気候変動の悪影響に関する損失・被害と適応:アジア太平洋地域適応ネットワークの将来的な課題を具体化するステークホルダーの認識度

リサーチレポート
気候変動の悪影響に関する損失・被害と適応:アジア太平洋地域適応ネットワークの将来的な課題を具体化するステークホルダーの認識度

アジア太平洋地域適応ネットワーク(APAN)は、気候変動に対する人間や生態系システム、経済のレジリエンス確保を目的とし、気候変動適応と関連分野のステークホルダー間の協調へのニーズに応える形で、2009年に設立された。本ネットワークは、気候変動適応に関する知見や情報をステークホルダー間で共有することにより上記の目標を達成し、適応を国家および準国家レベルで達成するため、発展途上国の資金メカニズムへのアクセスに加え、適応に関する計画立案と能力構築を促進することを目的としている。近年、国際および国家レベルにて、気候変動による損失と被害(ロスアンドダメージ:L&D)に関する重要性が高まったことを受け、本調査を通じて、各ステークホルダーにおける諸課題や認識を整理することとなった。このため、本調査ではL&Dに関する課題、既存能力やギャップの把握を目的とし、気候変動適応および災害リスクに携わる各ステークホルダーからの回答を得るため、オンライン調査を実施した。

本調査では、政府機関や非政府組織、大学や学術機関、ドナー機関、国連等を代表する102人の専門家(n=102)から回答を得た。回答者の数は非政府系組織が最も多く(38%)、次に政府機関(15%)、独立系シンクタンク(14%)、大学(11%)、政府系シンクタンク(9%)と続く。回答者の年齢層は30~50歳が最も多く(56%)、次に50~60歳(21%)、18~30歳(17%)と続き、回答者の38%が気候変動適応に従事している専門家で、30%が環境管理、12%が災害リスク軽減に携わっている者であった。調査結果の分析のために、回答者をAPANに関連するグループと関連しないグループ、およびオーストラリア、バングラディシュ、インド、フィリピン、ベトナムを主とする政府系の回答者と非政府系の回答者で分別した。また、選択形式の質問については、結果を回答率として表記した。統計的有意性に関する試験を実施していないため、回答を分析する基準として回答率の数的差異を使用した。

全体的に、回答結果はネットワークとの既存の関係性や回答者の所属組織によって差異が見られた。他方、いくつかの質問に対する回答には統一性が見られた。全体的に、L&Dに関する理解については、モデリングツールの欠如、過去および現在の気候変動の影響に関する理解不足が最も重大な障害であるとの回答を得た。ほとんどの回答者が、適応に係る主要部門の理解と知識向上の必要性を感じていると回答した一方で、APANの活動に関係していない者は生計や都市に焦点を当てることを選び、APANの活動に関係している者は生物多様性の分野において知見のギャップが高いと回答している。政府系の多くの回答者(17%)は、農業の分野における取り組みについて重大な知見のギャップがあると感じている一方で、非政府系のほとんどの回答者(11%)は、L&Dを理解するためには生物多様性により注目するべきと答えている。

組織的能力に関する回答からは、既存の組織で、L&Dへの対応は不可能ではないとの見解が得られた。多くの回答から、気候変動適応と災害リスク対処を目的とした既存の組織的能力を通じ、L&Dへの対応が可能であると考えている事が明らかとなった。また、ほとんどの回答者が、災害リスクの軽減や伝統的な知識に係る経験はL&Dの対処にも有用であると認識している一方で、政府系の回答者からは、気候変動適応に特化した経験のみが有用であるとの見解を示された。また、多くの回答者が、能力構築やデータの収集・普及への投資がL&Dへの対処に最も有効であるという見解を示している。現在の組織的メカニズムは有効であるとの回答があった一方、地方自治体や環境関連以外の省庁における協調不足等の問題が大きな制約を引き起こしているとの回答も得られた。

L&Dの対処について政府を支援する組織としては、研究・学術機関の次に、NGO、他の気候変動適応関連の機関が続くという見解が示された。他の回答結果からは、現場レベルの問題への取り組みが不足しており、地方レベルでの連携を促進する必要性が指摘された。驚くべきことに、属しているグループに関わりなく、L&Dに取り組む政府の支援について民間部門を重要な協力者として選んだ回答はほとんどなかった。本ネットワークに対する期待としては、科学的知識(気候変動影響と脆弱性評価)、プロジェクト現場での経験、またL&Dに関するパイロット研究プロジェクトの方向性に関する知見の共有により焦点を当てるべきとの回答が多数を占めた。L&Dに対処するパイロット研究プロジェクトの実施は、本ネットワークが現在抱える重大なギャップであると考えられる。

回答を国別に分析した結果、オーストラリアからの回答者の圧倒的多数(100%)がL&Dについて、十分な科学的理解がないと指摘していることがわかった。他国の回答者(インド(94%)、バングラディシュ(85%)、フィリピン(69%))は、L&D の科学的な理解について、気候変動影響予測に係るモデリング、過去および現在の気候変動の影響に関する理解、リスク予測のダウンスケーリング、不確実性に対応する方法が欠如していると回答している。他の回答では、物理的影響を予測するツールに加え、L&Dの経済的な影響を推測するツールも不足しているとの指摘があった。オーストラリアからの回答は、多くがL&Dに対処する十分な理解と知識が不足している重大な分野として生計を挙げているが、他国からの回答は科学的知識の不足している分野を複数挙げている。例として、インドからの回答は科学的知識が不足している分野として水分野を挙げているが、ベトナムの回答者は科学的調査が必要な分野として水および生活の分野を挙げている。

本調査を通じ、適応に従事する専門家のL&Dに関する認識度を理解し、ネットワークの将来的な課題整理に貢献した。特に、APANに関係するステークホルダーからの回答では、知見の共有に関して、その有用性を広く認識している回答が得られた。更に、本調査結果はL&Dについてネットワークが進むべき方向性の一端を示す一方で、L&Dに関するパイロット調査の実施と知見の共有が求められていることを明らかにした。

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