GEO-6ブリーフィングノート 私たちは、地球環境概観が見る持続可能な未来をどう捉えるか?

Briefing Note
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1. GEOシリーズとは 

GEO (地球環境概観) シリーズは、UNEP (国連環境計画)が実施する一つのプログラム「環境問題レビュー(keeping the environment under review)」の主要な事業である。グローバルや(アジアなどの)リージョナルなアセスメントのほか、テーマ別のアセスメント、さらに、そこから派生する様々な報告書で構成されている。IGESはUNEPの重要なパートナーの一つとして、GEOシリーズに積極的に参画し、大きな貢献をしてきた。



 



1.1 GEO-6アジア太平洋地域アセスメントGEO-6アジア太平洋地域アセスメント

グローバルでのアセスメントに先立ち、その土台とすべく各リージョンにおける環境の現状と傾向が取りまとめられた。アジア太平洋地域アセスメントは41か国をカバーし、①地域での文脈と優先順位②現状と傾向③政策・目標・目的など政策対応や方針の選択肢④大局的な潮流と新たな論点・展望の4点について、226ページにわたって言及している。IGESのシニアアドバイザーも出版にあたって共同議長を務める一方、主執筆者のコーディネーターとして、そして主執筆者としてすべての章に関与し、ドラフトのレビューにも参加した。2015年4月にバンコクで開催された地域環境情報ネットワーク会議(REIN:Regional Environmental Information Network Conference)にも深く携わった。REINは優先的にGEO-6で取り上げる事項の決定を支援するもので、それは引き続いて開催された第1回アジア太平洋地域大臣および環境当局フォーラム(First Forum of Ministers and Environment Authorities of Asia and the Pacific )により承認された。加えて、IGESは執筆者向けワークショップを、その本部(神奈川県葉山町)において主催した。



 



1.2 アジア太平洋地域における企業向けGEO-6 アジア太平洋地域における企業向けGEO-6

小規模資金協定のもと、UNEPは、2018年9月にアジア太平洋地域における企業向け報告書である”GEO-6 for Industry”をIGESに委託した。本アセスメントの目的は、事業プロセスが緊密に社会および環境保障を組み込めるよう対話を促進し、産業、政府、消費者による適切なアクションを引き起こすことである。同報告書は88ページにわたり、主要な産業セクターによる環境インパクト、グリーン産業のための政策経路、技術的選択肢、生活様式の変化などをカバーしている。報告書は、以下の章で構成されている。①産業部門のエネルギー効率、②アジアにおける大気汚染管理、③水不足と水質、④生物多様性および産業、⑤電子廃棄物、⑥マイクロプラスチック・ナノ材料、⑦医薬品・パーソナルケア製品、⑧結論(UNEP 2018)。



 



1.3 GEO-6 for Youth Asia-PacificGEO-6 for Youth Asia-Pacific

GEO for Youthは、その名の通り若い世代と次世代リーダー向けに、現在アジア太平洋地域で進行中の環境課題に関する情報を明瞭な理解が得られるようコンパクトにまとめたものだ。① 「私たちの地球・私たちの物語(our Earth, our story)」、②「いのちの輪(circle of life)」、③「環境と経済の線上の微妙なバランス(life on the line)」、④「変わりゆく世界での持続可能性とレジリエンス(sustainability and resilience in a changing world)」、⑤「行動への転換(transition to action -UNEP 2019a)」の5つのパート、全49ページで構成されている。IGES研究員は③~⑤の主執筆者を務めた。また、IGESシニアアドバイザーはレビュアーのひとりとして関わった。



 



2. グローバルアセスメント



2.1 Main ReportMain Report

グローバルなGEO-6のメインレポートは745ページにわたる評価を行っており、146名の執筆者と2000名近くの査読者が関与した。基本的な「現状と傾向(state and trends)」に関する部分がページの約半数を占める。GEO-6は、政策の有効性について従来に比して格段の重点を置き、200ページに迫るボリュームとなった。それらに基づき、「健康な人々の暮らす健全な地球に向けての見通しと道筋(outlooks and pathways to a healthy planet with healthy people)」が示された (UNEP 2019b)。



IGES研究員は、主執筆者の取りまとめ、あるいは主執筆者として第1章 「イントロダクション(Introduction and Context)」; 第10 章「政策効果の分析(Approach to Assessment of Policy Effectiveness)」; 第11章「政策理論と実践 (Policy Theory and Practice)」、第12章 「大気に関する政策手段の概要(Overview of Air Policy Instruments)」、第 15 章「土地と土壌の政策(Land and Soil Policy)」、第16章「淡水に関する政策 (Freshwater Policy)」、第 17章 「分野横断的課題に対する体系的な政策アプローチ(Systemic Policy Approaches for Cross-cutting Issues)」、第18章「政策の有効性に関する結論 (Conclusions on Policy Effectiveness)」、第 20章 「2050年に向けての長期ビジョン(A Long-term Vision for 2050)」、第24章 「進むべき道(The Way Forward)」に携わった。



 



