メッセージ:20周年に寄せて
国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)事務局長
シャムシャド・アクタール
国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)事務局長
IGES設立20周年を心よりお祝い申し上げます。1998年の設立以来、IGESとESCAPは密接に協力しながら、アジア太平洋地域の環境的に持続可能な開発を支援する革新的な総合政策アプローチを推進してきました。ESCAPが2000年に開催した「第4回アジア・太平洋環境と開発に関する閣僚会議(MCED2000)」における「クリーンな環境のための北九州イニシアティブ」の採択以来、このパートナーシップはますます強固なものになっています。
持続可能で包摂的な開発の推進は、環境劣化、人口動態の変化、食料不足、水不足、急速な都市化等、世界が直面する大きな変化がもたらすマイナスの影響に立ち向かう最善の方法です。この考え方は、現在世界が取り組みを進めている「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に反映されています。この意欲的なアジェンダが重きを置くのは、国ごとの現状に即した質の高い総合政策策定の重要性です。アジア太平洋地域におけるIGESとESCAPのパートナーシップは、より良い未来に向けたこの共通のアプローチに基づいて構築されています。
ESCAPは、アジア太平洋地域の健全な政策策定に欠かせない時宜を得た研究をさらに活発化させるため、IGESとのパートナーシップ拡充を望んでいます。自然資源管理、気候資金、持続可能な都市、革新的環境政策の分野、また地域環境アセスメントの共同実施に大きな機会と可能性を見出しています。ESCAPは、開発課題に対する分析強化、そして2030アジェンダの持続可能な開発目標達成を目指すアジア太平洋地域の取り組み支援及び政策転換促進におけるIGESとの連携に期待しています。
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事
有馬 利男
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)にとって、IGESとの関係は決して長いとは言えないが、SDGsを巡り実に近しく深いものがある。
2015年秋、IGESは国連グローバル・コンパクトに署名すると同時に、GCNJの会員として活動に参画するようになった。その時、IGES森所長がもう一つの提案をした。『SDG Compass』を共訳しようというのである。こうしてGCNJとIGESの初の協働が開始し、2016年3月、無事『SDG Compass』日本語版のお披露目を兼ねたシンポジウムを共催することになった。『SDG Compass』は文字通りSDGsの企業行動指針として、今やSDGsに取り組む企業人のバイブルとなっている。思い出深い初仕事となった。
翌年の秋からは、GCNJが2015年以来、毎年実施するSDGsの会員向け実態調査の協働に着手した。IGESのリサーチャーとビジネス出身の事務局員が、異なるバックグラウンドを活かしながら二人三脚で取り組んだ調査で、メディアを含め大きな反響を呼んだ。人員の少ないGCNJ事務局だけではやりたくてもできない活動であり、このような成果を出せたことにこの場を借りてIGESの皆様に心からお礼を申し上げたい。SDGs実態調査は2017年度も協働中で、デジタルコンテンツでの発信力強化など、パワーアップが図られている。うれしい限りだ。
私自身も、IGESが事務局を務める環境省のステークホルダー・ミーティングの構成員としてIGESの面々と定期的に顔を合わせる。また、2016年7月に開催されたISAP2016で「アジアにおけるSDGsの革新的な取り組みの開始:主要ステークホルダーの役割」というセッションに登壇する機会もいただいた。大変含蓄に満ちたダイアログで、登壇者としても刺激を受けるとともに、二日間にわたりISAPという国際的で大きなコンファレンスをオーガナイズするIGESの機動力に感銘を受けた。さらに、長らくGCNJの理事を務めていただいている武内和彦先生が、昨夏IGESの理事長に就任された。これもご縁というべきで、本当にIGESとの強いえにしを感じる。今後IGESとの協働がますます楽しみであると同時に、IGESのこれからのご活躍を心から祈念する次第である。
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)
事務局長
パトリシア・エスピノサ
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長
IGES設立20周年にあたり心よりお祝い申し上げると同時に、持続可能な開発に向けたIGESの多大な貢献に対して敬意を表したいと思います。
IGESの研究活動は、人類にとっての課題と機会、つまり、環境の限界を超えずに貧困を克服して繁栄を築き、より良い世界を構築していくことに深く関係しています。気候変動に関する政策策定や実践的な解決策の提示、そして持続可能な消費と生産(SCP)の促進など、アジアのみならず世界における持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定の実施につながる広範な研究活動を展開しています。
IGESは設立当初から気候変動問題に取り組み、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の活動を支えてきました。国連や各国政府、その他主要な関係者を支える国際的ネットワークの中心にあるIGESの視点や取り組みは、京都議定書とパリ協定にも活かされています。また、IGESでは毎年UNFCCC締約国会議(COP)報告セミナーをいち早く開催しており、日本において低炭素社会への理解と機運を高めています。さらに、2015年9月には「UNFCCC-IGES地域協力センター」をタイ・バンコクに設立し、アジア太平洋地域の途上国における温室効果ガス排出削減に向けた支援を実施しています。こうした一連の研究活動が評価され、IGESは、欧州・国際気候ガバナンスセンター(ICCG)が発表した世界気候変動シンクタンクランキングにおいて、欧米外地域ランキングの第1位を獲得したところです。
世界では、異常気象や気候変動による影響が深刻化する一方、前向きな変化を望む声がかつてないほどの高まりを見せており、今まさに大きな岐路に立っていると言えるでしょう。国際社会が、持続可能な未来に向けた積極的な取り組みを進める中、UNFCCCは、トップクラスのシンクタンク、そして重要なパートナーとしてのIGESの次なる20年に大いに期待しています。
元通商産業事務次官
福川 伸次
元通商産業事務次官
地球環境戦略研究機関(IGES)は、アジア太平洋地域の地球環境問題の中枢研究組織として設立され、本年20周年を迎えた。その間、欧米などの先進的事例を取り入れながら、アジア太平洋地域の地球環境対策の研究や国際協力の展開、そして人材の育成などに多大の貢献をしてきた。歴代理事長をはじめ幹部、職員のご努力に深甚なる敬意を表したい。
IGESが設立された1997年といえば、ベルリンの壁の崩壊を契機にグローバリズムへの期待が高まっていた時期にある。地球温暖化対策はグローバル課題の典型であった。しかし、21世紀に入って世界構造の多極化が進み、主要国の政治が国内志向を強め、グローバリズムが揺らいできた。それとともに、地球温暖化対策への求心力も低下した。米国の京都議定書からの脱退、「パリ合意」の離脱がその典型である。
現実には、新エネルギー開発やエネルギー効率改善への国際努力にもかかわらず、温暖化ガスの排出は年率2%前後で拡大しており、各地で温度上昇が続き、砂漠化が進み、異常気象が深刻になっている。そこで、私は、次のことをIGESに期待したい。
第一は、地球温暖化対策の強化への国際世論を高めるリード役を果たすことである。国際機関と協力しながら警鐘を鳴らし、「パリ合意」の効果的な実施とその進化につなげて欲しい。
第二は、国際的に効果的な政策手段を提案することである。例えば、すべての国が温暖化ガスの排出に一定金額を負担する仕組み(例えば温暖化ガス1トン当たり1ドル)を導入すれば一定の抑制効果を持つし、それを財源に技術革新や途上国支援に向ければ効果的である。
第三は、環境イノベーションを通じて産業構造、技術体系、社会意識の抜本改革の構図を示すことである。IGESこそ、国際世論をリードし得る立場にある。
私は、「美しい地球」を次の世代に手渡すため、人類の英知を結集すべきだと思う。IGESがその先頭に立つことを期待している。
国際持続可能開発研究所(IISD)前副所長
ウィリアム・グランビル
国際持続可能開発研究所(IISD)前副所長
IGES設立20周年にあたり、心よりお祝い申し上げます。17年間にわたりIGES役員(評議員、理事)を務める中で、IGESが持続可能な開発を目指す世界のコミュニティで大きな存在感を有する機関に成長していく過程を見守ってきました。
この祝賀メッセージを準備するにあたり、2007年7月に東京で開催されたIGES設立10周年公開フォーラムでの私のプレゼンテーションを振り返りました。当時指摘した論点の多くは現在にも通じ、さらなる持続可能な世界の実現に向けた現在進行形の課題を示しています。IGESや国際機関は、特に下記に挙げる3点について引き続き留意していくことが必要です。
