2025年度IPBESシンポジウム

ネイチャ―ポジティブ社会の実現に向けたネクサス・アプローチ ~IPBES評価報告書を地域の視点で読み解く ~

2025年8月5日(火)13:30 – 15:30
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2024年12月に開催された生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)総会第11回会合において、「生物多様性、水、食料及び健康の間の相互関係に関するテーマ別評価報告書(ネクサス評価報告書)」が採択されました。この報告書では、生物多様性、水、食料、健康と気候変動の間の複雑な相互関係の現状評価と将来予測を行い、個別の課題ごとに「縦割り」の対策を行うことの弊害を指摘しました。そのうえで、複数の課題に分野横断的に対応する「ネクサス・アプローチ」を提唱し、またネクサス・アプローチの展開のためには、ガバナンスや経済の変革を含む社会変革の必要があることを指摘しました。社会変革については、ネクサス評価報告書と同時に採択された「生物多様性の損失の根本的要因、変革の決定要因及び生物多様性2050 ビジョン達成のためのオプションに関するテーマ別評価報告書(社会変革評価報告書)」に詳しく述べられています。

本シンポジウムでは、ネクサス評価報告書の作成に携わった専門家に報告書の内容をわかりやすくご紹介頂き、加えて「ネクサス・アプローチ」や社会変革に関する研究事例や地域での実践について話題提供して頂きました。続くパネルディスカッションでは、こうした研究や地域での実践例を踏まえて、自然を守り、高めながらその恵みを享受し続けられるような社会の実現に向けた、ネクサス・アプローチとは何かについて議論しました。

武内和彦氏((公財)地球環境戦略研究機関(IGES)理事長)による開会挨拶では、IPBESネクサス評価報告書と社会変革評価報告書の重要性に触れ、参加者にはこれを、生物多様性を身近な問題に結びつけて考える機会にして頂きたいとのメッセージを頂きました。続いて、鈴木渉氏(環境省自然環境局生物多様性戦略推進室長)からの趣旨説明では、IPBESの組織や活動の概要説明に加えて、本シンポジウムの趣旨や内容について説明がありました。

基調講演では、齊藤修氏(IGES生物多様性と生態系サービスユニット・プログラムディレクター、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授)より、ネクサス評価報告書の内容について、主に生物多様性、気候変動、水、食料、健康の5つの要素間の相互関係の現状評価や将来予測(シナリオ)や、5つの要素に横断的に貢献する71の介入策についてご紹介頂きました。また、ネクサス・ガバナンスを社会実装するためのアプローチや、公正で持続可能な未来を実現するために、ネクサスの相互関係を理解した上で、多様な主体が協力し、統合的かつ戦略的に行動することの重要性も示されました。

話題提供では、東京会場から池井晴美氏(千葉大学国際高等研究基幹(環境健康フィールド科学センター)テニュアトラック准教授)、南三陸会場から太齋彰浩氏(サスティナビリティセンター代表理事・東北大学生命科学研究科 客員教授)、後藤伸弥氏(後藤海産・戸倉Sea Boysリーダー)、工藤真弓氏(上山八幡宮(南三陸町)禰宜)の4名の方にお話し頂きました。池井氏からは、現代のストレス社会を背景に、自然環境や自然由来の刺激が脳や身体にもたらす生理的リラックス効果や免疫機能の改善効果への期待が高まっているとのご説明がありました。自然が人にもたらすリラックス効果の科学的解明を目指す自然セラピー研究においては、森林などの自然環境によって、副交感神経活動の亢進や交感神経活動の抑制といった生理的リラックス効果をもたらすこと、高血圧者の血圧低下効果は5日間持続すること、各人の元々の状態に合わせて生体を適正な方向へ変化させる「生体調整効果」をもたらすことなどが科学的に示されています。自然がもたらすリラックス効果の科学的解明は、予防医学への応用や医療費削減にも貢献し得ることなどについて、詳しくお話し頂きました。

続いて太齋氏より、南三陸町の東日本大震災後の歩みについて紹介がありました。同町では震災後、「いのちめぐるまち」を目指す「バイオマス産業都市構想」を掲げ、牡蠣養殖と林業における認証取得や、生ごみを液体肥料とエネルギーに変える取り組みを進めていること、さらには、これらの取り組みを「学びのプログラム」として、地域外から来る方々の体験の機会を提供していることについてもご紹介頂きました。後藤氏からは、漁師としての南三陸の漁業再生への挑戦について、特に、震災後、養殖業では施設や人材の喪失といった深刻な課題に直面する中、小規模でも持続可能な養殖を模索し、牡蠣養殖では養殖の密度を3分の1に下げて品質が向上し、環境負荷も減った、「3分の1革命」についてご紹介頂きました。また、地球温暖化に伴う海洋環境の変化に対応するための工夫や、地域漁業を未来へ継承するための戸倉Sea Boysの活動や将来展望についてもお話し頂きました。工藤氏からは、震災前に打ち立てた「森里海ひと」を結ぶ文化的・精神的視座の重要性が、震災を契機に地域に広く認識されるようになり、地域の取り組みを後押ししていることについてお話しいただきました。神社という地域文化の拠点から、森や海との関係を見直し、人々の心に根差した価値を再発見することが、社会変革の基盤となると述べられました。また、祭礼や地域行事を通じて自然と共に生きる感覚を次世代に伝える試みや、地域の精神的支柱として人々の絆を強める役割についても触れられました。

