プレスリリース

地球環境戦略研究機関(IGES)
COP21に向けた
地球温暖化対策の取り組みに関する提言

2015年11月25日

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)は、1998年以来、アジア太平洋地域における持続可能な開発の実現に向けた実践的な研究を行っている。中でも、気候変動分野に関しては、国際枠組みや低炭素社会づくりに向けた国際動向の調査と研究を進めている。

日本は、かつて、京都議定書を発足させ、洞爺湖サミットでは世界の低炭素社会づくりに向けたイニシアティブを発揮するなど世界をリードする国であった。しかし、IGESが実施した調査研究により、現在の日本は、国際交渉でも、国内対策でも、諸外国の動きに遅れをとりつつあり、国際社会における日本の役割が大きく後退しつつあることが浮かび上がってきた。日本として今、何をすべきか、IGESの研究成果に基づく政策提言をここに行う。

【パート1:日本に関する提言】

  1. 2020年までの取り組みを強化しつつ、2030年削減約束を引き上げることで、2050年80%削減目標達成に向けた明確な道筋をつけるべきである。

    2011年以降に発表された日本の温暖化対策シナリオ(論文7本・48シナリオ)の中から抽出された「2℃目標あるいは2050年80%削減目標と整合」を含む最大努力レベルのシナリオの下では、政府のエネルギーミックスでの原発シェアを前提にすると、2030年における日本の削減レベルは1990年比25%(2005/2013年比32%)以上となる。原発なしでも、2030年までに発電供給量に占める再生可能エネルギー及び炭素回収貯留(CCS)技術を備えた火力発電の割合を35%に高め(中位努力レベルに相当)、最終エネルギー消費(TFC)を2010年比で25%削減することで、排出量の1990年比25%削減が可能となることが示されている。TFCの25%削減は、2010年以降の一人当たりTFCを年0.9%削減することで達成可能であり、この削減率は2005-2012年における実際の低減率(年1.5%)より低いものである。一人当たりTFCで見た近年の低減の実績を重視しつつ、今後経済が成長軌道に乗る場合でも、このトレンドを続けられるよう、早めに省エネ対策の水準を高めることにより、TFCの25%削減の可能性を高めることが重要となる。また、火力発電燃料については、ロックインを避けるため石炭を回避しガス化を進めることが必要である(後述)。

    2020年以降の排出削減・抑制の取り組みに関する約束草案については、日本(2030年に2013年比26%(2005年比25.4%)削減)をはじめ既に173カ国が提出している。しかし、現在、各国が提出している約束草案を合計しても、産業革命以降の地球温暖化を2℃以内に抑えるために必要な削減量には十分でなく、日米EUを含む全ての国が野心度を絶えず引き上げていくことが求められる。 COP21以降の国際交渉プロセスにおいて、日本は2030年削減目標を引き上げ、第4次環境基本計画(2012年閣議決定)に記された2050年80%削減目標達成に向けた明確な道筋をつけるべきである。

    (参考文献:T. Kuramochi, A. Kuriyama and T. Wakiyama (2015) “Comparative Assessment of GHG Mitigation Scenarios for Japan in 2030” IGES Working Paper; 倉持壮(2015年)『「2013年比26%削減」は本当に「国際的に遜色ない水準」か?』 IGES Climate Updates)

  2. エネルギー計画を見直し石炭火力を縮小するべきである。

    現在、約1,800万kWにも及ぶ石炭火力発電所の新設・更新の計画があり、これらがすべて稼働すると、およそ9,800万トンのCO2が排出され、耐用年数を考慮した既存の石炭火力発電所と合計すると2億9,000万トンのCO2が排出され得る。約束草案が定めるエネルギーミックスでは石炭火力発電所からのCO2が2億4,000万トンと計算されるため、目標値を超過することになる。さらに、石炭火力発電所の耐用年数は一般的に40年とされるため、ひとたび発電所が建設されると、2050年には第4次環境基本計画が定める「2050年80%削減」で求められる排出総量(2億6,000万トン程度)の4割以上を石炭火力発電所からのCO2排出量(1億1,000万トン程度)が占めることになり、2050年目標の達成に向けても大きな障害となる可能性がある。したがって、中長期的な視点に立ってCO2削減に取り組むためには、現在の石炭火力の導入計画を見直す必要がある。