- 取り組みを確かなものに:知識や政策、実践の変革により非生産的な取り組みを持続可能なものへと変化させるレバレッジ・ポイントを見極める。
- 効果的な実施を保証:政策と実践における真の変革につながる戦略を立案する。
- スケールアップ:変革への取り組みの影響力と有効性をスケールアップさせるパートナーシップやネットワークを構築する。
これらについては、IGESの理事会でも幾度となく議論されてきました。それぞれの価値は一般に十分理解され概ね同意を得ていますが、実現には至っていません。なぜでしょうか?多様な目的を持ち、複雑かつ相互につながっている世界の変革のペースに私たちの能力が追い付いていないからではないでしょうか。
しかし、成功例がないと言っているわけではありません。「Our Common Future(我ら共有の未来)」が持続可能な開発の考え方を取り上げてから30年以上が経過しました。今では、プラネタリー・バウンダリーの概念など複雑な適応システムについて確かな知見を得ています。そして、多くの有能な人材と機関が持続可能性のさまざまな課題に対して懸命に取り組んでいます。IGESは20年にわたる経験の中で成熟し、こうした課題に真剣に取り組んできました。IGESがより良い世界の構築に資するよう、引き続き学び成長していくことを願っています。
国際持続可能開発研究所(IISD)副所長(レポート配信サービス・国連リエゾン)
ラングストン・ジェームス “ キモ”・ゴリー6 世
国際持続可能開発研究所(IISD)副所長(レポート配信サービス・国連リエゾン)
IGES設立以来20年にわたり、IGESとIISDは連携・協力関係を深めてきました。両機関とも、政府によるイニシアティブの下で設立された環境や持続可能な開発分野で研究活動を行うシンクタンクです。自国政府からの支援に留まらず、国内業務と国際業務をうまく組み合わせながら、財源の多様化を図っています。また、両機関の本部は首都から離れた場所にあることから、活動拠点を広げ、オンライン化に重きを置いて業務展開する必要がある点も共通しています。さらに、自分たちが、日本或いはカナダで業務を行う国際機関であるのか、または国際的な業務を担う国の組織であるのかを自問し続けています。
私が初めて神奈川県葉山町を訪れたのは、IGESが現在の研究棟の向かい側にある湘南国際村センターに本部を置いていた1999年のことでした。それは4月の晴れた日で、相模湾の向こうに富士山をはっきりと望むことができました。私は初代IGES理事長の森嶌先生とともに屋外に出て、後にIGES本部が建設されることになる場所を教えてもらいました。
20年にわたるIGESとの連携・協力を大変光栄に思います。10年以上IGESの役員(評議員、理事)を務めたウィリアム・グランビル前IISD副所長に続き、現在私はIGESの評議員として、IGESのこれからの20年の力となれるよう尽力しています。デジタル化が進みコミュニケーション手段が急速に変化する中、IGESがこうした変化に適応していく過程で、ナレッジプロダクトやオンライン化といった分野での私自身の知見が一助となれば幸いです。
成蹊大学名誉教授
廣野 良吉
成蹊大学名誉教授
IGESとの関わり:国内では中央環境審議会、経済審議会、経済協力審議会をはじめ、多くの審議会委員や分科会座長として、長年日本政府の政策形成へ関与し、国際的には経済協力開発機構をはじめ、多くの国際開発金融機関、国連機関などの職務や海外大学院での教育・研究に関わり、経済と環境の両立を訴える中で、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)を契機として、地球環境基金、アジア太平洋環境大臣会議が設立され、我が国にも地球環境問題を経済・社会政策的側面から研究する世界的機関の設立の必要性が認知され、IGES設立財団が発足した。
当時の印象:IGESの設立が公表されると、日本全国都道府県から誘致の応募があり、IGES設立財団理事として、一般財団法人IGESの①定款作成、②場所選定基準作り、③場所の選定などの審査に携わった。理事の間では、①については、地球環境問題に関する戦略研究、特にアジア諸国・地域の課題に配慮、多くの国々の出資金・拠出金に支えられた国際機関を目指す、研究者の半数は外国人、使用言語は日本語と英語、②については、地方自治体の資金的・行政的協力、周囲の大学・研究機関との連携・協力、利便性、③については、選定基準に沿った書類選考、最も有力な4応募自治体への現地視察・協議、理事全員による票決で合意を見た。審議の結果、全会一致で葉山町にIGESの設立が決定した。世界的研究機関への発展意欲は旺盛であったが、最初の10年は手探りから始まり、ホップ・ステップの期間であり、ジャンプの段階を見るのは次の10年であった。
IGESへの意見、今後への期待:関係者の不断の努力と協力により、世界的に有力な戦略的政策研究機関として発展してきたIGESであるが、今後もその持続的な発展のためには、国際社会が直面する主要な地球規模的課題への取り組みで政府、国際機関、企業財団の協力のみならず、市民社会を巻き込んで、リスクを恐れずに大胆な直近・短期・中長期的政策の選択肢を国際社会へ提示していくことを期待する。
兵庫県知事
井戸 敏三
兵庫県知事
地球環境戦略研究機関(IGES)が設立20周年を迎えられました。心からお祝い申しあげます。
世界がひたすら経済成長を追及してきた20世紀。自然の一員であるはずの私たち人間は、そのことを忘れ、自然を征服し意のままに支配しようとしてきたのではないでしょうか。この人間中心の考え方こそが、今、地球規模の環境破壊を招きつつある大きな原因だといえましょう。
IGESが設立された1990年代は、まさに20世紀に重ねてきた行動への反省に立ち、世界中で環境問題への意識が高まりはじめた頃。IGESは、最先端の知見を結集して、経済発展著しい途上国をはじめ、アジア太平洋地域の環境問題の解決に大きな役割を果たしてこられました。
とりわけ、2001年に兵庫に開設されたIGES関西研究センターでは、世界第3位の温室効果ガス排出国であるインドにおいて、日本企業の優れた省エネ技術の導入・定着を図るなど、素晴らしい成果を挙げておられます。また、国内においても、兵庫県と連携して開発した「うちエコ診断」は、一般家庭がCO2削減に取り組む強力なツールとして、今や日本全国で広く活用されています。歴代理事長をはじめ、関係の皆様のご尽力に改めて感謝を申しあげます。
「環境の世紀」といわれる21世紀も、20年が経過しようとしています。これまで、IGESなど国際的研究機関の科学的知見に基づく警鐘が、世界の人々、企業、リーダーの環境問題に対する意識を高め、その行動の変革を促してきました。こうした地道な努力が、先進国と途上国の壁を乗り越えた、COP21での歴史的なパリ協定合意を導いたといっても過言ではありません。
しかし、地球上を見渡せば、大気、水、生態系など、まだまだ様々な分野に20世紀の“負の遺産”が残されています。それらを解消し、豊かな地球環境を次世代へと引き継いでいくことは、今を生きる私たちの大きな使命です。
IGESには、地球の未来を守る環境適合型社会の先導役として、大きな期待を寄せています。これまで培ってこられた豊富な経験と確かなネットワークを存分に活かして、さらに充実した活動を展開していってください。
地球環境戦略研究機関の今後ますますのご発展と皆様のご健勝でのご活躍を心からお祈りします。
地球環境ファシリティ(GEF)CEO 兼議長
石井 菜穂子
地球環境ファシリティ(GEF)CEO 兼議長
IGESとのご縁は妙なところから始まる。GEF(地球環境ファシリティ)のCEOの職が公募されるから受けてみてはどうかとの打診があったのが2011年。開発と財務一筋で30年やってきた私にとって、環境はやや敷居が高い。興味はあるが、どうしたものかと悩んでいた時に、世銀の環境専門家からIGESの存在を教えられ、ご指導を仰ぐこととなった。その時に「まぁこれくらいは勉強してください」と渡されたファイルのどっしりと厚かったこと。地球環境問題の基本から旬のトピック、GEFをめぐる政策論議など、幅広い分野をカバーするペーパーを頂戴した。今思い返してみても、あれだけの資料が瞬く間に揃えられるのは、今現在地球環境分野で何が政策課題になっているのか、時々のホットな話題は何かを熟知していないと叶わないことで、IGESの底力を知るきっかけとなった。選挙活動中の「キャンペーン・スピーチ」の制作に当たってもその内容についていろいろと助言をいただいた。幸いにしてCEO選を勝ち抜くことができ、IGESの皆さまと祝杯をあげさせて頂いたが、そのとき「まさかGEFのCEOを日本人がとる日がくるとは思わなかった」というお祝い(?)の言葉は忘れられない。
その後はGEFのCEOの立場から、COPを始めとする各種の国際会議で、研究から政策提言まで広範な分野でIGESのご活躍を拝見することとなった。GEFは、二酸化炭素排出削減効果の計測と監視のためのキャパシティ・ビルディングを手助けしているが、その枠組み作りについてIGESに知恵をお借りすることもあった。こうした経験を通じて、IGESという組織は、ひょっとして国内よりも国際的な知名度の方が高いのではないかと密かに思っていたところ、このたび、ICCG(気候行政国際センター)が発表した「2016年版気候変動シンクタンクランキング」において、IGESが「欧米外地域での気候変動研究機関」として、実質ランキングで第1位を獲得したというニュースが流れた。わが意を得たりである。これから地球環境の分野は、人類の継続的な発展にとって益々重要になってくる。IGESの今後のご活躍におおいに期待している。
