UNEA基礎講座

このページでは、来たるUNEA-5.2に備えて押さえておきたいポイントをIGES研究員が解説します。UNEAについてもっと深く知りたい方も、UNEAって何?という方も、是非ご活用ください。


UNEAはUNEPの意思決定を行う機関として、国際的な影響力を持っており、「環境に関する世界の議会」とも言われます。

UNEPは1972年に「かけがえのない地球」をキャッチフレーズにストックホルムで開催された国連人間環境会議(ストックホルム会議)の提案を受け、同会議で採択された「人間環境宣言」および「環境国際行動計画」を実施に移すための機関として、同年の国連総会決議に基づき環境の保護と改善のために設立されました。

ストックホルム会議とUNEP設立から50年の間、UNEPは環境分野において国連の活動を調整・管理すると共に、国際協力を推進してきました。これまでに、オゾン層保護のためのウィーン条約の策定をはじめ、多くの国際環境条約の交渉を主導・成立させた他、2007年にノーベル平和賞を受賞したIPCC(気候変動政府間パネル)を世界気象機関と共に設立(1988年)するなど、環境分野の取り組みを幅広く進めてきました。

しかしながらその間も、地球環境は悪化し続け、気候変動や生物多様性の損失、海洋汚染や水産資源の過剰な利用や大気汚染といった課題は、「目に見える」形で私たちの暮らしや経済を暮らしを脅かし始め、地球は待ったなしの危機的状況にある事が広く認識されるようになりました。政策に対する期待と説明責任の要請が急速に高まる中、2012年には国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催され、UNEPを強化することが決まりました。強化策のひとつとして、それまで58ヵ国の理事国で構成されていた管理理事会に代わって、全ての国が参加するUNEAを開催することが決まりました。以来、UNEAは閣僚宣言や声明を発出してきた他、多岐にわたる地球環境課題に関して数多くの決議を採択してきました。ストックホルム会議から50年の節目にあたる2022年、UNEPとその意思決定機関であるUNEAへ一層の注目が集まっているといえます。

UNEA-5は、COVID-19の大流行で打撃を受けた世界経済の回復と、持続可能な開発に関する議論の中心に「自然」を据えています。自然が極めて重要な役割を担っていることに鑑み、「持続可能な開発目標の達成に向けた自然環境のための行動強化」をUNEA-5.1と5.2を貫くテーマとして掲げました。多様性と複雑性に満ちた自然は、私たちの社会や経済を支えているにも関わらず、過剰な搾取や無秩序な開発、気候変動によって破壊されてきました。UNEA-5では自然環境を保護し、回復させるために、加盟国やステークホルダーによってベストプラクティスが共有されるとともに、多国間で協調し、行動を加速化させる機運を醸成することが期待されています。

COVID-19の流行に伴い、初のオンラインでの開催となったUNEA-5.1は、UNEPの管理と継続的な運営に関わる事業計画と予算など、管理上・手続き上の決定に焦点が当てられました。具体的には、2022-2025年UNEP中期戦略、および2022-2023年UNEP事業計画・予算案が採択された他、信託基金および特定割当拠出の管理について審議され、2022年にUNEA-5.2を対面形式で開催することが取り決められました。その他、各国の閣僚や政府高官と市民社会の代表が会合したリーダーシップ対話が開催され、自然と人間の健康の密接な関係や、自然の危機と気候や汚染問題の連動性、パンデミックからのより良いグリーンな復興、環境ガバナンスにおいてUNEPが果たすべき役割なども話し合われました。

UNEA-5.2に向けてUNEA-5.1の成果をまとめた「オンラインUNEA-5からのメッセージ」では、UNEPが今後取り組むべき3つの危機である、1. 気候変動、2. 生物多様性の損失、3. 化学物質・汚染が明示されるとともに、多国間主義と環境ガバナンスの重要性が改めて強調されました。本会合には150ヶ国以上から12,000名以上がバーチャルセッションに参加しましたが、開催前から懸念されていた通り、非対面での交渉は困難であり、実質的な議題についてはUNEA-5.2での議論へ持ち越されました。

「オンラインUNEA-5からのメッセージ(英文)」は こちら

まず、喫緊の課題となっている海洋プラスチック汚染について、どのような国際的な合意を取りつけられるかがポイントとして挙げられます。これに関しては、日本政府も決議案を提出しています。他には、自然を活用した解決策(Nature-based Solutions: NbS)と生物多様性、化学物質と鉱物の管理、グリーンな復興と循環型経済などについても、各国から提出された決議案をもとに議論される予定です。

2022年はUNEP設立の契機となった、1972年のストックホルム会議から50年と、UNEPにとって創設50周年という重要な節目の年(UNEP@50)にあたります。UNEA-5.2の直後には閣僚級会合を含む特別セッションが行われる他、今夏に予定されているストックホルム+50イベントなどと連動して、国際社会に向けて環境ガバナンスを強化していく方針など、何らかの宣言が出されることが期待されます。

