*条約採択時の経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)加盟国と旧ソ連・東欧から構成される附属書I国は枠組条約のもとでの報告義務があるほか、京都議定書では削減義務を負いました。また、附属書I国のうちOECD諸国を指す附属書II国は条約上、資金供与の義務を負います。
Common but Differentiated Responsibilities and Respective Capabilities(CBDR-RC)はこれまで先進国と開発途上国では責任に差異があるという文脈で使われてきました。しかし、パリ協定では先進国や開発途上国といった語の定義規定も置かれていないことからも、状況の変化と個別具体的な事情に応じた差異をパリ協定の実施全体を通じて加味することを明記したものと考えることができます。
国連気候変動枠組条約は、条約の究極目的(Ultimate Objective)として「大気中の温室効果ガス濃度を気候系に対する危険な人為的干渉を及ぼさない水準で安定化する」ことを掲げています。しかし条約では、何が「危険な水準」なのかについては具体的に示されませんでした。その後、IPCCの第3次評価報告書(2001年)や第4次評価報告書(2007年)により科学的な知見が蓄積され、これらの知見をベースとした政治的判断・価値判断として、2010年のCOP16 では「地球の平均気温上昇を工業化以前と比べ2℃以内に抑えるため、温室効果ガスを大幅に削減する」必要性を認識、カンクン合意で規定しました。なお、小島嶼国連合(Alliance of Small Island States: AOSIS )および後発開発途上国(Least Developed Countries: LDC)は2℃ではなく1.5℃目標とすべきことを強く主張したため、温暖化を1.5℃に抑えることを含めた最新の科学的知見に基づいて長期目標の強化を検討することの必要性も認識するとの文言がカンクン合意には盛り込まれています。COP16では、①長期目標の妥当性、②長期目標達成に向けた進捗を定期的にレビューすることも同時に決まりました。
排出量削減を促す手段の一つとして、炭素クレジットや排出枠の国際的な取引はこれまでも行われてきました。1997年に京都で開催されたCOP3で採択された京都議定書の下では、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM)が運用され、日本など、削減目標を課されている国(附属書I国=先進国等)が目標を達成するために活用しました。これに代わる、パリ協定の理念に基づいた新しい仕組みがパリ協定第6条です。6条は緩和のみならず適応に関する行動を一層、野心的なものとし、持続可能な開発および環境十全性を促進するための自主的な協力体制の構築をめざすことを目的としています。市場メカニズムを通じて排出削減対策を後押しすることで民間投資を活性化させ、世界的な排出削減につなげることが狙いです。
適応の交渉において、最も時間が割かれた議題の一つが、適応の長期目標でした。緩和と同様に、適応に関する目標を設定すべきという点は、アフリカグループをはじめとする途上国の交渉グループの一部が強く主張し、様々な提案がなされました。適応対策を推進するためにCOP16 で設立された「カンクン適応枠組み」では、途上国に国別適応計画の提出を奨励しました。先進国側は適応に関する具体的な目標の設定には消極的でしたが、最終的にパリ協定では定性的な(数値化されていない)目標を含めることで合意しました。この長期目標を「適応に関する世界全体の目標(GGA: Global Goal on Adaptation)」と言います。緩和目標に並ぶ、パリ協定の支柱の一つです。しかし、GGAの解釈には依然として幅があることから、一部の途上国交渉グループから議論の場の提供が要求され、COP26において「GGAに関するグラスゴー・シャルムエルシェイク作業計画」(GlaSS)の設立が決定されました。GlaSSは、COP26とCOP27をつなぐ2カ年の作業計画(2022年~2023年)であり、GGAに関する議論の場を提供するものです。GlaSSを通じて、各国のGGAへの理解や、世界全体で進捗を図るための方法論に関する議論が深まり、グローバルな適応の促進が後押しされることが期待されています。COP27では、期限であるCOP28までに議論の成果を得る道筋を立てられるかが注目されます。
先進国は「適応は損失と損害 への対処も含む」と主張してきました。これに対し、途上国、とりわけ気候変動の悪影響にぜい弱な小島嶼国連合(AOSIS: Alliance of Small Island States)や後発開発途上国(LDC: Least Developed Countries)は「損失と損害 への対処は適応の範囲外(beyond adaptation)」と主張し、先進国に対し、適応に対するものとは別の新たな対応として支援や補償を求めてきました。パリ協定採択の交渉過程で議論が重ねられた結果、損失と損害は第7条の適応から切り離され、第 8 条に規定されました。先進国はその代わりに損失と損害から「責任と補償」が除外されることを要求し、COP21の決定文書では、パリ協定第8条は、いかなる責任または補償には関係せず、その根拠も提供しない(Agrees that Article 8 of the Agreement does not involve or provide a basis for any liability or compensation)と明記されるに至りました*。
パリ協定では、全ての締約国が共通の目標にむかって、自国の貢献を公約し、実施していくことになりました。これは、先進国のみに義務を規定した京都議定書と大きく異なる点です。しかしながら、途上国と先進国の間には、いまだ実施能力に隔たりがあります。これを補うために、先進国は、途上国の実施手段(Means of Implementation: MOI)として、資金、技術移転、能力構築を支援することが、パリ協定の9条(資金)、10条(技術移転)、11条(能力構築)に規定されています。
気候資金の数値目標としては、いわゆる「年1,000億米ドル目標」がありますが、パリ条約の条項に定量的な目標が規定されているわけではありません。2009年にコペンハーゲンで開催されたCOP15では、「意味のある緩和行動及び実施の透明性の文脈において、公的資金及び民間資金といった幅広い資金源から、先進国全体で2020年までに年間1,000億米ドルを動員する」ことで議論され、2010年にカンクンで開催されたCOP16で決定されました。しかし2015年のパリで開催されたCOP21で、目標の期間が2020年から2025年までに延長されます。長期気候資金(Long Term Finance: LTF)というCOPの交渉議題として議論されてきた1,000億ドルの進捗は、経済協力開発機構(OECD)の統計(OECD. 2022. Aggregate Trends of Climate Finance Provided and Mobilised by Developing Countries in 2013-2020)によると、833億ドルの実績(2020年)にとどまって伸び悩んでいる現状です。なおOECDの統計は、二国間および多国間機関や基金を通じての公的資金、政府系の輸出信用や投融資、公的資金により動員された民間資金を集計対象としています。
*条約採択時の経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)加盟国と旧ソ連・東欧から構成される附属書I国は枠組条約のもとでの報告義務があるほか、京都議定書では削減義務を負いました。また、附属書I国のうちOECD諸国を指す附属書II国は条約上、資金供与の義務を負います。