一般財団法人 大蔵財務協会前理事長
石坂 匡身
一般財団法人 大蔵財務協会前理事長
IGES設立の切っ掛けとなったのは1995年の総理諮問機関「21世紀地球環境懇話会」の提言である。私は環境庁企画調整局長、その後、事務次官であった。それまでの環境行政は、環境庁設立の動機となった水質汚濁、大気汚染に代表される公害問題への対応が主であった。公害防止、生活環境改善と被害者の救済である。当時、1992年のリオの地球サミットを契機に環境問題への認識と取り組みが大きく変わり始めた時期にあった。公害問題は、それまでの取り組みによる改善、世の中の公害防止への認識の深まりにより最大の社会問題ではなくなり、地球の環境保全の必要性、地球の自然・資源は無限のものではなく、人間社会は地球の自然環境を持続的に使用、自然と共生していかねばならないことが広く認識されるようになり始めた。こうした中で、環境基本法、環境基本計画、生物多様性基本戦略が策定された。IGES創設も、そうした大きな動きの中で、日本として国際的に通用する、そして実践的な政策提言のできる地球環境問題の研究機関の必要性が認識されたことによる。
懇話会提言を切っ掛けに組織設置の具体化が図られ、自民党環境部会には宮下創平、大島理森元大臣も出席、全面的応援を約束頂き、準備会合を重ねて基本を詰めたのである。機関設置場所の選定、予算獲得、研究棟の確保など準備を進め、1998年4月に森嶌氏を理事長にIGESは発足した。私も現役の時代、そして退官後は準備会合メンバーとして、発足後は10年間評議員、議長を務めさせて頂いた。
研究の成果をあげるためには、有能な研究員、事務職員の採用、ガバナンスの確立、研究の適切な評価と外部への広報、組織の国際的アピール、予算の獲得と効率的使用など創設時の課題は山積していた。森嶌理事長のご努力には感謝申し上げる。気候変動を始めとして都市環境問題、森林保全、産業と環境保全、淡水資源管理、環境教育などのテーマに取り組み、3年毎のローリングプランで研究を進めることとなったが、その後、長期展望も作成している。
20年を経て、今日、IGESが世界に認められる存在となったことは誠に喜ばしいことであり、これまでの関係者の努力の積み重ねの上にあると思う。今後、実践的な政策提言機関として、順調に発展していくことを願ってやまない。
国際応用システム分析研究所(IIASA)所長
パヴェル・カバット
国際応用システム分析研究所(IIASA)所長
地球規模の課題に取り組む研究機関であるIIASAコミュニティを代表して、IGESの設立20周年を心よりお祝い申し上げます。IGESはその設立以来、研究者と専門家のネットワーク構築に向けたたゆまぬ努力を続けられ、アジア太平洋地域における戦略研究をリードしてきました。
IIASAとIGESは共通の研究目標とビジョンの下、これまで20年にわたり緊密な連携を進めています。IGESが事務局を務める「アジアコベネフィットパートナーシップ(ACP)」に参加することで、IIASAは、他のパートナー機関とともに、アジアの環境課題に対するコベネフィットアプローチの実施に取り組んできました。
最近では、「短寿命気候汚染物質削減のための気候と大気浄化の国際パートナーシップ(CCAC)」および「アジア太平洋クリーンエアパートナーシップ(APCAP)」において協力し、アジア太平洋地域の大気汚染に関する評価報告書を共同で作成しています。報告書の全体調整を行うIGESとストックホルム環境研究所、そして評価報告書のPhaseII作成を主導するIIASAの「大気質と温室効果ガス(AIR)プログラム」との連携です。
また、IGESとIIASAの連携には、統合的なアプローチを用いてアジアの大気汚染や気候変動問題を議論するIGESと環境省が開催した一連の国際ワークショップも含まれます。IIASAはGAINSモデルによりアジアの短寿命気候汚染物質削減に向けた評価を行い、IGESでの研究に活用されています。さらに、IGES研究員は、異なるエネルギーシステム転換のパスウェイにおけるエネルギーセクターの水需要に関するIIASAの評価研究に対して、大きく貢献しています。
これらは近年の連携のほんの一部に過ぎません。世界の多くの地域、コミュニティ、政府が環境問題、経済問題、そして社会不安に直面する中、こうした連携協力は非常に重要な意味を持ちます。また、私が2017年にキーノートスピーカーとして参加した「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)」の開催についてもIGESに敬意を表したいと思います。
IIASAは、低炭素で持続可能なアジア太平洋の実現を目指すIGESコミュニティとの特別な関係が次なるステップへと発展することを期待しています。
武蔵野大学客員教授
国際総合研究所フェロー
川口 順子
武蔵野大学客員教授
国際総合研究所フェロー
私のIGESとのかかわりは、2000年7月、環境庁長官を拝命した時に始まる。その中でもアジア太平洋環境開発フォーラム(APFED:The Asia-Pacific Forum for Environment and Development)で一緒に仕事をしたことが一番素晴らしい思い出である。IGESの底力を見た、と思った。
長官として私は、アジア太平洋の国々が共に持続的に発展・繁栄していくために、環境についての日本の成功・失敗経験を地域の国々と分かち合うことが必要であり、その仕事に取り組みたいと思った。そこで提案したのが、持続可能な発展の道筋について各国・各地域の経験を分かち合い水平展開することを目的とした、APFEDという枠組みで、この提案は2001年の北九州市で開催されたECO ASIA 2001で各国の賛同を得た。APFEDは自由に知見を交換する民の場であるが、同時に、取り組みを各国の政策につなげられなければ無意味であるので、その観点から、各国からの委員は各国政府に決めてもらった。
最初の議長は、橋本龍太郎元総理が引き受けてくださり、私は二人目の議長を務めた。第一回目の会合はバンコクのチャオプラヤ河の遊覧船上の夕食会で始まった。私の記憶では、この時に枠組みの名前を議論し、APFEDに確定した。終始議論をリードしたのが、パキスタンのハッサン氏だった。
この国際会議APFEDの運営というむずかしい仕事を一手に引き受けて、実質的に舞台を回してくれたのがIGESである。豊富な環境問題への知見と経験を駆使して、議題の設定、資料作成、会場設営、報告書作成とすべてをタフにこなしてくれた。眠る時間があったのかどうか、一夜明けると資料が用意されているといった具合で、魔法を見る思いがしたものである。他方で、遠来の客を和ませ楽しい会合に作り上げるエンターテイナーでもあった。強靭なIGESのスタッフなかりせば、APFEDの成功はあり得なかったと私は思っている。
私達の生きる場―環境―をめぐる意識は近年大きく変わった。今や、いかに社会のあり方や私たちの生き方を変えることができるか、実践が問われる時代になった。
知見に基づく具体的道筋の提示。設立20周年を迎えたIGESの底力への期待は大である。
北九州市長
北橋 健治
北九州市長
公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の設立20周年を心からお祝い申し上げます。
これまでの取組の成果や蓄積してきた知見を、設立20周年記念誌として発行されますのは、これからのIGESの活動、ひいては世界の持続可能な社会づくりに非常に役立つものであり、大変意義深く貴重な財産となることと期待しております。
さて、我が国を代表する環境シンクタンクであるIGESと本市とのつながりは、設立直後の20年前に遡ります。1998年に本市において地球環境に関する国際的な公開シンポジウムを開催いただき、翌1999年に北九州事務所を開設していただきました。
2000年には、「第4回国連アジア太平洋環境と開発に関する閣僚会議(UNESCAP/MCED2000)」の合意文書、「クリーンな環境のための北九州イニシアティブ」の原案作成等にご尽力いただき、本市の取組が世界的に高く評価される契機となりました。
また、本市が2010年に環境ビジネスの海外展開を支援するため「アジア低炭素化センター」を開設した際、同時期にIGES北九州事務所を「北九州アーバンセンター」へと改称し、機能強化を図っていただきました。そして、都市インフラ輸出等の環境国際ビジネスを進める上で欠かせない、対象地域の環境現況や法制度などに関する情報提供、その地域に適した環境技術の提案などを行っていただいた結果、現在では海外での環境ビジネスは約60都市で150件以上の事業にまで拡大することができました。
さらに最近では、PM2.5対策などの大気環境改善に関する日中都市間連携協力においても本市と連携していただいており、日本の都市では唯一、中国の複数の都市(6都市)を対象として順調に事業を進めています。
このように環境分野で数々の実績を上げてきたIGESの皆様に対し、深く敬意を表すとともに、引き続き、持続可能な発展に向けた調査研究や情報発信に取り組まれ、アジアはもとより、広く世界の環境保全・改善に貢献されますよう期待しております。
