2019年4月9日
横断的アジェンダとしての持続可能な消費と生産(SCP)
UNEA4では、会合全体のテーマである「環境的課題と持続可能な消費と生産のための革新的な解決策(Innovative Solutions for Environmental Challenges and Sustainable Consumption and Production)」に見られるように、SCPが環境・持続可能性の課題を解決する上で鍵となる横断的なアジェンダとして注目を集めた。SCPは持続可能な開発目標(SDGs)においてもその柱の一つとされている。UNEA議長のSiim Kiisler氏は、SCPは「すべての国々によるSDGs達成のための努力の中核にあるべきである」と述べており、SCPを達成するための革新的な道筋を探すべく協調的な努力を求めた(3月14日ハイレベルセグメント・オープニング)*1。そして、3月15日に採択された閣僚宣言では、「持続不可能な消費・生産パターンを変える」ことが持続可能な開発に必要不可欠であることが再確認され、「革新的な解決策を前進させることで環境的課題に対処し、持続可能な消費と生産を通し、持続可能でレジリエントな社会へ向かう」ことに専念すると宣言された。
本ブリーフィングノートでは、UNEA4におけるSCPに関する議論を採択された決議を踏まえて概観し、循環経済と資源効率、持続可能なインフラ・移動などの横断的な領域、持続可能なライフスタイルへの転換の3つの文脈から整理する。さらに、持続可能なライフスタイルに関する分析の一例として、IGESが2019年2月に出版したライフスタイルと気候変動に関するテクニカル・レポートをUNEAにおけるSCPの位置づけとの関連性を含めて解説する。
SCPに関する決議「持続可能な消費と生産の達成に向けた革新的な道筋」と循環経済
UNEA4では、閣僚宣言に加え、23の決議が採択された。中でも、SCPに関する決議「持続可能な消費と生産の達成に向けた革新的な道筋(Innovative pathways to achieve sustainable consumption and production)」は、循環経済を含むSCPに関する課題や対策を幅広く取り入れ、SCPという横断的アジェンダを総合的に推進することを求めたものとなっている。
本決議は、1) 現在行われている燃料や食を含む資源採取と加工などが、資源の枯渇、生物多様性、気候変動といった課題の主たる原因であるという認識に基づき、2) ライフサイクル分析を含め正確な科学的分析の蓄積を進めつつ、3) 製品デザインの改善(および関連する基準の制定)、資金調達の強化、市場ベースのツールの導入、持続可能なビジネスモデルの創出と展開、持続可能な公共調達の導入、消費者への意識啓発、情報提供(informed choice)の改善など、広範な取り組みの強化を加盟国に要請するものである。また、政策の上位概念としてのSCPの性質を反映し、国の関連計画・施策を決定する際に、資源効率性の向上や循環経済への移行などのSCP達成に向けたアプローチを検討することを各国に奨励するものである。
UNEA4に際し、国際資源パネル(IRP)より報告書「世界資源アウトルック2019(Global Resource Outlook 2019)」が出版された。本報告書は、世界の天然資源の使用状況とそれに伴う環境影響を概観し、モデル分析に基づき、適切な資源効率性政策・持続可能な消費と生産に関する道筋が実現した場合には、天然資源の使用が大きく抑制され、世界全体で相対デカップリング、高所得国では絶対デカップリングが達成されるという予測を示している*2。SCP決議においては、本報告書の分析が歓迎されるとともに、資源採掘、マテリアル・燃料・食料のプロセスが生物多様性の喪失と水ストレスの9割以上、気候変動へのインパクトの約半分をもたらしていることに留意され、これらが国家予算への負担となり、将来の持続可能な開発に影響を及ぼす可能性が認識された。UNEA4においてもIRPに対する分析の依頼が出されていることからも、資源や物質循環などの観点を取り入れたエビデンス・ベースの政策立案と国際的な議論を進めていく必要性が高まっており、今後もIRPをはじめとする科学・政策インターフェース(Science-Policy Interface)を担う機関の役割が増してくるであろう。
SCPとこれを実現するためのアプローチについては、循環経済が一つの大きなキーワードとして議論された。前述したSCP決議は当初、EUや日本などの提案により、循環経済を通じたSCPの実現を趣旨としており、当初はタイトルにも循環経済が含まれていた。しかし、資源効率、循環経済、持続可能な物質管理、3Rなどの概念に関する合意された定義がないとの指摘もあり、交渉では当初、SCP達成のための道筋に関する「哲学的な理解(Philosophical understanding)」を明確にすることを目指す動きがみられたが、最終的には、SCPを横断的なゴールとし、その実現のためには多様な経済モデルが存在しうるという理解で合意された*3。いくつかの国の提案を受けて、最終的にはタイトルから循環経済は削除されたが、循環経済は、資源効率、持続可能な物質管理、3Rと並ぶ、SCP実現へ向けて各国が実施する多様な政策(variety of policies)の一つであり、持続可能な経済モデルの一つ(one of the current sustainable economic models)と位置付けられた。これを踏まえ、閣僚宣言においても、循環経済およびその他の持続可能な経済モデルを通した、ただしこれらに限定されない、SCP推進に関する行動をとることが決定された*4。
