持続可能なエネルギーの道を探る ―ドイツの試みとアジアの展望―

アジア太平洋地域では、経済発展に伴うエネルギー・資源消費量の増加がみられ、今後のエネルギー政策の行方に注目が集まっています。今月は、ベルリン自由大学のミランダ・シュラーズ教授に、再生可能エネルギーによる発電量が過去最高となったドイツの現状を詳しく伺い、アジア太平洋地域における持続可能なエネルギー選択について考えます。

ドイツの「Energiewende(エネルギー大転換)」

---ドイツでは、2022年までに全ての原発を廃止するという決定が2年前に下されました。それ以降、エネルギーの選択に関して何らかの変化がありましたか?

シュラーズ:
ドイツの「Energiewende(エネルギー大転換)」は世界中で関心を呼びました。2010年10月、ドイツ連邦議会は新たな「未来に向けたエネルギー・コンセプト」を採択し、2020年までに温室効果ガス排出量を40%削減するというそれまでの目標を再確認すると共に、2030年までに55%削減、2040年までに70%削減、2050年までに80~95%削減という以降数十年にわたる新たな目標も掲げました。総発電量に占める再生可能エネルギーの割合を2050年までに80%に引き上げ、一次エネルギーの使用を2050年までに2008年のレベルから50%削減することによって、エネルギー効率の向上も促進します。これらの目標を達成するにはエネルギー革命が必要です。反対派は、目標が非現実的で、ドイツ経済に打撃を与え、コストもかかりすぎると批判しています。一方、支持者たちは、これらの目標は必要であり、新たなイノベーションに刺激を与えるとともに、長期的には全体的なエネルギーコストを引き下げると主張しています。

2013年9月の連邦議会選挙後に発足したキリスト教民主同盟(CDU)とドイツ社会民主党(SPD)との新連立政権も、基本的には「Energiewende(エネルギー大転換)」を継続することで合意しています。1つ大きく変わったのは、連立政権がそのプロセスにより多くの企画調整を加えようとしていることです。進捗状況の評価や問題点の検証、政策変更の提言を行う年1回の監視システムも導入されることになっています。

新連立政権は再生可能エネルギーの開発ペースに関する目標も定めました。電力部門に占める再生可能エネルギーの割合を2025年までに40~45%、2035年までに55~60%に増やすことを目指していますが、再生可能エネルギー協会はこれらの目標があまりにも限定的だと批判しています。また、建物部門や輸送部門、蓄電システム、送電インフラ開発、沖合における洋上風力発電開発でのエネルギー効率の向上もより重視されます。再生可能エネルギー開発の効率化を図り、全体的なコスト削減に寄与することを目的としていますが、そのためには様々な部門や関係者間の一層の連携が求められます。

福島原発事故以降、「Energiewende(エネルギー大転換)」は大きく進展しました。ドイツでは現在総発電量の4分の1を再生可能エネルギーが占めており、風力発電と太陽光発電を組み合わせると62GWの発電能力になります。クリスマス前後など風が強い日には、風力だけで全日量の35~40%もの電力を賄うこともあります。太陽光も同じで、夏のピーク時には発電量の半分を太陽光がカバーしています。これは非常に大きな成果です。

しかし多くの課題もあり、新連立政権も注意を払っています。1つ目は再生可能エネルギーの開発を支えるコストの上昇です。このコストは固定価格買取制度(FIT)の追加料金という形で家庭や中小企業(SMEs)が負担していて、大規模なエネルギー集約型産業は支払いを免除されています。5年前の追加料金は1キロワット時あたり1~2ユーロセント(*1)(約1.4~2.8円)程度でしたが、2013年には5.3ユーロセント(約7.5円)になり、2014年には6.2ユーロセント(約8.8円)に上昇すると予測されています。つまり、基本的にFIT制度には改革が必要であり、これは新連立政権の政策の一部でもあります。再生可能エネルギーは以前よりも市場で確立されてきていますので、FITの水準は徐々に下がっていき、新たな設計要素も導入されるでしょう(例:市場プレミアム制度)。最終的にはFITも段階的に廃止されると思いますが、それはFITを突然やめるのとは大きく違います。再生可能エネルギー技術の市場競争力をさらに高めるための猶予期間が与えられるということで、連立政権は2014年4月までに何らかの計画を提示すると約束しています。

