IGESと国際交渉:1.5℃目標への貢献

IGESは、UNFCCC COPを含む国際交渉の中で取り上げられる主要議題について動向・政策分析を行い、政策担当者、NGOそして民間部門等に向けて提言を発信しています。また、2015年のパリ協定採択以降は、6条実施や透明性強化に向けた能力構築プログラムの提供、UNFCCCへの意見提出、グローバル・ストックテイクの技術的対話における議事進行など、パリ協定の実施に向けた積極的な活動を展開しています。本特集ページでは、2023年11月30日から12月12日にかけて、ドバイ、アラブ首長国連邦(UAE)で開催される、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)の主要議題と関連するパリ協定条文を取り上げ、こうしたIGESの活動を踏まえながら、COP28での交渉と論点を解説します。

アンダーラインをクリックすると解説が表示されます

1.5℃目標

COP26では、 からの気温上昇を1.5℃以内に抑える努力を追求する決意が示されました(グラスゴー気候合意)。パリ協定は第2条1項(a)で「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前と比べて2℃より十分低く保つとともに、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも1.5℃高い水準に抑えるための努力を、この努力が気候変動のリスクおよび影響を著しく減少させることとなるものであることを認識しつつ、継続すること」という長期気温目標を規定しています。1.5℃目標はもともと努力目標としての位置づけでしたが、後述の「2条の読み解き方」で説明するように、1.5℃上昇の悪影響は、2℃の場合よりも明確に低いことが明らかになり、グラスゴー気候合意を経て、パリ協定の軸足は1.5℃目標へと移りました。

排出ギャップを埋めるために残された時間:決定的な10年(Decisive Decade)

パリ協定では、締約国は5年ごとに、より野心的な排出削減目標を「国が決定する貢献( Nationally Determined Contributions: NDC)」として提出・更新する義務があります。それゆえ、5年後の開催となったCOP26(COP26はパンデミックが原因で一年延期されました)は、COP21以来、最も重要な気候変動会議となりました。COP26前および期間中に124カ国・地域が新規あるいは更新したNDCを提出したことは前向きな成果と受け止められていますが、それで安心してはいられない理由があります。気候変動に関する政府間パネル( Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)の最新の報告書である第6次評価報告書は、気温上昇を2℃未満にするには2030年時点の温室効果ガスの排出量を2019年比21%減、1.5℃以内に抑えるには43%減にする必要があるとしています*。同時に、これまでに約束されているすべてのNDCを足し合わせても、今世紀中の気温上昇を1.5℃に抑えることには到底及ばないことも指摘しています。各国がNDCを達成した場合の2030年の温室効果ガス排出量とパリ協定の目標を達成するために2030年までに排出削減すべき排出量との差**、これが「排出ギャップ」です。さらに、現行政策を実施してもNDCの達成には不十分であることも明らかになっています。これは「信頼性ギャップ」あるいは「実施ギャップ」と呼ばれます。2025年までに世界の温室効果ガス排出量を反転させ、2030年までに大幅に削減させなくては、温暖化を1.5℃や2℃に抑えることは難しくなり、温暖化による深刻かつ広範な影響を世界全体にもたらすと考えられています。そのため、2020年代の10年は各国が行動を強化することで信頼性ギャップを埋め、さらにはより野心的な目標を掲げることで排出ギャップを埋めるための「決定的な10年」なのです。

野心引き上げメカニズム「ラッチェット・メカニズム」(Ratchet-up Mechanism)

