公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)は、2022年11月30日に「Earth for All: A Survival Guide for Humanity」(2022年 ローマクラブ)の日本語翻訳版「Earth for All 万人のための地球 『成長の限界』から50年 ローマクラブ新レポート」(監訳:武内和彦IGES理事長、監修:ローマクラブ日本)を丸善出版より刊行します。
1972年にローマクラブが「成長の限界」を発表してから50年にあたる2022年、ローマクラブの新たなレポート「Earth for All: A Survival Guide for Humanity」が9月に発表されました。本レポートは、持続可能な未来への変革を促す国際イニシアチブ「Earth for All(万人のための地球)」*が中心となりまとめたものです。
序文の中で、クリスティアナ・フィゲレス国連気候変動枠組条約(UNFCCC)前事務局長は、本書を次のように表現しました。
「世界中の何百万もの人々が、気候災害、環境の悪化、そして耐え難い不平等の結果、大変に深刻な苦しみを味わっている。~(中略)~これらは実は「メタクライシス」、すなわち「より高次の危機」の異なる側面の現れなのである。『Earth for All 万人のための地球』は、こうした危機に団結して対処するための処方箋を示している。そして、それこそが本書を非常に重要な読み物としている。
本書は、今こそ必要とされる強固で楽観に満ちた可能性のある道筋を示している。『万人のための地球』は、そこにある事実や現在の文脈をごまかすものではなく、また将来のバラ色のビジョンを提示するものでもない。本書が提示しているのは、互いに関連する問題に対し 5 つの「劇的な方向転換(extraordinary turnarounds)」をすることで、社会的緊張の増大、人間の苦しみの増大、環境破壊の増大を回避できるということである。
これらの問題に向かい合うとき、それらが社会的・経済的な現実として立ち現れるだけでなく、もっと深くその根源において相互に関連していることを、この本は私たちに教えてくれる。」
序文で述べられているように、本書では貧困、不平等、女性のエンパワメント、食料、エネルギーの5つの分野で今すぐに取り組むべき課題、そして具体的な解決策を明らかにするとともに、背景にある社会経済システムそのものの「劇的な方向転換」を促しています。深刻化する気候変動や生物多様性の喪失、そしてウクライナにおける戦争に伴うエネルギー・食料危機等、地球規模の様々な脅威に直面する私たちが、持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みを加速させ、その先の持続可能な未来に向けた歩みを確実なものにするための有益な指針を与えてくれるでしょう。
日本語翻訳版出版にあたり、各界でご活躍の皆さまより推薦のことばをお寄せいただきました。
「人類と地球の危機はもはや待ったなしの段階を迎えている。新型コロナウイルスとロシアのウクライナへの軍事侵攻によってさらに緊急度は増した。本書は世界の最先端を走る科学者と経済学者による『変革のための経済学委員会』の助言に基づき、ウェルビーイングと社会的緊張という2つの指標を使って、小さすぎて手遅れになるシナリオと大きな飛躍をするシナリオを示す。その上で、地球の限界内で大きな飛躍につながる劇的な方向転換をするための5つの有効な対策を緊急提言する。複雑に絡み合うSDGsと環境問題は同時に解決へ導く必要がある。政策だけでなく、あらゆる人にとって暮らしを見直す処方箋が提示されている。」 - 山極壽一 総合地球環境学研究所所長
「『成長の限界(ローマクラブ著)』が、人類の未来に警鐘を鳴らしてから半世紀が過ぎたが、いまだ問題の根本的な解決には至っていない。本書は、危機の本質を鋭くとらえ、グローバルな視点から根本的解決のための大胆かつ斬新な提言を示すことで、持続可能な未来に向けて、社会課題解決に取り組むすべての人々に多くの示唆を与えてくれる。長年、日本を含むアジア太平洋地域において、大胆な変革を促す政策研究を推進してきたIGESが、本書をわかりやすく翻訳していただいたことに感謝を申し上げるとともに、本書が、変革の推進力となるべき経済界をはじめ、各方面で広く読まれることを期待したい。」 - 西澤 敬二 損害保険ジャパン株式会社 取締役会長
「本書の特徴は、従来のGDPを基準とした成長指標から脱却し、ウェルビーイングと社会的緊張という二つの指標を基準としたシナリオ分析をもとに、貧困・不平等といった人類の抱える根本的な問題を克服し、同時に気候変動と環境破壊から地球を救う、5 つの「劇的な方向転換(extraordinary turnarounds)」の具体的な方法を提案している点にある。人類全体が直面する様々な危機を乗り越えるために、我々市民を含む、幅広いステークホルダーによる協働と支援が必要となっている現在だからこそ、多くの人に手に取っていただきたい良書である。」 - 石井 菜穂子 東京大学理事、未来ビジョン研究センター教授、グローバル・コモンズ・センター ダイレクター
また、原著についても、各界気鋭の識者より推薦のことばが寄せられています。
「『万人のための地球』は、地球に住む人類の未来は、社会経済的な不平等を徹底的に是正し、富と権力をより公平に分配できるかにかかっている、と明確に示している。“万人のための地球”が実現する社会に向けた私たちの長い旅に欠かせない一冊である。」 - トマ・ピケティ 「21世紀の資本」「A Brief History of Equality」著者
「素晴らしい協働作業により作成されたこの息をのむような作品は、私たちの心と能力を結集すれば、万人にとってより良い世界を構築することができるという証拠を、今一度世界に提供している。代替案が悲惨な地球ということであれば、繁栄する地球という選択をするしかないであろう。」 - マティース・ワケナゲル グローバル・フットプリント・ネットワーク創設者 「エコロジカル・フットプリント」共著者