2つ目の課題は、新政権も主要目標に掲げている、新たな送電インフラ開発です。3つ目の、より大きな注目を集めると思われる課題はエネルギー効率です。エネルギーの効率化は、エネルギー転換の全体的なコストを下げるために重要で、過去20年間のエネルギー効率のほぼ2倍にする必要があります。これは重要な課題で、新連立政権が建物部門を環境省の管轄下に置いたのもそのためです。建物のエネルギー効率を向上することはエネルギーの転換に不可欠で、同省は環境・自然保護・建設・原子炉安全省と名称を改めます(2013年12月にバーバラ・ヘンドリクス相が就任)。

さらに、再生可能エネルギー部門を環境省から経済省に移すという決定も大きな変化です。環境省の権限は弱まりますが、再生可能エネルギー開発と他のエネルギーの利害(当面の間はベースロードであり続ける石炭・ガス工場等)との連携が期待されています。新たな省の名称は経済・エネルギー省となり、SPDのジグマー・ガブリエル氏(元環境相)がトップを務め、同省はエネルギー転換の中心的役割を果たすことになります。

ドイツは「Energiewende(エネルギー大転換)」の下で、新たな時代の壮大な実験に乗り出したと言えるでしょう。今後数十年かけて、ドイツは化石燃料に大きく依存し続けたエネルギー構造から、再生可能エネルギーが主な供給源となる構図へとシフトします。1990年当時の再生可能エネルギーの割合はわずか3%でしたが、2012年には少なくとも22%の電力が風力、太陽光、水力、地熱、バイオマスによって生産されました。とは言え、「Energiewende(エネルギー大転換)」を成功させるには一層の進歩が必要です。

バイオマス、風力、太陽光は成長の伸びが大きく、将来的に40万の雇用が生まれると推計されています。また、再生可能エネルギー設備の約半分が個人所有となっており、一般市民の関心の高さを示しています。さらに現在、再生可能エネルギー100%を目指す独自の計画を立てている地域が140以上あり、ベルリン近郊のフェルドハイム、バイエルン北部のエッフェルター、北海付近のクロンプリンツコグなどいくつかの小さな村では既に再生可能エネルギー100%が実現しています。このようにエネルギー自給の取り組みに加わる村や都市、地域は増えているのです。

エネルギー転換は、医療費削減、環境破壊の減少、新たな市場・雇用の創出など多くのメリットをもたらしますが、それでもなお国民の支持という点で解決しなければならない問題があります。ウインドパークの拡大や、大規模な太陽光発電設備、バイオマス施設、蓄電システムの設置は多くの地域に影響を与えます。主に問題となるのは、再生可能エネルギーで作られた電力を長距離輸送するための高圧送電システムについて地元住民の支持を得ることです。そのような送電システムや必要な蓄電能力を実現可能なものにするには、地元の反対を乗り越えなければなりません。

ウインドパーク、ソーラーパーク、バイオマス施設の開発は、再生可能エネルギーインフラ建設への反対によってこれまで何度も阻止されてきました。ただし多くの団体は再生可能エネルギーそのものに反対しているのではなく、地元で大規模インフラ開発が行われることに異議を唱えているのです(NIMBY(*2)) 。再生可能エネルギーの普及に重要なのが参加型意思決定プロセスで、新たな投資によって地域社会が経済的恩恵を受け、設置場所について住民の発言権が尊重される場合は、開発が支持される傾向が高くなります。

