近年、世界各地で死んだ海鳥やクジラなどの胃から大量のプラスチックが見つかり、ウミガメの鼻腔に刺さったストローを抜く動画などがメディアで取り上げられ、海洋プラスチックごみ問題への関心が世界的に高まっている。こういった事例は、特にプラスチックごみの排出が多いとされるアジア地域に限らず世界各地で報告されており、地球規模の課題となっている。クジラの主要な事例だけでも、2018年1月にはインドネシア東部で6キロ、2019年3月にはフィリピン南部で約40キロ*1、2019年4月には地中海のサルディーニャ島で約22キロものプラスチックがそれぞれ死骸から見つかった*2。日本国内でも、2018年の夏、鎌倉市由比ガ浜でシロナガスクジラの胃の中からプラスチックごみが発見された*3。
これらはあくまで象徴的な事例であり、プラスチック汚染の氷山の一角でしかない。世界経済フォーラム報告書では、90%以上のプラスチックはリサイクルされず、プラスチック容器包装材を中心に少なくとも年間800万トンものプラスチックが海洋に流出し*4、海洋の生態系、漁業、観光に年間約130億ドルの損害をもたらしているとの試算もある。また、プラスチック汚染は海洋の生物に留まらず、マイクロプラスチックが食物連鎖を通じて人体に取り込まれることによる健康への影響も懸念されている*5。
こうした地球規模のプラスチック汚染に対処するため、世界各地で政府や企業による取り組みが急速に進んでいる。G7では、2016年のG7伊勢志摩サミットの首脳宣言中で、海洋プラスチックごみに対処することを再確認したほか、2017年イタリアG7ボローニャ環境大臣会合においても、海洋プラスチックごみ問題とマイクロプラスチック問題への懸念が表明され、モニタリング及び評価のための科学に基づく指標及び方法の調和、海洋環境へのプラスチック流出を避けるための使い捨てプラスチックやマイクロプラスチックの斬進的な削減などを進めることが確認されている。2018年6月のカナダで開催されたG7シャルルボワ・サミットでは、合意文書「健全な海洋および強靭な沿岸部コミュニティーのためのシャルルボワ・ブループリント」が採択され、海洋プラスチック廃棄物などの生態系への脅威の緊急性を認識するとともに、より資源効率的で持続可能なプラスチック管理への移行にコミットした。加えて、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国およびEU首脳は、「G7海洋プラスチック憲章」に署名し、2030年までにプラスチック包装の55%をリサイクルまたは再利用し、2040年までにはすべてのプラスチックを回収するよう民間や政府と協力することとした。
民間でもグローバル企業を中心に取り組みが進んでいる。コカ・コーラ社は、2018年に2030年までに世界全体でペットボトルや空き缶を100%回収しリサイクルする「廃棄物ゼロ・イニシアチブ」を宣言すると同時に「廃棄物のない世界」とのビジョンを掲げ、100%リサイクル可能なパッケージ素材の採用に取り組み、2015年には世界初となる100%植物性由来のペットボトルを開発した*6。ペプシコ社も2018年10月に2025年までにプラスチック容器製造での再生素材割合を25%に増加させ、特にペットボトルについては再生素材の割合を33%にまで高めるとコミットしている。2019年1月の世界経済フォーラムのダボス会議でもプラスチックごみが主要なテーマとして取り上げられ、P&Gやペプシコなどが少なくとも100回再利用可能なガラスやステンレス製容器を使った商品の販売ならびに配送に取り組むと発表した*7。
このように海洋プラスチックごみへの関心が高まり、その対応の緊急性が叫ばれる中、2019年3月11日から15日にかけて、ケニア・ナイロビにて第4回国連環境総会(UNEA4)が開催されたが、国際的な潮流を受け、海洋プラスチックごみが中心的な議題となった。UNEA4では、海洋プラスチックごみへの言及を含む閣僚宣言のほか、日本・ノルウェー・スリランカの共同提案に基づく海洋プラスチックごみおよびマイクロプラスチックをはじめとする計23本の決議が採択された。
今回の交渉では、インドが非常に野心的な使い捨てプラスチックの決議案を提案し、閣僚宣言の交渉においても、2025年までにフェーズアウト(段階的な排除)という文言にこだわった。背景には、昨年インドの首相が2022年までに国内のすべての使い捨てプラスチックを排除すると宣言したことがある。欧州は全般的にこの文言を支持したが、一方で、米国を含む一部の国が実施の難しさから慎重な姿勢を取り、最終的には「使い捨てプラスチック製品を2030年までに大幅に削減」との文言で落ち着いた。しかし、米国は、この文言にも満足せず、①海洋プラスチックごみの大半はアジアの6ヵ国から排出されている、②これらの6ヵ国における廃棄物管理改善を通じて大幅に削減可能である、③海ごみプラスチックごみの課題を解決する道筋が多数存在する中でこの文言は規範的過ぎる(too prescriptive)と採択時にコメントして、この文言から離脱(dissociate)すると表明した*8。
日本、ノルウェー、スリランカが共同提案した「海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチック」に関する決議では、①科学技術助言メカニズムなどによる科学的基盤の強化、②行動強化のためのマルチステークホルダープラットフォームの新設、③UNEA5に向けた公開特別専門家会合による国際的な取組の進捗レビューおよび対策オプションの分析の3点が決定された。海洋プラスチックごみ対策において、科学的基盤の強化の必要については、多くの国が賛同するところではあるが、その実施方法においては、各国で意見の食い違いが見られた。特にノルウェーなどは国際的なガバナンスの強化を訴えた一方で、一部の国はUNEA3を経て設置された「海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチック問題専門家会合」のパフォーマンスがきわめて低かったと判断し、国際的な実施やガバナンスを強化するよりも、国レベルで民間企業や研究所などのマルチステークホルダーの行動を促すべきとのスタンスであった*9。