2.2 政策決定者向け要約

2019年1月、政策決定者向け要約(SPM)は95カ国間による交渉を経て合意された(UNEP 2019c)。内容としては、①GEOの概要、②環境問題の新たな状況、③環境政策の有効性、④将来に向けての道筋、⑤アクションのために必要な知見、の5パート・全28ページで構成されている。IGES研究員はSPMにも貢献し、ケニア・ナイロビで開かれた国際的な調整にも参加した。



SPMには「地球環境の全体的な状況は、すべての国と地域における環境政策や改善に向けての努力にもかかわらず、GEO初版発刊以来、悪化の一途をたどっている」と記載している。環境政策への取り組みは様々な原因、特にほとんどすべての国での持続可能ではない生産と消費や不十分な気候変動対策により妨げられている。GEO-6は持続可能ではない人間の営みが地球のエコシステムを劣化させ、生態学的な意味での社会基盤を危うくしてきたと結論づけている(UNEP 2019c)。SPMドラフトについてのコメントには、SPMに関し日本が行った「(GEOにより)環境分野における科学的知識の重要性がしっかりと刻まれてきたことである」との記載が含まれている。Main Report2



SPMに掲載された国連事務総長のコメントは、地球の現在の状況を見事に要約している。「GEO-6は、私たちの地球にとって不可欠な(健康)診断である。あらゆる適切な医療上の診察がそうであるように、このままの事業のやり方を続けた場合に何が起こるかの明確な予測と、物事をあるべき方向に進めるために推奨される一連のアクションがはっきりと示されている。GEO-6は、アクションを遅らせることの危険性と、持続可能な開発を実現させるために存在する機会の両方を詳細に述べている。」



 



2.3 主なメッセージ

GEO-6の共同議長2名は、6つの主要なメッセージを指摘した。 ①健全な地球は人々の健康を支える、②不健康な地球は人々を不健康にする、③不健康な地球に導く要因や圧力に対処する必要がある、④現在の科学は今でも正当な政策行動に寄与しているが、より詳細な知識があればさらに洗練された予防的な政策が可能となる、⑤環境政策は必要だが、それだけでは様々な環境問題に体系的に対処するには不十分、解決にはより包括的なアプローチが求められる、⑥健康な人々、健全な地球、そして健全な経済は相互に補完的である(UNEP 2019b)。



2019年1月、SPM事務局メンバーはGEO-6の主要メッセージ(UNEP / EA.4 / INF.18)について協議し、共同議長が特に伝えたいことを2ページの非公式メモとして作成した。そこには次のような4つの見出しが含まれていた。①健全な地球、健康な人々:今こそ行動する時! ②革新的な変化:体系的かつ総合的な政策行動を求む、③イノベーションのガバナンス:ガバナンスにおけるイノベーション、 ④収穫の時:持続可能性のための知識の活用。



そこから引用すべきひとつの重要メッセージとして、以下が挙げられる。「汚染管理、環境浄化、効率性改善に関して国際的に合意された環境目標を達成することは極めて重要であるが、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するには不十分である。ボトムアップ型の社会的、文化的、制度的および技術的革新を発展させながら、長期戦略と統合的な政策決定を可能にし、それらを結びつけるためには、革新的な変化が必要だ。」



 



3. 第4回国連環境総会(UNEA4)のローンチ

第3回国連環境総会(UNEA3)はUNEPに、GEO-6とSPMを、UNEA4に「検討と承認のために」提示するよう要請した。詳細な報告書は2019年3月13日にナイロビにて公開された。 米国はGEOに関する決議のドラフト原案を提出しており(USA2019)、そこではUNEA4がGEO-6とそのSPMを承認するよう推奨されている。同様に、事務局長(Executive Director)には、UNEA5までに地球環境データの収集、保管、アクセス、利用に関する長期戦略を練ることが要請された。GEO-7のプロセスは静的なものではなく、反復的なものとするよう提案されている。また、本決議は、関連する国際プロセスなどで既に合意された地球環境に関する目標の達成に向けた進捗を測定することが大切としており、それによりGEOシリーズがより政策と関連したものとなる必要性を指摘している。



本ドラフト決議はUNEPならびにUNEA4の常任代表委員会の第4回総会で討議された。全委員会では、GEO-6に関する妥協案が作成され、承認後UNEAに引き継がれた。重要な変更点のひとつとして、ある先進2か国がGEO-6に「賛同する(endorse )」代わりに「留意する(note)」とすることを要請した。



UNEA4では、UNEPはSPM (UNEP/EA.4/18) と GEO-6 主要メッセージ (UNEP/EA.4/INF/18)を審議した。EUは強くGEO-6を支持する一方で、ある先進2か国は「賛同する(endorse )」ことを拒み、やや控えめに「歓迎(welcoming)」するとした。各国の代表は、2019年9月までに提出予定のハイレベル政治フォーラム(HLPF)および世界規模の持続可能な開発報告書にGEO-6が良い貢献をすることを期待している。



