第4回国連環境総会(UNEA4)報告 交渉をめぐる論点と世界の環境議会への道筋

2019年4月9日

 

2019年3月11日から15日にかけて、ケニア・ナイロビにおいて「第4回国連環境総会(UNEA4)」が開催された。マクロン仏大統領やケニアのケニヤッタ大統領をはじめ、世界約160ヶ国及び関係国際機関の代表が参加し、その他、179ヶ国から約5,000人が参加した。実際のUNEA4で採択された決議案の交渉は、UNEA4に先立って開催されたオープンエンディッド常任代表委員会(OECPR)で開始され、UNEA4期間中も継続された。国連環境総会は原則、隔年で開催され、今回は4度目となる。今般は、OECPRと連続する形で開催され、2週間にわたる長丁場となり、例年に比べ決議の数も多かったため、連日にわたり交渉が夜遅くまで続いた。

 

UNEAは、2012年に開催されたリオ+20でUNEP(国連環境計画)の管理理事会を強化することが決まり、すべての国連加盟国をメンバーとする環境総会となったわけであるが、設立当初にアキム・シュタイナー事務局長(当時)が述べたように、「世界の環境議会(the world’s parliament on the environment)」として想定された重要な役割を果たしているか、2週間の交渉に参加した報告と合わせて考察したい。

 

今回のUNEA4では、閣僚宣言のほか、日本・ノルウェー・スリランカの共同提案に基づく海洋プラスチックごみおよびマイクロプラスチックや、持続可能な消費と生産、生物多様性とエコシステム、ジオエンジニアリングに関する決議など、計23本の決議が採択された。森林破壊と農村物サプライチェーンに関する決議案なども提案されていたが、一部の途上国が、農業が森林破壊の唯一の原因ではないこと、パーム油や大豆など特定の農産物への言及が不公平であることなどから強く反発し、採択には至らなかった。ジオエンジニアリングに関する決議案は、提案国であるスイスと米国をはじめとする他国との間で折り合いがつかず、採択されなかった。

 

前回のUNEA3で閣僚宣言と11本の決議が採択された*1のと比較して、採択された決議の数は増えた。しかしUNEA3で設置が決まった海洋プラスチックごみおよびマイクロプラスチックに対処するための専門家グループ会合の成果についても一部の国から不満が表明されており、決議案の数の増加が望ましい結果であるとの結論を出すには、過去の決議案のフォローアップと実施状況を分析し適切な評価をすることが必要である。

 

今回の交渉では、世界的な関心の高まりを受けて、海洋プラスチックごみが最も話題を呼んだトピックであった。インドが非常に野心的な使い捨てプラスチックの決議案を提案し、閣僚宣言の交渉においても、2025年までにフェーズアウト(段階的な排除)という文言にこだわった。背景には、昨年インドの首相が2022年までに国内のすべての使い捨てプラスチックを排除すると宣言したことがある。欧州は全般的にこの文言を支持したが、一方で、米国を含む一部の国が、実施の難しさから慎重な姿勢を取り、最終的には、「使い捨てプラスチック製品を2030年までに大幅に削減」という文言で落ち着いた。しかし、米国は、この文言にも満足せず、海洋プラスチックごみの大半は①アジアの6ヵ国から排出されている、②これらの6ヵ国における廃棄物管理改善を通じて大幅に削減可能である、③海ごみプラスチックごみの課題を解決する道筋が多数存在する中でこの文言は規範的過ぎる(too prescriptive)と採択時にコメントして、この文言から離脱(dissociate)すると表明した。

 

日本、ノルウェー、スリランカが共同提案した「海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチック」に関する決議では、①既存の機関を活用した科学技術助言メカニズムなどによる科学的基盤の強化、②多様な主体による行動強化のためのマルチステークホルダープラットフォームの新設、③2年後のUNEA5に向けた公開特別専門家会合による国際的な取組の進捗レビューおよび対策オプションの分析の3点が決定された。海洋プラスチックごみ対策において、科学的基盤の強化の必要については、多くの国が賛同するところではあるが、その実施方法においては、各国で意見の食い違いが見られた。特にノルウェーなどは国際的なガバナンスの強化を訴えた一方で、一部の国はUNEA3を経て設置された海洋プラスチックごみおよびマイクロプラスチック問題専門家会合のパフォーマンスがきわめて低かったと判断し、国際的な実施やガバナンスを強化するよりも、国家レベルで民間企業や研究所などのマルチステークホルダーの行動を促すべきとのスタンスであった。

