このため、COP27では、「決定的な10年間に緩和の野心および実施の規模を緊急に拡大するための作業計画(MWP: Mitigation Work Programme)***」が採択されました。MWPは、グローバル対話を最低年2回開催し(本年6月に開催された第1回グローバル対話では「公正なエネルギー変革の加速」が議論されました。10月に予定されている第2回対話では「交通部門における公正なエネルギー変革の加速」が議論されます)、その成果はCOP28で開催される「2030年以前の緩和野心に関する年次ハイレベル閣僚級円卓会議」で報告される予定です。閣僚級円卓会議への報告・議論が政治的気運の醸成に繋がるのか、そして、その機運が各国における政策立案や実施にどのように活かされるのかが注目されます。
*条約採択時の経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)加盟国と旧ソ連・東欧から構成される附属書I国は枠組条約のもとでの報告義務があるほか、京都議定書では削減義務を負いました。また、附属書I国のうちOECD諸国を指す附属書II国は条約上、資金供与の義務を負います。
Common but Differentiated Responsibilities and Respective Capabilities(CBDR-RC)はこれまで先進国と開発途上国では責任に差異があるという文脈で使われてきました。しかし、パリ協定では先進国や開発途上国といった語の定義規定も置かれていないことからも、状況の変化と個別具体的な事情に応じた差異をパリ協定の実施全体を通じて加味することを明記したものと考えることができます。
国連気候変動枠組条約は、条約の究極目的(Ultimate Objective)として「大気中の温室効果ガス濃度を気候系に対する危険な人為的干渉を及ぼさない水準で安定化する」ことを掲げています。しかし条約では、何が「危険な水準」なのかについては具体的に示されませんでした。その後、IPCCの第3次評価報告書(2001年)や第4次評価報告書(2007年)により科学的な知見が蓄積され、これらの知見をベースとした政治的判断・価値判断として、2010年にカンクンで開催されたCOP16 では「地球の平均気温上昇を工業化以前と比べ2℃以内に抑えるため、温室効果ガスを大幅に削減する」必要性が認識され、カンクン合意に盛り込まれました。なお、小島嶼国連合(Alliance of Small Island States: AOSIS )および後発開発途上国(Least Developed Countries: LDC)は2℃ではなく1.5℃目標とすべきことを強く主張したため、温暖化を1.5℃に抑えることを含めた最新の科学的知見に基づいて長期目標の強化を検討することの必要性も認識するとの文言も入りました。COP16では、①長期目標の妥当性、②長期目標達成に向けた進捗を定期的にレビューすることも同時に決まりました。
適応の交渉において、最も時間が割かれた議題の一つが、適応の長期目標でした。緩和と同様に、適応に関する目標を設定すべきという点は、アフリカグループをはじめとする途上国の交渉グループの一部が強く主張し、様々な提案がなされました。適応対策を推進するためにCOP16 で設立された「カンクン適応枠組み」では、途上国に国別適応計画の提出を奨励しました。先進国側は適応に関する具体的な目標の設定には消極的でしたが、最終的にパリ協定では定性的な(数値化されていない)目標を含めることで合意しました。この長期目標を「適応に関する世界全体の目標(GGA: Global Goal on Adaptation)」と言います。緩和目標に並ぶ、パリ協定の支柱の一つです。しかし、GGAの解釈には依然として幅があることから、一部の途上国交渉グループから議論の場の提供が要求され、COP26において「GGAに関するグラスゴー・シャルムエルシェイク作業計画」(GlaSS)の設立が決定されました。GlaSSは、COP26とCOP27をつなぐ2カ年の作業計画(2022年~2023年)であり、GGAに関する議論の場を提供するものです。GlaSSを通じて、各国のGGAへの理解や、世界全体で進捗を図るための方法論に関する議論が深まり、グローバルな適応の促進が後押しされることが期待されています。COP28では、GGAのための新たな枠組みへの合意を目指すことになっており、どのような内容で合意に至るか期待が集まっています。
先進国は「適応は損失と損害 への対処も含む」と主張してきました。これに対し、途上国、とりわけ気候変動の悪影響にぜい弱な小島嶼国連合(AOSIS: Alliance of Small Island States)や後発開発途上国(LDC: Least Developed Countries)は、「損失と損害 への対処は適応の範囲外(beyond adaptation)」と主張し、先進国に対し、適応に対するものとは別の新たな対応として支援や補償を求めてきました。パリ協定採択の交渉過程で議論が重ねられた結果、損失と損害は第7条の適応から切り離され、第8条に規定されました。先進国はその代わりに損失と損害から「責任と補償」が除外されることを要求し、COP21の決定文書に ‘Agrees that Article 8 of the Agreement does not involve or provide a basis for any liability or compensation’(協定第8条は、いかなる責任または補償には関係せず、その根拠も提供しない)と明記されるに至りました*。
*条約採択時の経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)加盟国と旧ソ連・東欧から構成される附属書I国は枠組条約のもとでの報告義務があるほか、京都議定書では削減義務を負いました。また、附属書I国のうちOECD諸国を指す附属書II国は条約上、資金供与の義務を負います。