持続可能な消費と生産領域 主任研究員/プログラムマネージャー
UNEA4決議「持続可能な消費と生産(SCP)を達成するための革新的道筋」においては、国際資源パネル(International Resource Panel : IRP)が作成した報告書「世界資源アウトルック2019(Global Resource Outlook 2019: GRO2019)」の内容に注目が集まると同時に決議にどのように記載するかについて活発な議論がなされた。
同報告書は、UNEA3決議「環境と健康」の第5セクション パラグラフ37に示されているように、UNEA3に提出されたIRP報告書Assessing global resource use: A systems approach to resource efficiency and pollution reductionが歓迎され、天然資源の使用と管理と関連の環境影響に関する更なる取り組みに関する報告が奨励されたことを受けて作成されたものである。
GRO2019には、世界の天然資源の使用状況とそれに伴う環境影響を分析するとともに、モデル分析に基づき、適切な資源効率性政策を実施した場合に、どの程度資源使用や環境影響が低下するかという予測が示されている。
現在の天然資源の使用状況については、過去50年間で、世界人口は2倍、資源利用量は3倍、国内総生産は4倍となり、過去20年間で天然資源採取と処理量は増加した。また、天然資源の採掘と加工は、生物多様性の損失と水ストレスの90%以上、気候変動の影響の約半分を引き起こしており、この50年間で一度たりとも世界的な資源需要の長期にわたる安定化や減少を経験したことはないとの事実が明らかにされた。
他方、資源効率性政策・持続可能な消費と生産に関する適切な道筋が実現した場合には、天然資源の使用が大きく抑制され、世界全体では相対デカップリング(経済成長が資源使用量増加のスピードより早い)、高所得国では絶対デカップリング(経済成長の一方で、資源消費の絶対量は減少する)が達成されるという予測がなされている。
UNEA4では、GRO2019の分析を歓迎することに言及する決議が採択された。また、SCPに関するナレッジギャップを埋めるにはさらなる科学的な分析が必要となるとの背景から、IRPに対しては、今後もGROの作成を通じ、天然資源の使用と管理、過剰消費、環境影響、市民・社会経済への影響について定期的にUNEAへ向けて報告するよう招請された。
決議案を検討する作業部会においてもEUを中心とした決議案提案国はIRPやGRO、定期的作業への支持を一貫して表明していた。しかし、複数の国からIRPの位置づけや今後の作業の要請について消極的な姿勢が見られた。
加えて、EUが提出した決議案では、IRPに対し、"safe operating space"(著者注:持続可能な範囲内での資源採取という意)とのコンセプトを考慮した研究を要請する案が提示されたが、一部の国からの反対がみられた。これに対し、EUなど提案国は、IRPにGROの定期出版を要請するパラグラフを残すことを優先し、"safe operating space"への言及を取りやめるなどの駆け引きを行った。
これに関連して、サーキュラーエコノミー(循環経済;Circular Economy : CE)への言及についても、決議案提案国や欧州の一部の国々が支持する一方で、複数の国から反対が見られ、CEへの言及はなくなっている。結果、SCPの達成に向けて、各国において様々な政策・アプローチ、例えば、CE、資源効率性(Resource Efficiency: RE)、持続可能な材料管理(Sustainable Materials Management: SMM)、3Rsなどがあるという共通認識の下、決議案タイトルはSCPにのみ言及し、CEに関わる部分については、"approaches to achieve SCP, but not limited to circular economy"と言及することで合意した。
本件とIRPやGROへの言及に関する対立構造は類似しており、天然資源の持続可能な管理の重要性は共有されているものの、対応に向けたアプローチや新たなコンセプトは、各国の事情によっては受け入れがたい状況にあると判明した。
他方で、REやCEなどは、日本や欧州を中心にすでにさまざまな政策や取り組みが実施されており、また、企業レベルでも欧米の多国籍企業がプラスチック問題を中心に積極的に取り組んでいる分野である。
また、SDGsにも資源効率性やデカップリングが反映されているゴールが多く存在する。現時点では、上記のように反発も見られてはいるが、今後はSCP、CE、RE政策は確実に世界に普及拡大していくものと見られる。