結びに、IGESの今後ますますのご発展とご活躍を祈念いたします。
神奈川県知事
黒岩 祐治
神奈川県知事
公益財団法人地球環境戦略研究機関が、設立20周年を迎えられたことを心からお祝い申し上げます。
貴団体は、1998年に神奈川県葉山町に本部を設立して以来、特にアジア・太平洋地域における持続可能な開発の実現に向けて、革新的な政策手法の開発や環境対策の戦略づくりのための政策的・実践的研究に取り組まれ、国内外で大きな役割を果たしてこられました。そして、2017年には世界気候変動シンクタンクランキングでトップ10入りするなど、国際的にも高い評価を受けています。
これは、歴代の理事長をはじめとする役員の方々と職員の皆様の長年にわたる御尽力の賜物であり、心から敬意を表します。
さて、2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、温室効果ガス排出削減等のための新たな国際的枠組み「パリ協定」が採択されました。県内においても1990年代以降、温室効果ガス排出量が増加傾向にあり、地球温暖化対策は喫緊の課題となっています。
また、同年の国連サミットでは、2030年までの「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)が全会一致で採択されました。この開発目標は、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保する」、「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」等の17の目標で構成されています。持続可能な社会を実現するためには、様々な取組が連動していかなければならないというのがSDGsの発想です。
私は、知事就任以来、「いのち輝くかながわ」をスローガンとして掲げていますが、これはSDGsの発想と同じであると考えています。いのちが輝くためには、医療だけではなく、環境、エネルギー、教育など、あらゆるものがうまく連動しなければなりません。
こうした中で、環境問題を経済・社会問題と一体で捉え、研究を進めている貴団体の果たす役割は、ますます大きくなってまいります。今後とも、「いのち輝くかながわ」の実現に向けて、お力添えを賜りますようお願い申し上げます。
結びに、このたびの設立20周年を契機として、公益財団法人地球環境戦略研究機関が、国際的な研究機関としてさらに発展することを期待し、お祝いの言葉といたします。
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)事務局長
アン・ラリゴーデリ
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-
政策プラットフォーム(IPBES)事務局長
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)が2012年に設立されて間もなく、IPBESとIGESのパートナーシップが開始されました。現在、IGESとの連携は一層強化され、多岐にわたっています。2014年からIPBESの事務局長を務めている私より、一人の友人として、IGESが20周年という大きな節目を迎えられたことに心よりお祝い申し上げます。
これまで私は、IGESの東京事務所を訪れたほか、IGES幹部の方々と活発な意見交換を行い、IGESとの間の多角的な連携を主導してきました。同様にIGESも、IPBES総会の年次会合への出席等、IPBESの活動に深く関与しています。とりわけ、IPBESアジア・オセアニア地域アセスメントへのIGESの貢献は大きく、それには、専門家の推薦、関連ワークショップの実施、そして特にアセスメント実施の要であるアジア・オセアニア地域アセスメント技術支援機関(TSU-AP)のホストが含まれます。
2018年3月にコロンビア・メデジンで開催されたIPBES第6回総会にて、アジア・オセアニア地域のIPBESアセスメント政策決定者向け要約が最初に承認されました。これは、TSU-APによる3年間に及ぶ調整、そして、総会における連日の作業や様々な難しい課題を乗り越えて達成したものです。この政策決定者向け要約が承認された瞬間に会場に広がった大喝采、笑顔、明るい笑い声は、常に前向きな姿勢でこのアセスメントに費やされた大変な努力を物語っていました。
IPBESを支えているのはこのようなパートナーシップです。IGESの貢献はIPBESスピリットの模範となるものです。今後新たにグローバルのテーマ別・方法論的アセスメント3件が開始予定であり、パートナーシップは今まで以上に重要となるでしょう。IPBESは、IGESとの協力関係の継続、IGESによる優れた研究の促進、そして、IGESの知見をIPBESのアセスメントや他の活動に活用していくことに大きな期待を寄せています。
最後に、長年の友人・同志であり、IPBESをご支援下さっている武内和彦IGES理事長に改めて感謝申し上げます。IPBESにとって、IGESのようにいつでも頼りになる誠実な仲間を持つことは大変素晴らしいことであると思っています。
気候変動に関する政府間パネル
(IPCC)議長
高麗大学エネルギーと環境大学院教授
ホーセン・リー
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)議長
高麗大学エネルギーと環境大学院教授
IGES設立20周年に際し、心よりお祝い申し上げます。
私は1997年に設置されたIGES設立準備機構の一員であり、その後第2期まで理事を務めました。
IGES設立にあたり設立憲章を策定しましたが、なぜ新たな研究機関を立ち上げるのか、そして、どのようなアプローチで持続可能性と地球環境のレジリエンスという課題に貢献できるのかという議論に多くの時間を費やしました。そして、地球環境問題の中心には社会的価値があり、地球環境問題の解決策を社会的価値にリンクさせる必要があること、そして解決に向けてのプロセスは科学に基づく包摂的なものであるべきという結論に至りました。
こうした原則は、IGES設立憲章並びにその後のIGESの研究活動に反映されています。
1998年にIGESが北九州市及び地球環境変化の人間的側面に関する国際研究計画-産業転換プロジェクト(IHDP-IT、オランダ)と共催し、政府、ビジネス・金融、学界、NGO等から多様なステークホルダーが参加した最初のシンポジウムは、ボトムアップ型の包摂的アプローチに基づいていました。シンポジムで議論を行った都市化と産業転換の関係は、その後も社会技術的システムを軸とした持続可能性への解決策を探る上でのカギとなっています。
2002年にIGESが事務局を務めた第2回日中韓環境産業円卓会議では、産業転換に再び焦点を当てました。また、2004年にIGESが開催し、神奈川県の経験をアジアの水問題解決にどう活用できるのかを議論したシンポジウムにおいてもボトムアップ型の包摂的アプローチが見られました。
現在の立場からは、IGESが1999年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のインベントリータスクフォース(TFI)技術支援ユニット(TSU)をIGES内に設置し、科学と政策の相互連関に大きく貢献していることを挙げたいと思います。
IPCC TFIは、国別の温室効果ガス排出量及び吸収量の推計・報告手法の開発と改訂を行い、気候変動緩和の取り組みに重要な役割を果たしています。UNFCCC締約国は、温室効果ガスインベントリ報告にあたり、IPCC TFIが開発した手法を使用しています。
持続可能な開発目標達成への貢献が求められる中、これまでの20年を礎に、IGESのさらなる活躍を期待しています。
前アジア開発銀行(ADB)副総裁
アジア工科大学(AIT)特別名誉教員
ビンドゥ・N・ロハニ
前アジア開発銀行(ADB)副総裁
アジア工科大学(AIT)特別名誉教員
IGES設立20周年を心よりお祝い申し上げます。私はこれまで、アジア開発銀行(ADB)職員・副総裁やIGES特別顧問として、そして現在は評議員として、IGESと深く係ってきました。この機会に、IGESがこれまで果たしてきた役割、そしてIGESへのメッセージを述べさせて戴きたいと思います。
私がADB在職中には、IGESとの協力関係を深め、途上国に関するプログラムや政策協力プロジェクトをともに進めてきました。その間、IGESの理事長、所長をはじめ多くの職員と有意義な意見交換を行い、志をともにする仲間として良好な関係を築きました。この20年間にIGESは大きく成長を遂げ、重要な政策課題に取り組む有力な研究機関となりました。
IGESの研究活動は国際的に高い評価を受けており、今日では、環境問題に係わる国際コミュニティにおいて重要な位置を占めています。私が精通しているアジア太平洋地域においても、IGESの存在感は大きく、各国の尊敬を集めています。
IGESのような研究機関には、持続可能な開発目標(SDGs)や気候変動、自然災害といった優先度が高く複雑な課題に対して、世界レベル、地域レベル、そして国レベルで取り組んでいくことが求められています。そして、研究成果を自国のみならず国際的な議論へ発信しなくてはなりません。IGESのマネージメントチーム、そして職員の皆様であれば、こうした期待に大いに応えてくれると信じています。