最終決議(UNEP/EA.4/L.27)では、 UNEA4は謝意をもってGEO-6とSPMを歓迎し、環境のモニタリング、アセスメント、組織内外による強力な科学政策インターフェースを優先的に促進することを保証するようUNEPに要請した (IISD 2019; UNEP 2019d)。 将来のGEOに向けたデータに関する長期戦略として、①データ収集・分析の特定と調和、②UNEPのデータ保管能力の改善、③各国の環境データ管理支援、④地球観測システムとの協調、⑤市民科学の促進、の5点が提案された。同様に、UNEP50周年に向けて、地球環境に関する科学的政策のインプットを準備することも推奨されている。 UNEPの運営委員会はUNEA5のために、GEOシリーズの主な機能やスコープ、考えられるフォームなどを記載したオプション文書を用意する予定だ(UNEP 2019d)。



 



4. 所見

GEO-6は、日本ではメディアでの扱いは、ほとんど見られなかった。一方、海外メディアでは、GEO-6は過去の報告書と比較して、非常に多く取り上げられた。「地球環境は悲観的な状況におかれているが、まだ望みはある」とのメッセージが、主に報告書から引用された。一例を挙げよう。



「水曜日(3月13日)、ケニア・ナイロビの国連総会にて、GEO-6が公表された。そこに描かれているのは、環境問題が相互に作用しあい、人々の安全をさらに脅かす悲観的な光景だ。740ページの報告書に『リスク』との単語が561回も使われている(PBS2019)。残念ながら、政策決定者向け要約(SPM)で提示された解決策とキーメッセージは、現在のトレンドをより持続可能な開発に近づけるには力不足であろう」



SPMとキーメッセージを含めてUNEA4報告書を「支持する(endorse)」ことができないと、複数国が感じた理由は不明瞭だが、実務上は「謝意をもって歓迎する(welcoming with appreciation) 」と「支持する(endorse)」の間に有意な差があるとはおそらくいえないだろう。さらに意義深いこととして、現在の断続的なGEO報告書プロセスは、世界の環境を監視下に置き続けるにあたって最善策ではないのではないかとの見方もできる。主要なデータポータルであるUNEPLiveに対しても、あまり効果的とは言えず、またGroup on Earth Observationsといった他のデータソースに十分にリンクされていないとの懸念がある。もともと米国が発案していた 決議は、GEO-7を「静的な出版物というよりも反復的なものとし、独立し、ベンチマークされたプロセスを踏んで、2021年と2023年に報告されるべきだ」と主張していた。



このようなGEOシリーズのプロセスに対する懸念は、UNEA5の検討に向け、GEOプロセスに関するオプションペーパーを準備するための運営委員会を設置することで決着した(2019年5月末までの指名制)。GEOが有意義なインパクトを生み出し、さらに環境政策の有効性にさらに照準を定めていると仮定すると、GEOのプロセス改善に寄与することはIGESのような政策研究機関の果たすべき重要な役割であると認識している。



結論として、GEOシリーズはUNEPが主導する重要な一連のアセスメントであり、数百名もの世界的な環境分野の専門家が一堂に会し、HLPFやGlobal Sustainable Development Reportといった他の重要なグローバルレベルでの評価プロセスにも大きな影響を与えるものである。一方で、日本ではUNEP、GEOともに十分にその役割や意義、決議がもたらす影響が紹介されているとは言いがたい。国際プロセスの文脈を理解し適切な政策や意思決定を行う上での基礎知識として、国や自治体といった行政機関だけではなく、企業やメディア、一般市民といった多様な主体が、まずはSPMだけでも認識・理解することが望ましいであろう。これまでもIGESはGEO執筆や付帯業務に従事してきたが、引き続き積極的な情報提供を通じて、それぞれの主体の前向きなアクションにつながるよう貢献していきたい。



 




  • 参考文献

  • IISD (2019) Earth Negotiations Bulletin (ENB): Volume 16 Number 153, Monday, 18 March 2019: Summary of the Fourth Session of the United Nations Environment Assembly.

  • PBS (2019) Worsening environment is deadly but not hopeless, UN report says.

    https://www.pbs.org/newshour/world/worsening-environment-is-deadly-but-not-hopeless-un-report-says

  • UNEP (2016) GEO-6 for Asia and the Pacific. United Nations Environment Programme, Regional Office for Asia and the Pacific, Bangkok, Thailand.

  • UNEP (2018) GEO-6 for Industry in Asia-Pacific. United Nations Environment Programme, Nairobi, Kenya.

  • UNEP (2019a) GEO for Youth Asia and the Pacific. United Nations Environment Programme, Regional Office for Asia and the Pacific, Bangkok, Thailand.

  • UNEP (2019b) Global Environment Outlook – GEO-6: Healthy Planet, Healthy People. Nairobi. DOI 10.1017/9781108627146.

  • UNEP (2019c) Global Environment Outlook – GEO-6: Summary for Policymakers. Nairobi. DOI 10.1017/9781108639217.

  • UNEP (2019d) Keeping the world environment under review: enhancing the United Nations Environment Programme science-policy interface and endorsement of the Global Environment Outlook. UNEP/EA.4/L.27.

    https://papersmart.unon.org/resolution/uploads/k1900891.pdf

  • USA (2019) Environment Under Review: Enhancing UNEP’s Science-Policy Interface and Endorsement of the Sixth Global Environment Outlook report. Resolution submitted to UNEA4.

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