FAIRDO
研究者コラム
NERIS WG2 会議 に参加して
(2013年1月)
福島大学名誉教授/福島県復興ビジョン検討委員会座長  鈴木 浩
1.はじめに
 2012年11月26-27日にオスロ(NRPA: Norway Radiation Protection Authority)で開催されたNERIS(*) のワーキンググループ2(WG2)会議に参加しましたので、その概要を紹介します。
 本会議は、「緊急時の準備とステークホルダー参加」をテーマに、①欧州におけるステークホルダー関与の経験について、②福島における経験-ステークホルダー関与を中心に、③ステークホルダー関与の方法のカタログ/データベースの3つの観点で議論が行われました。福島原発事故後の地域におけるステークホルダー関与に関するセッションでは、FAIRDOの成果報告を行いました。また、2012年7月に実施した福島ミッションに参加したGilles Heriard-Dubreuil(MUTADIS所長(フランス))、Viktor Averin(ベラルーシ放射線学研究所所長(ベラルーシ))、Wolfgang Raskob(カールスルーエ工科大学教授(ドイツ))、Eduardo Gallego(マドリード工科大学原子力工学部長(スペイン))から、福島ミッションを通して得られた経験の報告がありました。
2.欧州におけるステークホルダー関与の経験について

NERIS WG2の模様
 ベラルーシ、スペイン、フランス、ノルウェー、スロバキアから緊急時の準備やステークホルダー関与の経験について報告がありました。スロバキアのTatiana Duranova氏の報告では、スロバキアの原発災害を想定した緊急時の対応や計画をどのようにステークホルダーを交えて策定したか、アクシデント発生後の汚染地区を支援する活動のために作成したハンドブックについて発表がありました。この中で、ステークホルダーを巻き込むための取り組みとして、教育セミナー、ワークショップ、机上演習、シナリオ開発などが紹介されました。
 緊急時の準備や防災計画について、ステークホルダーと議論を進める上で、意思決定支援ツール(Realtime Online Decision Support System for nuclear emergency management:RODOS)のようなシミュレーション結果を用いた影響評価や効果的な対応方法の検討の実例が紹介されました。 スペイン、フランス、ドイツ、スロバキアでは、国、県、近隣の市町村、軍隊、警察、市民といった関係者が議論に参加し、準備を進めており、それぞれの蓄積が進められています。
3.福島における経験-ステークホルダー関与を中心に
 鈴木及び十時が、福島の除染に関する活動の状況を説明するとともに、FAIRDOプロジェクトを通じこれまでに得られた知見について、「福島における除染の現状と課題」 に基づき報告をしました。作業の遅れている状況の要因を、「除染の理解」「保管施設」「除染技術」「情報共有」「参加型の意思決定」「自治体間の連携」により説明しました。また、除染と同時に考えるべき大きな課題として、賠償の不透明さ、生活再建に向けた不安、除染・復興の連携を挙げ、「公的な情報に対する信頼性の低下」「科学者/専門家に対する信頼性の低下」「国策で生じた災害であるという認識」「除染・賠償・復興・生活再建に対する縦割り行政」を指摘しました。
 さらに、FAIRDOプロジェクトの福島ミッションに参加した欧州専門家からも報告がありました。Heriard-Dubreuil氏(フランス)からは、コミュニティへの法的な権限移譲によって活動しやすい環境を作り出すこと、知識がある専門家の交流促進、地元の情報と議論を促進するための測定と影響評価ツールの提供、意思決定機関とコミュニティとの交流促進のための第3者機関の創設などの提言がありました。Averin氏(ベラルーシ)からは、ベラルーシの経験を基に、独立した除染作業管理や放射線管理システムの設立、放射線管理センターの設立を通じたコミュニティ支援によって、コミュニケーションや地元住民の信頼が回復されたこと、また、国際原子力機関(IAEA)といった国際的な支援によって、信頼性が改善されたことが紹介されました。Gallego氏(スペイン)からは、小国地区におけるコミュニティ独自の活動による空間線量及び農作物の測定といった事例が紹介されました。
 参加者と議論をする中で、除染には限界があること、除染作業の最適化の必要性、被災地での補償の役割、放射線リスクの理解、コミュニケーションを促進し合意形成を行うためにもより効果的な対話型フォーラムの必要性が指摘されました。
4.ステークホルダー関与に関わる方法論について

NERIS WG2の模様
 チェルノブイルの事故以後、旧ソ連や欧州において、ステークホルダー関与に関する様々なプロジェクト(例、ETHOS、RISCOM、WISDOM、FARMING、EURANOS)が実施されています。これら実施されたプロジェクトから、国民や市民との信頼関係の構築、導き出された結果に対するステークホルダーの容認、DAD(決定・通知・説明)よりも合意形成において優れていること、伝統的なアプローチに比べより健全な結論を生み出すことといった利点が挙げられました。しかし、実際には、ステークホルダー関与には、様々な方法が存在し、目的に見合った適切な方法を選択する必要があるため、これまでの経験を蓄積したKnowledge Base の必要性が問われているという方向に議論が収斂されていました。
 このKnowledge Baseの構成は、基本情報(コスト、参加者、期日等)、より詳細な情報(内容、目的、プロセス、結果等)、評価(情報共有、民主的か、コミュニティの団結、実践性、決定の質等について、基準を基に評価と主要な学ぶべきポイント)、関連する文書の公開(プロジェクト計画、コスト、発表資料、アジェンダ、報告書、アンケート等)を想定し、これから構築していくという提起がなされました。また、Knowledge Baseを構築する際に、緊急時とポストアクシデント/復興については、分けて考える必要があることも指摘されました。
5.まとめ
 本会議での発表および議論を通じてチェルノブイリ以降、様々なステークホルダー関与に関係するプロジェクトが実施されていることが理解できました。特に、スペインをはじめ、欧州において、原子力発電所の緊急時の準備及び防災計画の策定するためにステークホルダーを交えて、準備を進めており、これらの経験の蓄積が進んでいることが印象的でした。日本においても、原子力発電施設で事故が起こった際のシミュレーションが公開されましたが、このシミュレーションの結果をどう使うかといったことは、きちんと議論されていません。原子力発電所の緊急時計画(防災計画)を、国、県、近隣の自治体や市民、さらに軍隊等を含めて策定していくことが求められていると思います。
 除染作業に関しては、除染作業の最適化の必要性、被災地での補償の役割、放射線リスクの理解を促進するためにも、ステークホルダー間においてコミュニケーションを促進し、効果的な合意形成のための対話型フォーラムが必要だと思います。
 また、Knowledge Baseの構築についても、福島における原子量発電所の事故に対する事故処理や除染作業、賠償といった日本の取組についても情報を蓄積していくうえで、参考にすべき点が多いと感じました。
*NERISは、原子力及び放射線物質の緊急時対応及び再生のための準備に関する欧州プラットフォーム(European Platform on Preparedness for Nuclear and Radiological Emergency Response and Recovery)です。2010年に設立され、その目的は以下の通りです。
・欧州、国家、地域のアプローチの効果の改善
・ネットワーク活動の設立を通じた欧州での一貫したアプローチの推進
・国境を越えた研修プログラムによる関心のあるステークホルダー間での、ノウハウや技術的な知見の維持及び改善
・さらなる展開へのニーズの把握と新しい課題への取組み

関連リンク NERIS WG2 Meeting on Emergency Preparedness and Stakeholder Participation

ページの先頭へ戻る