IGESがこれまで積み重ねてきた20年に改めて敬意を表すると同時に、今後の益々の発展と成功を心よりお祈り申し上げます。
国際連合大学学長
国際連合事務次長
デイビッド・マローン
国際連合大学学長
国際連合事務次長
国際連合大学を代表してIGES設立20周年を心よりお祝い申し上げます。
IGESは、設立から20年の間、気候変動や生物多様性等の地球環境問題及び持続可能性アジェンダといった国際的な課題に関する研究を牽引してきました。そしてIGESの研究成果は、日本のみならず広く国際社会の意思決定プロセスに貢献しています。
国際連合大学はIGESと多くの目標を共有しており、これまでFUKUSHIMAグローバルコミュニケーション(FGC)事業や低炭素技術移転(LCT)事業をはじめ、多くの研究協力を行ってきました。私自身FGC事業に係わる機会があり、2014年に福島で国際連合大学とIGESが開催した会議に出席しました。会議では、国内外の第一線で活躍する研究者や政策担当者とともに、地域社会が直面している問題への対応について活発な議論を行い、日本政府に対して具体的な政策提言を行いました。
さらに、国際連合大学とIGESは「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)」を毎年共催し、国際的に活躍する専門家や政策担当者が一堂に会してアジア太平洋地域における持続可能な開発の実現に向けた議論を行っています。ISAPは、世界中から集まる参加者とのダイナミックな議論の促進とともに参加者同士のネットワーク強化を図ることで、国際社会に大きく貢献しています。
また、この機会に、IGESの研究の質の高さについても言及したいと思います。最近、IGESが政策関連研究に関する世界シンクタンクランキングにおいて高評価を得られたことを大変嬉しく思っています。
持続可能性の実現に向けた取り組みにおけるIGESの皆様のさらなるご成功を心よりお祈り申し上げます。
エネルギー資源研究所(TERI)所長
アジャイ・マスール
エネルギー資源研究所(TERI)所長
長年活動を共にしてきた仲間として、エネルギー資源研究所(TERI)を代表し、IGES設立20周年を心よりお祝い申し上げます。
過去15年以上にわたる深く実りある協力関係の中で、IGESとTERIは共に、エネルギーと天然資源の効率的な管理を通じた持続可能な開発の推進を目指してきました。また、2002年10月に中小企業(SMEs)、バイオマス、再生可能エネルギー分野の研究協力に関する覚書(MOU)を交わして以来、数々の共同プロジェクトにも取り組んできました。ニューデリーのTERIオフィス内にIGES南アジアデスクがあり、IGES東京サステイナビリティフォーラム内にTERI日本事務所があることが、両機関の緊密な協力関係を示す何よりの証しだと思います。
研究員同士が互いのオフィスを頻繁に訪れて積極的に意見交換を行っているだけでなく、両機関の重要イベント等、国際会議でのトップ同士の交流も重要な戦略的価値をもたらしています。例えばTERIは、IGESがアジア太平洋地域の持続可能な開発に関する多様な議論を推進するために2009年から毎年日本で開催している「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)」に出席し、IGESもTERIが毎年インドで開催している「World Sustainable Development Summit(WSDS)」に出席しています。
政策・制度レベルの協力も現地での具体的な活動につながっています。両機関は長年、国連気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC/COP)後に、国際交渉の成果や国際社会への影響を検証するために政策ワークショップをニューデリーで開催してきました。また、IGESは2010年5月、TERIと共同でパイロットプロジェクト「インドにおける低炭素技術の適用促進に関する研究(ALCT)」を立ち上げ、研究の結果、インドで日本企業のクリーンで省エネな低炭素技術が適用されるとともに、日本の低炭素技術に関するインド国内市場の可能性も明らかになりました。
今後の皆様のご活躍をお祈りするとともに、IGESとTERIの一層の協力関係強化を願っています。
茨城大学長
三村 信男
茨城大学長
IGESが設置されたのは、地球温暖化防止の京都議定書が合意された翌年の1998年でした。当時、それまでにない研究機関が誕生したという強い印象を受けましたが、それは、我が国の研究機関の多くが各分野における研究開発を主な目的にしているのに対して、IGESは、科学的な研究を土台にしながら、地球社会の未来に向けた実践的な戦略・政策を探究しその実現を目指すとしていたからです。
その後もIGESの取り組みに注目してきましたが、より深く関与するようになったのは、2016年に評議員に就いてからです。最初の評議員会で、IGESが10数年の活動実績によって国際的な影響力を増し、自らの役割をより明確に規定する段階に到達していることが紹介されました。これが、現在の統合的戦略研究計画が掲げる、持続可能な社会構築における「チェンジ・エージェント」という目標でした。
現在の世界は大転換期にあります。とりわけ、2015年9月に国連持続可能サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、12月にはCOP21でパリ協定が合意されるなど、この年を境に世界の潮目は大きく変わりました。パリ協定以降、再生可能エネルギーへの転換が加速し、投資行動にも脱炭素の明瞭な変化が生じています。持続可能な社会の構築に向けて、政治と経済を巻き込んだこれほど大きな流れが台頭したことはかつてありませんでした。その一方で、気候変動の影響の顕在化や世界的な経済格差の拡大、AI・データサイエンス等の技術革新の進展など、様々な課題や要因も併存しています。そのため、これらを統合的に解決する指針として、大転換期におけるスケールの大きな戦略・政策が求められていると感じています。
20周年を迎えたIGESには、こうした時代の流れに対応した新しい発想に基づく研究と政策提案を望みたいと考えています。「チェンジ・エージェント」という目標の下で、国際的に高く認知され、アジア・太平洋地域をはじめとする各国の持続可能な社会構築に現実的な影響力を発揮する研究機関として、今後も一層成長されることを期待します。
環境大臣
中川 雅治
環境大臣
この度、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)が、設立から20周年の節目を迎えられたことを心よりお喜び申し上げます。
23年前、環境庁(当時)は、内閣総理大臣の主催により開催された「21世紀地球環境懇話会」が取りまとめた“地球環境の危機に対処する戦略研究機関を創設すべき”との提言を実現すべく、研究所の設立に向けて様々な準備を進め、諸方面の御理解と御協力の下、神奈川県の支援も受けながら、IGESが設立されました。以来、IGESは、様々な研究成果を発表して徐々に力を蓄えるとともに、環境省をはじめとする政府機関や国際機関等からの多様な資金も獲得してその活動を拡大・深化させ、国際的な認知度も上がり、今や、アジア太平洋地域における持続可能な社会の実現に大きな役割を果たしている研究機関となりました。
IGESが歩んできたこの20年の間に、地球環境の危機は深刻さを増しています。気候変動が進み、その影響も現れてきており、生物多様性の損失、天然資源の需要拡大も続いています。そのような中、2015年には、パリ協定と、持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)という、二つの歴史的合意が行われ、国際社会が地球環境の危機に対応していくという大きな流れが出来つつあります。今こそ、新たな文明社会を目指すための大きなパラダイムシフトが必要となっています。
このような状況の下、持続可能な社会の実現に向け、実践的・革新的な政策研究・政策提言を行うとともに、自治体、企業、市民などの関係主体の連携を促進するというIGESの役割は重要性を増しています。今後、IGESが、ますます国際社会に根を張り、様々な主体とともに考え、ともに行動することを通じて、イノベーションを起こし、ピンチをチャンスに転換する重要な役割を担われることを強く期待します。
IGESがこの20周年を契機に、これまでの研究成果を振り返り、それらを基礎として、未来に向けて更なる御活躍をいただくことを心からお祈り申し上げます。
経団連自然保護協議会 会長
二宮 雅也
経団連自然保護協議会 会長
創設20周年、誠におめでとうございます。経団連自然保護協議会を代表し、一言お祝いを述べさせて頂きます。
経団連自然保護協議会は1992年に設立され、昨年、25周年を迎えました。当協議会は、100社を超える経団連会員企業の参加を得て、国内外のNGOが行う自然保護・生物多様性プロジェクトを支援しているほか、企業とNGOとの交流促進、企業への啓発・情報提供活動などを行っています。自然保護や生物多様性保全を推進するにあたり、協議会は一貫して、企業の自主的・主体的な取り組みを基本に、現場での実践活動を奨励することや、企業やNGO等の多様な主体が連携・協力して取り組むことを推進しています。そうした考えに基づき、「経団連生物多様性宣言」および同指針や手引きを策定し、企業への普及を図っています。
