研究員の視点:家庭ごみの価値に着目した循環資源リサイクルルートのポテンシャルと課題―ベトナム・ダナン市での3R活動パイロットプロジェクト支援および全市展開事例から―

2019年7月1日

ベトナム・ダナンでの国際協力プロジェクト ー観光都市とスマートシティとしての成長の裏で

国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業として、2017年度よりIGESは横浜市と共同で、ベトナム第3の都市・ダナンで、廃棄物削減に向け、家庭ごみから循環資源を分別するパイロットプロジェクトを支援してきました。

草の根技術協力事業とは、日本のNGOや地方自治体、大学、民間企業などの知見や経験を活かした国際協力を、JICAが支援し共同事業として実施する取り組みです。IGESは横浜市とともに技術協力に携わり、プロジェクトの全体管理と技術支援で主導的な役割を果たしています。

ダナン市の人口は124万人。世界遺産に登録されたフエ市、ホイアン市に隣接する立地を活かし、ITやサービス産業の誘致を進めており、都市として急速な発展を見せつつあります。それに伴い、2007年には年間19.7万トンだった固形廃棄物の発生量も、2014年には年間27.8万トンと急増しています。

途上国では、熱回収の受け皿となる産業も限定的であることから、廃棄物は埋め立て処分されるのが一般的です。このため、最終処分場のひっ迫や不適切な処理による環境汚染が懸念されています。また、循環型社会形成に向けた3R(Reduce: 廃棄物となりうるものを減らす、使わない、Reuse:捨てずに繰り返し使う、Recycling:資源としてリサイクルする)のうち、Reuseについてはある程度実践されているものの、Reduce、すなわち「減らす」活動は物質的に豊かになるスピードに追いついていません。Recyclingは、前提となる正規のリサイクルルートが未確立で、市中の小規模零細回収業者など非公式な市場に依存している場合が多く、行政が循環資源の回収・リサイクルの実情を把握し、適切な対策を取るうえでの阻害要因となりがちです。

したがって、本プロジェクトでは、有価物(換金価値のある不要物)のフローに着目し、廃棄物収集・処理プロセスから有価物となる循環資源を抽出しリサイクルにつなげ、最終処分される廃棄物を減らすことを目的に家庭ごみの分別推進を支援しました。具体的には、市の行政・商業の中心であるハイチャウ地区と、その隣接区として開発が進みつつも昔ながらの地域性が残るタンケ地区で、ビン、カン、紙、ペットボトル、プラスチックなど有価でリサイクル可能な資源について、分別のためのガイドラインを作成しました。加えて、ダナン市や各地区の人民委員会および女性組合などのコミュニティとも連携し、各家庭で分別した循環資源を保管・回収するためのバッグを作成するなどして、住民参加を促進しました。このほか、これらのコミュニティメンバーを横浜市に招聘し、横浜市の3R推進計画である「ヨコハマG30/3R夢(スリム)プラン」実施にあたっての市民や事業者との連携経験を共有する研修など、包括的な支援を行いました。

ダナン全域に広がる分別活動

その結果、本プロジェクトには対象地区住民の8割超が参加しました。ハイチャウ区のモデル地区では、6か月間で199回もの収集活動が実施され、古紙2トン、廃プラスチック1.3トン、アルミニウム缶2.6万個が集まりました。大まかな推計ではありますが、これはダナン市全体で回収されている有価物量の約2%に相当します。実施地区の全市に占める人口比が0.1%未満であることを考えればかなりの量が集まったと言えるでしょう。これを受けて、ダナン市は、2019年4月に「2025年までのダナン市における発生源での生活固形廃棄物分別計画」を承認・交付し、こうした分別活動の全市展開を行うことにしました。市は、現在約2%と推計されている市内のリサイクル率を2020年には少なくとも12%、2025年には15%まで引き上げるとの目標を掲げています。

IGESは実施にあたってのアプローチを広く発案・助言しました。「家庭ごみ」と一括りにされてきた廃棄物に含まれる有価物を明確にし、分別することでジャンクショップなどの有価物回収業者へと流れる量を増加させ、最終処分対象量の減少を目指したのは独自性の高い手法だと言えます。また、この活動を通じて、非公式なリサイクルルートを把握することにも成功しました。途上国の場合、行政がただちに正規のリサイクルルートを整備し、機能させることは必ずしも現実的ではないため、こうしたインフォーマルかつ地域に根ざしたリサイクルルートを特定し、適切に連携することで、3R活動の改善につなげられると考えられます。さらに、各コミュニティの有価物の売上金は、それぞれのコミュニティ内の貧困家庭に教材を補助するなど奨学金として活用されています。これは、国連持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任つかう責任」のほか目標1「貧困をなくそう」および4「質の高い教育をみんなに」などの共便益にも貢献した好事例であり、ベトナム全土だけでなく、他の東南アジア諸国のモデルとなることが期待できます。

ジャンクショップの先のルート整備の必要性

本年より家庭ごみ分別の全市展開が行われることで、循環資源の回収量増加が見込まれます。したがって、今後はいかにリサイクルルートを環境上適正なものとして構築・改善していくかが課題となるでしょう。 現在、ダナン市では家庭から排出された循環資源は主に、①その他の廃棄物と混合された状態で各世帯から行政の収集サービス経由で回収後、最終埋め立て処分場に投棄、②各世帯が個別にジャンクショップに持ち込み、③コミュニティで回収後、ジャンクショップへ持ち込み、④ダナン都市環境公社(URENCO)による回収後、ジャンクショップへ持ち込み、の4ルートをたどっています。つまり、ジャンクショップが果たす役割が大きい一方、それ以降のリサイクルルートについては不透明となっています。企業規模的にも自主的な安全性や環境配慮を期待することが難しい中で、ジャンクショップのあり方そのものの改善が求められます。あわせて、ジャンクショップなどで分別回収された循環資源をその先で受け入れる適正なリサイクル設備や産業の整備が極めて重要です。投資対効果を懸念する声もあるかと思いますが、現在、世界的に海洋プラスチック問題が大きな論議を巻き起こしています。南シナ海に面した観光地として、環境だけでなく経済的側面からもそれらの整備に優先的に取り組み、廃棄物管理を、そして都市としての歩みを「次のステージ」に進めていただきたいと思います。