パリ協定には、年月とともに段階的に向上する各国の危機感と野心、技術の発展を加味し、新しい約束(プレッジ)が従来のプレッジを超えていく仕組み、「ラチェット・メカニズム」が組み込まれています。ラチェット・メカニズムの構成要素は3つあります。5年ごとに策定・提出するNDC(第4条)、各国の行動や支援の透明性を高めていくことにより、お互いの進捗状況をチェックしあうことを可能とする「強化された透明性枠組み」(Enhanced Transparency Framework: ETF)(第13条)、そしてETFやIPCC等からの情報をベースにパリ協定の目的および長期目標の達成に向けた全体の進捗状況を5年ごとに確認する「グローバル・ストックテイク」(Global Stocktake: GST)(第14条)です。GSTは、各国がNDCを策定・提出する際の情報提供を行ないます。これらの要素は相互に関連し合いながら、野心が逆戻りすることのないよう、各国の目標を改善し気候行動を前進させることが期待されています。パリ協定の目標達成はこの仕組みが効果的に運用されるかどうかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。とはいえ現状では、決定的な10年の間に各国が一斉にNDCを提出するのは2025年と2030年の2回しかなく、それぞれのタイミングで2035年目標、2040年目標を提出することが推奨されています。1.5℃目標の達成を確実にするためにさらなる施策が必要なのは明らかです。

このため、COP27では、「決定的な10年間に緩和の野心および実施の規模を緊急に拡大するための作業計画(MWP: Mitigation Work Programme)***」が採択されました。MWPは、グローバル対話を最低年2回開催し(本年6月に開催された第1回グローバル対話では「公正なエネルギー変革の加速」が議論されました。10月に予定されている第2回対話では「交通部門における公正なエネルギー変革の加速」が議論されます)、その成果はCOP28で開催される「2030年以前の緩和野心に関する年次ハイレベル閣僚級円卓会議」で報告される予定です。閣僚級円卓会議への報告・議論が政治的気運の醸成に繋がるのか、そして、その機運が各国における政策立案や実施にどのように活かされるのかが注目されます。

*IPCC第6次評価報告書(英)
**予想される温室効果ガスの排出量とパリ協定の目標を達成するために2030年までに削減すべき排出量との差(IPCC第6次評価報告 5つの例示的シナリオに基づく)
***決定的な10年間に緩和の野心および実施の規模を緊急に拡大するための作業計画(MWP: Mitigation Work Programme)

詳しくはコチラ
Paris Agreement
パリ協定(日本語訳)
グラスゴー気候合意

この協定の適用上、条約第一条の定義を適用する。さらに、
  • 「条約」とは、1992年5月9日にニューヨークで採択された気候変動に関する国際連合枠組条約をいう。
  • 「締約国会議」とは、条約の締約国会議をいう。
  • 「締約国」とは、この協定の締約者をいう。
この条文の読み解き方

パリ協定では、で用いられた附属書国という分類*を行っていません。代わりに、パリ協定は「先進国」と「途上国」の語を定義せず、一定の曖昧さを残して用いています。これによって、状況の変化や個別の事情に対応できる余地を残しています。すべての国が参加し、それぞれの国情に応じて各国自らが目標を設定すること、これがパリ協定の精神といえます。一方で、「資金」では先進国による途上国への資金提供義務が継続されるなど、課題の性質によって使い分けされている規定もあります。

*条約採択時の経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)加盟国と旧ソ連・東欧から構成される附属書I国は枠組条約のもとでの報告義務があるほか、京都議定書では削減義務を負いました。また、附属書I国のうちOECD諸国を指す附属書II国は条約上、資金供与の義務を負います。

詳しくはこちら
気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書

  • この協定は、条約(その目的を含む。)の実施を促進する上で、持続可能な開発および貧困を撲滅するための努力の文脈において、気候変動の脅威に対する世界全体による対応を、次のことによるものを含め、強化することを目的とする。
    • 世界全体の平均気温の上昇を工業化以前と比べて2℃より十分低く保つとともに、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも1.5℃高い水準に抑えるための努力を、この努力が気候変動のリスクおよび影響を著しく減少させることとなるものであることを認識しつつ、継続すること。
    • 食糧の生産を脅かさないような方法で、並びに気候に対する強靱性を高め、および温室効果ガスの低排出型の発展を促進する能力を向上させること。
    • を温室効果ガスの低排出型の、かつ、気候に対して強靱な発展に向けた方針に適合させること。
  • この協定は、衡平性並びに各国の異なる事情に照らした共通だが差異のある責任および各国の能力に関する原則を反映するように実施される。
この条文の読み解き方

