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地球温暖化を産業革命前の水準から1.5°C以内に抑えるには、一人あたりのカーボンフットプリントを世界平均で現在の4.6tCO2e/年から2030年には2.5tCO2e/ 年に削減する必要がある。住宅、食、移動、製品の購入、サービス利用、レジャーの分野における消費量とエネルギー原単位の分析から、京都市に暮らす人々の暮らしに関わる平均的なカーボンフットプリントは7.0tCO2e/ 年であることがわかった。これは日本の全国平均(7.1tCO2e/ 年)よりやや低い水準であるが世界平均(4.6tCO2e/ 年)よりは多い。
7.0tCO2eから2.5tCO2eへのカーボンフットプリントの削減は、供給(生産)側と需要(消費)側の対策を組み合わせることで初めて可能となる。京都市で実施した市民ワークショップでは、住宅、食、移動、製品の購入、サービス利用、レジャーの分野における65種類のカーボンフットプリント削減行動を示し、その実現可能性と普及に必要な社会の変化を議論した。2030年までに再生可能エネルギーの割合や環境効率に変化がないと仮定した場合、カーボンフットプリント削減行動を取り入れることにより、京都市平均で一人あたりカーボンフットプリントを2030年には約45%削減し3.8tCO2e/ 年にできることがわかった。2.5tCO2e/ 年まで削減するためには、例えば2030年まで環境効率を毎年3%改善するとともに再生可能エネルギー割合を53%に引き上げるといった、供給側の対策を組み合わせる必要がある。再生可能エネルギーの増加と環境効率改善だけでなく、デジタルトランスフォーメーション、人工知能、自律型・共有型モビリティの普及、材料消費の削減、ロボティクスなど京都を含め日本においてすでに行われている生産側の変化は、いずれもカーボンフットプリントの削減にも貢献する。
ワークショップ参加者は、それぞれの家庭で脱炭素型行動を試行する2週間の家庭実験にも参加した。これにより、脱炭素行動を実施する上での障害や、より幅広く行動を取り入れる上で有益な支援策などが明らかになった。
京都市在住者のカーボンフットプリントで最も大きな割合を占めるのは住居に関連するものであり、食品、移動、商品、サービスがそれに続く。住居に関連するカーボンフットプリントが高いのは、住宅建設時に多くのCO2が排出されており、入居後には住まいでCO2 排出量の多いエネルギーを用いているためである。CO2 排出量の多い化石燃料への依存を減らすことが重要である。再生可能エネルギー由来の電力プランに切り替え、屋上太陽光発電を設置し、エネルギー効率の高い住宅を選ぶといった方法でCO2排出量を大幅に減らすことができる。市民が低炭素エネルギーを利用しやすくなるよう、政府や企業のサポートも有効であろう。
ワークショップ参加者の多くは、設備導入による経済効果がわかりやすく示され、資金的援助も得られるのであれば、屋上太陽光発電を導入したいと考えていた。また、LED照明の導入、衣服を外気温に合わせ冷暖房の温度を調整することなどは、比較的すぐに取り入れることのできる行動であることもわかった。ライフスタイル・カーボンフットプリントを削減する行動、なかでも低炭素型の移動手段を活用することや購入する製品を慎重に選び長く利用すること等は、京都市が進める温室効果ガス排出量削減の取り組み「DO YOU KYOTO?」キャンペーンでも推進されている。本報告書は、既存の取り組みと脱炭素型ライフスタイルの
可能性とをつなげ、2050年のカーボンニュートラルの実現を加速
させるガイダンスでもある。
ワークショップ参加者との議論を通じて、脱炭素型ライフスタイルへの転換には、地域経済の再生、コミュニティの強化、大気汚染の解消、生活の質の向上など、地球温暖化抑制以外にも数多くのメリットがあることを確認できた。
一方で、カーボンフットプリントを削減するライフスタイルへの転換には、いくつもの障壁があることも明らかになった。インフラ・製品・サービスの不足、既存のインフラ・製品・サービスに関する認知度の低さ、実施コストの高さ、必要な製品やサービスが利用しにくいこと、個人的なニーズとの兼ね合い、他人のニーズとの兼ね合い、そして社会的規範との兼ね合いといったものである。こうした障壁を取り除き、市民が脱炭素型のライフスタイルを取り入れることができるようにするには、政府や企業による支援策が有効である。また、新たなライフスタイルを実現しようとする市民の意識と意欲が、政府や企業の支援策を後押しすることになる。なお、この報告書では、ライフスタイル・カーボンフットプリントと、市民の行動変容に伴うカーボンフットプリント削減量を、京都市在住者一人あたりの平均値で表している。市内に暮らす人々のライフスタイルは所得、職業、年齢、家族構成、健康状態の違いなどにより極めて多様なものであり、市民のライフスタイル・カーボ
ンフットプリントの数値にも大きな違いがある。生活水準や移動手段、住宅などのニーズの多様性を無視し、すべての人が本報告書で示すカーボンフットプリント削減の行動をとることができると考えるのは現実的でないし、望ましくもない。
ライフスタイル・カーボンフットプリントを年間2.5t /人以下に抑えるという目標は非常に野心的であるが、市民、ビジネスそして行政が協力して適切な行動をとれば実現できない目標ではない。このように、本報告書では地球温暖化を1.5°C以内に抑えることにつながる暮らしの変化のアイディアを示した。なお、脱炭素型ライフスタイルの「採用率」はあくまでも参考値または目安であり、将来の予測や目標ではないことに留意されたい。
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