「現在の経済モデルを守ろうとする人間の行動は、これまで以上に地球を破壊し、貧困、不平等、排除を生み、健康リスクに効果的に対応できず、紛争を煽っている。つまり、私たちの仕事やコミュニティ、そして共通の安全を脅かしているのである。『万人のための地球』は、人々と地球を中心とした共通の未来のために、今世紀を生き抜くための行動を呼びかけるものである。これは無視できないロードマップなのである。」 ― シャラン・バロウ 国際労働組合総連合(ITUC)書記長
推薦文一覧はIGES「Earth for All 万人のための地球」特設ウェブページをご参照ください。
*国際イニシアチブ「Earth for All(万人のための地球)」:ローマクラブ、ポツダム気候影響研究所、ストックホルム・レジリエンス・センター、BIノルウェー・ビジネス・スクールの協働により、2020年に開始された国際イニシアチブ。経済学、哲学、政治学、自然科学等様々な分野の専門家から構成される国際研究チームが、新たに開発したシステムダイナミクスモデル「Earth4All」をもとに、貧困、不平等、ジェンダー、食料、エネルギーに関する大転換、そしてそれらを統合した社会経済システム全体の変革に向けた提言を発信しています。
「Earth for All 万人のための地球 『成長の限界』から50年 ローマクラブ新レポート」概要
原著者:S. ディクソン=デクレーブ / O. ガフニー / J. ゴーシュ / J. ランダース / J. ロックストローム / P.E. ストックネス
監訳:武内和彦IGES理事長
監修:ローマクラブ日本
翻訳:森秀行IGES特別政策アドバイザー、高橋康夫IGES所長ほか
発行元:丸善出版
定価:2,640円(本体2,400円+税)
発行日:2022年11月30日
目次(章立て):
第1章 万人のための地球:健全な惑星で世界的な公正を実現するための5つの劇的な方向転換
第2章 「小出し手遅れ」か「大きな飛躍」か:2つのシナリオの検討
第3章 貧困との訣別
第4章 不平等の方向転換:「配当の共有」
第5章 エンパワメントの方向転換:「ジェンダー平等の実現」
第6章 食の方向転換:食料システムを人間と地球の健康に寄与するものにする
第7章 エネルギーの方向転換:「すべてを電化する」
第8章 「勝者総取り」資本主義からEarth4All経済へ
第9章 今こそ行動を
詳細:
IGES「Earth for All 万人のための地球」特設ウェブページ
丸善出版ウェブサイト
原著: Earth for All: A Survival Guide for Humanity A Report to the Club of Rome (2022) Fifty Years After The Limits to Growth (1972) (Club of Rome)
主著者:
サンドリン・ディクソン=デクレーブ
ローマクラブの共同会長であり、30年以上にわたり、気候変動、持続可能性、イノベーション、そしてエネルギーの各分野で主導的役割を果たしている。GreenBiz誌において、低炭素経済への変革を推進する最も影響力のある女性30人のひとりに選ばれている。政策アドバイザー、ファシリテーター、TEDスピーカー、教師としても活躍。著書に「Quel Monde Pour Demain?」がある。
オーウェン・ガフニー
チェンジメーカー、戦略立案者、作家、映画製作者であり、また、ストックホルム・レジリエンス・センターおよびポツダム気候影響研究所で、 地球の持続性に関するアナリストを務めている。Exponential Roadmap Initiativeの共同創設者であり、BBC、Netflix、TED、世界自然保護基金(WWF)および世界経済フォーラムなどによる、 マルチメディアやドキュメンタリーの執筆、制作、助言を行っている。
ジャヤティ・ゴーシュ
国際的に著名な開発経済学者であり、マサチューセッツ州立大学の教授を務めている。19の著書(編書を含む)と200本近くの学術論文を執筆し、国内外でいくつかの賞を受賞。数多くの国際委員会で委員を務めるほか、多様なメディアへ定期的に寄稿している。
ヨルゲン・ランダース
BIノルウェー・ビジネス・スクールの名誉教授(気候戦略分野)である。経済、環境そして人類のウェルビーイングが交差する部分の研究に関する世界の第一人者であり、1972年に発表された「The Limits to Growth(成長の限界)」、そして30年後の続編「Limits to Growth: The 30-Year Update(成長の限界 人類の選択)」の共同執筆者である。著書に「2052: A Global Forecast for the Next Forty Years (2052:今後40年のグローバル予測)」、共著に「Reinventing Prosperity」、「Transformation Is Feasible!」がある。
ヨハン・ロックストローム
ポツダム気候影響研究所長である。「プラネタリーバウンダリー(planetary boundaries)」の枠組みを提唱した科学者の研究チームを主導。TEDでの講演は500万回以上再生されている。ロックストロームの主導する「プラネタリーバウンダリー」は、デビッド・アッテンボローがナレーションを務めたNetflixのドキュメンタリー「Breaking Boundaries(地球の限界:“私たちの地球”の科学)」の主題となっている。
ピア・エスペン・ストックネス
BIノルウェー・ビジネス・スクールの持続可能性・エネルギーセンターを率いている。TEDスピーカーであり、ノルウェー議会議員(2017年~2018年)を務めたほか、クリーンエネルギー企業を共同で設立。著書に「Tomorrow’s Economy」、「What We Think About When We Try Not to Think About Global Warming」等がある。
【このプレスリリースに関するお問い合わせ】
広報担当: 庄(しょう) Tel: 070-5596-5924 Email: [email protected]