ここ数年、多国間における気候変動の交渉では、国際的に約束した各国の削減目標数値とすでに掲げている2°C目標(*1)とのギャップをどのように埋めていくかが大きな課題になっています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2014年に最終まとめが行われる第5次報告書(*2)に向けて、それぞれの部会が今年から報告を始めますが、日本でも来年3月に第二作業部会(WGⅡ:影響、適応、脆弱性)総会を横浜で開催し、気候変動に関する国民の意識がますます高まっていくことが期待されます。今回は、中国の低炭素シナリオ作成の中心人物であるジャン・ケジュン氏に、2°C目標に向けたアジアの取り組みについて伺います。

アジアにおける2°C目標

---「2°C目標」に取り組むことはアジアにとってどれほど重要ですか?

ケジュン:
「産業革命前と比べた地球の平均気温上昇を2°C以下に抑える」という気候変動目標を達成するには、基本的に世界のCO2排出量がなるべく早く、遅くとも2020年までにピークを迎え減少しはじめなければなりません。アジアのCO2総排出量は、2010年には世界の総排出量の3分1を上回るほどになりました。重要なのは、2000年から2010年までの世界のCO2排出量の増加分33%のうち、アジアからのものが約83%を占めているということです。このまま2°C目標を掲げ続けるのであれば、アジアがもっと早急に対応しなければならず、さもなければこの目標は達成不可能となるでしょう。モデルを使った解析によると、アジアのCO2排出量は2025年までにピークを迎え、その後徐々に減少し始めるとされています。

アジアはとても多様な地域で、日本や韓国のような先進国もあれば、中国のように経済大国に移行しつつある国、タイやマレーシアなど急成長を遂げている国、そして多くの貧困国も存在しています。アジア全体で大きな変化を起こすことができれば、それはCO2排出量の観点からだけでなく、やればできるという、世界に強力なインパクトをもたらすでしょう。アジアは低炭素型社会(*3)への道を切り開くパイオニアになれますし、なるべきなのです。

中国が2025年までにCO2排出量のピークを迎え、その後減少に転じるならば、世界のCO2排出量が2020年までにピークを迎えることが可能になるでしょう。そして、中国は、さらなる発展を遂げながらCO2の排出も抑えるにはどうすればいいのか、その手本を示すことができます。我々の研究によると、中国が2025年までに排出量のピークを迎えることは可能ですが、それにはいくつかの前提条件があります。具体的には、効率的な経済発展や、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーと原子力の開発促進、CO2の回収・貯留(CCS)などです。

ここ数年、中国ではエネルギーを多く消費するタイプの製品生産が急激に伸びていて、エネルギー需要が急増する主な要因となっています。エネルギー集約型産業のエネルギー消費量は中国全体の50%以上で、新たに増強された発電量の70%以上を占めています。ですからエネルギー集約型産業の発展を抑える必要があるのです。シナリオ分析では、エネルギー多消費型製品の生産が2020年までにピークを迎え、この時期の経済成長率が、中国第11次5ヵ年計画(*4)(2006‐2010)と比べると大幅に鈍化するため、エネルギー需要やCO2排出量の動向が大きく変わっていくだろうと予測されています。

エネルギー効率の促進も重要です。第11次5ヵ年計画期にはエネルギー効率が大幅に向上しました。現在、中国はその成果を検証し、過去数十年にわたる省エネルギー戦略と比較し、他国の取り組みも参考にしながら、かつてない省エネルギー対策を進めています。省エネルギー基準(*5)の迅速かつ大胆な引き上げや、市場メカニズムの導入、建築物に対する省エネ基準の厳格化などさらなる具体的な対策も必要で、2030年から2050年までに多くの産業部門のエネルギー効率を世界最高水準に高めることを目指しています。

中国は今や新エネルギーと再生可能エネルギーの分野で最も進んだ国の1つです。2011年までの中国の風力発電量は62.7GWで、2011年には18 GW増加しましたが、これは2011年の世界の新規発電量の3分の2を占めており、また2008年から2011年までの伸び率は年間60%を超えています。中国は、再生可能エネルギーが一次エネルギー総供給量(*6)に占める割合を2020年までに15%に引き上げる計画を立てていて、その中には、国のエネルギー統計には入っていない再生可能エネルギーも含まれます。

世界の2°Cシナリオでは、再生可能エネルギーの発電量は総発電量の48%に達し、石炭火力発電量の割合はわずか17%まで低下するとされています。また風力、太陽光、水力の発電量は、2050年までにそれぞれ930GW、1040GW、520GWになると予測されています。

CO2排出量に関しては、CO2の回収・貯留(CCS)が排出量削減にさらに有効と見込まれていて、今後数十年間は大量の石炭を利用する中国もCCSを導入する必要があります。

また、中国で低炭素社会を実現するには、技術の進歩が大きな前提条件となります。中国では消費者向けの技術が想定したよりも早く進歩していて、LEDテレビや高性能エアコンのような家電製品や、低燃費車などの普及率も2011年の時点で既に予想シナリオを上回っています。正しい政策を実施すれば、2°C目標のシナリオで想定されているエネルギー需要の減少を2020年までに、また、それ以降も達成できる可能性が高くなるでしょう。