貴機関におかれては、環境と経済の調和を目指し、地球温暖化や自然資源・生態系サービスに関する基盤的な政策研究・提言を行っておられます。貴機関の活動は、とりわけアジア太平洋地域における持続可能でレジリエントな発展の実現に貢献されており、当協議会の活動とも方向性を同じくしていると考えます。
今、SDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まっています。経団連では、昨年、SDGsへの貢献を掲げて、企業行動憲章を改定いたしました。2010年に決定した「愛知目標」で掲げられている「生物多様性の主流化」は、SDGsにも密接に関係しています。企業としても、SDGsを意識しながら、自然保護や生物多様性に関する活動を推進していくことが求められます。
貴機関の活動は多岐にわたっており、SDGsへの貢献という面でも大きな役割を果たしていくことと思います。今後とも、各国政府や国際機関をはじめ、企業、NGOなど、様々な活動主体との連携・協働を通じて、環境と両立する持続可能な社会の構築に向けて、より一層活躍されることを期待いたします。
弁護士法人北浜法律事務所
代表社員・弁護士
岡田 康彦
弁護士法人北浜法律事務所
代表社員・弁護士
私はIGES設立時に担当の環境庁企画調整局長であったが、むしろ官房長時代の1997年12月、98年度予算編成においてIGES拠出金5億円を確保したことが貢献と言ってよいかと思う。これから立ち上げる未知のIGESへの多額の拠出金は環境庁としても大蔵省としても大決断であり、それなりの苦労はあった(因みに98年度環境庁予算総額798億円、対前年度増加額は5億円、即ちIGES分のみ)。
後日譚。森嶌理事長が事務次官室に増額の直談判に来られ、2001年度予算で5千万円の増額を認めて貰った(2010年度予算編成時の事業仕分けで5千万円減額され、爾来現在まで5億円で推移)。
その後私は2006年から2017年まで評議員を務め、評議員会の議長を引受けてきた。この間の思い出として新公益財団法に基づく公益財団への移行について触れたい。
IGESは民法の財団法人として発足したが、2012年4月、新法に基づく公益財団法人に衣替えした。同じ財団法人ではあるが規制内容が大きく変わり、評議員の員数も激減、機能も大幅に圧縮された。旧財団の寄付行為では、評議員は25~35人置くこととされ、機能も「寄附行為に定める事項のほか理事長の求めに応じ、又は必要な場合に本機関の運営全般について審議し理事長に対し助言する。」と極めて広範なものであった。現在の新公益財団法人の定款では、評議員は4~8人置くとされ、その権限も定款に列挙された事項の決議に限定されている。
これでは評議員、就中わざわざ来日する評議員にとっては面白い訳がない。案の定、外国人評議員の1人から、「定款はともかく評議員会では、事業運営について自由な議論を認めて欲しい」との発言が出た。私は議長として、「評議員会の議決事項は定款に列挙された事項に限られるが、評議員会が自由な発言の場であることは望ましいし、建設的な意見は業務執行上の参考になると思うので、議事進行上発言に制限を加えることはしない」旨の発言をした。この発言は今でもおかしくないと思っているが、これが次に述べる長期展望の策定要望につながったことは間違いない。
第6期統合的戦略研究計画の審議中、件の発言をした評議員から、長期展望のようなものがないと各期の統合的戦略研究計画の位置づけが不明確で審議が難しいとの発言が出た。議長としては定款にある「統合的戦略研究計画の承認」について決議をしようとしている時に埒外の長期展望の要望を出されても困るのだが、自由な議論を保証した手前発言の阻止はできない。「今の発言は次の期の統合的戦略研究計画の審議の時には長期展望があると審議がし易いので検討して欲しいというものだが、評議員会には要請する権限はないのでテイクノートするに止めたい」旨私が発言してひとまず収束。結局、理事会の主体的な検討により「中長期戦略(2016~2025)」が出来上った。私の議事進行が中長期戦略の策定作業に多くの時間を費やす結果になり心苦しい思いもしたが、お蔭で第7期統合的戦略研究の審議はスムーズに行き感謝している。
日本気候リーダーズパートナーシップ(Japan-CLP)顧問
市村清新技術財団会長
桜井 正光
日本気候リーダーズパートナーシップ( Japan-CLP )顧問
市村清新技術財団会長
公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の設立20周年を迎えるにあたり、心からお祝い申し上げる。
私とIGESの関わりは、2014~17年にかけて自身が代表を務めた気候変動に関する企業のネットワーク(日本気候リーダーズパートナーシップ:Japan-CLP)を通じたものである。IGESにはJapan-CLPの事務局として、研究や国際情報の提供、優秀なスタッフの派遣、そして浜中前理事長のサポートなど、多岐に亘り活動を支えて頂いた。
当時私は、“気候変動の解決へ、産業界の責任ある取り組みが必要”と考え、Japan-CLPの役割を脱炭素社会実現の促進役と位置づけた。同じ時期、IGESでは自らをAgent of Changeと新たに位置づけ、持続可能な社会実現の促進役として、研究に留まらず様々な活動を強化されていた。このIGESの変革により、企業とのシナジーが生まれ、Japan-CLPは大きく発展を遂げることができたと思っている。
代表在任中、IGESとは多くの行動を共にしたが、特にニューヨークの気候サミットやパリのCOP21に参加したことは思い出深い。それら会議では、グローバル企業のトップ、政府、国連の代表者らと有意義な議論を行うことができた。特に、本分野で強いリーダーシップを発揮されているユニリーバのポールマンCEOの「気候変動の被害は、自社のお客様である社会を苦しめる。当然、企業も苦境に陥る。他人ごとではない」との意見には、目が開かれる思いだった。これらの会議に際し、IGESには政策等の最新動向の提供から、現地でのコーディネートまで、素晴らしい支援をいただいた。改めて感謝を申し上げたい。
最後に、IGESの今後について期待を述べたい。IGESには、引き続きAgent of Changeとして社会の各主体との距離を詰め、PDCAを回し、成果を出していって欲しい。私見だが、政府、企業、国民の誰もが積極的行動を取らない理由は、余りにも短期的利益を重視した行動を取っている点にあると思う。気候変動等が「他人事ではない」と分かる情報を各主体に広く伝えていくことを強く期待したい。
国連環境計画(UNEP)事務局長
エリック・ソルヘイム
国連環境計画(UNEP)事務局長
このたびは、IGES設立20周年の節目を迎えられましたことを心よりお慶び申し上げます。アジア太平洋地域をはじめ世界中で持続可能な開発を実現するために、これまで素晴らしい道のりを歩んでこられたことと思います。長年にわたり共に活動させて頂いた私にとって、IGESの皆様は古き良き友人であるとともに、「より良い地球環境の実現」というビジョンを分かち合うかけがえのないパートナーです。
科学がかつてない脅威にさらされている今、私たちが直面している深刻な環境問題を理解するために、IGESのような研究機関が重要な役割を果たすことが求められています。
様々な対策や規制、資源の優先順位を決めるには、科学と研究が不可欠です。かつて数人の科学者がひつぎほどの大きさしかないドブソン分光光度計を使ってオゾン層の破壊を発見したことが前例のない国際的取り組みへと発展し、その後採択されたモントリオール議定書の下で現在もオゾン層破壊物質の段階的廃止が進められています。
このように環境問題への一般市民の参加を促すには、科学研究で得られた成果を誰もが分かる言葉で説明しなければなりません。世界の人々が食事を囲みながらごく日常的な話題として環境問題について話し合う。IGESはそれを実現するための極めて重要な役割を担っているのです。
世界が直面している環境上の健康リスクのひとつが大気汚染です。既に甚大な経済的被害が発生し、人々の生活にも目に見える悪影響を及ぼしています。人々が科学をもっと身近に感じ、得られた教訓を実践するように求めれば、政府や民間部門に多大な圧力をかけることができるでしょう。
科学を野心的な政策や実際の行動につなげてより良い世界を築くために、IGESと今後も協力できることを楽しみにしています。そして皆様のさらなるご成功を心からお祈り申し上げます。
国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問
末吉 竹二郎
国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問
20周年おめでとうございます。アジアのみならず世界有数の研究機関に育て上げられた関係者のこれまでのご努力に心からの感謝と敬意を表します。
さて、時代の変化はdrasticでdramaticです。設立以来、IGESがその戦略立案を委ねられた持続可能な開発を取り巻く状況が加速度的に劣化しています。その代表例である気候変動がもたらす被害は年を経るごとに堰を切ったように拡大しています。問題はCO2だけではありません。所謂、プラネタリーバウンダリーに代表される様々な地球の限界が見えてきています。更には、持続可能な開発目標(SDGs)が取り組む様々な社会課題も一層深刻さを増しています。文字通り、持続可能な開発にとって地球社会の現実は大きなチャレンジとなっています。
