1972年にローマクラブが『成長の限界』を発表してから50年にあたる2022年、ローマクラブの新たなレポート『Earth for All: A Survival Guide for Humanity』が9月に発表されました。本レポートは、持続可能な未来への変革を促す国際イニシアチブ「Earth for All(万人のための地球)」*が中心となりまとめたもので、新たなシステムダイナミクスモデルをもとに、プラネタリーバウンダリーの範囲内で持続可能な社会経済のパラダイムを追求する具体的な道筋を示しています。
「小出し手遅れ(Too Little Too Late)」、「大きな飛躍(Giant Leap)」の2つのシナリオをもとに、2030年、そして2050年以降の世界の姿を描き出し、貧困、不平等、女性のエンパワメント、食料、エネルギーの5つの分野で今すぐに取り組むべき課題、そして具体的な解決策を明らかにするとともに、背景にある社会経済システムそのものの「劇的な方向転換」を促しています。深刻化する気候変動や生物多様性の喪失、そしてウクライナ侵攻に伴うエネルギー・食料危機等、地球規模の様々な脅威に直面する私たちが、持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みを加速させ、その先の持続可能な未来に向けた歩みを確実なものにするための有益な指針を与えてくれます。既に発表されている英語版、ドイツ語版に加え、日本語版、中国語版、韓国語版、イタリア語版での出版が予定されています。
IGES翻訳による本レポートの日本語版『Earth for All 万人のための地球 『成長の限界』から50年 ローマクラブ新レポート』は丸善出版より2022年11月30日に刊行予定です。IGESでは、2022年11月28日にパシフィコ横浜で開催する「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2022)」において、日本語翻訳版出版記念の公開セッションを行うとともに、来場者を対象に本書を特別価格にて先行販売します。
ISAP2022についてはこちら
*国際イニシアチブ「Earth for All(万人のための地球)」:ローマクラブ、ポツダム気候影響研究所、ストックホルム・レジリエンス・センター、BIノルウェー・ビジネス・スクールの協働により、2020年に開始された国際イニシアチブ。経済学、哲学、政治学、自然科学等様々な分野の専門家から構成される国際研究チームが、新たに開発したシステムダイナミクスモデル「Earth4All」をもとに、貧困、不平等、ジェンダー、食料、エネルギーに関する大転換、そしてそれらを統合した社会経済システム全体の変革に向けた提言を発信しています。
50年前、『成長の限界』は、人口と産業の成長が人類を崩壊の崖に向かって押しやっていることを示し、世界に衝撃を与えた。その警告にもかかわらず、世界は崩壊に向かって進み、今日、様々な危機に直面している。すでに複数のプラネタリ―バウンダリーをこえているほか、貧困やジェンダーなど多くのソーシャルバウンダリ―が満たされず、広範な不平等が社会に深刻な不安定さをもたらしている。それらに効果的に対処する方法はないように見える。
本書は、この絶望に対する解決策の提案であり、より良い未来へのロードマップを提供するものである。最先端のコンピュータモデルをもとに、大多数の人々に最大のウェルビーイングをもたらす可能性が高い政策を探求している。ヨルゲン・ランダースやヨハン・ロックストロームらが主著者となり、世界の著名な科学者と経済学者から構成される「変革のための経済学委員会(Transformational Economics Commission)」による助言をもとにまとめられた。
本書の最も大きなメッセージは、「成長の限界」から「プラネタリーバウンダリー」へである。人類の未来に関する2つのシナリオを作成・分析し、一世代で実施可能な、すべての人に繁栄をもたらす 「5 つの劇的な方向転換(five extraordinary turnarounds)」を提案している。概要は以下の通りである。
- ウェルビーイングの低下と社会的緊張の高まりが社会の崩壊リスクを高めることを示す新しいグローバルモデリングの結果を提示している。具体的には、「平均ウェルビーイング指数(Average Wellbeing Index)」と「社会的緊張指数(Social Tension Index)」を導入し、それらを使って以下の2つのシナリオにおける人類の未来を検証している。
- 「小出し手遅れ(Too Little Too Late)」 と 「大きな飛躍(Giant Leap)」という2 つの対照的なシナリオが、私たちの未来にとって何を意味するかを明確に示している。「小出し手遅れ」シナリオとは、基本的に現状なりゆきシナリオ(BAU)であり、「大きな飛躍」シナリオとは、5つの劇的な方向転換をベースに、プラネタリーバウンダリーの範囲内で人類のウェルビーイングの最大化を目指すシナリオである。
- 「小出し手遅れ」シナリオの下では、気候変動に効果的に対応できず、2100年には地球の平均気温は2.5℃以上上昇する。多様性など自然に対する影響は極めて大きくなり、気候などの異常事態がニューノーマル(新しい常態)となる。国内外の不平等は増大し続ける。それでも一人当たりのGDP(国内総生産)は増大し、今世紀末には一人当たり1万ドルのレベルに達する。人口は90億人をこえたレベルでピークを迎える。政府は異常事態に対応するだけで精一杯となり、社会的緊張は増大し、幾つかの社会が崩壊し、小さな国に分裂していく。
