Global Stocktake
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グローバル・ストックテイク(GST)とは?
パリ協定第14条で定められているGSTは、パリ協定の目標達成に向けた世界全体での実施状況をレビューし、目標達成に向けた進捗を評価する仕組みです。GSTの評価結果は、各国の行動および支援を更新・強化するための情報や、国際協力を促進するための情報としてまとめられます。各国政府は、自国が定める貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)として公約する削減目標を今後、更新・強化するにあたり、この情報を活用することが求められます。
各国は5年ごとにNDCを策定・提出することになっており、次の提出期限は2025年です。GSTはNDC提出の2年前に終了するように設計されています。第1回GSTは2021年11月(COP26)から2023年11月(COP28)の、約2年の期間をかけて実施され、各国が2025年に提出するNDCに情報を提供します。同様に第2回GSTは2028年に終了し、その成果は2030年のNDC策定に活用されます。これにより各国政府はNDC策定にあたり、GSTの成果を十分時間をもって考慮することができます。
2021年8月に気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)が出版した第6次評価報告書第1作業部会(WGI)報告書では、今後数十年の間に二酸化炭素を始めとする温室効果ガスを大幅に削減しない限り、地球温暖化は1.5度・2度を超えることが示唆されています1。COP26では、現在各国のNDCに記載されている目標値をすべて足し合わせても、2030年の温室効果ガス排出量は2010年比で13.7%増加することに対し、深刻な懸念が示されました2。
COP26では気候変動の緩和のみならず、適応、資金、損失と損害(ロス&ダメージ)など、幅広い分野でさらなる行動の強化の必要性が強調されました。COP26のカバー決定であるグラスゴー気候合意でも、締約国に対し、COP27 に先立って「適応コミュニケーション」と呼ばれる適応策の進捗状況を示した報告書を提出し、GSTにタイムリーな情報を提供するよう要請されています。効果的なGSTの実施には各国の目標・行動と長期目標達成に必要な行動との差を特定し、その差を縮めるための野心的で現実的な対策を示すことが必要です。
- IPCC AR6 WGI報告書 政策決定者向け要約(SPM): https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/
- グラスゴー気候合意1/CMA.3: https://unfccc.int/sites/default/files/resource/cma2021_10_add1_adv.pdf
A:GSTは2015年に合意されたパリ協定の第14条に規定されています。そこでは、GSTは5年ごとに実施され、第1回GSTは2023年に実施されるとしています。GSTの詳細な実施ルールが合意されたのはその後の2018年、ポーランド・カトビチェで開催されたCOP24でした。これにより、GSTは「(1)情報収集・準備」、「(2)技術的評価」、「(3)成果物の検討」、の3つの要素から構成されることが決まりました。この3つの要素の実施には約2年~2年半の期間が必要となります。したがって、第1回GSTは2021年11月(COP26)から開始され、2023年COP28で実施される「(3)成果物の検討」をもって終了します。各要素の詳細は「GSTのプロセス」で詳しく説明しています。
A:各国はパリ協定第4条に基づき「自国が定める貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)」を策定、実施します。各国はその実施の進捗を、2年毎に「隔年透明性報告書(Biennial Transparent Report: BTR)」として報告します。このBTRの作成はパリ協定第13条の「強化された透明性枠組み(Enhanced Transparency Framework: ETF)」で義務づけられています。BTRは、その他の報告書等とともに、GSTの情報源としても活用されます。
パリ協定では、この国ごとのNDC(目標設定)およびETF(実施の報告)と世界全体の進捗をレビューするGSTを定期的に繰り返すことで時間の経過とともに各国の目標値を段階的に引き上げ、長期目標の達成に向けた野心的な行動・支援を後押しします。この仕組みは、パリ協定の「野心度引き上げメカニズム」とも呼ばれています3。
