企業経営と環境コミュニケーション

In nozei geppo (Tax Payment monthly report)
Volume (Issue): Feb, 2002
Non Peer-reviewed Article

二十一世紀も一年がたちました。「環境の世紀」といわれていますが、企業の情報開示の面 でも様々な取り組みがなされています。ここでは主に、事業活動全体についての環境に関する実績を説明する環境報告書について、現状と課題を述べます。

環境報告書の発行企業数はここ数年大幅に増加しています。環境省の「環境にやさしい企業行動調査」によれば、一九九九年には環境報告書を発行した企業は二七〇社(内、九五社が非上場企業)でした。それが二〇〇〇年度には四三〇社(内、一五六社が非上場企業)に増えています。

環境省では二〇〇一年二月に、環境報告書作成のためのガイドラインを発行しています。そこでは、環境保全に関する方針や環境マネジメントシステムに関する状況、環境負荷の低減に向けた取り組みの状況など、環境報告書として記載すべき項目を明示しています。また特に数量データについては、例えばエネルギー消費量についてはJ(ジュール)というように、使用が望まれる単位 も明示しています。

二〇〇一年度に発行された各社の環境報告書の多くは、このガイドラインで示された記載すべき項目をその内容として盛り込んでいます。環境関連の支出とその効果 を主として貨幣単位で示す環境会計を、環境報告書に載せている企業も数多くあります。

経済産業省でも、環境報告書作成のためのガイドラインを発行しています。こちらは記載すべき項目ごとに、取引先、金融機関、行政、地域住民、一般 市民、従業員の中のどの読み手に特に求められる情報かを明らかにしています。環境報告書を作成するうえで想定する読者は各社によって異なりますが、どの企業も多様な読み手を想定しています。ほとんどの企業の環境報告書では環境面 での取り組みや実績について、様々な読み手の関心にすべて応えられるような、いわば最大公約数的な記載をしています。

それでは企業の環境報告書の課題について、いくつか例示します。発行企業数が急増したこともあり、論点は多くあります。

まず、一般の市民・消費者にはほとんど読まれていないことが挙げられます。先に述べたように多様な読み手の関心に応えられるような内容を網羅した結果、ほとんどの企業の環境報告書は一般の市民・消費者には読みにくい、一見して難しいものになっています。これについては冊子による報告書は図表を多用してわかりやすいものにし、ホームページに詳細なデータを載せるなど、様々な工夫が行われつつあります。

また記載内容について、企業間での比較しやすさをいかに高めるかということも課題です。企業間で環境への取り組みを比較できることが、利害関係者が環境に配慮した経営を各社に求めていくうえでの根拠となるからです。環境負荷物質の排出量 などの数値データは、各社で様々な測定範囲や前提条件がとられており、単純に比較しにくいのが現状です。この解決には、例えば業種毎に記載方法を標準化していくこと等が望まれます。

それから各社の環境報告書の中には、第三者による意見書を付したものがあります。学識経験者や監査法人、非営利団体等、様々な立場の人が検証や意見表明を行っていますが、記載内容の信頼性を高めるために誰が適当なのか、審査基準をどうするのか等、議論されています。

さらに、最近では特に持続可能性に言及して、環境以外の内容も詳しく記す報告書が現れています。これはGRI(Global Reporting  Initiative)という、国連環境計画や各国の会計士協会、非営利団体、企業等が参画する組織の動きに沿ったものと考えられます。このGRIの「持続可能性報告のガイドライン」では環境面 での報告に加えて、経済面の報告(財務データや労働生産性、雇用、慈善活動への寄付等)と、社会面の報告(従業員の労務、教育、賃金、マイノリティーへの差別対策、投資を行う際の人権への配慮、顧客満足度等)を求めています。

この経済面、社会面を合わせた持続可能性報告書については、その作成に環境担当だけでなく会社全体としての取り組みが求められる点や、経済面 、社会面それぞれにも第三者による検証や意見表明が必要かなど、議論がはじまったところです。またGRIのガイドライン自身が認めているとおり、経済面 、社会面で求めている記載項目はまだ開発途上にあります。今後、日本社会において持続可能な社会を展望するうえで経済面 、社会面で何が必要なのか、議論が望まれます。

私見では、こうした多面的な情報開示は事業活動だけでなく、個々の商品についても必要ではないかと考えます。(社)産業環境管理協会を中心に、環境負荷を項目ごとに定量 評価するタイプ・という環境ラベルが試行されています。そこでの環境に関する記載事項に加えて、その商品の社会的な有用性、例えば障害をもった人にも健常な人にも使い勝手がよいかどうかを示す「ユニバーサルデザイン度」のような形で定量 評価したデータを併記していくこと等が、次の段階として求められるのではないでしょうか。

企業の環境面での情報開示について、特に環境報告書に関する現状と課題を記しました。企業による積極的な情報開示と、それを契機とした社会とのコミュニケーションが二十一世紀を「環境の世紀」にするのではないか、と考えます。

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