- 一方、「大きな飛躍」シナリオの下では、今世紀後半には人口が減少に転じ、2100年には2000年と同レベルの60億人程度になる。この人口の安定化は、再エネ・再生型農業の推進や過剰消費の削減などと相まって、自然資源にかかる圧力の大幅な低減を実現する。温室効果ガス排出量は2050年代には約90%削減され、地球の気温上昇を世紀末には1.5℃程度まで戻す見通しが立っている。社会的緊張は減少し、 ウェルビーイングが向上する。国民は政府への信頼を取り戻し、極度の貧困は解消される。
- 5つの劇的な方向転換とは、2050 年までに「貧困」と「不平等」を覆し、「疎外された人々」をエンパワーし、「食料」と「エネルギー」の変革を進めることであり、この5つのシステムを方向転換する具体的な政策を以下の通り提案している。
- 「貧困」に関しては、国際通貨基金(IMF)や貿易構造の変革、技術へのアクセスの向上(世界貿易機関(WTO)の「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」に関する検討)を提唱している。
- 「不平等」に関しては、上位10%の富裕層と下位40%の貧困層の所得が同じになるように富裕税などを検討するとともに、自然資源への課税を市民に配分する「普遍的基礎配当(universal basic dividend)」の導入などを提案している。
- 「疎外された人々のエンパワメント」に関しては、ジェンダー平等を核に、教育の抜本的改革、ユニバーサルヘルスケアの実現、「普遍的基礎配当」の導入などが提案されている。
- 「食料」に関しては、再生型農業や持続的集約化による農地の非拡大や食生活の抜本的改善などが提案されている。
- 「エネルギー」に関しては、徹底的な効率化と電化、さらに太陽・風力・バッテリーによる再エネの指数関数的推進(炭素の法則)により、世紀末には気候ポジティブの世界の実現が見通されている。
- 上記の5つの劇的な方向転換は、現在のレンティア(不労所得)資本主義を、「人新世」にふさわしい、すべての人々と地球のために機能する経済に再構成することである。それには、金融における短期主義を克服し、政府の役割を強化することにより、金融システムを抜本的に変革する必要がある。また、「普遍的基礎配当」のように、あらゆる共有コモンズ(生産的・自然的・知的・社会的コモンズ)の利用に課金を行い、市民ファンドを通じて、それを市民に還元するシステムを導入することにより実現できる。
サンドリン・ディクソン‐デクレーブ Sandrine Dixson-Declève
ローマクラブの共同会長であり、30年以上にわたり、気候変動、持続可能性、イノベーション、そしてエネルギーの各分野で主導的役割を果たしている。GreenBiz誌において、低炭素経済への変革を推進する最も影響力のある女性30人のひとりに選ばれている。政策アドバイザー、ファシリテーター、TEDスピーカー、教師としても活躍。著書に『Quel Monde Pour Demain?』がある。
オーウェン・ガフニー Owen Gaffney
チェンジメーカー、戦略立案者、作家、映画製作者であり、また、ストックホルム・レジリエンス・センターおよびポツダム気候影響研究所で、 地球の持続性に関するアナリストを務めている。Exponential Roadmap Initiativeの共同創設者であり、BBC、Netflix、TED、世界自然保護基金(WWF)および世界経済フォーラムなどによる、 マルチメディアやドキュメンタリーの執筆、制作、助言を行っている。
ジャヤティ・ゴーシュ Jayati Ghosh
国際的に著名な開発経済学者であり、マサチューセッツ州立大学の教授を務めている。19の著書(編書を含む)と200本近くの学術論文を執筆し、国内外でいくつかの賞を受賞。数多くの国際委員会で委員を務めるほか、多様なメディアへ定期的に寄稿している。
ヨルゲン・ランダース Jorgen Randers
BIノルウェー・ビジネス・スクールの名誉教授(気候戦略分野)である。経済、環境そして人類のウェルビーイングが交差する部分の研究に関する世界の第一人者であり、1972年に発表された『The Limits to Growth(成長の限界)』、そして30年後の続編『Limits to Growth: The 30-Year Update(成長の限界 人類の選択)』の共同執筆者である。著書に『2052: A Global Forecast for the Next Forty Years (2052:今後40年のグローバル予測)』、共著に『Reinventing Prosperity』、『Transformation Is Feasible!』がある。
ヨハン・ロックストローム Johan Rockström
ポツダム気候影響研究所長である。「プラネタリーバウンダリー(planetary boundaries)」の枠組みを提唱した科学者の研究チームを主導。TEDでの講演は500万回以上再生されている。ロックストロームの主導する「プラネタリーバウンダリー」は、デビッド・アッテンボローがナレーションを務めたNetflixのドキュメンタリー「Breaking Boundaries(地球の限界:“私たちの地球”の科学)」の主題となっている。