パリ協定の目的

2条ではパリ協定の目的「気候変動の脅威に対する世界全体による対応を強化する」と「緩和、適応、資金」に関する個別の目的が規定されています。

緩和に関する長期目標 :2℃目標、1.5℃目標が決まるまで

国連気候変動枠組条約は、条約の究極目的(Ultimate Objective)として「大気中の温室効果ガス濃度を気候系に対する危険な人為的干渉を及ぼさない水準で安定化する」ことを掲げています。しかし条約では、何が「危険な水準」なのかについては具体的に示されませんでした。その後、IPCCの第3次評価報告書(2001年)や第4次評価報告書(2007年)により科学的な知見が蓄積され、これらの知見をベースとした政治的判断・価値判断として、2010年にカンクンで開催されたCOP16 では「地球の平均気温上昇を工業化以前と比べ2℃以内に抑えるため、温室効果ガスを大幅に削減する」必要性が認識され、カンクン合意に盛り込まれました。なお、小島嶼国連合(Alliance of Small Island States: AOSIS )および後発開発途上国(Least Developed Countries: LDC)は2℃ではなく1.5℃目標とすべきことを強く主張したため、温暖化を1.5℃に抑えることを含めた最新の科学的知見に基づいて長期目標の強化を検討することの必要性も認識するとの文言も入りました。COP16では、①長期目標の妥当性、②長期目標達成に向けた進捗を定期的にレビューすることも同時に決まりました。

その後パリ協定では、2℃目標について「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前と比べて2℃より十分低く保つ」と規定し、カンクン合意の「低く (below)」から「十分低く(well below)」と踏み込みました。1.5℃目標については、「努力を継続すること(pursuing efforts)」と規定し、努力目標として位置づけつつ、「この努力が気候変動のリスクおよび影響を著しく減少させる」ことへの認識を明示しました。

そして、COP26で採択されたグラスゴー気候合意では、1.5℃目標達成に向けた「努力を追求する決意」が示され、これまでの努力目標としての位置づけから、より中心的な位置づけとなりました。他方で、最新のIPCC評価報告書は、これまでに約束されているすべてのNDCを足し合わせても、今世紀中の地球の気温上昇を工業化前と比べて1.5℃に抑えることには到底及ばないことを指摘しました。今後は、各国が現在のNDCを達成した場合の予想される温室効果ガスの排出量とパリ協定の目標を達成するために2030年までに削減すべき排出量との差である「排出ギャップ」を埋めるための具体的な行動が強く求められます。

「適応」と「資金」についての目的

これまで、温室効果ガスを削減する「緩和」が先行して世界の関心を集めてきましたが、パリ協定には「適応」と「資金」についても目的が明記されていることがポイントです。「適応」に関するパリ協定2条1項(b)では、「低排出型の発展」と並んで、気候変動の悪影響に対する「適応能力の向上」や「強靭性を高める能力の向上」を謳っています。なお「世界全体の適応目標」はパリ協定7条で規定されており、COP27ではその進捗状況の評価方法などについての議論が行なわれました。

「資金」に関する2条1項(c)では、資金の流れを「低排出型」かつ「気候に対して強靭な」発展に向けて整合させることを明記しています。これはパリ協定が目指す2℃目標や1.5℃目標の達成や気候に対して強靭な社会の構築には、社会全体を変革していく必要があることを認識し、目標達成には公的資金だけでは不十分であり、民間投資を含めたお金の流れ全体を変えていく必要性があることを反映したものです。実は、パリ協定では具体的な資金目標は規定されていません。2009年に設定された長期資金目標(2020年までに1,000億ドルを動員。期間は2025年まで延期)がありますが、これは公的資金と公的資金により動員された民間資金についてのものです。COP27では、この長期資金目標の後の新たな合同数値目標を設定する交渉が行なわれました。