このようなUNEA4における議論は、循環経済に舵を切ることがSCPを推進する一つの大きな流れとして欧州をはじめとする多くの国に認識され、これがUNEAという国連の場においても主流化されつつあると理解できるであろう。一方、SCP決議案では「ライフ・サイクル・アプローチ(Life-cycle approaches)」もSCPを達成する手段として認識されており、循環経済以外のアプローチもSCPに資するという理解も示された。こうしたSCPに関連する政策概念には共通点は多い。循環経済がリユース、リマニュファクチャリング、リサイクル、シェアリングなどの手段を強調し、経済モデルの転換を目指す一方で、ライフ・サイクル・アプローチは物質利用の生産性を向上することで廃棄物の発生抑制や環境負荷の低減を目指す概念であり、これらは矛盾するものではなく、むしろ相乗効果をもたらすものではなかろうか。このようなコンセプトの微妙な違いにより行動が遅れることがあってはならず、循環経済への大きな流れを機会としつつ、後述する通り、「循環」の観点から捉えにくいSCPの側面に関しても積極的な政策導入を図っていくことが望ましいであろう。
持続可能なインフラ、移動、食などの幅広い政策分野におけるSCPの重要性
UNEA4では、SCPに関する個別決議以外にも、多くの決議においてSCPが言及されており、条文においては全23決議中の9決議に上った。例えば、フードロスと食品廃棄物削減に関する決議では、サプライチェーンのすべての段階からのフードロス・食品廃棄物の問題に取り組むことと並んで、ステークホルダーと協力して持続可能な消費と生産に取り組むことを各国に呼びかけた。また、持続可能な移動に関する決議では、持続可能な都市と持続可能な移動に関する包括的なアプローチを推進し、適切な場合にはフル・ライフサイクル・アセスメントを含めることによる持続可能な消費と生産へ転換することが奨励された。さらに、持続可能なインフラに関する決議では、持続可能な消費と生産とインフラの関連、特に持続可能なインフラが社会における生産と消費の根本的な変化に有益な影響をもたらすことが認識され、持続可能な消費と生産を確実なものにするために、すべてのインフラに関して持続可能性に関する適切な基準を適用することを奨励するものとなっている。
従来からSCPは、廃棄物や化学物質の適正管理といったエンド・オブ・パイプの汚染対策に始まり、持続可能なサプライチェーンや3Rといった直接的に資源循環やライフサイクルの観点が強調される分野においてその重要性が認識されてきた*5。UNEA4においても、海洋プラスチックごみとマイクロプラスチック、化学物質と廃棄物の適正管理、使い捨てプラスチック汚染対策に関する決議において、持続可能な消費と生産が、特にライフサイクル全般での対策の必要性の観点と、消費者への啓発の観点から言及されている。一方、近年のSCPは、近年は消費者との協働やインフラを含む多面的な社会変革を目指すアプローチとしてその対象領域に広がりをみせている*6。先行する分野での議論を発展させる形で、持続可能なインフラ、移動、食に関する決議においてSCPが位置づけられたことは、SCPへの転換がもたらす広範囲な役割を再確認するとともに、上位政策概念としての重要性のみならず、具体的な消費・生産の各分野における革新的なSCPへの移行へ向けた取り組みの重要性を喚起するものといえるであろう。
行動変容の促進、新しいビジネスモデルを通した持続可能なライフスタイルへの転換
UNEA4では、持続可能なライフスタイルや行動変容に着目した議論も注目を集めた。マルチ・ステークホルダー対話(3月14日)では、持続可能なライフスタイルの多様なあり方が議論され、技術的な解決策だけでは不十分であることが指摘された。また、人々に選択肢を提供しながら、行動変容を促すための政策やコミュニケーションを設計し、例えばライフサイクル・アセスメントを活用することの必要性が提言された(Disrupt Design: Leyla Acaroglu氏)*7。このような消費者行動の変容に関する重要性の高まりを受け、SCP決議においても、各国とステークホルダーに対し、持続可能な消費、ライフスタイル、消費者行動に関する重要性を喚起するための教育と啓発、そして学術界や民間セクターにおける関連するスキル開発のための政策、計画、プログラムの設計と実施が呼びかけられた。閣僚宣言においても、特に製品に着目した形ではあるが、適切な製品情報を消費者に開示し、製品チェーンにおける透明性を向上する方策の開発を促進することが奨励された。
このような行動変容には、従来型の教育啓発や情報提供をきっかけに消費者が選択をするという視点に加え、消費者以外のステークホルダーがリーダーシップを発揮し、新しいビジネスモデルを導入し、社会システムを転換していくことが必要である。ステークホルダーの役割に関しては、リーダーシップ対話(3月15日)において「すべてのステークホルダーによる協力した努力が変化の連鎖反応を引き起こす」ことが言及され、SCP決議では、すべてのステークホルダー、特に資源採取、マテリアル開発・製造、設計・製造・プロセス・包装、販売・サービス、消費と廃棄、廃棄物と物質回収に関連するステークホルダーによる積極的な支持と参加がなければSCPは実現できないことが認識された。また、マルチ・ステークホルダー対話(3月14日)では、消費者に日々の意思決定を要求せずとも、持続可能な解決策をアクセス可能にすることが必要だという指摘がなされている(IKEA Group: Lena Pripp-Kovac氏)。プラスチック廃棄物の例では、消費者は選択をすることができるものの、プラ容器包装の削減は政府のリーダーシップなしでは実現しないとして、個々の消費者の責任に終始することへの批判もみられた(Break Free From Plastic campaign : Von Hernandez氏)*8。SCP決議においても、加盟国とステークホルダーに対し、持続可能な技術や情報提供などとあわせて、革新的で持続可能なビジネスモデル、例えばサービス提供への転換によりマテリアル消費削減する(電球の販売から照明サービスへ、冷蔵庫の販売から冷却サービスへ、自動車の販売からモビリティサービスへ)モデルへの転換を推進することが推奨された。