ピア・エスペン・ストックネス Per Espen Stoknes
BIノルウェー・ビジネス・スクールの持続可能性・エネルギーセンターを率いている。TEDスピーカーであり、ノルウェー議会議員(2017年~2018年)を務めたほか、クリーンエネルギー企業を共同で設立。著書に『Tomorrow’s Economy』、『What We Think About When We Try Not to Think About Global Warming』等がある。
日本語翻訳版への推薦の言葉
山極 壽一 様 総合地球環境学研究所所長
西澤 敬二 様 損害保険ジャパン株式会社 取締役会長
石井 菜穂子 様 東京大学理事、未来ビジョン研究センター教授、グローバル・コモンズ・センター ダイレクター
原著への推薦の言葉
ケイト・ラワース 様 『ドーナツ経済』著者
マティース・ワケナゲル 様 グローバル・フットプリント・ネットワーク創設者 『エコロジカル・フットプリント』共著者
ビル・マッキベン 様 『自然の終焉』著者
リチャード・ハインバーグ 様 ポストカーボン研究所 上級研究者 『Power: Limits and Prospects for Human Survival』著者
パン・ギムン(潘基文) 様 第8代国連事務総長 エルダーズ 副代表
トマ・ピケティ 様 『21世紀の資本』『A Brief History of Equality』著者
ヴァネッサ・ナカテ 様 環境活動家 アフリカを拠点とする「Rise Up Movement」創設者
クミ・ナイドゥ 様 「Africans Rising for Justice, Peace, and Dignity」グローバルアンバサダー
シャラン・バロウ 様 国際労働組合総連合(ITUC)書記長
ロバート・コスタンザ 様 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL) グローバル繁栄研究所(IGP) 生態経済学 教授
ジョン・エルキントン 様 ヴォランズ 創業者兼チーフポーリネーター 『Green Swans: The Coming Boom In Regenerative Capitalism』著者
エマニュエル・ファベール 様 Earth4All メンバー 21世紀変革のための経済学委員会
ニモ・バッセイ 様 『To Cook a Continent: Destructive Extraction and the Climate Crisis in Africa』著者
シーラ・パテル 様 ムンバイ Society for Promotion of Area Resource Centres(SPARC) 創設者兼ディレクター
ケイト・ピケット 様 ヨーク大学 疫学教授
ジャネス・ポトクニック 様 元欧州委員会環境担当委員 元スロベニア欧州担当大臣 国連環境計画国際資源パネル(UNEP-IRP)共同議長
デビッド・コーテン 様 『グローバル経済という怪物:人間不在の世界から市民社会の復権へ』『ポスト大企業の世界: 貨幣中心の市場経済から人間中心の社会へ』『Change the Story, Change the Future: A Living Economy for a Living Earth』著者
ローマン・クルツナリック 様 『グッド・アンセスター: わたしたちは「よき祖先」になれるか』著者
カルロタ・ペレス 様 『Technological Revolutions and Financial Capital』著者
アンディ・ヘインズ 様 ロンドン大学衛生熱帯医学大学院 環境変動学及び公衆衛生学 教授
アシッシュ・コタリ 様 カルパブリクシュ及びグローバル・タペストリー・オブ・オルタナティブズ 『Pluriverse』共同編集者
ロレンツォ・フィオラモンティ 様 『The World After GDP: Economics, Politics and International Relations in the Post-Growth Era』著者、イタリア議会議員
Jane Kabubo-Mariara 様 アフリカ生態経済学会 会長
エルンスト・フォン・ヴァイツゼッカー 様 ローマクラブ名誉会長
ガヤ・ハリントン 様 シュナイダーエレクトリック社 ESGリサーチ担当バイスプレジデント
ダグ・ヘスク 様 Newday Impact Investing創設者
チャールズ・アンダーソン 様 国連環境計画・金融イニシアティブ 元ディレクター CO2eco 会長
石井 菜穂子 様 東京大学教授,理事/地球環境ファシリティ(GEF)元CEO
テレサ・リベラ 様 スペイン政府 副首相兼環境移行・人口問題大臣
Jinfeng Zhou 様 中国生物多様性保護及び緑色発展基金会 事務局長
チャンドラン・ナイ―ル 様 『Dismantling Global White Privilege: Equity for a Post-Western World』著者
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第1章 万人のための地球:健全な惑星で世界的な公正を実現するための5つの劇的な方向転換
- ブレークダウンかブレークスルーか?
