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日本では、東日本大震災を契機に、エネルギー関連制度をめぐる改革論議が進んでいる。家庭向け電力供給サービスや省エネ機器の市場に新たな動きが見られ、家庭での節電の取り組みも定着が期待されている。本研究では、震災及び原子力発電所事故後の日本における、エネルギー制度改革に対する市民の態度、エネルギー関連市場における消費者行動、及び家庭での節電の新たな動向を把握するため、社会調査を実施した。調査設問は、以下に示すような制度面での動きや取り組みに対する市民の態度に関するものが主であるが、実際の行動に関するものも一部含まれる。
(1) 新たな制度改革に対する市民の態度
- 再生可能エネルギー固定価格買取制度
- 家庭部門の電力自由化
- 国レベルの建物の省エネ基準義務化
- 地域自立分散型エネルギー整備
- 地域エネルギー政策立案に関する市民の討議と参画
(2) 市場における市民の新たな行動
- 家庭部門電力自由化のもとでの再生可能エネルギー起源の電力購入
- 家庭でのエネルギー・マネジメントの習慣と時間帯別変動電力料金制度の利用
- 省エネ家電(エアコン、冷蔵庫)の買い替え
- 家庭用太陽光発電
- 集合住宅におけるエネルギー供給防災対応
(3) 震災後の家庭での節電
- 自治体キャンペーンを活用した家庭での節電
- 家庭での節電に関する情報共有
- 職場での節電教育を活用した家庭での節電
震災後の日本では、原子力発電の是非など、エネルギー問題に関する重要な政策課題が登場し、これに対して市民がどう考え、行動するかが問われている。本社会調査では、これに関する市民の態度を把握するため、上記の設問の一部として、(a) 原子力利用に対する態度、(b) 地域におけるエネルギー政策の立案と関連制度・インフラの整備、(c) 地域における防災とエネルギー供給の関係、及び (d) 市民によるエネルギー政策への積極的で責任ある参画、に関する設問も設けた。
調査は、選定した対象地域に在住するインターネット調査パネル登録者を対象に実施したが、対象地域は設問項目によって異なる。
上記 (1) 、 (2) の調査項目の対象地域は、東京電力管内の2政令市(川崎市、横浜市)、中部電力管内の1政令市(名古屋市)、九州電力管内の1政令市(北九州市)である。これらの地域では、2011年及び2012年の夏及び冬に関して異なった節電目標が設定されているので、その違いが在住市民の態度・行動に違いをもたらす潜在的な可能性に配慮して、異なった地域を対象とした。また、政令市以外の地域の一つとして、名古屋市と同じく中部電力管内にある三重県南部(8市10町)も対象とした。回答者総数は、各市・地域1000名総計5000名(男女20~60代の個人)である。
上記 (3) の調査項目の対象地域は、川崎市、横浜市である。
調査の実施時期は、いずれも2012年10月である。
調査結果によれば、市民一人ひとりが低炭素で持続可能な発展に向けた制度改革を支持し、政策形成や討議に参加しつつ、市場においても環境意識の高い消費者として積極的な役割を果たす可能性があることが示唆された。また、市民どうしが自発的につながり、あるいは自治体や職場と連携して、家庭での節電を進めていることが確認された。
今後の原子力発電については国民による多面的な対話と議論が必要であるが、地球温暖化対策と同時に脱原発を進めていく場合には、これまで以上に省エネルギーの推進や再生可能エネルギー導入の加速化が必要となる。これについて、制度・政策面でも、市場面でも、一定の市民の関心と意欲が確認された。
さらに、これまで国の専管事項であったエネルギー政策に地域レベルで取り組むことを支持し、また自らその意思決定過程に関与したいと考える市民が一定割合存在することが示された。
同様に、防災とエネルギー・環境管理の体制を一体として整備、運営していくことへの市民の関心も高く、地域で自ら災害への備えを進める意思を相当程度有することが示された。
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