に向けた より俯瞰的で建設的な議論が発展していくことを期待したい。

 

*修正版差し替え(2021年6月7日):2021年5月24日に発表したものに加え、脚注1、2を追加

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