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パリ協定は,いま詳細ルール設計のプロセスにあり,2018年12月のCOP 24でルールがパッケージとして採択される予定となっている.「神は細部に宿る」の言葉のように,この運用則デザインが,パリ協定の成否を決定づけると言える. パリ協定の最大の特徴であるNDCは,途上国を含めて,目標設定を要求する.それが5年サイクルで強化されて行くことで,世界平均気温を産業革命水準から1.5–2 °C上昇レベルに抑えるというゴールに向かおうと企図されている.ただNDC緩和目標あるいはambitionのみが強化されても意味がなく,きちんと各国の国内対策が追従してこなければ意味がない. パリ協定では,NDCや政策措置は,あくまでその国の自主決定事項であるが,その策定・通報(5年サイクル)および 進捗状況の報告とその審査(2年サイクル)は義務事項となっていて,パリ協定の実効性は,この報告・審査制度が有効に機能できるかどうか?にかかっている.本レポートでは,この点をテーマに,とくに各国からの報告制度をいかにデザインすれば,各国が着実に目標達成そして強化していけるだろうか?という点をテーマにしている. 気候変動枠組条約では,最初の国別報告の通報から実に24年間の経験を持つ.しかしながら,その審査に関与して最初から20年の経験を持つ筆者の問題意識としては,透明性や完備性を追求する現在の仕組みでは,その国の国内対策強化へのトリガーとしては不十分でないか?という点である. そのため,この報告書では,気候変動枠組条約以外のいくつかのスキームの調査分析を行った.その結果,おなじような自主性をベースにしながら,対策の実効性が上がってきたスキームとして,日本の産業セクターの経験が大きな参考になるということが判明した.経団連の自主目標+行動計画と,省エネ法のエネルギー管理制度である. これらの特徴は,報告のテンプレートとして,対策の実効性をきちんと評価できる指標設定とそのモニタリングや,対策強化の工夫,進捗評価などを,かなり詳細に規定していて,それを埋めるというプロセスだけで,自動的にやるべきことをかなり行うことになるという特徴がある.言い換えると,合理性を追求できるようになり,負担と言うよりネットで便益となっている. パリ協定では,NDC自身と,2年サイクルの報告書を,各締約国は策定・通報しなければならない.これはかなりハードな負担となるプロセスであるが,一方で,非常に優れた能力開発,および対策のPDCAサイクル化を行うための「機会」でもある.むしろ,そのような認識の下,この報告やその審査制度をデザインすべきであろう. 本レポートでは,上記のような認識の下,考え方の概念整理を行い,5つの目的と,それを実現するための8つの手段を考案した. そして,NDC緩和目標の進捗評価を行うための,シンプルでわかりやすく,多様な目標のタイプに共通で使うことのできる進捗評価手法を提案する. また,自国の 過去から将来のNDC目標までの「自己分析」を行うことのできる簡便な要因分析手法も提案する. これらは,専門知識がなくとも 的確な定量評価を行うことができ,また過去から将来まで,そして国間で比較可能性のある手法として,広く活用することが望まれる. そして,パリ協定のルールブックのうち,NDCガイダンスと 透明性枠組みガイドラインの緩和部分に関して,8つの手段を具現化する形での要素提案を行う. またこれを,5月の交渉会議テキストと比較分析する.また,いくつか懸念が残る課題(たとえば200カ国近い国を対象にしてスキームが機能するだろうか)に関しても,考察を加え,また提案を行う. 2018年12月のCOP 24を含め,ルールが採択されるまでの交渉会議は,あと2回のみである.ただ,ルールブック策定後も,ガイダンスやテンプレートなどの形で,実際に途上国が運用できるような各種ツールも必要であろう. このレポートで主張している内容は,あまりいままで議論されてこなかったアプローチであるが,リソースや能力面でハンディキャップのある途上国のみならず,かなりの先進国にとっても,実務的で有効なアプローチである.ぜひ,ルールブックの中で,そのエッセンスが採用されることを願っている.
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