持続可能な開発目標(SDGs)とは
国際社会は現在世界共通の開発目標としてミレニアム開発目標(MDGs)を掲げ、2015年までの目標達成に向けた取り組みが推進されています。様々な活動が活発化する一方で、参加者・活動団体も多様化し、多国間主義のあり方にも変化が生じています。
さらには、経済及び財政危機、自然災害等による世界情勢の不安定化、新興国の躍進等の国際情勢の変化も相まって、MDGsでは十分対応しきれない新たな課題(例えば気候変動や生物多様性の保全等)や、MDGs達成後もなお残された喫緊の課題(例えば失業人口の増大、食糧価格の高騰、所得格差の拡大等)も指摘されています。
こうした背景から、達成期限である2015年以降にどのような国際開発目標を掲げるのかを議論するための国連「持続可能な開発目標(SDGs)」に関するオープン・ワーキング・グループ(OWG)の設立が2012年に6月ブラジルで開催されたリオ+20において合意され、2014年7月にはその成果文書が発表されました。同文書は、17の目標案と169のターゲット案を提案しており、2014年9月より開始された国連総会等で議論され、2015年末に策定される予定です(具体的なSDGsの特徴については、下記参照)。
また、持続可能な開発に関する各分野においても、国連ポスト2015年開発目標に関するハイレベルパネル報告書の発表(2013年6月)、2002年のヨハネスブルグ・サミットを受けて開始された『持続可能な開発のための教育の10年(2005-2014)』のフォローアップ、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長によるイニシアチブ「すべての人に持続可能なエネルギーを(Sustainable Energy for All)」、また、リオ+20で採択された「持続可能な消費・生産10ヶ年計画枠組み」など、様々な取り組みが実施され、SDGsを含め2015年以降の持続可能な開発アジェンダに組み込まれていくことが予想されています。
IGESでは、こうした2015年以降の持続可能な開発に関する目標設定に関する国際動向を把握するとともに、アジア太平洋地域の視点から提言を行っていきます。また、これらの動向分析の結果を日本国政府、連携する国際機関や研究機関等と共有することを通じて、地域の持続可能な開発に向けた取り組みを促進することを目指しています。
SDGsの特徴
【SDGs策定の趣旨】
- 持続可能な開発に対して焦点を絞り一貫性のある行動を追求
- 持続可能な開発に貢献し、また国連システム全体における持続可能な 開発の実施及び主流化の原動力の役割を果たす
【内容】
- 持続可能な開発の3つの側面(経済、社会、環境)に統合的に対応
- 先進国・途上国すべての国を対象とする普遍的目標
- 行動志向型、簡潔、かつ、野心的な目標
- 限られた数の目標
- 2015年以降の国連開発アジェンダに統合されるもの
【オープン・ワーキング・グループ(OWG)の設置】
- 全てのステークホルダーへ開かれたSDGsに関する包括的且つ透明な政府間交渉プロセス
- 5つの地域グループを通じて加盟諸国から指名される30名の専門家で構成(→日本は3か国で1議席を分け合っている。)
- 国連総会に、SDGsの提案を盛り込んだ報告書を提出
参照:リオ+20成果文書、パラ245‐251
ポスト2015年開発アジェンダとは?

国連ミレニアム開発目標(MDGs)が達成期限を迎える2015年以降の開発課題(アジェンダ)を意味しています。途上国の貧困削減に注目が集中していた2000年初期に比べ、現在では気候変動、エネルギー問題、災害、国内格差など多くの新たな課題の緊急性が高まっていることから、これまで開発課題を議論してきたMDGsを中心とする流れ、また、持続可能な開発を議論してきたリオ+20の流れを統合し、さらに幅広い課題に対応することを目指したアジェンダです(図1参照)。2012年7月には、ポスト2015年開発アジェンダに関する諮問グループとして、キャメロン英首相、ユドヨノ・インドネシア大統領、ジョンソン=サーリーフ・リベリア大統領を3共同議長とするハイレベル・パネルを立ち上げられ、2013年5月、国連事務局長に報告書が提出されました。ポスト2015年開発アジェンダを具体化するための中長期的な目標として、2015年以降の開発目標が議論されていますが、図1で示すように、MDGs中心の流れでは「ポストMDGs」、持続可能な開発の流れでは「SDGs」と呼ばれることが多々あります。
持続可能な開発目標(SDGs)とは?
