私たちの命や生活は、生物多様性がもたらす自然の恵み、すなわち生態系サービスに大きく支えられています。しかし、人間活動の拡大を背景に生物多様性は急速に失われつつあり、現在および将来にわたっての様々なリスクが指摘されています。
自然共生社会に向けた2020年までの世界共通の目標であった「愛知目標」の多くが未達成に終わり、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)が今のままの社会では生物多様性の減少に歯止めがかからないとの予測を示すなど厳しい状況が続く中、その後継となるポスト2020年生物多様性枠組の2022年春の採択に向けて今、国際的な議論が進められています。人と自然とが共生できる社会への変革を加速させることが、政府、自治体、企業、学術・研究機関、私たちひとりひとりなどあらゆる主体に、より一層強く求められています。
この社会変革の実践に向け、農業や漁業、そして私たちの日々の食事も含む食料システムのあり方が注目されています。本シンポジウムでは、最も身近な自然の恵みである「食」を切り口に、IPBESの研究成果をはじめとする国際動向の解説に加え、私たちの行動のヒントとなる多様かつユニークな事例を紹介いただき、豊かな自然を将来に引き継ぐためにできることを一緒に考えました。
環境省の竹原真理専門官からの趣旨説明を皮切りに、基調講演として、まずは橋本禅東京大学准教授が食料生産による生物多様性への影響を指摘した上で、分野横断的な社会変革の必要性を訴えました。次に、武内和彦IGES理事長が食料システムをめぐる多面的な枠組みを紹介し、温室効果ガス削減と生物多様性保全につながるライフスタイルの実践を促しました。
続いて、食品メーカー、レストランチェーン運営企業、ベーカリーカフェ、魚の伝道師など多様な登壇者が、生物多様性を企業や顧客の価値と捉えた取り組み事例や経験を共有しました。カゴメ株式会社は、高品質な原材料の持続可能な調達に向け、生物多様性を棄損する恐れのある化学農薬の代わりに土着天敵を活用した自社農園での取り組みを紹介しました。ハンバーグレストランびっくりドンキーを運営する株式会社アレフは、自然資本プロトコルを用いて生物多様性の経済・社会的価値を客観的に換算した経験や、顧客の声を共有しました。野生の菌で醸すパン、地ビール&カフェであるタルマーリーは、事業を通じて地域の環境と経済が良くなるという好循環を生み出すために実践していることを説明しました。衰退する魚食文化の復興を目指す上田勝彦氏は、乱獲に加えて地球温暖化が魚の個体数や生息域に影響を及ぼしている可能性に触れ、消費者の意識改革なども含めた横断的な取り組みによる資源管理の重要性を訴えました。
最後にパネルディスカッションを通じて、全体を振り返りながら、新たな視点を提示・共有し、視聴者からも活発な質疑応答が寄せられました。当日のアーカイブ動画を環境省YouTubeで2022年3月31日まで公開中です。詳細レポート、発表資料とあわせてご覧ください。
イベントの詳細
オンライン
環境省自然環境局自然環境計画課
生物多様性戦略推進室
代表 03-3581-3351
直通 03-5521-8273
室長 中澤圭一(内6480)
室長補佐 大澤隆文(内6484)
専門官 竹原真理(内7454)
発表資料
プログラム
開会挨拶・趣旨説明 | 環境省 | ||
基調講演1 | 「生物多様性と消費行動:世界の動向、日本の役割」 橋本 禅 東京大学大学院 農学生命科学研究科 准教授 |
PDF (1.6MB) | |
基調講演2 | 「持続可能な食料システムと生物多様性の保全」 武内 和彦 IGES 理事長 |
PDF (1.4MB) | |
取組紹介 | 「カゴメ野菜生活ファームにおける生物多様性保全の取組み」 綿田 圭一 カゴメ株式会社 品質保証部 環境システムグループ 専任課長 |
PDF (2.4MB) | |
「自然資本プロトコルに則ったお米の取り組み評価」 高田 あかね 株式会社アレフ(ハンバーグレストランびっくりドンキー運営企業)SDGs推進委員会委員長/エコチームリーダー |
PDF (1.7MB) | ||
「野生の菌による発酵を起点とした地域内循環の実現について」 渡邉 格 タルマーリー オーナーシェフ(野生の菌で醸すパン、地ビール&カフェ) |
PDF (7.0MB) | ||
「変わりゆく海と魚・向き合う人のゆくえ」 上田 勝彦 株式会社ウエカツ水産代表/東京海洋大学客員教授 |
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質疑・パネルディスカッション・まとめ | |||
ファシリテーター:武内 和彦 IGES 理事長 | |||
閉会挨拶 | 環境省 |
敬称略
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES: Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)について
生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間のプラットフォームとして、2012年4月に設立された政府間組織。科学的評価、能力開発、知見生成、政策立案支援の4つの機能を柱とし、気候変動分野で同様の活動を進める「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の例から、生物多様性版のIPCCと呼ばれることもあります。IPBESの評価報告書は世界中の科学者・専門家らによって執筆され、その政策決定者向け要約は、加盟国政府により構成される総会による承認後、公表されます。2021年11月現在、137カ国が加盟、事務局はドイツのボン。
IPBES ウェブサイト https://www.ipbes.net/
IGESのIPBESへの貢献について
IGESは2015年以降、日本国環境省の協力のもと、IPBESアジア・オセアニア地域評価の技術支援機関(IPBES-TSU-AP)を設置。2018年に発表された同評価報告書の作成に主要な役割を果たしたほか、2019年2月から「侵略的外来種に関するテーマ別評価」の技術支援機関を担っています。また、生物多様性条約(CBD)事務局が運営する生物多様性日本基金の支援によるアジア・オセアニア地域におけるIPBESに関する能力構築事業の実施やIGES研究員のIPBES報告書執筆への参加などを通して、IPBESの活動に幅広く貢献しています。
IPBES特集ページ https://www.iges.or.jp/jp/projects/ipbes