その一方で、問題が深刻さを増せば増すほどに、より良きソリューションを目指す勢力が台頭してきます。これは人間社会の良さであり強みですが、既存の研究機関にとっては新たな競争激化を意味します。日本の現実を見ますと、長期的課題への取り組みにあたって、正しいデータと最新の情報に基づいて国際レベルでの公平・公正な議論をする場が少ない気がしています。
こうした難しさが増す中でIGESはどう振る舞っていくのか。それを考える時にいくつかの事柄が浮かびます。第一は、専門家集団としての調査研究を極める。つまり、本来業務を一層磨くことです。第二は、そのプロ集団が生み出すscience-based/data-basedな研究成果をいち早く社会に還元することです。どんなに素晴らしい成果であっても、インナーサークルに留まる限りは社会的価値が大きく減じます。社会こそがIGESを支える最後のステークホルダーです。
世界はTalkはもう沢山だと言っています。必要なのはWalkだと。否、世界が本当に欲しいのは目に見えるImpactです。アジアから世界へ、持続可能な開発の実現を目指すIGESだからこそ、自らのpotentialityを余すところなく引き出し、TalkからWalkへ、WalkからImpactへと、その流れをしっかり導いて頂くことを願ってやみません。
アジア開発銀行(ADB)副総裁
バンバン・スサントノ
アジア開発銀行(ADB)副総裁
この20年余りで著しい経済発展と貧困削減を遂げたアジア太平洋地域では、現在、中間所得層が拡大しており、2020年までにほぼ全てのADB加盟国が中所得国となる見通しです。しかし一方で、環境破壊が地域全体の問題となっています。環境破壊は気候変動によって深刻化しており、経済発展への脅威となっています。アジア太平洋地域の12億人は未だ貧困状態にあり、生活を環境に依存しているため、環境破壊の影響に対して特に脆弱です。
こうした中、ADBとIGESは2010年に協力意向書(LOI)を締結しました。開発資金、知識管理、政策支援におけるADBの強みは、環境・開発分野でのIGESの戦略研究活動を補完し、地域全体の能力の底上げや、優良事例の理解に基づくプロジェクト・プログラム開発に貢献しています。ADBとIGESは、戦略的に重要性の高い諸分野―気候変動緩和・適応、炭素市場、地域・世界のコベネフィット、環境・自然資源管理、持続可能なインフラ、環境ガバナンス―において協力を進めています。
また、持続可能な開発アジェンダの推進に向けた協力も重要です。LOI締結以前にも、両機関は、気候変動、環境ガバナンス、3R(リデュース、リユース、リサイクル)プログラムに関する協力を展開してきました。2010年からは、クリーン開発メカニズム(CDM)関連プロジェクトや、大メコン圏の女性を対象とした気候変動緩和イニシアティブ等のADBプロジェクトを共同で進めるほか、セーフガードシステムの活用強化、住みやすい都市開発政策への支援に取り組んでいます。また、IGESは、グリーン投資や環境的に持続可能な成長政策をテーマとしたADBのアジア・リーダーシップ・プログラムにも携わっています。持続可能な開発目標(SDGs)とパリ協定の実施が課題となる中、環境関連SDGsの進捗に関するストックテイク調査やワークショップ実施における協力も開始し、IGESが開発したSDGsインターリンケージツールを活用しているところです。
IGES設立20周年にあたり、IGESとのパートナーシップに対し、改めて深い感謝の意を表したいと思います。また、アジア太平洋地域における持続可能でレジリエントな脱炭素社会の構築に向けた一層の協力に期待しています。
イオンフィナンシャルサービス株式会社
代表取締役会長
鈴木 正規
イオンフィナンシャルサービス株式会社 代表取締役会長
IGESは、地球サミット(1992年)や京都議定書採択(1997年)などを受け、地球環境問題やアジア各国の持続可能性に関心が高まる中、1998年に設立されました。
その後、IGESでは地球温暖化問題や生物多様性問題などの分野で、様々な研究や活動が行われ、日本をはじめアジア各国等の環境問題解決に貢献してきました。私自身、名古屋で開催された生物多様性会議COP10や気候変動枠組み条約等で多くの支援をいただきました。
しかしながら、少子化に悩む日本とは異なり、アジア全体では、人口の増加と高い経済成長が続いており、GHGの排出量は拡大を続け、絶滅に瀕している生物数も増加の一途を辿っています。地球環境の現状を正確に把握し、「今の取り組みが継続されたとき、地球やアジアはどのような状態になるか、それは持続可能といえるのか」という問いかけは、IGES設立時以上に深刻さを増していると思います。
他方、各国の状況を見ると、環境問題以外にも多くの課題を抱えている実態に目を背けるわけにはいきません。貧困対策、食糧確保、経済成長など各国で揺るがせにできない問題がある中で、こうした課題解決と両立する環境対策を立案することは、ますます難しく、しかし、一層、重要になっているように思われます。
こうした状況で、「正確な実態把握と将来予測」そして「実行可能な施策や仕組み」を大きな視野で考えることは高度のノウハウと膨大なエネルギーが必要であり、各国の関係機関が協力する必要があると思われます。また、各機関の技術や知見の向上を図り、情報を交換して行くことは今でも喫緊の課題と思われます。
このような観点から、持続可能な社会への移行を促進する「チェンジ・エージェント」を標榜するIGESが、今後ともある時はリーダーとなり、ある時は結節点となり、アジア地域の環境問題解決に大きな役割を果たし、地球環境問題の解決に貢献されることを期待しています。
名古屋大学大学院環境学研究科教授
高村 ゆかり
名古屋大学大学院環境学研究科教授
専門領域は異なっても同じ「環境」を研究対象としているため、IGESが発足した当時から、IGESの研究員のみなさんとは―ここしばらく研究の柱としてきた気候変動分野はもちろんですが、その他の分野のみなさんとも―、学会や研究会、国の仕事、環境関連の国際交渉などでよくご一緒してきました。
ここ10年でIGESが大きく進化したと感じるのは、日本、そして世界において、環境分野の政策研究を行うIGESの存在感が大きく増したという点です。それはそれぞれの研究員の研究のみならず、日本と世界の政策動向と直面する課題に対応した「IGES」としての戦略的な発信や取り組みが進んできたことによるように思います。2015年のパリ協定の採択後、自治体やビジネスが世界の気候変動対策をリードするようになっていますが、イクレイ(ICLEI)-持続可能性をめざす自治体協議会や日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan-CLP)といった自治体やビジネスのネットワークの取り組みや運営をサポートする役割を果たしているのもその一例です。
また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)を支援する機能の一部を担い、インドのTERI(エネルギー資源研究所)のように、この分野の各国を代表する研究機関との連携を強化し、その結果、国際的な環境政策の形成においてその役割を発揮し、評価を得てきたこともIGESの存在感を高めている理由の一つだと思います。
欧米においては、持続可能性の観点から世界が直面する政策課題に時宜にかなったタイミングで研究成果の発表や政策提言を行う独立・中立のシンクタンクが、環境政策の形成に大きな役割を果たしています。残念ながら、日本の大学・研究機関ではこうした政策課題に対応する機動的・組織的な研究はなかなかできていません。IGESが新しい形の環境政策研究のシンクタンクのあり方を模索し、実践していくことで、日本の政策研究のあり方にもインパクトを与えていくことを期待しています。
元復興大臣、自民党総務会長
地球環境行動会議会長
衆議院議員
竹下 亘
元復興大臣、自民党総務会長
地球環境行動会議会長
衆議院議員
IGES設立20周年、おめでとうございます。
今回、このような原稿依頼を受けて私は兄・竹下登が1992年に設立した地球環境行動会議(GEA)の第5代目の会長にこのたび就任したこともあり誠に感慨深い思いがあります。1992年6月、初めて地球環境問題を議論するために世界の首脳が一同に会して、いわゆるリオ・サミットが開催されました。兄はリオ・サミットの責任者であるモーリス・ストロングUNCED事務局長から、環境問題の解決に要する膨大な資金手当の件で南北間が激しく対決している状況を改善するための方策を講じて欲しいと懇願されました。それがGEAの前身である地球環境賢人会議の開催でした。カーター元米国大統領をはじめとして各国から首脳経験者等が集まった賢人会議の成果を兄がリオ・サミットの本会議場で発表、それはリオ・サミットの成功に大きく貢献しました。兄はリオから帰国すると同時に、ODA無償援助で日中友好環境保全センターの設立に尽力し、併せて、日本にも同様に将来的に国際的な広がりを有する環境保全に特化した研究機関の設立にも注力しました。それがIGESの設立に結実した次第です。中国の日中友好環境保全センターは1992年にスタート、建物も含め質実ともに完成したのは2006年です。長時間を要したのはお国柄ですね。私は10周年記念式典に環境大臣政務官として招待されました。一方、IGESは1998年に発足するやその活躍はめざましく日本を代表する地球環境問題の研究機関として発展。今日ではGEAの国際会議では常にサブ面において協力していただく重要なパートナーとして不可欠な存在です。