    (参考文献:栗山昭久・倉持壮(2015年)『増加する石炭火力発電所が日本の中長期削減目標に与える影響―電力業界全体の地球温暖化対策に関する枠組みの構築に向けて―』 IGESワーキング・ペーパー)

  3. JCMなどの市場メカニズムを活用し、排出量取引制度を含めた包括的な炭素価格付け(カーボン・プライシング)政策を導入するべきである。

    新しい市場メカニズムである二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism)は、低炭素技術の導入に対する初期投資への支援を通じて追加的な排出削減を実現することができる。JCMを通じて、2030年までに全世界で5千万~1億トンのCO2排出削減が見込まれており、これは、現在の政策及び施策を最大限動員した目標に対して追加的な削減となる。日本の削減目標は、2℃目標の達成の観点から見て決して十分なものではなく、JCMなどの市場メカニズムを活用するべきである。

    さらに、国内(域内)排出量取引制度に関しては、EUをはじめ欧州が先行し、韓国は2015年から実施、中国は2017年から主要産業及び電力部門に対して全国規模での国内排出量取引を導入予定である。米国では、カリフォルニア州及び東部州において既に排出量取引制度が実施されており、2022年以降は電力部門において排出量取引制度の活用を視野に入れたクリーンパワープラン(CPP)を全米で導入することとしている。
    温室効果ガスの排出や削減に対して価値付けを行い、その測定や報告・検証制度を導入していくことが世界の潮流となっている。欧州排出量取引制度(EU-ETS)においては、経済危機に伴う排出量の低下及び排出枠の余剰に伴う価格の下落を経験したものの、排出枠の需要と供給を調整し、価格を安定化させる仕組みを導入するなどして制度改善の取り組みが行われている。一方で、日本では本制度については検討段階で議論が止まっているのが現状であり、今後、国内排出量制度を含めた包括的な炭素価格付け(カーボン・プライシング)政策を導入するべきである。

    (参考文献:小圷一久・梅宮知佐(2015年)『二国間クレジット制度(JCM)による追加的な排出削減への貢献に関する考察』 IGESワーキング・ペーパー; 高橋健太郎・福井祥子・栗山昭久(2015年)『IGES 市場メカニズム 国別ハンドブック』; 劉憲兵・昔宣希・山本竜一(2014)『北東アジア3か国(日本、中国、韓国)における炭素排出への価格付けの実現可能性』 IGESポリシー・ブリーフ; 栗山昭久・吉野まどか・小嶋公史(2015)『米国における火力発電所排出規制の概要と今後の動向』 IGESイシュー・ブリーフ )

  4. 日本は低炭素化に向けた国際動向に遅れをとってはならない。

    気候変動政策は、異常気象等の物理的被害や、低炭素社会移行に伴う経済システムの変化を通じ、企業の事業活動や競争力にも影響する。

    米国の大手食品会社は、気候変動の影響は原材料価格の高騰や調達そのものを脅かすとして、自ら2℃目標実現に向けて科学的根拠に基づく大幅なGHG削減に着手するとともに、政府に適切な政策を取ることを求めた(*1)。また、大手保険会社は「気温が4℃上昇した場合、多くの資産に保険を適用できなくなるだろう」と警告している(*2)。海外では、気候変動を事業活動の重大なリスクとして認識し、適切なリスク評価や深刻な被害を避けるための政策導入が進みつつある。