COP28では、長期資金目標(2025年までに1,000億ドルを動員)の達成状況が注目されているとともに、2025年以降の新しい資金目標(NCQG)の交渉や対話が開催されます。また、今年からは、パリ協定2条(目的)の文脈で、民間資金も含めた大きな資金の流れをつくる対話が始まりました。

市場メカニズム

  • 締約国は、一部の締約国が、国が決定する貢献の実施に際し、に関する行動を一層野心的なものにすることを可能にし、並びに持続可能な開発および環境の保全を促進するため、任意の協力を行うことを選択することを認識する。
  • 締約国は、に従事するには、持続可能な開発を促進し、並びに環境の保全およびとし、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が採択する指針に適合する確固とした計算方法(特に二重の計上の回避を確保するためのもの)を適用する。
  • 当該制度は、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が指定する機関の監督を受けるものとし、次のことを目的とする。
    • 持続可能な開発を促しつつ、温室効果ガスの排出に係る緩和を促進すること。
    • 締約国により承認された公的機関および民間団体が温室効果ガスの排出に係る緩和に参加することを奨励し、および促進すること。
    • 受入締約国(他の締約国が国が決定する貢献を履行するために用いることもできる排出削減量を生ずる緩和に関する活動により利益を得ることとなるもの)における排出量の水準の削減に貢献すること。
    • 世界全体の排出における総体的な緩和を行うこと。

適応

  • 締約国は、第二条に定める気温に関する目標の文脈において、持続可能な開発に貢献し、および適応に関する適当な対応を確保するため、この協定により、という適応に関する世界全体の目標を定める。
  • する。
  • 各締約国は、である。
  • の検討においては、特に、次のことを行 う。
    • 開発途上締約国の適応に関する努力を確認すること。
    • 10に規定する適応に関する情報を考慮しつつ、適応に関する行動の実施を促進すること。
    • 適応および適応のために提供された支援の妥当性および有効性を検討すること。
    • 1に規定する適応に関するを検討すること。
この条文の読み解き方

適応の交渉において、最も時間が割かれた議題の一つが、適応の長期目標でした。緩和と同様に、適応に関する目標を設定すべきという点は、アフリカグループをはじめとする途上国の交渉グループの一部が強く主張し、様々な提案がなされました。適応対策を推進するためにCOP16 で設立された「カンクン適応枠組み」では、途上国に国別適応計画の提出を奨励しました。先進国側は適応に関する具体的な目標の設定には消極的でしたが、最終的にパリ協定では定性的な(数値化されていない)目標を含めることで合意しました。この長期目標を「適応に関する世界全体の目標(GGA: Global Goal on Adaptation)」と言います。緩和目標に並ぶ、パリ協定の支柱の一つです。しかし、GGAの解釈には依然として幅があることから、一部の途上国交渉グループから議論の場の提供が要求され、COP26において「GGAに関するグラスゴー・シャルムエルシェイク作業計画」(GlaSS)の設立が決定されました。GlaSSは、COP26とCOP27をつなぐ2カ年の作業計画(2022年~2023年)であり、GGAに関する議論の場を提供するものです。GlaSSを通じて、各国のGGAへの理解や、世界全体で進捗を図るための方法論に関する議論が深まり、グローバルな適応の促進が後押しされることが期待されています。COP28では、GGAのための新たな枠組みへの合意を目指すことになっており、どのような内容で合意に至るか期待が集まっています。

損失と損害

  • は、を回避し、および最小限にし、並びにこれらに対処することの重要性を認め、並びに損失および損害の危険性を減少させる上での持続可能な開発の役割を認識する。
  • 気候変動の影響に伴う損失および損害に関するは、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議の権限および指導に従うものとし、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が決定するところに従って改善し、および強化することができる。
  • 締約国は、気候変動の悪影響に伴う損失および損害に関し、協力および促進に基づき、適当な場合には、例えば
この条文の読み解き方

パリ協定には損失と損害に関する定義はありません。そこで、その範囲が問題となります。損失と損害の概念は気候変動の「責任と補償」という考え方とも密接に関連しているため、交渉の場ではこれまで、途上国・先進国間の対立が尽きませんでした。