あらためて感謝申し上げると共に、ますますのご発展を祈念しております。
イクレイ(ICLEI)
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持続可能性をめざす自治体協議会
世界事務局長
ジノ・ヴァン・ベギン
イクレイ(ICLEI)-持続可能性をめざす自治体協議会
世界事務局長
IGESとICLEIの連携強化は、2012年に国連持続可能な開発会議が開催された後、マルチステークホルダーの連携の必要性が世界的に認識されるようになったことを受けて始まりました。2015年以来、IGES東京事務所(現:IGES東京サステイナビリティフォーラム)とICLEI日本事務所は、東京の同じ場所に事務所を構えており、地方自治体をはじめとする日本国内の主な関係機関に向けたICLEIのアウトリーチ向上につながっています。
ここ数年、IGESとICLEIは、特に気候変動問題において協力を重ね、関連する国際フォーラムへの日本の都市や地域の積極的参加を後押しし、支援を行ってきました。具体的には、2015年にパリ、2016年にマラケシュ、2017年にボンで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC/COP)と同時開催の首長による気候サミット、2015年にソウルで開催され、2018年にはモントリオールで開催予定のICLEI世界大会、富山G8環境大臣会合(2016年)、長野で開かれた地域再生可能エネルギー国際会議(2017年)、地球環境京都会議(KYOTO+20)(2017年)等です。こうした場は、国際社会にとっては先進諸都市の経験や教訓に学ぶ機会となり、諸都市にとっては、脱炭素社会をめぐるグローバルな最先端の議論に直接参加できる機会となっています。IGESとICLEIは、日本国内の先進都市における「カーボンニュートラル」議論の活性化に貢献しており、両者の連携が具体的成果を生み出しています。
ICLEIは、Agent of ChangeというIGESのミッションに、そしてIGESの実践的戦略研究に敬意を表します。地方・国家・グローバルレベルでの持続可能性強化に向けたプロジェクトやプログラム、政策形成といったIGESが進める取り組みに加え、成功要因の分析やケーススタディーの提示、さらなる普及・展開についても大きな期待が寄せられています。IGESの戦略研究は、気候変動問題だけにとどまらず、天然資源や生態系サービスの賢い利用に基づく持続可能なライフスタイル全般を視野に入れた包括的なものとなっています。
今後もIGESとの連携をさらに強化し、双方の知見をアジア太平洋地域のみならず全世界の都市や地域のために役立てたいと願っています。
国立環境研究所(NIES)理事長
渡辺 知保
国立環境研究所(NIES)理事長
設立20周年を迎えられたとのこと、おめでとうございます。心よりお慶び申し上げます。
私達、国立環境研究所(NIES)とIGESとは、IGESの設立当初より緊密な連携関係を築いてまいりました。IGESの設立憲章には21の研究機関が署名を行っていますが、日本の研究機関として署名した2機関の1つがNIESでした。その憲章には、IGESの目的として、持続可能性をめざした政策手法の開発および環境対策のための政策的・実践的な研究を行うと書かれており、これは私達の憲章にある“今も未来も人々が健やかに暮らせる環境をまもりはぐくむための研究”と基本的に同じ方向を向いています。
IGESは環境と開発にかかわる国際的事業、特にアジア太平洋地域で活動するものに継続的に関与してきており、地球環境分野、特に気候変動分野において、世界的にも広く知られる存在となっていると伺っています。こうしたIGESの国際競争力に敬意を表するとともに、今後の益々のご発展をお祈りいたします。
私達NIESは、IGESの設立当初より緊密な連携を続けており、例えば、COPにおける共同の展示ブースやサイドイベント共催、また、IGESによって立ち上げられた低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)における対話会合や交流機会の創出における協働など、様々な例が挙げられ、2016年度からは人事交流もスタートしました。
もともとは我が国の公害に関わる研究を行う機関としてスタートしたNIESですが、地球温暖化問題以来、外来生物や気候変動適応などを含め、研究対象がアジアを中心とするグローバルな世界に広がってきました。NIESとしては、IGESの国際活動の経験に学ぶ一方で、例えば、モニタリングや予測モデルなどNIESの強みを活かすような協働体制を一層深化させていきたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
日本学術会議会長
山極 壽一
日本学術会議会長
IGESの設立20周年に当たり心よりお祝い申し上げます。地球の未来を左右する環境問題の解決と持続可能な開発の推進に向け、IGESが政策研究の推進と実践の分野でこれまで果たされてきた貢献に対して、改めて敬意を表する次第です。
日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、広範な活動を行って参りました。その中で、気候変動や生物多様性の減少といった地球環境の悪化という地球的課題に対しても、例えば、「環境学委員会」や「フューチャー・アースの推進と連携に関する委員会」を通じて、その解決に向け様々な提言等を行ってきたところです。
このような中、IGESには、日本学術会議が連携して活動を進める「フューチャー・アース日本委員会」にメンバーとして参加いただいています。環境と人間活動が相互に影響しあう複雑な地球環境システムの理解と地球規模の課題の解決に向けて、学術コミュニティと社会のパートナーが協働する基盤を提供し、分野を超えた統合的な研究を社会と共に推進し、持続可能な地球社会の実現をめざすというフューチャー・アースの野心的な試みに対し、大きく貢献していただくことを期待しています。
また、私自身、中央環境審議会の委員等として日本の環境政策の形成に関与してきています。本年行われた環境基本計画の見直しにおいては、SDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)が国レベルの計画に明確に組み込まれるなど大きな進展を見ており、今後、様々な形で「持続可能性」の考え方が国レベルでの政策のみならず、都市、企業等、様々なアクターに浸透していくことになると思われます。
このように、我が国そして世界において、地球規模での持続可能な開発の実現に向け、科学と政策の橋渡しを目指すIGESの役割は益々大きくなってきており、今後益々活躍されることを期待いたします。
マレーシア首相科学顧問
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-
政策プラットフォーム(IPBES)初代総会議長
アブドゥル・ハミド・ザクリ
マレーシア首相科学顧問
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-
政策プラットフォーム(IPBES)初代総会議長
IGESとの出会いは、私が国連大学高等研究所(現:国連大学サステイナビリティ高等研究所)の所長として日本に滞在していた2001年~2008年のことでした。
当時、国際社会では、持続可能な開発への関心が高まっていました。持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)がヨハネスブルグで開催されたのもちょうどこの頃(2002年)です。
IGESは、初代理事長である森嶌先生の見識に富むリーダーシップの下、アジア太平洋地域を中心に研究者や政府関係者とのネットワーク構築を開始しました。
しかし、その過程は順風満帆とは言えませんでした。2000年に開催された国連ミレニアムサミットで各国がミレニアム開発目標という大志を掲げたものの、当時、持続可能な開発の概念は、アジア太平洋地域の政策決定者の間で十分に認識されていませんでした。そのような中、IGESは、研究活動と持続可能な開発に関する政策提言に重点を置く新しい「boundary organisation」としての道を模索していました。また、信頼性の高い国際機関を目指す一方で、日本政府からの拠出金が大半を占めることから、日本国内への貢献も求められました。さらに、特に国際関係や科学外交の分野において、大半の研究員が若く経験の浅かったことで多くの苦労もありました。
これは20年前の話です。森嶌先生に続き、浜中先生、そして武内先生が理事長を務め、IGESはアジア太平洋地域のみならず世界にも影響力を持つ環境シンクタンクへと成長しています。長年取り組んでいる気候変動研究に加え、現在では、都市、低炭素社会、森林、生物多様性といった分野においても成果をあげています。
私は、こうしたIGESのサクセスストーリーは、安定的な財政支援によるものではなく、むしろ、森所長をはじめとするひたむきで専門性の高いIGESの人材によるものであると思っています。
- *氏名のアルファベット順に掲載/所属・肩書きは寄稿時のものによる
- *英文メッセージについてはIGES和訳を掲載