科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)講演概要

「地域循環共生圏(Regional CES)」について
公益財団法人 地球環境戦略研究機関 理事長 武内 和彦


Prof. Kazuhiko TAKEUCHI

理事長 武内和彦

2018年10月7日~9日、国立京都国際会館で「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)第15回年次総会」が開催されました。フォーラムでは、科学技術の光と影を見据えた長期的持続可能な社会の成立を目指し、約 80 の国及び地域から所属(産・学・官)をこえたリーダーが集まり、活発な議論が行われました。IGES武内理事長は7日に開催された”Climate Change”のセッションで「地域循環共生圏」の概念を紹介し、物質と炭素両方が循環し、自然と共生する社会づくりにおけるこの概念の重要性を強調しました。その講演概要を公開いたします。


日本の第五次環境基本計画の審議を通じて提唱された「地域循環共生圏(Regional CES)」という新しい概念について紹介したい。地域循環共生圏は、日本の環境政策の基本指針となるものであり、他国や国際社会においても有益なものになりうると期待している。概念の背景と有用性、そして日本と諸外国に及ぼす影響について簡単に紹介する。

日本は2008年に「地域循環圏」の概念を提案し、マテリアルリサイクルに関する3R原則を採用した。 3R原則、すなわち発生抑制(Reduce)、再使用(Reuse)、再生利用(Recycle)は、地方自治体を含む重層的・体系的なアプローチを通じて循環型社会の構築を目指す循環型社会形成推進基本計画の基盤をなす考え方である。一方、生物多様性国家戦略2012-2020は、豊かな自然共生社会の実現に向けたロードマップを提示した。この戦略においては、「自然共生圏」という考えに基づいた都市・地方間の連携や交流の強化が重要であると認識された。自然資本と生態系サービスの持続可能な生産を基盤とした強靭な社会を構想し、地方の生産者と都市の消費者とのさらなる連携強化を提言した。

今日議論されている気候変動への適応と、今後の持続可能性への転換にあたっては、脱炭素化・低炭素社会への移行がまず求められる。このような低炭素社会は物質循環だけでなく、炭素循環に大きく依存している。私たちはこれまで循環経済(サーキュラー・エコノミー)の原則の下で物質循環に取り組んできたが、地域の再生可能エネルギーが持つ計り知れないポテンシャルに目を向けることは、今後低炭素社会を構築する上で非常に重要である。国連環境計画(UNEP)のクラウス・テプファー元事務局長が指摘したように、分散型かつ地産地消による、自然資本と生態系サービスに基づいた再生可能エネルギーがこれまで以上に必要となる。しかし、そのポテンシャルはこれまで見過ごされてきた。したがって、地域資源を再認識し、持続可能な方法で活用・管理することが、今後の持続可能性への鍵となる。私見だが、そのためには社会・制度的改革と地方の活性化が必要である。

日本政府は最近、私が会長を務める中央環境審議会の答申を踏まえ、第五次環境基本計画を策定した。日本はこれまで物質循環とエネルギー循環に対し個別に取り組んできたが、低炭素社会、資源循環型社会、自然共生社会の統合が不可欠であることから、2014年に審議会は環境大臣に対し地域循環共生圏の概念を提案した。地域循環共生圏の概念は、(a)低炭素社会の概念、(b)資源循環、(c)自然共生の統合的政策アプローチに基づいている。この概念では、物質と炭素両方の循環による脱炭素化を強調しており、これが日本だけでなく他国にとっても極めて重要だと私は考えている。

地域循環共生圏はまた、持続可能な開発目標(SDGs)が示している経済的・社会的・環境的側面の統合的アプローチの具体的なビジョンを描いている。環境基本計画はSDGsの考え方を活用し、環境的・経済的・社会的課題は不可分の関係にあり地域規模で相互に連関するという基本的なメッセージの具体化を図っている。 SDGsは17の異なる目標の集まりだと誤った見方をされているかもしれないが、環境基本計画では、環境と社会の課題は相互に連関しており統合的に解決する必要がある、というSDGsの根底にある見解を重視している。 つまり、「環境・経済・社会の統合的向上(II2ES)」の実現を目指している。 II2ES達成への鍵は、地域のニーズに沿った自立・分散型の社会を形成し、近隣地域間でさまざまな要素を補完し合い、地域資源を持続的に利用することである。

