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企業による環境に関する情報発信はますます盛んになっている。中でも、環境報告書という形で開示する企業が急速に増えている。環境報告書とは、環境に関する取り組み内容やその実績等をまとめて外部へ公表する文書である。当研究機関の調査では、東証1部1474社のうち284 社が2001年中に環境報告書を発行しており、未発行企業でも91社が作成予定と回答しており(2002年1月現在)、急速な勢いで環境情報開示ツールとして一般 化しつつある。
環境報告書には、消費や投資等における健やかに人間らしく暮していく視点に立った企業判断に不可欠なデータが記されている。これまでに、環境に熱心な企業を評価、選別 するための情報開示手段として、記載事項の内容の分析や、各社間での記載内容の比較可能性、記載内容の信頼性担保の仕方等について議論が行われてきた。
一方で、一般の市民・消費者にどのように受け取られているかは今まで論じられることは少なかった。
環境報告書は一般の市民・消費者にとってはまだ身近なものになっていない。例えば2001年に行われたインターネット調査「gooリサーチ」によれば、アンケートモニターを対象に環境報告書の閲読経験を尋ねたところ「読んだことがある」と答えたのは8.5%であった。
本研究では、環境教育・消費者教育で環境報告書が利用されるための要件を調べることを通 じて、より多くの一般の市民・消費者に読まれるために何が必要かを探ることを目的としている。そのためにアンケート調査およびインタビュー調査を通 じて以下のことを明らかにする。なお本研究では課題発見に心がけ、調査対象者からなるべく自由に意見を出してもらった。
[分析の観点]
1. 企業の環境報告書が一般の市民・消費者にとって読みにくいとしたら、その理由は何か。どのような工夫がなされれば、一般 の市民・消費者にとって読みやすくなるか。
2. 環境教育・消費者教育の教育資料として、環境報告書が取り上げられるための要件とはなにか。
3. 環境報告書を読みやすくするためのどのような方策であれば、企業は現実的に実行しうるのか。
1.を調べるために、ある非営利団体によって実施された環境報告書に関するセミナーの参加者に、アンケート調査を行った。
2.を調べるために、環境教育・消費者教育関係者にインタビュー調査を行った。これを分析の観点として取り上げた理由は二つある。一つは、一般の市民や消費者が企業の環境報告書に接する機会がかなり少ない現状においては、環境報告書がそれらの教育資料となることによって一般市民・消費者が環境報告書の存在を知り、読み方を学んで様々な用途に利用するきっかけになると考えられるからである。もう一つは、環境報告書が教育資料として利用しやすくなるための要件それ自体が、一般 の市民・消費者にとって読みやすくなる要件と多くの場合一致すると考えられるからである。
そして3.を調べるために、企業の環境報告書作成担当者にインタビュー調査を行った。
本研究は「『環境報告書』の内容がより多くの一般消費者に理解されるために」何が必要かを明らかにする調査を行うことを通じて、「企業による環境情報発信が、環境教育・消費者教育に与える好影響と課題」についての示唆を得ることをねらいとしている。
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