- Tamura, Suzuki and Yoshino (2016). Empowering the Ratchet-up Mechanism under the Paris Agreement: https://www.iges.or.jp/jp/pub/wp1605/en
A:気候変動対策には各国が対応できる能力や責任の範囲に違いがあります。削減目標(NDC)は各国が自らの状況を十分に考慮して、独自に定めるものです。一方、GSTは、気候変動は個々の国の問題ではなく、世界全体の共通課題であるという考えに基づき、各国の取り組みを合わせて評価します。GSTで各国の取り組みを個別に評価したり、対策が遅れている国を批判したりすることはありません。
A:GSTの評価分野は「緩和」、「適応」、「実施手段と支援」の3つです。実施手段と支援には、資金、技術移転、キャパシティ・ビルディング(組織・人の能力構築・強化を指す)などが含まれます。この3つの評価分野に加え、必要に応じて、「対応措置」と「損失と損害(ロス&ダメージ)」も評価されます。
A:気候変動対策は国によって対応できる能力や責任の範囲が異なり、この前提に立って政策の仕組み作りや支援を提供することを「衡平性」に配慮するといいます 。「利用可能な最良の科学」とは、「GSTの評価段階で最も信頼のおける最新の科学情報や知識」です。ここには、学術的な査読論文だけでなく、国際機関・地域組織・NGO等からの報告書、先住民族の知識、なども含まれます。
GSTのプロセス
GSTは3つの要素で構成されます。
(1)
情報収集・準備
GSTの評価に必要な情報を収集し、まとめ(compile)、統合(synthesise)します。また、次の技術的評価を実施するための準備も行います。情報収集・準備の作業期間は「(2)技術的評価」と一部重複します。(2)
技術的評価
技術的対話やイベントの開催を通じて、専門家(例えば国連機関や国際機関など)と各国の間で収集した情報を、衡平性と最良の科学を考慮し、科学的・技術的知見に基づき検討します。パリ協定の目標達成に向けた全体としての進捗状況を評価し、更なる強化が見込まれる行動や支援の機会を特定します。(3)
成果物の検討
GSTの成果が、各国の行動・支援の強化につながり、気候変動対策のための国際協力が促進されるよう、「(2)技術的評価」の結果に基づきより政治的な議論が行われます。議論の結果は、①さらなる行動や支援の機会と課題、実施可能な対策と優良事例、国際協力に関する優良事例の特定、②更なる行動の強化と支援を促すための政治的メッセージの作成、にまとめられます。そしてこの成果をパリ協定締約国会議(CMA)における決定として採択、または宣言に引用します。COP (Conference of Parties):国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会合。UNFCCCを批准するすべての国(締約国)が参加する会議であり、最高意思決定機関。
SB (Subsidiary Bodies):「科学上及び技術上の助言に関する補助機関」(SBSTA)と「実施に関する補助機関」(SBI)の2つの補助機関の会合。SBSTAはUNFCCCに科学的・技術的な情報の提供や助言を行う。SBIはUNFCCCを効果的に実施するための助言を行う。
CMA (Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement):パリ協定締約国会合。パリ協定の最高意思決定機関。
A:政府だけでなく、非締約国主体やオブザーバー組織もインプットを提出することができます。非締約国主体とは、市民社会、企業、自治体、学術機関、NGOなど、締約国以外のステークホルダーを指します。非締約国主体がGSTに積極的に参加することで、非締約国主体からのサブミッションが国際機関や国連機関などが提供する情報を補完し、非締約国主体による行動・支援の強化につながることが期待されます。
IGESは宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国際協力機構(JICA)等の協力のもと、GSTに対して次の5件の共同サブミッションを提出しました。
- 世界初の温室効果ガス専用の観測衛星である「いぶき」(GOSAT)を活用した過去10年間の温室効果ガスの濃度測定
- いぶき(GOSAT)を活用した都市レベルでの温室効果ガス排出量の追跡
- 一般旅客機を活用したリアルタイムでの温室効果ガス排出量の観測
- 衛星技術を活用した熱帯林違法伐採検知システム(JJ-FAST)
- 衛星技術を活用した世界のマングローブ林の面積変化の把握(グローバルマングローブウォッチ:GMW)