クアラルンプール(KL)市は2020年に、他の開発途上国の都市に先駆けて「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言しました。KL市と東京都は2019年から都市間連携を開始し、KL市のカーボンニュートラル実現を支援してきました。また、昨年には脱炭素先行地域にも選ばれたさいたま市もこの連携に加わりました。この関係をもとに、東京都とさいたま市はそれぞれの政策と最新の取り組み事例をKL市に提供しています。
KL市は北東部のワンサマジュ地区を2050年カーボンニュートラル実現の先行実証地として位置づけ、「ワンサマジュ・カーボンニュートラル成長センター」とすることを宣言しました。現在、この地区で「低炭素型建築物」、「低炭素型モビリティ」、「ネイチャーポジティブ」の実証プロジェクトを進めています。
本会議では、参加自治体からのカーボンニュートラルに向けた取り組みや今後の連携可能性についての発表、マレーシア持続可能エネルギー開発庁・ASEAN事務局、JICAマレーシア事務所、マレーシア日本人商工会議所、ジェトロ・クアラルンプール事務所ら支援機関からマレーシアやASEANにおける脱炭素活動の動向についての報告、KL市・東京都・さいたま市の連携への期待や協力可能性についての意見交換を行いました。
イベントの詳細
クアラルンプール市庁舎ビルの会場とオンライン接続
発表資料
11:30-11:45 | 開会挨拶 |
Nor-FAJARIAH-binti-Sulaiman KL市 都市計画部ディレクター(KL市長に代わって)
カマルザマン市長に代わって、さいたま市、東京都とのこれまでの連携への感謝を述べ、KL市が2050年までにカーボンニュートラルを目指してスマートシティとなる事、そして継続して共に協力する事を示した。 |
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歓迎挨拶 |
松澤 裕 環境省 地球環境審議官(オンライン)
気候変動対策における都市の重要性を強調。日本国環境省として国内では脱炭素先行地域100か所、国外ではKL市やイスカンダル・マレーシアが参加する都市間連携事業の二つの支援事業を紹介した。後者は都市課題を包括的に解決するClean Cities Partnership Program (C2P2)の中核事業。さいたま市、東京都とKL市の知見共有による成果に期待を示した。 |
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小池 百合子 東京都知事(ビデオレター)
KL市が2050年カーボンニュートラルを見据えるなか、東京都が進める2030年にはカーボンハーフ、2050年にはゼロエミッションを達成するための計画を紹介した。引き続きKL市と、そして昨年から加わったさいたま市とともに脱炭素社会の実現に向けて協力することを確認した。 |
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髙橋 克彦 駐マレーシア日本国大使
さいたま市 清水市長が(基調講演で)紹介する脱炭素関連の事例、そして東京都の事例を積極的に活用するようKL市に呼びかけた。Look East Policy 40周年だった昨年、「脱炭素」は二国間協力の有望なテーマの一つとして取り上げられた。この三都市の連携が「脱炭素の分野」における二国間の協力の推進力となることへの期待を示した。 |
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写真撮影 | |||
11:45-12:30 | カーボンニュートラルに向けた取組・今後のさらなる連携可能性について参画自治体より発表 | ||
基調講演 |
清水 勇人 さいたま市長
G7コミュニケが「都市の変革の力」を強調したように、都市の役割はさらに重要性を増している。さいたま市の試みを幾つか紹介した。技術ソリューションを複合的に組み合わせた高性能な住宅群「スマートホーム・コミュニティ」の特徴を説明。次に、ごみ収集車の動力源としてごみの焼却炉の熱エネルギーを使うサーキュラーエコノミーの事例を紹介。そして、ウオーカブルシティの一環として市内最寄り駅から自宅までのラストワンマイルをつなげる電動型の自転車やEV車のシェアリングサービスを紹介した。 |
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発表 |
YBhg. Dato Hamzah Bin Hussin マレーシア持続可能エネルギー開発庁(SEDA)CEO
「再生可能エネルギー戦略開発ロードマップ」が発表されて以来、たくさんの問合せがあり関心の高さが伺える。マレーシア政府はエネルギーミックスにおける再エネ比率を段階的に上げていくことを表明している。マレーシアの再エネ市場への期待感はIRENAのMalaysia Energy Transition Outlook (今年3月発行)に提示されたRE市場規模や概況説明によって増大した感もある。 |
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Nik Mohammed FAIZAL Bin Nik Ali KL市プロジェクト及びビルメンテナンス部 チーフ・アシスタント・ディレクター