    低炭素社会への移行に伴う変化への対応も同様である。経済学の視点からは、低炭素化への移行を最も少ないコストで実現するのは炭素価格付け政策であり(*3)、世界銀行、IMFなどは、この炭素価格付け政策の導入を各国に求めている(*4)。イングランド銀行はこれらの政策変化を見据え、化石燃料資産の「不良資産化リスク」や、「賠償リスク」などを警告し、金融システムへの悪影響を防ぐためには企業が保有する資産(特に化石資源に関連するもの)や、自社事業に伴う炭素排出情報を投資家らに対して開示するべきとしている(*5)。主要国の金融規制・監督当局らで構成される金融安定理事会(FSB)も、同様の懸念から企業の炭素情報開示を求めており(*6)、既に主な機関投資家らが化石燃料資産の減損リスクを加味した資産の選別を進めている(*7)。

    また、低炭素社会への移行は、市場における競争力にも影響を与える。IEAは各国のINDCの履行に伴う投資額を年100兆円以上としているが(*8)、今後、エネルギー、建設をはじめとする多くの市場では、「安価だが高炭素」から「高付加価値・低炭素」がより重視されることとなる。

    即ち、低炭素経済への移行により、ビジネスの競争力の軸が変化しつつある。このような状況に鑑み、以下を提言する。

    4.1 政府は、企業のリスク低減と競争力の強化を両立しうる炭素価格付け政策の導入を早急に検討するべきである。加えて、今後の本格的な低炭素社会作りは民間投資が主体となる。民間が中長期にわたる低炭素事業に安心して投資できるよう、政府は低炭素社会作りのための中長期的な計画とそれを実現するための施策を早期に決定するべきである。

    4.2 企業は、気候変動の物理的リスク、低炭素経済への移行に伴う制度リスクについて評価し、結果を踏まえて適切に事業戦略の見直しを実施するべきである。

    4.3 金融機関及び投資家は、低炭素経済への移行を踏まえ、化石燃料に関連する保有資産や投資先の価値減損リスクの評価を行うべきである。

    • (1) General Mills(2015)General Mills makes new commitment on climate change, Ceres(2015) Brewery Climate Declaration.
    • (2) Environmental Finance (2015) Climate change of +4°C would be "uninsurable", says Axa chairman
    • (3) Nordhouse (2015)気候カジノ
    • (4) 世界銀行, Carbon pricing Leadership Coalition, Christine Lagarde (2014) Moving ahead of with Carbon Pricing
    • (5) Bank of England (2015) http://www.bankofengland.co.uk/publications/Documents/speeches/2015/speech844.pdf
    • (6) FSB (2015), FSB proposes creation of disclosure task force on climate-related risks
    • (7) Arabella Advisors (2015), Measuring the Growth of the Global Fossil Fuel Divestment and Clean Energy Investment Movement
    • (8) International Energy Agency (2015), Climate pledges for COP21 slow energy sector emissions growth dramatically

【パート2: 国際合意に関する提言】

  1. パリ合意には、各国が自主的に決定する2020年以降の約束(NDC)について、取り組みの意欲度の継続的な向上を促す5年毎の評価・検証サイクルの設置が含まれるべきである。

    2025年あるいは2030年を目標年としたNDCは、低炭素社会への移行に向けた長期的な努力の一部である一方、提出済みのNDCを総計しても2℃目標達成には削減効果が不十分である。次回以降のNDCを定期的に提出し、評価・検証するサイクルは、各国のNDCの意欲度を継続的に引き上げるためのメカニズムとなり得る。

    (参考文献:Tamura, K and Y. Yu, (2015) “Cycles for Strengthening Mitigation and Support” IGES編 The Paris Climate Agreement and Beyond: Linking Short-term Climate Actions to Long-term Goals)

  2. パリ合意では、法的拘束力のある中核的な合意文書において、すべての締約国がNDCを提出し、実施し、定期的に更新することに関する法的義務を規定し、NDC自体は変更が容易な登録簿のような非法的文書のツールに記載するべきである。

    このアプローチを採用することによって、法的明確性と柔軟性の間のバランスをうまく取り、締約国がNDCを定期的に更新・強化するための基盤を築くことができる。

    (参考文献:Tamura, K and Y. Yu, (2015) “Cycles for Strengthening Mitigation and Support” IGES編 The Paris Climate Agreement and Beyond: Linking Short-term Climate Actions to Long-term Goals)

