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Volume (Issue): 521
雪氷の融解、海面水位の上昇などに加えて、近年、日本各地での集中豪雨、北米太平洋岸や中東、欧州における最高気温50℃近い熱波といった極端な気象現象が頻発し、気候変動に関する危機感が広く共有されている。
IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)は、中立的な立場で気候変動に関する科学的知見を提供し、国際プロセスないし各国での有効な政策立案につなげてきた。中でも2018年に発表された「1.5℃特別報告書」は、気温上昇幅により、熱波や干ばつの頻度や被害者数、生物多様性への影響などに大きな違いが生じることを示した。気温上昇1.5℃の場合、世界で3200万から3600万人が食料不足の影響を受けるのに対し、2℃に達すると、この人数が3億3000万から3億9600万人に跳ね上がると予測されている。この予測は、2015年に合意されたパリ協定の掲げる「世界的な平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃に抑える」との目標の重要性を裏打ちするものである。
政府や企業、市民社会が協力して喫緊に取り組むべきは、気候変動の緩和(GHGの削減)および適応(気候変動により生じうる災害、森林や海洋の生態系の変化、農林漁業、保健衛生などの被害最小化)策の強化である。エネルギーや製造、交通など広範な分野で、GHGを抑制すべく、政策、技術、ビジネスモデルの変革が模索されている。日本では、2020年10月に菅首相が「2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言して以降、国・地方自治体・民間企業・市民などの様々なレベルで、温室効果ガス排出削減に関連する議論や取り組み、技術開発が急速に進んでいる。食料は消費者の生活と命に直接的に関わる領域であり、かつ国内外にわたる高度なシステムの上に成り立っている。また、森林や農地のあり方といったGHG吸収源にも深く関与する産業である。本稿では、生産から消費・廃棄まで、食品産業の脱炭素化について総合的に論じてみたい。
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