 

「科学技術助言メカニズム」や、「マルチステークホルダープラットフォーム」、「公開特別専門家会合」など、これらの組織を多国間で実際に設置し運用することは、過去の類似経験からすると、名称と想定される役割は異なるとはいえ、重複を生み、政治的な硬化を招く可能性が考えられる。一方で、ノルウェーなどは海洋プラスチックごみを管理する国際的なガバナンスのシステムの不在を問題視しており、次回のUNEA5で再度、UNEPや国連の役割を縮小したい米国と国際的なガバナンスを重視するノルウェーをはじめとする国々の攻防が見られると推察される。UNEA5は、ノルウェーの大臣が議長を務める予定であり、今回よりも若干ではあるが、プラスチック管理の国際的なガバナンスを強化したい国々に有利な展開になるかもしれない。

 

一方、「使い捨てプラスチック」の定義についても明確な合意があるとは言えない。例えば、私たちがスーパーで買い物をしたときに受け取るレジ袋を再度家庭用ごみ袋として使用すれば使い捨てではないと言えるのか。実際、カリフォルニアでレジ袋を禁止した際には、ゴミ袋の使用量が増えて、全体的なプラスチックの廃棄量が増えたとの研究もある*2

 

昨年9月、日本では、プラスチック廃棄物に対する科学的知見の集積や、アジア諸国での管理向上など、化学業界全体での対応を加速することを目的として、海洋プラスチック問題対応協議会(JaIME)が設置された。海外では、同様の目的のために、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)がエンド・オブ・プラスチック・ウェイスト(AEPW)を立ち上げ、1500億円規模の基金設立を目指している。クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)も、海洋プラスチックごみ問題の解決に向け、プラスチック製品の持続可能な使用や代替素材の開発・導入を推進し、イノベーションを加速させるため立ち上げられ、159もの企業・団体が参加している(2019年1月11日時点)。

 

以上のように、海洋プラスチックごみの対策を目的とするイニシアチブは国内外問わず、自主的に民間主導で進められている。国連は政府主導ゆえに政治情勢を受けやすく、南北対立や地域ブロックで対立し、本筋と離れたところで合意に至ることが困難になることも多いため、むしろこういった民間の自主的なイニシアチブを補完し、サポートするような役割に徹することも得策であると考えられる。特に気候変動に懐疑的かつ国連嫌いで知られるトランプ政権下では、米国代表も自由に前向きな議論ができていないようにも見受けられ、積極的に環境問題に対処しようと努力している他国の足かせとなっている印象もある。また国連のマルチ外交の場では、南北の対立構造が根底にあり、途上国がUNEA 決議を利用して、UNEPやドナーからの経済的・技術的支援を引き出そうとする動きが見られるため、先進国が慎重にならざるを得ない部分もある。こうした国際交渉の行き詰まりを避け、実施を促進させるためにも、SDGsでも掲げられているように、マルチレベル(国際、国や地域レベル)かつ非政府主体を含むマルチステークホルダーによる行動を推進することが肝要である。

 

他方、現状では、UNEAのフォローアップは、前回採択された決議案について各国が意見交換したうえで「留意する(take note)」という形式的なレベルに留まっており、「世界の環境議会(the world’s parliament on the environment)」として効果的に機能するには至っていない。同じく閣僚級で、毎年ニューヨークで開催されるハイレベル政治フォーラム(HLPF)との役割分担や関係も必ずしも明確ではない。関係者間では、UNEA不要論も囁かれるほどだ。一方で、国家首脳をはじめ世界約160ヶ国のハイレベル代表を含め、計5,000人が参加するUNEAの集客力は特筆に値する。また海洋プラスチックやジオエンジニアリングなどの新しいトピックを、先陣を切って世界の環境アジェンダに紹介してきたのもUNEAである。今後のUNEAが付加価値のあるフォーラムとして機能するよう、いかに改善していくかは、何より加盟国自身の努力にかかっている。

 

  • 脚注

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