エネルギー転換は国民の幅広い参加があって初めて実現します。地域社会や組織、個人がエネルギー転換を支えるためにできることはたくさんあり、一人ひとりがライフスタイルを変えるだけで大きな変化につながるのです。

本格的にエネルギー転換を図るには、何をどのように消費するかを真剣に考える必要があります。省エネの電化製品を買ったり、使用する製品のエネルギーと資源のバランスを考えることも理にかなっているでしょう。また、地元で生産された食料や商品を買う方が、遠くから輸入するよりもエネルギー消費量が少なくて済みます。

最後に、私たちは大量消費の生活スタイルを見直さなければなりません。資源・エネルギー多消費型社会の根底にあるのは消費の問題です。紙、ガラス、金属などのリサイクルでは大きな進歩が見られていますが、電気製品(コンピューター、携帯電話、テレビ等)や自動車の部品または建材のリサイクルに関してはまだすべきことがたくさんあります。台所ごみについても、堆肥化やバイオガス生産などもっとできることがあるはずです。

これらのこと以外では、私たちが何に投資すべきかを社会全体で考えるべきだと思います。教育、医療、環境への投資を増やした方が、私たちそして未来の世代の生活向上につながります。

アジア太平洋地域における展望

---アジア太平洋地域にはどのような課題がありますか?再生可能エネルギー等、持続可能なエネルギー選択の展望は?

シュラーズ:
これまで20年近く環境政策と持続可能な開発に関する研究・教育に携わってきた中で、アジアの多くの地域を訪れる機会がありました。日本に住んでいたこともありますし、調査研究目的でオーストラリア、中国、インド、韓国、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムにも行きました。各地に豊かな文化と伝統があり、そして生物多様性に恵まれています。

一方で、アジア太平洋地域は環境の劣化・汚染に悩まされ、化石燃料と原子力エネルギーへの世界的・地域的依存から生じる多くの課題に直面しています。島国や長い海岸線を持つ国が多く、都市が沿岸地域に集中しているため、この地域は気候変動の大きな影響を受けるでしょう。暴風雨など1つの出来事を気候変動と結びつけることはできませんが、今後何が待ち受けているかを示す警告は至る所にあります。ツバルのような低地国やバングラデシュなどの沿岸国は海面上昇の危機にさらされています。観測史上最大規模の台風ハイヤンはフィリピンの広範囲に打撃を与えました。また、中国、フィリピン、台湾、ベトナムその他多くの国では、豪雨による土砂崩れで家や村が埋没する被害が起きています。

過去の温室効果ガス排出量の大半については、欧州、北米そして日本などの先進国が責任を負うべきなのは確かですが、より持続可能な世界経済やエネルギー構造を実現できるかどうか、その成否を大きく左右するのは実際のところアジア太平洋地域です。日本と韓国は人口が既に減少傾向にあり、中国は2025年前後、タイは2035年前後に人口のピークを迎えると予測されていますが、バングラデシュ、インド、インドネシア、マレーシア、パキスタン、フィリピンそしてベトナムでは今後も人口が増え続け、人口圧力の増加に伴って資源需要も高まっていくでしょう。

また、急速な経済成長も続いています。世界的な景気後退時には成長率が一時期鈍化しましたが、景気が低迷しているにもかかわらず、アジア太平洋地域の多くの国は今も成長し続けています(2012年にインド、ベトナム、マレーシア、インドネシアはいずれも5~6%、中国は8%近い経済成長を達成)。

アジアは巨大な人口を抱え、経済が急速に発展し、エネルギーその他資源の消費量も増加しています。そのため、アジアの選択するエネルギー・資源政策は、世界全体に影響を及ぼします。アジアの消費レベルが高まるにつれて、資源需要が増加し、ごみの問題もさらに深刻化するでしょう。

経済の急成長によって、アジア太平洋地域に住む数百万もの人々の生活水準は随分と向上しました。しかし同時に多くの問題も引き起こしています。アジアの多くの都市や工業地域は、調理、暖房、産業活動のために石炭に大きく依存しており、それに起因する問題に悩まされています。

