生物多様性条約第15回締約国会議第二部(COP15第二部)(2022年12月7日~19日 於カナダ・モントリオール)では、2030年までの生物多様性の世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)が2022年7月に発表した「自然の多様な価値と価値評価の方法論に関する評価(以下、「価値評価報告書」と言う)は、人々の自然に関する価値観は多様であるにもかかわらず、多くの政策立案では狭い価値(例えば、市場取引で評価される自然の価値)を優先し、自然と社会、また将来世代を犠牲にするとともに、先住民及び地域社会の世界観に関連する価値をしばしば無視してきたと評価しています。さらに、昨今の生物多様性の減少傾向を反転するためには、背景にある人間社会のあり方、特にその根本にある、経済価値ばかりに重きを置いてしまいがちなわたしたちの価値観を問い直す必要があると指摘しています。
本シンポジウムでは、IPBES価値評価報告書のポイントを解説し、また、同報告書が重視する自然の価値や人々の価値観に深く関係する実践家の取り組みを紹介しました。さらに、包括的な豊かさを追求する新しい価値観に基づく社会への転換の必要性についても議論しました。
冒頭の橋本禅東京大学准教授の基調講演では、IPBES価値評価報告書の内容について、主に自然の価値やその見方の多様性、ならびに現在我々が直面する生物多様性の危機に対処する上で、短期的かつ物質的利益を重視する価値観を変え、社会全体の持続可能性を重視する価値観を育んでいく必要があることについて解説がありました。
続いて、「脱成長」の考え方の必要性、アイヌの世界観、在来種野菜の種の承継に関する知恵、都市と地方の交流に関する取組について紹介がありました。斎藤幸平東京大学准教授からは、経済成長と生物多様性への負荷の「デカップリング」の難しさ、従って「人新世」の時代に生物多様性の喪失を防ぐために、成長主義から脱却する「脱成長」の考え方が必要との指摘がありました。秋辺デボ氏によるアイヌの世界観についての講演では、アイヌ語で「育てあう大地」を意味する「ウレシパモシリ」の考え方の紹介がありました。このように、人が自然の支配者ではないという考え方はアイヌだけでなく全人類がかつて持っていたもので、自然を守り、直していくためには、今一度これを思い出して、共に考えていく必要があることを訴えられました。在来種野菜の種の承継に取り組む「オーガニックベース」を主宰する奥津爾氏・典子氏からは、現在9割近くの野菜が外国産の種から作られていることの危機意識、これに対して土地のことを記憶したタネを自然に寄り添った作り方で育て、直売所から家庭の台所に届けていくことの重要性についてお話がありました。株式会社おてつたびの永岡里菜代表取締役CEOからは、お手伝いと旅を掛け合わせた「おてつたび」により人材のシェアリングと関係人口創出を支援し、「誰かにとっての”特別な地域”を創出する」事業について紹介がありました。
最後のパネルディスカッションでは、武内和彦IGES理事長からの、自然と共生する持続可能な将来に向けて、どのように人々の価値観を変えていく必要があるのかという問いに対して、登壇者それぞれの立場からお答え頂きました。当日のアーカイブ動画を環境省YouTubeで2024年3月末頃まで公開中です。詳細レポート、発表資料とあわせてご覧ください。
イベントの詳細
オンライン
環境省 自然環境局 自然環境計画課生物多様性戦略推進室
代表 03-3581-3351 / 直通 03-5521-8275
室長 山本 麻衣
室長補佐 浜 一朗
専門官 竹原 真理
発表資料
プログラム
開会挨拶・趣旨説明 | 竹原 真理 環境省自然環境局生物多様性戦略推進室 | ||
基調講演 | 「IPBES価値評価報告書のポイント解説」 橋本 禅 東京大学大学院 農学生命科学研究科 准教授 |
PDF (1.6MB) | |
取組紹介① | 「人新世の生物多様性と脱成長」 斎藤 幸平 東京大学大学院 総合文化研究科 准教授 |
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取組紹介② | 「アイヌの世界観と生物多様性保全」 秋辺 デボ 阿寒湖温泉地区景観協議会 会長 |
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取組紹介③ | 「種を守り継ぐこと」 奥津 爾・典子 オーガニックベース主宰 |
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取組紹介④ | 「お手伝い×旅で、地方と都市を結ぶ」 永岡 里菜 株式会社おてつたび 代表取締役CEO |
PDF (4.7MB) | |
パネルディスカッション | ファシリテーター:武内 和彦 IGES 理事長 | ||
パネリスト(五十音順) | 秋辺 デボ | ||
奥津 爾・典子 | |||
斎藤 幸平 | |||
永岡 里菜 | |||
橋本 禅 | |||
閉会挨拶 | 奥田 直久 環境省自然環境局長 |
敬称略
録画映像
IPBES: 生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学 - 政策プラットフォーム(Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)について
IPBES は、生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間のプラットフォームとして、2012年4月に設立された政府間組織です。2022年12月現在、IPBES には 139カ国が参加しており、事務局はドイツのボンに置かれています。科学的評価、能力開発、知見生成、政策立案支援の4つの機能を柱とし、気候変動分野で同様の活動を進める IPCC の例から、生物多様性版のIPCCと呼ばれることもあります。
IPBES ウェブサイト https://www.ipbes.net/
IGESのIPBESへの貢献について
IGESは2015年以降、日本国環境省の協力のもと、IPBESアジア・オセアニア地域評価の技術支援機関(IPBES-TSU-AP)を設置。2018年に発表された同評価報告書の作成に主要な役割を果たしたほか、2019年2月から「侵略的外来種に関するテーマ別評価」の技術支援機関を担っています。また、生物多様性条約(CBD)事務局が運営する生物多様性日本基金の支援によるアジア・オセアニア地域におけるIPBESに関する能力構築事業の実施やIGES研究員のIPBES報告書執筆への参加などを通して、IPBESの活動に幅広く貢献しています。
IPBES特集ページ https://www.iges.or.jp/jp/projects/ipbes