先進国は「適応は損失と損害 への対処も含む」と主張してきました。これに対し、途上国、とりわけ気候変動の悪影響にぜい弱な小島嶼国連合(AOSIS: Alliance of Small Island States)や後発開発途上国(LDC: Least Developed Countries)は、「損失と損害 への対処は適応の範囲外(beyond adaptation)」と主張し、先進国に対し、適応に対するものとは別の新たな対応として支援や補償を求めてきました。パリ協定採択の交渉過程で議論が重ねられた結果、損失と損害は第7条の適応から切り離され、第8条に規定されました。先進国はその代わりに損失と損害から「責任と補償」が除外されることを要求し、COP21の決定文書に ‘Agrees that Article 8 of the Agreement does not involve or provide a basis for any liability or compensation’(協定第8条は、いかなる責任または補償には関係せず、その根拠も提供しない)と明記されるに至りました*。

損失と損害は過去の対立を引きずりながらも、技術的な協力の促進などの前進を見せてきました。損失と損害に関する技術支援のためのサンティアゴネットワークの運用化に向けた議論の進展が大きな成果の一つです。また、ここ数年で損失と損害に対応するための資金に関する議論に大きな進展がありました。COP26では、損失と損害のための新たな資金制度の設置を求める声が途上国の間で高まり、資金調整に関する議論を行う「グラスゴー対話」の開催に合意しました。さらにCOP27においては、損失と損害に対応するための新たな資金アレンジメント・基金の設立という、歴史的な合意に至りました。現在、これらの運用について詳細に検討する「移行委員会」における議論が展開されており、COP28では運用に向けた詳細事項に合意する見込みとなっています。

*COP21 Decision 1, para 5

資金

  • は、を継続するものとして、に関し、開発途上締約国を支援するため、
  • 1.に規定する支援について、に、提供すること又は引き続き提供することが推奨される。
  • 先進締約国は、世界全体の努力の一環として、開発途上締約国のニーズ及び優先事項を考慮しつつ、種々の行動(各国主導の戦略を支援することを含む。)を通じ、公的資金の重要な役割に留意して、により気候に関する資金を動員することに引き続きである。そのような気候に関する資金の動員については、従前の努力を超える前進を示すものとすべきである。
  • 省略
  • 先進締約国は、適当な場合には、1および3の規定に関連する情報であって、定量的及び定性的に示されるもの。資金を供与する他の締約国は、任意に当該情報を2年ごとに通報することが推奨される。
  • 省略
  • 先進締約国は、第13条13に定めるところにより、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が第1回会合において採択する方法、手段及び指針に従い、。他の締約国は、同様に当該情報を提供することが推奨される。
  • 省略
  • 省略

気候変動に関する国別報告の透明性強化の重要性と途上国への支援

気候変動とエネルギー領域
リサーチマネージャー

パリ協定第13条の「強化された透明性枠組み(ETF)」は、すべての締約国に対して、自国の目標(NDC)の実施、達成状況を2年毎に報告することを義務付けています。この各国による報告は、「隔年透明性報告書(BTR)」と呼ばれ、最初のBTRの提出期限は2024年末となっています。BTRには、下記の情報が含まれます。

  • 国家温室効果ガスインベントリ
  • NDCの実施・達成の進捗
  • 気候変動インパクト及び適応
  • 先進国によって提供された資金等の支援
  • 途上国によって受託された資金等の支援