交通渋滞が都市の大気汚染を悪化させ、子どもや高齢者、病気を抱えた人にとって、アジアの都市は危険な場所になっています。一方、欧州では若者が以前のようにマイカーを欲しがらなくなっています。アジアでもライフスタイルを変える必要があるでしょう。

先日、インドのコルカタを訪れました。長い歴史と伝統を持つ都市で、私たちはダクシネーシュワル・カーリー寺院などを見学しました。コルカタは人口増加と汚染問題の解決に苦慮しています。水と大気の汚染は深刻で、ごみは至る所に積み上がっています。アジアの大都市に住む人々が安心した暮らしを送ることができるようにするためには、新たな開発の道筋を見出さなくてはなりません。

アジアの多くの地域では、クリーンで安価なエネルギーとして原子力エネルギーが推進されてきましたが、中高濃度の放射性廃棄物管理に関する有効な解決策はまだ全く見つかっておらず、現在は一時的な保管施設に貯蔵されています。また福島の原発事故によって、一旦事故が起きるとコストが高くつくことが明らかになりました。今でも10万人以上が避難生活を強いられていて、故郷の村で再び元の生活に戻れるのかどうかわからない状況です。この地域にとって原子力エネルギーのコストはあまりにも高くつき、もはや現実的な選択肢ではなくなっています。

政策決定者たちも、アジア太平洋諸国のエネルギー戦略がもたらす環境・健康被害を無視しづらくなっています。持続可能な代替エネルギーの開発に一層努力しなければ、アジア太平洋地域の人々は高い代償を払わされるのです。

アジア太平洋地域には、持続可能なエネルギー構造の構築において世界のリーダーになるべき十分な理由があり、幸い、持続可能なエネルギーの未来への関心の高まりを示す多くの徴候が見られています。福島原発事故の後、日本は省エネ対策で世界をリードしてきました。小田原・鈴廣かまぼこのような中小企業の多くは、より効率的な生産方法を考案し、エネルギー需要や資源の使用量を削減しています。

中国もエネルギー効率の向上と汚染削減のために大胆な対策をとっています。最も汚染のひどい工場は閉鎖され、他にも移転を命じられたり、汚染防止装置の設置など近代化を義務付けられた工場もあります。また、中国は再生可能エネルギーにも多額の投資を行っており、福島原発事故以降、中国と日本は再生可能エネルギーへの投資が最も多い国に含まれています。

私が特に嬉しく思っているのは、地方や都市レベルで様々な取り組みが目に見える形で進められていることです。インドの農村では小型バイオマス発電機が設置され、中国の街ではあちこちで電動自転車を見かけます。日本の家庭でもソーラーパネルが全国的に普及していますし、インドネシアの村々ではごみを減らすために女性が家庭ごみをリサイクルし、さらにアップサイクル(古いものや廃棄されるものに付加価値をつけて新しいものに)して商品として販売しています。アジアでは、これらに見られるようなグリーンな経済開発を促進し、より持続可能なエネルギーの道を進む以外に、他に合理的な選択肢はないのです。

---ありがとうございました。

  1. *1: 1ユーロセント=1/100ユーロ、約1.42円(2014年1月現在)
  2. *2: NIMBY (Not In My Back Yard):公共のために必要な事業であることは理解しているが、自分の居住地域内で行なわれることは反対という住民の姿勢を揶揄していわれる概念。(出典:EICネット)

  3. *** 写真:Lutz Mez氏撮影
「Monthly Asian Focus: 持続可能なアジアへの視点」について

IGESでは、1998年の設立以来、アジア太平洋地域における環境問題や環境政策の動向をとりまとめた「アジアの環境重大ニュース」を毎年末に発表してきました。2011年からは、"持続可能なアジア"をキーワードに、ダイナミックに動きつつあるアジアの環境動向を、第一線で活躍する専門家の視点・考察とともにタイムリーにお届けしています。

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