国連ミレニアム開発目標(MDGs)が2015年に達成期限を迎えるため、それ以降の開発目標として議論されている、「持続可能な開発」を視野に入れた国際開発目標のことです。SDGsは、MDGsの教訓を踏まえ、持続可能な開発の3本柱とされる経済、環境、社会分野における課題のバランスを取り、気候変動や防災等の新たな課題への対応等も対象とします。2012年6月の国連持続可能な開発会議(リオ+20)でSDGの策定およびポスト2015年開発アジェンダへの統合についての合意がなされました。2015年9月の国連総会での採択を目途に、2013年3月より「SDGsに関するオープン・ワーキング・グループ(OWG)」(下記参照)において政府間の協議が行われました。2014年7月の時点でSDG案には17の目標・各分野に付随する169のターゲットが盛り込まれており、貧困削減や保健、教育等に関する開発目標、その他雇用などの諸問題が取り上げられています。ポスト2015年開発アジェンダにおけるSDGsの扱い方については、今後の政府間交渉で議論される予定です。
SDGsに関するオープン・ワーキング・グループ(OWG)とは?
SDGsの構成案や内容を議論するための政府間交渉プロセスです。2012年6月の国連持続可能な開発会議(リオ+20)で設立が決まり、2013年1月に国連の下に設置されました。2014年7月までに13回開催されています。メンバーは、5つの地域グループ(アジア、欧州、ラテン・アメリカなど)を通じて国連加盟国から指名された国々が30議席を各議席につき3カ国で分け合う形となっており、このグループは「トロイカ(Troika)」とも呼ばれています。例えば、日本、イラン、ネパール3カ国で1議席とみなされます。国連ハンガリー政府代表部常駐代表チャバ・コロシ(Csaba Kõrösi)氏と国連ケニア共和国政府代表部常駐代表マチャリア・カマウ(Macharia Kamau)氏の2人が共同議長を務めました。
ミレニアム開発目標(MDGs)との違いは?
MDGsは人間開発分野における目標であり、途上国の貧困や初等教育、保健等の従来通りの開発問題が中心で、先進国はそれを援助する側という位置づけでした。これに対し、SDGsでは開発という側面だけでなく、経済面・社会面・環境面の3つの側面全てに対応することが求められています。また、全ての国を対象とし、先進国における生産と消費、自然エネルギー、途上国における国内の資金動員などの課題も取り扱われる見込みです。
ガバナンスとは?
ガバナンスとは、一般的に統治のことを指します。特に政府(ガバメント)によるトップ・ダウンの統治に対して、社会や組織の構成員である個人や集団の主体的な参画、合意形成、意思決定による統治と位置づけられます。ガバナンスの担い手は政府だけではなく、民間セクター、非政府組織(NGO)、学術機関など、複数の当事者が担わなければなりません。法律、規制、政策、制度、パートナーシップ、国民的論議、政党、市民運動や市民からの意見聴取、デモと抗議行動、ストライキその他の組合活動、司法組織など、意思決定に影響を与える要因はいずれもガバナンスの一要素です。(*1)
持続可能な開発のためのマルチ・レベル・ガバナンスとは?

持続可能な開発にむけたマルチ・レベル・ガバナンスとは、異なったレベル(グローバル、地域、国、ローカル)におけるガバナンスそれぞれにおけるアジェンダ設定・実施・モニタリング・評価プロセス・進捗レビューや組織・制度のあり方、また、各レベル間の相互関係を意味します。 (*2) 例えば、SDGsのような国際目標は、図2のように人間の幸福を上位目標とし、グローバル・地域レベルで策定された目標を国・ローカル・レベルの政策に適宜反映させ、それぞれのレベルであらゆるアクターと協働しながら実施、評価・レビューをしていくことが重要です。
実施手段(Means of Implementation: MOI)とは?