  3. 評価・検証サイクルが機能するために必要な科学的知見を十分に集めるために、気候政策研究機関の「コンソーシアム」の設置を提案する。

    NDCの評価においては国情が十分かつ適切に考慮されることが非常に重要になるため、「コンソーシアム」の設置にあたっては、評価対象国・地域の研究者の参画を重視するべきである。これにより、「コンソーシアム」によるNDCの評価・検証結果の信頼性及び受容性が高まることが期待される。

    (参考文献:Tamura, K., T. Kuramochi, and J. Asuka (2013) “A Process for Making Nationally-determined Mitigation Contributions More Ambitious”, Carbon and Climate Law Review, 4/2013: pp. 231-241; Tamura, K and Y. Yu, (2015) “Cycles for Strengthening Mitigation and Support” IGES編 The Paris Climate Agreement and Beyond: Linking Short-term Climate Actions to Long-term Goals)

  4. NDCの評価・検証サイクルでは、これまで多く議論されてきた「(2℃目標達成に)必要な負担・努力」と同時に、低炭素化に伴って発生する様々な機会と便益に関する情報も重要な役割を果たすべきである。

    既往研究の多くは2℃目標達成のための各国の「必要な努力」や「応分の負担」について議論してきたが、低炭素社会への転換によって得られる長期的な便益についてはこれまであまり議論されてこなかった。また、低炭素社会への転換に伴う便益に関する国レベルでの詳細な分析は、これまであまり実施されてこなかった。各国の国益や優先課題と合致した明確な便益を特定することにより、これまでの「負担」ベースの議論からの脱却を目指し、排出削減努力の動機付けを強化することができる。上記の研究機関による「コンソーシアム」は、便益ベースの前向きな指標を構築する上で大きな役割を果たしうる。

    (参考文献:Tamura, K., T. Kuramochi and Y. Yu, (2015) “Roles of Scientific Community in a Cycle for Enhancing Mitigation Contributions” IGES編 The Paris Climate Agreement and Beyond: Linking Short-term Climate Actions to Long-term Goals)

  5. パリ合意には、低炭素化と気候変動にレジリエントな社会を構築するために必要な資金を確保するための、評価・検証・強化サイクルの設置が盛り込まれるべきである。

    パリ合意では、資金に関して以下の三つの要素を含むべきである:
    (1)将来の資金規模の予測可能性、
    (2)途上国における資金の効率的な活用を可能にするための環境の改善と気候資金の規模拡大実現のための戦略策定、
    (3)資金拠出及びその成果の透明性。

    (参考文献:Tamura, K and Y. Yu, (2015) “Cycles for Strengthening Mitigation and Support” IGES編 The Paris Climate Agreement and Beyond: Linking Short-term Climate Actions to Long-term Goals)

  6. パリ合意の下では、締約国は資金(二国間及び多国間)に関する全体での動員目標を5年毎に更新するべきである。

    具体的には、まず、2020年以前のプロセスにおいて、既存の測定・報告・検証(MRV)システムの改善や緑の気候基金(GCF)の運用を通じて、途上国の資金ニーズに関しできるだけ具体的に把握しつつ、2020年以降の排出削減サイクルの中の5年毎の事後評価で得られる情報を基に、資金サイクルでは次の5年間での支援増額を求める、ことなどが考えられる。
    MRVシステムの改善に関しては、「資金に関する常設委員会」(SCF)が中心となり、先進国からの資金拠出を報告するための共通テンプレートを改善するべきである。また、SCFは、途上国向けの共通報告テンプレートも作成し、資金支援の受け取り額、利用方法、国内資金のスケールアップ及び資金活用がしやすい環境の改善に向けた努力や戦略に関して報告するべきである。

    (参考文献:Tamura, K and Y. Yu, (2015) “Cycles for Strengthening Mitigation and Support” IGES編 The Paris Climate Agreement and Beyond: Linking Short-term Climate Actions to Long-term Goals)

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