また中国では急速なGDP成長率が低炭素開発の強力な支えとなっています。第11次5ヵ年計画期の年間GDP成長率は11.2%でしたが、現在の相場で計算すると年16.7%になり、2015年にはGDPの額が75兆元(時価)(約1240兆円、2013年5月現在)に達すると予測されています。どのモデル分析の結果でも、必要とされる投資はGDPと比較してはるかに少なく、実際その2~4パーセント以下となります。

資金援助の必要性や、技術の利用が可能かという問題があることから、アジアにとって新たな発展の道筋を描くことは容易ではありません。しかし経済の急成長を遂げているアジアには、新たな時代に何らかの行動を起こすことが期待されています。低炭素社会への移行は、この地域の社会経済発展にも寄与するのです。

低炭素社会への課題

---中国では低炭素都市パイロット・プロジェクトが進められています。具体的な課題はありますか?

ケジュン:
中国では2010年から低炭素都市パイロット・プロジェクトが進められていて、大きな進展が得られています。第1期プロジェクトでは13の市と省が対象に選ばれ、第2期の2012年にはさらに29の市と省が加えられました。低炭素都市の推進は、中国における低炭素開発の促進に既に影響を与えています。しかしながら、これまでを振り返ると大きな課題もいくつかあります。

1つは、低炭素への理解が十分ではないことです。低炭素政策をとっていると表明している都市は多くありますが、それら都市のCO2排出量の傾向や1人あたりCO2排出量は変化も改善もしておらず、大半は総排出量や1人あたり排出量が急増しています。高排出先進国の1人あたり排出量を上回っているケースも多く、これらの都市や省では今でも経済発展が優先課題なのだということがわかります。そのような状況では低炭素開発への転換が難しく、真の低炭素開発に求められている開発パターンについて、もっと考える必要があるでしょう。低炭素開発の立案は、社会システム全体に関わることなので、あらゆる活動に理念を入れ込むことが必要です。しかし現時点では、そうする価値があることを地元の政府や住民に説得するのが困難なのです。都市開発に関しても、市がどのような方向に進みたいのか明確なビジョンが描かれておらず、中国の都市は産業開発を重視したGDPの大きい都市でしかないというのが現状です。そのような状況を短期間で変えるのは難しく、さらなる努力と改革が必要です。

2つ目は、低炭素開発の研究や推進システムの面で、地方に十分な能力・技術がないことです。これらパイロット都市の低炭素計画や戦略研究を行なっているのは北京の研究者で、地方の政策立案プロセスを支援するという意味で好ましいことではありません。単なる研究プロジェクトとしてではなく、政策立案に対して長期にわたる活動へのかかわりと助言が必要です。また、地方都市には低炭素開発を促進する十分な体制が整っていません。彼らにとって低炭素開発は瑣末な問題で、政策立案プロセスの中心に位置づけられていないのです。これは時間がかかる問題です。一部の都市が主導して、中国の都市開発の新たな姿を提示するという方法もあると思います。

これらの問題は中国だけでなく、他の発展途上国にとっても極めて重要な意味があります。

---ありがとうございました。

*ジャン・ケジュン氏は、低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)の暫定運営委員で、2013年7月24~25日にパシフィコ横浜で開催されるLoCARNet第二回年次会合にて、「2°C目標達成に向けた各国の削減ポテンシャル比較」のセッションをリードする予定です。(第5回持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)と同時開催予定)
  1. *1:人類の経済活動から排出される温室効果ガスによって引き起こされる地球全体の平均気温の上昇を、産業革命前(つまり人為的な温暖化が起きる前)と比べて2°C未満に抑えるという目標のこと。(出典:Climate Edge)。
  2. *2:世界の科学者の最新の研究成果をもとに、温暖化についてIPCCがほぼ5年おきにまとめる評価報告書。(1)温暖化の自然科学的根拠(2)温暖化の影響(3)温暖化の緩和策―に関する三つの作業部会報告書と統合報告書からなる。IPCCは2007年にノーベル平和賞を受賞。
  3. *3:社会に大きな影響をもたらす気候変動の緩和を目的として、その原因である温室効果ガス排出が少なくなるような工夫をした社会。
  4. *4:中国の五カ年計画で第11番目のもので、2006年から2010年までの時期を指す。
  5. *5:省エネルギー対策となる性能の基準
  6. *6:国内供給されたエネルギーの総量で、すなわち各エネルギー源の国内算出、輸入の合計量
「Monthly Asian Focus: 持続可能なアジアへの視点」について

IGESでは、1998年の設立以来、アジア太平洋地域における環境問題や環境政策の動向をとりまとめた「アジアの環境重大ニュース」を毎年末に発表してきました。2011年からは、"持続可能なアジア"をキーワードに、ダイナミックに動きつつあるアジアの環境動向を、第一線で活躍する専門家の視点・考察とともにタイムリーにお届けしています。

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