政策・目標・計画などを実施するための手段のことを意味します。気候変動や持続可能な開発分野では、資金、技術、制度・能力開発の3点が主な実施手段とされ、具体的には、資金(調達、執行、管理方法など)、貿易・投資、技術開発・移転、能力開発、地域統合、実施体制の構築、パートナーシップ、市民の参加、モニタリング評価などが挙げられます。従来、国際交渉の場では、更なる資金・技術援助のコミットメントに消極的な先進国と、それを望む途上国の間で意見が異なることが多く、交渉が難航する点の1つですが、SDGs交渉の場合も同様です。
SDGsが合意されたらどうなるの?次のプロセスは?
SDGsは自主目標(条約のように法的拘束力がない)のため、合意された後には、まずは各国がその国の事情を踏まえSDGsの優先課題を抽出し、国家計画に反映させ、これを実施するための体制構築が必要となります。例えば、グアテマラは既にSDGsの一部を反映させた国家計画K’atun 2032を策定しています。国家計画だけでなく、国・地方自治体における関連分野の政策・計画にも更に落とし込んでいく過程が重要です。また、国際的には、国連機関やその他の国際・地域機関のアジェンダに組み込まれていくことが予想されます。企業やNGOsなども、アジェンダに組み込み、SDGsの効果的な実施を目指すことが望まれています。ただし、SDGsは自主目標のため、すべての国・アクターがこうした行動に至るとは限りません。またSDGsは必ずしも網羅的ではないため、各国は自国の優先事項に合わせて柔軟に対応することが必要です。
現在の国内の動きとしてどんな方が関っていますか?また、注目していますか?
日本では、環境省の環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト(S-11)として、2013年より、東京工業大学、東京大学、東北大学、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)らが共同で、MDGsの継続とSDGsとの統合に関する研究に取り組んでいます。2014年7月には、IGESと国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)が主催する第6回持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)において、アジアにおけるSDGsの効果的な実施に関するセッションが開催され、国内外の参加者による活発な議論が行われました。2014年10月には、SDGsの実施手段(MOI)に着目した研究プロジェクト「Aspiration to Action」がIGESによって立ち上げられました。また、国内では、環境・開発関係団体が運営する「Beyond MDGs Japan」ネットワーク、一般社団法人環境パートナーシップ会議(EPC)や特定非営利活動法人「環境・持続社会」研究センター(JACSES)などが定期的にSDGsに関するシンポジウムや勉強会などを開催しています。
参考
- 国連環境開発会議(「地球サミット」(UNCED))(1992年)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/unced1992.html(日本語)
http://www.un.org/geninfo/bp/enviro.html(英語) - 持続可能な開発に関する世界首脳会議(「ヨハネスブルグ・サミット」(WSSD))(2002年)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/wssd/(日本語) - 国連持続可能な開発会議(「リオ+20」(UNCSD))(2012年)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/rio_p20/gaiyo.html (日本語) - ミレニアム開発目標(MDGs)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html(日本語)
http://www.un.org/millenniumgoals/(英語) - ポスト2015年開発アジェンダ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs/p_mdgs/index.html(日本語)
http://www.un.org/en/ecosoc/about/mdg.shtml(英語)
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IGES、「アジア太平洋地域のグリーン・ガバナンス:低炭素で持続可能なアジア太平洋に向けて」、IGES White Paper IV 2012 - Yoshida Tetsuro, Simon Olsen, Ikuho Miyazawa, Noriko Shimizu, and Yohei Chiba, “Governance for Sustainable Development Goals (SDGs) - Views from Asia”, IGES Discussion Paper presented at the International Forum for Sustainable Asia and the Pacific (ISAP) 2013, July 2013.