「科学技術助言メカニズム」や、「マルチステークホルダープラットフォーム」、「公開特別専門家会合」など、これらの組織を多国間で実際に設置し運用することは、過去の類似経験からすると、名称と想定される役割は異なるとはいえ、重複を生み、政治的な硬化を招く可能性が考えられる。一方で、ノルウェーなどは海洋プラスチックごみを管理する国際的なガバナンス・システムの不在を問題視しており、次回のUNEA5で再度、国際的なガバナンスの余地を縮小しようとする米国と逆にそれを重視するノルウェーをはじめとする国々の攻防が見られると推察される*10。
2018年9月、日本では、プラスチック廃棄物に対する科学的知見の集積や、アジア諸国での管理向上など、化学業界全体での対応を加速することを目的として、海洋プラスチック問題対応協議会(JaIME)が設置された。海外では、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)がエンド・オブ・プラスチック・ウェイスト(AEPW)を立ち上げたほか、クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)も、海洋プラスチックごみ問題の解決に向け、プラスチック製品の持続可能な使用や代替素材の開発・導入推進とイノベーション加速のために立ち上げられている*11。
米国では、カリフォルニア州などを筆頭に、ワシントン州、マサチューセッツ州などでプラスチック製のレジ袋やストローの規制が進んでいるが、特に国連を中心としたグローバルガバナンスに懐疑的なトランプ政権下では米国代表も自由に前向きな議論ができず、環境問題への対処に積極的な他国の足かせとなっている印象もある。また、国連のマルチ外交の場では、南北の対立構造が根底にあり、途上国がUNEA 決議を利用してUNEPやドナーからの経済的・技術的支援を引き出そうとする動きが見られるため、先進国が慎重にならざるを得ない部分もある。こうした国際交渉の行き詰まりを避け、実施を促進させるためにも、SDGsでも掲げられているように、マルチレベル(国際、国や地域レベル)かつ非政府主体を含むマルチステークホルダー、特に上述の民間企業によるコアリションによる自主的な行動を推進することが肝要である。国内外問わず、海洋プラスチックごみ対策に向けたイニシアチブは民間主導で自主的に進められている。また、国際会議は国連だけのものだけではなく、世界経済フォーラムによるダボス会議をはじめとして、民間主導で、世界各地で開催されている。国連は政府主導ゆえに政治情勢を受けやすく、南北対立や地域ブロックで対立し、本筋と離れたところで合意に至ることが困難になることも多いため、むしろこういった民間の自主的なイニシアチブを補完的に支援するような役割に徹したり、民間や地域、自治体レベルでの取り組みを同時推進したりすることも得策であると考えられる*12。
もうひとつ、忘れてはならない重要なステークホルダーは私たち市民である。プラスチックは、政府や民間の事業だけでなく私たちの生活に密接にかかわる素材であるがゆえに、私たち市民もステークホルダーとして主体的に問題意識を持ち、廃棄を削減する努力をすることが重要だろう。
- 脚注
- BBC「死んだクジラ、胃に40キロ分のプラスチック」
https://www.bbc.com/japanese/47621048(accessed on 2019/04/02) - CNN「クジラの死骸から22キロのプラスチック、胎児も死ぬ イタリア」
https://www.cnn.co.jp/world/35135095.html(accessed on 2019/04/02) - 神奈川県「「かながわプラごみゼロ宣言」―クジラからのメッセージ―」
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/p3k/sdgs/index.html(accessed on 2019/04/02) - Ellen MacArthur Foundation (2016), “The new plastics economy: Rethinking the future of plastics”
- UNEP (2018) Mapping of global plastics value chain and plastics losses to the environment (with a particular focus on marine environment)
- Coca Cola (2018) “Sustainable Packaging”
https://www.coca-colacompany.com/stories/world-without-waste (accessed 2018/06/17)
Coca Cola (2018) “2020 Vision”
http://assets.coca-colacompany.com/22/b7/ba47681f420fbe7528bc43e3a118/2020_vision.pdf (accessed 2018/06/17) - World Economic Forum (2019) “The Loop Alliance plans to eliminate plastic waste and save the planet. You can too.”
https://www.weforum.org/our-impact/the-loop-alliance-plans-to-eliminate-plastic-waste-and-save-the-planet-you-can-too(accessed on 2019/04/02) - 9. 10. 11. 12 吉田哲郎(2019)「第4回国連環境総会(UNEA4)報告:海洋プラスチックごみ交渉とUNEAの今後の展望」