KL市は東京都とは気候変動対策のC40アワード(C40 Cities Bloomberg Philanthropies Awards)を共に受賞し、さいたま市との連携からはマイクログリッドや盆栽等の特殊技術の知見への期待を示した。また、KL市がソーラーPVの公共施設への敷設、ごみのリサイクル活動の普及啓発、EVバスやカーフリーゾーンの導入等、脱炭素につながる活動を率先してワンサマジュ・カーボンニュートラル成長センターで実施してきたことを紹介した。 |
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千葉 稔子 東京都環境局 地球エネルギー部 気候変動対策専門課長(オンライン)
東京都の脱炭素に向けた目標やアクションそしてKL市とのこれまでの連携について説明した。都が新築住宅を供給するハウスメーカー等に屋根へのソーラーPVの設置と高断熱化を義務付ける条例の2025年の施行に向けて忙しく対応していることが紹介された。KL市、さいたま市と東京都の三者で今後一層脱炭素に向けて協力する意欲を示した。 |
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小川 尚信 (株) 高砂建設 取締役 設計部長
高砂建設の商品の特徴である高気密・高断熱工法や木造建材の良さを紹介した。まず気密性と断熱性能を高めることで、使用するエネルギーを抑えた生活が送れることを説明。次に、木造建材を使えば、海外から輸送する場合に比べ、排出する二酸化炭素が少なくなり、木を伐採すると同時に植林をして森を維持する機能もあることを説明した。 |
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モデレーター | Chin Siong HO 教授(UTM) | ||
藤野 純一 上席研究員(IGES)
清水市長の熱のこもった基調講演に感謝の意を述べ、著名な他の登壇者を紹介。 |
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12:30-12:55 | マレーシアやASEANにおける脱炭素活動の動向 | ||
菅原 美奈子 独立行政法人 国際協力機構(JICA)マレーシア事務所 所長
かつてJICA・SATREPS事業(実施期間2011~2016年)において作成された「Low Carbon Society Blueprint for Iskandar Malaysia 2025」がひな型となって、今ではKL市版や他のマレーシア都市の低炭素シナリオが実在することを取り上げ、その中心的役割を担ったマレーシア工科大学への感謝を述べた。JICAは、マレーシア天然資源・環境・気候変動省(NRECC) が「気候行動と支援の透明性」に努めるにあたって、同省を人材育成の観点から支援していく事を説明した。 |
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小野澤 麻衣 ジェトロ・クアラルンプール事務所長
マレーシア政府が2050年カーボンニュートラル達成に向けてロードマップを幾つも発表する中、同国が脱炭素技術や製品の市場として有望視され、協業への関心が日本とマレーシアの双方で高まり、ジェトロへの問い合わせが増えている事を紹介した。ジェトロは個別マッチングや日本での商談会への参加支援等を実施する。 |
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澤村 剛朗 マレーシア日本人商工会議所 会頭(オンライン)
KL市、さいたま市と東京都の連携が、脱炭素技術の導入を目指した実施フェーズに入るにあたって、JACTIMとしても建築やエンジニアリング関連の会員企業に本事業の情報を共有する事で支援する意向を表明した。マレーシア政府が「エネルギー移行ロードマップ(NETR)」や「水素経済技術ロードマップ(HETR)」を発表しており、E&Eは同国の成長のエンジンとして有望な分野であると説明した。 |
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会場からのコメント | |||
モデレーター |
Loon Wai CHAU 上席講師(UTM)
JICA、JETROそしてJACTIMから、マレーシアやASEANにおけるカーボンニュートラル関連事業の支援策と協力の可能性について発表いただくことを紹介。 |
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中野 綾子 リサーチマネジャー(IGES)
JICA、JETROそしてJACTIMにマレーシアがカーボンニュートラルに向けて高いコミットメントを有する事を紹介いただいた事、各機関の協力への強い意志に謝意を示した。 |
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12:55-13:00 | 閉会挨拶 |
Chin Siong HO 教授(UTM)
KL市長と市の職員に、これまでの活動への感謝を示すとともに、今後も活動の幅を拡大しながら連携を支援し、KL市や他のアジア都市や新しいパートナーと共に2050年までに脱炭素社会を実現できるように協力していく事を示した。 |
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武内 和彦 地球環境戦略研究機関(IGES) 理事長(オンライン)
KL市、東京都、さいたま市の今回の連携が、気候変動対策とSDGsの両方に成果をもたらす世界でも先進的な事例であると説明した。 IGESは、2050年までに二酸化炭素排出量ゼロを達成するため、野心を高め、地域の気候変動対策を推進する方々の努力を引き続き支援していくことを宣言した。 |