さらに、地域循環共生圏の概念は、自然的なつながり(森・里・川・海及び都市の連関)と経済的なつながり(人、資金、商品)から成るより広域的なネットワークを構築することで、地域資源を補完し、支え合いながら、新たなバリューチェーンを生み出すことを目指している。それぞれの地域がその特性を生かした強みを発揮するのである。地域ごとに異なる資源が循環する自立・分散型社会を構築し、それぞれの特性に応じて近隣地域と共生・対流し、農山漁村や都市の幅広い資源を活用するのである。

地域循環共生圏はマルチステークホルダーの協働を通じて地域資源の見直しを図っており、地方の活性化や経済発展に有益となるであろう。日本の一部の地域では所得創出が難しく、過疎化、環境悪化、経済活動・産業の変化に伴う問題に直面し、さらには気候変動などの新たな問題も浮かび上がっている。地域循環共生圏の概念は、太陽光や風力など地域の豊かな自然資本の賢い利用を取り入れる絶好の機会を生み出し、地域の所得創出と地方経済活性化の手段となり得る。地域雇用の創出により経済的・社会的な効用を生み出し、国内の供給が災害の影響を受けた時には地域のエネルギー源はエネルギー安全保障に寄与する。また、多くの地域では過疎化により森林の適切な管理が行われていないが、そうした森林の間伐で生じたバイオマスを活用することでベネフィットを高めることができる。健全な森林の維持と豊かな自然環境の保全につながり、それによって経済・社会・環境の分野横断的なマルチベネフィットをもたらす。バイオマスが化石燃料の代替となり、エネルギーの長距離輸送を削減することで、地域循環共生圏の概念は低炭素・省資源戦略となりうる。

地域循環共生圏の概念では、関係する地域の特性と循環資源の性質に応じて、最適な規模の循環を促進することが重要だと強調している。狭い地域での循環に適した資源は可能な限り狭い地域で循環させ、広域での循環に適した資源は循環の環を広域化させるべきである。このように、資源を最適な規模で循環させていくことにより、重層的な循環型の地域づくりを進めることができる。地域循環共生圏は、場合によっては集落レベルや市町村レベルの狭域に適用できるが、流域や都道府県、国、アジア地域といったより広域なレベルでも適切に応用できる可能性がある。日本ではすでに、29都市を対象としたSDGs未来都市イニシアティブ2018において、地域循環共生圏の概念を実施に移した。中でも、石川県能登半島の北端に位置する珠洲市は地域循環共生圏の概念を採択している。

地域循環共生圏の概念は、地域における自然資本と人的資本の実情を踏まえてグローバルに適用可能で、さまざまな都市や地方に応用できると確信している。また、都市部に暮らす人々にとっては自然の恩恵に対する理解をより深められ、地域からの製品やサービスを通じて自然とのつながりを認識できる。自然保全活動への参加増加や環境保全型農業で作られた農産物の購入拡大を通じて、農村を支援する具体的な行動につながる可能性もある。すなわち、地域循環共生圏は、農山漁村や都市の資源を統合的に持続可能な形で衡平かつ効率的に活用する、すべての地域の活力を最大限に発揮させる考え方でもある。

最後に、地域循環共生圏の効果的な実現のためには、国、地方自治体、民間セクター、学術界、市民社会など幅広いステークホルダーのパートナーシップ構築がますます重要になることを強調したい。

多くの課題が待ち受けているものの、本日の地域循環共生圏に関する議論が皆様の考え方に刺激を与える一助となることを願っている。日本だけでなく世界各地で地域循環共生圏の概念を具体化させる試みに一緒に取り組んでもらいたい。

参考資料

第五次環境基本計画
https://www.env.go.jp/policy/kihon_keikaku/plan/plan_5.html

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