各国は、UNFCCCの下、30年近くにわたって、BTRの前身にあたる国別報告書(NC)等を定期的に報告してきました。ただ、この期間は、先進国のみが削減目標を有するなどしたため、先進国と途上国では、求められる報告要件に明確な違いがありました。ETFは、パリ協定の下で全ての国がNDCを実施することを受けて、これまでの報告システムを強化することを目的として設けられました。今後は、原則、先進国と途上国の両方が、共通の報告ガイドラインにしたがってBTRを提出していくこととなります。 当然ながら、多くの途上国にとって、ETFの実施は簡単なことではありません。そこで、ETFには、途上国に対して、能力に照らして必要とする場合、柔軟性を容認するなどの工夫が盛り込まれています。また、途上国の能力(技術面、制度面など)を高めるため、国際的にBTR作成のための能力構築支援を進めることも重要です。IGESでは、途上国のBTR作成に向けた能力構築を支援するため、透明性向上のための相互学習プログラム(MLP)を実施しています。 COP28では、他機関と協力し、MLPに関するサイドイベント等を開催します。この機会に是非ご参加ください。

 

グローバル・ストックテイク

  • この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、この協定の目的および長期的な目標の達成に向けた全体としての進捗状況を評価するためのこの協定の実施状況に関する定期的な検討(この協定において「」という。)を行う。この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、包括的および促進的な方法で、を考慮して並びにに照らして、世界全体としての実施状況の検討を行う。
  • この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が別段の決定を行わない限り、
  • 世界全体としての実施状況の検討の結果については、
この条文の読み解き方

パリ協定第 2 条第1項で定められているパリ協定の長期目標の達成に向け、各国は自国が定める貢献(NDC)で削減目標や達成に向けた手段を定めています。IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書では、各国が定めた目標を合わせても1.5℃達成には程遠いことが示唆されています。こうしたギャップを埋めるための仕組みの一つがGSTであり、日本を含む各国政府はGSTでの検討結果を活用してNDCを更新・強化することが求められます。

GSTの詳細なルールを定めた実施指針はポーランド・カトビチェで開催されたCOP24で決定されました。GSTの評価分野は緩和、適応、実施手段と支援(資金、技術、能力構築)の3つであり、これに加えて、損失と損害、対応措置実施による影響を分野横断的課題として考慮します。また、GSTは「情報収集・準備」、「技術的評価」、「成果物の検討」、の3つのフェーズから構成されます。「技術的評価」フェーズでは計3回の技術的対話を通じて、パリ協定の実施におけるギャップや課題、それを克服するために取り得る具体策や事例が共有され、2023年9月にはその結果をまとめた統合報告書が公開されました。

パリ協定における気候行動の3つの柱である、緩和、適応、資金のそれぞれの条項に14条が示されている通り、3つの柱はGSTと密接にリンクしています。各分野での取り組み強化には、GSTにおける進捗のモニタリングが不可欠であることをパリ協定が示していると言えるでしょう。適応については、IPCCの最新の報告書で強調された「変革的適応(漸進的に適応策を導入するだけでなく、根本的に社会システムの転換を図ること)」の重要性や、「適応の失敗」の回避などがたびたび議論されました。統合報告書は、変革的適応の促進には、適応を地域の実情に基づき推進することで適応行動の支援の適切性と有効性を向上することができるとしています。統合報告書はまた、こうした適応への支援を強化するために、既存の資金源を拡大していく必要性を指摘しており、拡大するニーズに対応するためには、国内外や官民資金を気候変動に強靭な開発と合わせていくことで、より多くの財源を確保し、気候行動への投資を可能にするとしています。

統合報告書は、政府のみならず、企業、自治体、NGO、大学等の様々な政府以外の主体の重要性にも焦点を当てています。二酸化炭素のネット・ゼロ排出の達成にはシステム変革が必要であり、その取り組み強化には非政府主体による信頼でき、説明責任があり、透明性のある行動が必要であると指摘しています。非政府主体に向けて提言がなされたことは、GSTの成果が政府のみならず、非政府主体の気候行動に関する国際指針の一つとなり得ることを示唆しています。

COP28では、統合報告書の内容も踏まえ、GSTの成果を活用する方法や活用を後押しするための政治的メッセージが交渉されます。第1回GSTは、パリ協定で合意した目指すべき姿に向かうための軌道修正の機会であり、削減目標の引き上げに資する具体的で行動可能な成果が期待されます。

Associated Staff