- 未来シナリオの来歴
- 「成長の限界」から「プラネタリーバウンダリー」へ
- 「万人のための地球」構想
- 経済システムの変革への人々の支持
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第2章 「小出し手遅れ」か「大きな飛躍」か:2つのシナリオの検討
- 1980年から2020年までの簡潔なレビュー
- シナリオ1:「小出し手遅れ」シナリオ
- シナリオ2:「大きな飛躍」シナリオ
- 私たちは協働してどのようなシナリオを創っていくのか?
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第3章 貧困との訣別
- 私たちの現在の問題は何か?
- 貧困の方向転換:課題への挑戦
- 解決策1:政策策定範囲の拡大と債務への対応
- 解決策2:金融構造を変革する
- 解決策3:世界貿易を変革する
- 解決策4:技術へのアクセスの改善と技術のリープフロッグ
- 解決策を阻むもの
- 結論:貧困の方向転換
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第4章 不平等の方向転換:「配当の共有」
- 経済的不平等の問題点
- より大きな公平性に向けた大きな飛躍
- 平等のレバーの障壁を克服するために
- 結論
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第5章 エンパワメントの方向転換:「ジェンダー平等の実現」
- 人口
- すべてを方向転換させる
- 教育を変革する
- 経済的自立とリーダーシップ
- 安心できる年金と尊厳ある老後
- 結論
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第6章 食の方向転換:食料システムを人間と地球の健康に寄与するものにする
- 地球の生物圏の消費
- 解決策1:農業に革命を起こす
- 解決策2:食生活を変える
- 解決策3:食料のロスと廃棄をなくす
- 障壁
- 結論
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第7章 エネルギーの方向転換:「すべてを電化する」
- 課題
- 上を見ないで
- 解決策1:システム効率化の導入
- 解決策2:(ほとんど)すべてを電化する
- 解決策3:新たな再エネの指数関数的な成長
- Earth4Allの分析に見るエネルギーの方向転換
- 障壁
- 結論
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第8章 「勝者総取り」資本主義からEarth4All経済へ
- 新たな経済運営システム
- レンティア資本主義の台頭
- 人新世におけるコモンズの再考
- 従来型の経済のゲームボード
- ゲームボードを描き直す
- 短期主義:寄生的な金融システムへの道
- システムチェンジの具体化
- システムの失敗を解決する
- 結論
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第9章 今こそ行動を
- 「万人のための地球」は思ったよりも近くにあるか?
- 湧き上がる声
関連リンク
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持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2022)
https://isap.iges.or.jp/2022/jp/index.html -
ローマクラブ
https://www.clubofrome.org/
https://www.clubofrome.org/publication/earth4all-book/ -
国際イニシアチブ「Earth for All(万人のための地球)」
https://www.earth4all.life/ -
英語版(2022年9月発行)
https://newsociety.com/books/e/earth-for-all?_ga=2.106872579.1472132717… -
ドイツ語版(2022年9月発行)
https://www.oekom.de/buch/earth-for-all-9783962383879 -
ヨハン・ロックストローム他著『小さな地球の大きな世界:プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』(丸善出版)
https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b302784.html -
IGES日本語で読むシリーズ
https://www.iges.or.jp/en/projects/20191015