持続可能なライフスタイルへの転換:パリ協定の1.5度目標を受けて
前述のとおり、UNEAでは、持続可能なライフスタイル、消費と生産パターンの実現のためには、消費者の役割が重要であるとしつつも、多様なステークホルダーがリーダーシップをとることの重要性、すなわち社会システムとしてSCPやライフスタイルを捉えることが認識されたといえる。また、世界資源アウトルックで指摘されたような気候変動を含む資源・環境負荷の増加傾向が今後深刻な影響をもたらすと予測されている中で、SCPに関する具体的な取り組みを横断的に様々な分野、例えば持続可能なインフラ、移動、食、資源循環、廃棄物において推進するとともに、ライフサイクル思考や循環経済を含め、新たな経済モデルへの移行が必要であることが再認識された。
このような社会的要請を踏まえ、IGESでは、パリ協定の1.5度目標とライフスタイルに関するテクニカル・レポート「1.5-degree Lifestyles: Targets and options for reducing lifestyle carbon footprints」を2019年2月に出版した*9。本レポートは、UNEAでも強調されたライフサイクル・アセスメントに基づき、消費者のライフスタイルが世界のグローバルチェーンで引き起こす温室効果ガス排出を「ライフスタイル・カーボン・フットプリント」として定義し、パリ協定の1.5度目標を受けて、これを削減するための目標と選択肢を提示するものである。将来のライフスタイル・カーボン・フットプリント目標として、一人あたり2030年に2.5トン、2050年に0.7トンを目指すことを提案しており、これは先進国にとっては8-9割削減、新興国においても既に2050年目標に対するオーバーシュートの可能性を示唆している。
本レポートは、日本、フィンランド、中国、ブラジル、インドに関するケーススタディを基に、具体的な気候変動への影響のホット・スポットと削減のためのライフスタイル変革の選択肢を提示している。分析対象としては、食、住居、移動を含む様々なライフスタイルの側面に着目しており、ライフサイクル思考とあわせて、ライフスタイルを横断的・包括的に捉えたものとなっている。これは、UNEAにおいて強調された持続可能なインフラ、移動、食など広い政策領域におけるSCPの重要性と合致するものといえる。レポートの詳細はIGESウェブサイトを参照されたい*10。
* 本ブリーフィングノートは、IGES持続可能な消費と生産領域 堀田康彦ディレクター、戦略マネジメントオフィス 杉原理恵シニアプログラムオフィサーの協力も得て作成しました。
また、研究内容の一部は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(S-16)により実施されました。
- IISD Reporting Services: Earth Negotiations Bulletin. Vol. 16. No. 152. (15 March 2019)
- 相対デカップリングは経済成長が資源使用増加のスピードより早いことを指し、絶対デカップリングは経済成長の一方で、資源消費の絶対量が減少することを指す。
- IISD Reporting Services: Earth Negotiations Bulletin. Vol. 16. No. 150. (13 March 2019)
- UNEA4では、SDGsターゲット12.1でもある持続可能な消費と生産に関する国連10年枠組み(10-Year Framework of Programmes on Sustainable Consumption and Production Patterns)の実施も、SCPを進捗させるための方策の一つとして再確認されている。IGESは本枠組みにおけるプログラムの一つである持続可能なライフスタイルと教育プログラム(Sustainable Lifestyles and Education Programme)の調整デスクとしてその実施に貢献している。
- 6. 渡部 厚志,小出 瑠,堀田 康彦(2017)「新興国・途上国における持続可能な発展のために求められるアプローチ―持続可能な消費と生産(SCP)とOne Planet Livingへの転換―」(環境経済・政策研究10巻1号p. 32-35)
- IISD Reporting Services: Earth Negotiations Bulletin. Vol. 16. No. 152. (15 March 2019)
- Ibid.
- Institute for Global Environmental Strategies, Aalto University, and D-mat ltd. (2019) 1.5-Degree Lifestyles: Targets and Options for Reducing Lifestyle Carbon Footprints. Technical Report. Institute for Global Environmental Strategies, Hayama, Japan.
-
英文テクニカル・レポート(https://pub.iges.or.jp/pub/15-degrees-lifestyles-2019)
英文プレスリリース(https://www.iges.or.jp/en/press/20190225.html)