パネルディスカッションでは、視聴者の方々から寄せられた多くの質問に回答しつつ、ネクサス・アプローチを地域に展開する際の成功要因と阻害要因について、登壇者それぞれの立場からご所見をお話し頂きました。また、森里海ひとのつながりやネクサスを意識した今後の研究について、研究者の展望や実践者から研究者への期待などについて議論されました。最後に総括として、橋本禅氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)より、IPBESのグローバルなアセスメントから地域やビジネスなどの実践者にメッセージを伝えるのが難しい中で、南三陸町の事例からネクサスの典型例を紹介できたことに意義があったとご講評頂きました。さらに、南三陸でも当初全体像は見えていなかったと考えられるものの、森・里・海が抱えてきた廃棄物や農林水産業のさまざまな課題を、逆に森・里・海をつなぐことで解決につなげたことが、現在の持続可能なネクサスが形成されたこと、また南三陸の取組みは、全国各地の類似の取り組みでも同様に、できるところから始めて、スケールアップすることの重要性を示唆しているとのご指摘を頂きました。さらに、南三陸の事例はネクサスであり、森・里・海・都市のつながりであり、環境省の推進する地域循環共生圏でもあると総括されました。

閉会挨拶に当たり、鈴木氏より、登壇者や関係者への謝意が表されるとともに、視聴者の方々に対して、これを機に生物多様性、IPBES、南三陸など地域の取組に関心を持っていただき、引き続き応援して頂きたいとのメッセージがありました。

詳細レポート PDF (387KB)

録画映像

Event Details

Date/time
2025年8月5日(火)13:30 – 15:30
Venue

オンライン(Zoom ウェビナー形式)
※今回のシンポジウムは、東京会場(メイン会場)と宮城県南三陸会場(サテライト会場)とをオンラインで繋ぎ、両会場から一般視聴者向けにZoomウェビナーでオンライン配信する予定です。

Organisers
Collaborators
環境研究総合推進費 戦略的研究開発課題(S-21)
Languages
日本語
Contact

環境省 自然環境局 自然環境計画課生物多様性戦略推進室
(担当:齋藤・宇野)
メール: [email protected]
代表 03-3581-3351 / 直通 03-5521-8275
 

Presentation Materials


プログラム

 開会挨拶武内 和彦 (公財) 地球環境戦略研究機関(IGES)理事長 
 趣旨説明鈴木 渉 環境省自然環境局生物多様性戦略推進室長PDF(770KB)
 基調講演「IPBESネクサス評価報告書からの主要メッセージ」
齋藤 修 (公財) 地球環境戦略研究機関(IGES)生物多様性と生態系サービス領域プログラムディレクター・ 東京大学未来ビジョン研究センター客員教授
PDF(4.6MB)
 話題提供① 「自然セラピー:Nature on Prescriptionの観点から」
池井 晴美 千葉大学国際高等研究基幹(環境健康フィールド科学センター)テニュアトラック准教授
PDF(1.5MB)
② 「南三陸のいのちめぐるまちづくり」
太齋 彰浩 サスティナビリティセンター代表理事・東北大学 生命科学研究科 客員教授
PDF(6.9MB)
③ 「カキ養殖1/3革命から10年」
後藤 伸弥 後藤海産・戸倉Sea Boysリーダー
PDF(1.7MB)
④ 「森里海ひと、あたらしいつながりの歴史」
工藤 真弓 上山八幡宮(南三陸町)禰宜
PDF(4.0MB)
 パネルディスカッション
パネリスト(五十音順)池井 晴美
工藤 真弓
後藤 伸弥
齊藤 修
鈴木 渉
太齋 彰浩
橋本禅 東京大学大学院農学生命科学研究科教授
 閉会挨拶鈴木 渉 

敬称略


写真

  • 東京会場の様子
    東京会場の様子
  • 南三陸会場の様子
    南三陸会場の様子

 


録画映像

録画映像(環境省 Youtubeチャンネル)

IPBES: 生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学 - 政策プラットフォーム
(Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)
IPBESは、生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間のプラットフォームとして、2012年4月に設立された政府間組織です。2025年7月現在、IPBESには 150カ国が参加しており、事務局はドイツのボンに置かれています。科学的評価、能力養成、知見生成、政策立案支援の4つの機能を柱とし、気候変動分野で同様の活動を進めるIPCCの例から、生物多様性版のIPCCと呼ばれることもあります。
環境省Webサイト