IGES研究員にききました
    第3回 2014年9月
  • Makino Yamanoshita

    山ノ下麻木乃

    地球環境戦略研究機関(IGES) 自然資源・生態系サービス領域 タスクマネージャー(森林保全); 主任研究員

    (社)海外産業植林センター、国際NGOバードライフに研究員として勤務。植林と地球温暖化防止の研究、植林カーボンプロジェクト開発等に携わる。2011年よりIGESに勤務。現在は、地域住民のケイパビリティに注目した森林分野の気候変動対策について研究を行っている。


IGESを知りたい

ベトナムでのフィールド調査から森林問題を考える

第3回目は、ベトナム農村部でのフィールド調査を通して住民参加型の森林管理を研究する山ノ下麻木乃主任研究員に、ベトナムの森林の現状と問題点、そして地域住民の視点を大切にした森林管理のあり方について聞きました。

---山ノ下さんはベトナムの農村部でフィールド調査をしていますが、そこではどのような森林の問題に直面していますか?

山ノ下:

  • 植林された地域

私が調査を行っているベトナムの北西部ホアビン省の山は、ベトナム戦争とその後の貧困が原因で森林が伐採されました。森林を伐採した後、焼畑が繰り返されたことで地力が失われ、自然には森林が回復できず荒廃地となってしまっています。このような荒廃地を森林に戻すには人為的に植林を行う必要があり、また、植林によって地力の回復や水源涵養などの環境的な便益や林業からの収入なども期待できます。これまでベトナムでは国家政策や国際協力、さらには民間レベルの支援活動などによって多くの植林活動が行われ、その結果、森林面積は増加傾向にあります。しかし、植林後、森林が長期的、継続的に維持されているのは、工場や輸出用の港に近く、林業として経済的に成り立つ場所であり、私が調査を行っているアクセスの悪い山岳地域では、森林が元の焼き畑や荒廃地に戻ってしまうことが少なくありません。一般的な植林プロジェクトでは、植林作業が完了するとプロジェクトが終了してしまい、その後森林がどうなったかモニタリングされることはあまりないのが実情で、植林した面積がそのまま将来の森林面積になっているとは言えないのが実情です。

例えば、私が調査を行っている少数民族のムオン族の村では、地球温暖化防止を目的に外部からの支援でプロジェクトが行われ、専門家主導によって荒廃した山の斜面が植林されましたが、一部は元の状態に戻ってしまいました。実は、私はこのプロジェクトに専門家の一人として関わっていて、幸いにも(?)プロジェクト終了後の様子を見る機会があり、大きなショックを受けました。植林は地球温暖化防止につながると言われていますが、私たちのやり方では実際には十分貢献できていないのかもしれないと感じたことが、私がこの村でフィールド調査を始めたきっかけでした。


---フィールドではどのような調査をしているのですか?

山ノ下:

これまで、長期的に維持される森林を造成するためには何が必要なのかを明らかにするために、なぜこの植林プロジェクトで森林を維持することが難しかったのかを村人の視点で調査することから始めました。土地利用や村の生活の問題点について、各個人にインタビューやアンケートするだけでなく、グループディスカッションをベトナム林業大学のカウンターパートの力を借りながら行いました。議論の内容をその場でビジュアル化して共有し、より議論を深めるために、地図や図を一緒に作成する住民参加型のアプローチを使ってデータを収集しました。


  • 住民参加型アプローチ

その結果、村人は外部の専門家が考えているよりも荒廃地を活用して生活をしており、植林プロジェクトによる土地利用の変化は村人の生活に大きな影響を与えていたことが明らかになりました。彼らは荒廃した土地であっても、放牧をしたり灌木から薪を集めたりしており、植林が実施されたことによってより遠くに行かなければならないという不都合が生じている場合もあり、このことは森林を維持することを断念する動機につながる可能性があります。さらに、この地域では土地所有者でなくても自由に空いている土地で放牧する習慣があり、所有者の意に反して植林地が壊されてしまったケースもありました。このことから、植林プロジェクトでは、計画の段階から十分に村人の生活を考慮する必要があることが明らかになりました。さらに、専門家が村人から情報を集めて計画を作るのではなく、参加型アプローチを使って一緒に検討し策定することが重要です。このプロセスは時間がかかりますが、村人の視点からの問題と具体的な解決方法を見つけ出すことが可能であり、彼らの伝統的な知識や経験も活用することができ、さらに森林への関心、やる気も高まります。

  • Mountainous area of the Hòa Bình Province in Northwest Viet Nam
    ベトナム 北西部ホアビン省の山

今年で植林してから5年が経過し、森林と呼べる状況になってきた場所もあります。その近くの村では、森林からどのようなベネフィットを得ているのかを調査したところ、「沢から取っている飲料水がきれいになり水量も安定した」、「山からの土砂が減った」、「山からの風が涼しくなった」、「鳥が増えた」などが挙げられました。村人はこれまで森林を伐採して木材を販売して収入を得ることに関心がありましたが、森林の便益を実感してからは、より長期的に森林を管理し、木が枯れてしまったところにも森林を拡大していく方が良いという考え方に変化してきています。今後も、村人にとってより便益のある森林にしていくための管理方法を村人と共同で検討しながら、その実施を支援していく予定です。


---このような調査結果はどのように活用することができるのでしょうか?

山ノ下:

気候変動の議論において、森林が重要な役割を持っていることは認識されており、地球温暖化防止を目的として植林や天然林保全を促進する政策やプロジェクトが実施されています。これらプロセスには、私たちの研究が示しているように、地域の人々が中心的に関わることが重要で、そうでなければ森林が維持されず、期待した温暖化防止効果を上げられない可能性も懸念されます。実際の森林管理の現場から得られた知見に基づき、国際的な環境政策の議論に地域住民の視点を考慮することの必要性をインプットしていきたいと考えています。

---フィールド調査では村に滞在するのですか?困ることなどはありませんか?

山ノ下:

  • 食事風景


  • 薪を運ぶ女性たち


  • 村の女性と

観光地なわけでもなく近くにホテルなどがないので、お願いして村に泊めていただき、ご飯も作っていただいています。電気は来ていますし、特段困ることはありません。夕方、みんなで広場に集まりバレーボールをしたり、誰かの家に集まったりと、シンプルですがゆっくりした時間を楽しんでいます。ただ、村に来ると自分が何もできない人間だとよく思わされます。おやつにサトウキビを食べるときは、サトウキビまるごと一本となたを渡されるのですが、私のなた使いでは、到底皮を剥くことはできず誰かにやってもらわなければなりません。洗濯も外の水場で手洗いなのですが、私の手際の悪さを見るに見かねて滞在している家のお嫁さんがやってくれたりしたこともありました。村では鶏であれ豚であれ、肉を食べるなら自分でしめなければなりませんが、私には未だできそうもありません。村の女性は、夜明けとともに起きて、家畜の世話、田畑の手入れ、山で薪集めや放牧、家事と非常によく働き、本当に大変そうですが、きりっとしていて素敵で憧れてしまいます。

---ありがとうございました。



ページの先頭へ戻る