日本は今回のUNEA-5.2に際して、海洋プラスチック汚染問題に関する決議案を提出しています。G20で掲げ、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を各国と共有するなど、この分野での国際的な議論を主導してきた経緯を踏まえ、将来の実効的な国際約束づくりに積極的に貢献しようという姿勢を示しています。 日本の決議案では、国際的なルール形成に向けた交渉の場である政府間交渉委員会(INC)を設置することを提案しています。日本の決議案で特徴的なのは、各国の置かれた状況が多様であることに鑑みて、国別行動計画を策定して公表する仕組みを提案していることです。これは、パリ協定のように多くの国が参加する実効的な枠組みづくりを目指す趣旨に基づく、新しい日本の関わり方のポイントであると山口環境大臣は会見で発言をしています。

各国家の自己決定を重視し、プラスチックの大量消費国・排出国を含む多くの国にとって参加しやすい枠組み作りを提案する日本の決議案に対する各国の反応と今後の交渉の行方が注目されます。

詳しくはこちらこちら(日本が提出している決議案ー英文)

2021年は、イギリス・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)など、環境を議題にした政府間会合が数多く行われた他、それと連動する形で、G7やG20会合においても、気候変動、生物多様性、環境汚染といったトピックが大きく扱われました。

UNEA-5の焦点となるプラスチックごみ汚染に関しては、2021年G7の成果文書「G7・2030年自然協約」において、①陸地・海洋全ての発生源からのプラスチックによる海洋汚染の深刻化に対処する行動の加速化、②そのためにUNEA-5を含む国連環境総会を通じて、既存の枠組みの強化および新たな世界的な協定、またはその他の枠組みなどの選択肢に取り組む、と明記されています。これは、一連の環境問題に関する国際的な議論を進める流れの中で、UNEA-5の果たす役割の大きさを見て取ることができる一例です。2022年は、これまで重要な環境条約の発展に貢献し、環境分野における地域・国際協力を推進してきたUNEPの節目の年にあたります。この流れを活かし、UNEA-5.2では、環境汚染に加え、生物多様性の損失、気候変動への対策を講じるために、グローバルなレベルで野心を高め、資金を確保し、国際的な枠組み形成への一歩を踏み出すといった、具体的な成果が期待されています。

海洋プラスチック汚染問題を例に挙げると、現状としては、EUが「EUプラスチック戦略」を掲げ、フランスをはじめとする各国でレジ袋、食品容器、ストロー、カトラリーなどの使い捨てプラの販売禁止や有料化を行っています。またアメリカやイギリスではマイクロビーズを含む化粧品の製造禁止など、各国において様々な取り組みが行われています。その一方で、各国の取り組みを協調し、リサイクル製品や代替製品市場の拡大などを行うなど、削減規模を拡大するためには、法的拘束力を持つ国際的な合意を求める声が出てきています。

今回のUNEA-5.2では、その枠組みを作るための政府間交渉委員会(INC)の設立へ向けた最終的な議論が行われるものとみられています。この動向は将来的に使い捨てプラへの規制強化や、マイクロプラスチックの身近な発生源となっている化学繊維を使った衣類(フリースなど)や車のタイヤなどに何らかの対応を迫られることを意味しているかもしれません。例えば今回のUNEA-5.2に際し、コカ・コーラやペプシコ、ユニリーバ、ネスレといった、これまでプラスチックごみ排出量の多さを批判されてきたグローバル企業70社以上が、法的拘束力を持つ国際条約の早期策定を求める共同声明を出すなど、官民問わず、プラスチックごみやマイクロプラスチックへの問題意識と、環境に配慮した循環型生産活動への移行に対する機運は確実に高まっています。

この声明に参加した日本企業はありませんでしたが、今年4月1日から施行される「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」では、プラスチックを使用する企業に対し、違反時には罰則規定が設けられるなど、日本においても変容が起きています。記憶に新しいレジ袋の有料化の義務化が人々の行動変革につながったように、近い将来、UNEAの決定によって国際的な枠組みが形成され、それに応じた国内法も改正されることで、私たちの生活にも影響が起こることが予測されます。そうした中で、使い捨てプラに依存しないサービスやビジネス、高機能のリユース容器包装などが、国内外で発展していく可能性もあります。

詳しくは こちら(プラスチック汚染への法的拘束力を伴う合意を求める企業による声明ー英文)

UNEA-4は海洋プラスチックごみへの関心が高まり、その対応の緊急性が叫ばれる中、2019年3月に開催されました。UNEA-4では、この国際的な潮流を受けて海洋プラスチックごみが中心的な議題となり、海洋プラスチックごみへの言及を含む閣僚宣言の他、日本・ノルウェー・スリランカの共同提案に基づく海洋プラスチックごみおよびマイクロプラスチックをはじめとする計23本の決議が採択されました。交渉では、インドが非常に野心的な使い捨てプラスチックの決議案を提案し、閣僚宣言の交渉においても、2025年までにフェーズアウト(段階的な排除)という文言にこだわりました。背景には、昨年インドの首相が2022年までに国内のすべての使い捨てプラスチックを排除すると宣言したことがあります。欧州は全般的にこの文言を支持しましたが、米国を含む一部の国が実施の難しさから慎重な姿勢をとり、最終的には「使い捨てプラスチック製品を2030年までに大幅に削減」との文言で落ち着ちついたものの、米国は、この文言にも満足せず、この文言から離脱(dissociate)すると表明しました。その後、バイデン政権下において立場が変化したアメリカは、2021年11月にUNEP本部において、米国として、プラスチック汚染に取り組むための国際合意に向けた多国間交渉を支持することを発表しています。

UNEA-4について詳しくはこちら

近日公開予定