IGESコメンタリー

ゲイツ報告からみるSDGsの進捗と見通し

2017年12月26日

 マイクロソフトの創始者であるビル・ゲイツ夫妻が創設した財団(Bill & Melinda Gates Foundation)が去る9月、国連総会の開催に合わせて、世界の貧困との闘いに関する報告を発表した。そこでは、2年前に国際社会が合意したSDGs(持続可能な開発目標)と呼ばれる2030年国際目標の達成見通しについて間接的ながら懸念を表明し、世界中のあらゆる指導者たちに対して行動を呼びかけた。
本コメンタリーは、このゲイツ報告を通して、SDGsの現状と見通しについて評論する。

 まずは、ゲイツ報告には何が書いてあるのか具体的内容をごく簡単に紹介しよう。
(エイズ)HIV治療に対する世界の援助資金が10%カットされれば、2030年までに560万人の命が追加的に奪われてしまう。
(マラリア)マラリアによる死亡は2000年から2015年の間に60%も減少した。2016年をみると死亡率は1000人あたり29人だが、今後の投資や研究による革新がなければほぼ横ばいである。(SDGsではエイズやマラリアといった感染症を2030年までに根絶することを目標にしている。)
(極度の貧困)1日1.25ドル未満で生活する世界の絶対貧困の割合は、1990年の36%から、2016年には9%となったが、現状のペースから予測すると2030年において6%にとどまる。(SDGsの目標は絶対貧困をゼロにする。)
(妊産婦の死亡)妊産婦の死亡は、SDGsの2030年目標では10万人当たり70人未満としているが、現状のペースでは138人にとどまる。
 同報告は、以上のような貧困、疾病など人道に強く関わる18指標を分析、予測し、世界の行動の違いによって、よきシナリオ、現状のペースが続いたシナリオ、悪しきシナリオの3つを示している。短い前書きにおいて、「この報告は、世界の発展に向けたコミットメントに常ならぬ疑念が生じている時に出すことになった」と切り出し、トランプ政権が対外国援助予算を大幅削減しようとしていること、他の援助国でも援助削減ムードが出てきていること、また、発展途上国の大部分も、自国の最貧層にもっと優先度を置くべきであると述べている。そこでは、世界が過去15年のMDGs時代(2001年~2015年)に収めた大きな成果を賞賛、強調しつつ、それとの比較で、目標を大幅に加えて開始されたばかりのSDGsでは今後数年の世界の決意次第で必要な上昇軌道が脅かされると示唆している。
 ゲイツ報告を報じた英国「エコノミスト」誌(2017年9月16-22日号)も、この懸念をなぞっている。その背景として、英国を含めて欧州の国々では、自国民に対して、外国援助を行う理由について、世界の貧しい人を救うためというよりも、難民がヨーロッパに入らないようにするためであるといった政治的説明を行うようになっている。実際に難民に対する援助額の割合は2014年の5%から2016年には11%となり途上国本国には資金が回らない援助が増えているとしている。そして、2008年の金融危機以降は、先進国の政府および国民が内向きになり、他者に対する思いやりや努力が縮小する傾向にあると分析する。一方で、途上国はといえば、例えばイギリスの医療雑誌「Lanzet」を引用し、サブ・サハラの32の国が健康分野にGDPの3%以内しか使っていない、最低でも5%は割り当てる必要があるのにと指摘している。こうして、貧困削減や弱者の疾病に一定程度の成功を挙げたMDGs時代に火がついた先進国、途上国双方の将来への楽観は、再び点火することが難しい状況になっているとして、SDGs時代はMDGs時代ほどよくないかもしれないと結んでいる。エコノミスト誌は前向きな要素として、途上国における出生率が今後下がる可能性があるし、医療面での進展が見込めるといった点も指摘している。

 このゲイツ報告を我々はどう受け止めればいいのだろうか。何点か指摘できるだろう。
(1)ゲイツ財団は世界最大の慈善団体であり、2000年の創設以来、「全ての生命の価値は等しい」との信念のもと、世界における貧困、疾病などへの支援という人間の尊厳にかかわる分野の支援に力を入れてきた。貧困や疾病、不平等・格差、教育は広く社会問題と位置づけうるが、この社会分野は、MDGsにおける中心課題であった。他方、後継のSDGsでは社会分野のみならず、環境分野や経済分野についても幅広くカバーしており、ゲイツ報告で取り上げていない。社会分野は途上国の中央政府の役割とともに、先進国により提供されるODAが不可欠であることから、先進国の援助に対する熱意が減り、途上国の優先度も落ちれば、少なくとも社会分野、すなわち貧困との闘いで、MDGs時代のような成果を挙げることが困難になるかもしれないとゲイツ夫妻が懸念を抱くのも無理はない。
(2)ゲイツ報告は、正確な将来予測を試みたというよりも、世界が今後どう取り組むかで結果が大きく変わるというシナリオを提示し、国際社会一体の努力を促しているのであり、その取り組みが不十分だと非難しているわけではない。また、この報告はゲイツ財団が米国のワシントン大学の衛星基準・評価研究所(IHME)と提携してまとめたものだが、そこに示されたデータ予測の多くは、現行のペースで進んでいけば世界が約束したSDGsという高い目標の達成には程遠いが、それでも改善は続いていくとの趨勢を示している。
(3)SDGsは極めて包括的な目標を掲げており、これを推進するには、主に社会問題に焦点が当たっていたMDGs以上に膨大な開発資金が必要である。この開発資金をMDGs時代の延長線のまま、原則政府資金で賄うというやり方では到底足りないことは戦後の開発史から明らかである。民間資金を大幅に導入し、かつ、すべての関係者(中央政府、地方政府、国際機関、ビジネス、NGO、学術、市民など)による一体の行動が必要であるとされ、意識の変革とともに開発の手法においても大きな新機軸が求められることになった所以である。比較的短いゲイツ報告では、SDGs全体の成功の鍵としてこの点に触れられていないため、政府資金が不十分ならSDGsは未達成、逆に政府資金が大幅に増えればSDGsも達成可能というような単純な構図で読者に理解されてしまう恐れがある点に注意を要するであろう。もちろん、MDGsにしろ、SDGsにしろ、すべての政府が、国民の啓蒙、行動の後押しを含めて先導していく立場にあることは間違いがない。

 以上について敷衍しつつ、SDGsの現状をどうみたらいいのか俯瞰してみたい。
 まずは、先進国の取り組みが現状どうなっているのかであるが、SDGsは2015年9月に合意され、開始は2016年年初であるからまだ2年しかたっていない。SDGsの目標は、社会、環境、経済にわたる17分野169項目に拡大・多様化し、目標レベルも深化するとともに、支援対象となる途上国もそれぞれ状況が異なることから、特に先進国にとっては援助の方向付けが大変難しい。同時に、先進国からすれば、SDGsはいかに途上国を支援するのかという対外政策であるのみならず、新たに国内対策として、自国内で不十分なSDGs目標にも取り組まなくてはならなくなった。例えば、日本では働き方改革や女性の活躍などを進めることになっている。
 これら内外の諸課題の中で優先付けを行い、具体的施策の進め方、予算付け、準備、実行というプロセスを進めていく必要を考えると本格実施までにある程度時間がかからざるをえない。一方、途上国では、MDGs時代の15年間に、国内政策として貧困問題にどう取り組むのか、そのために外国政府や国際機関の援助をどう受け入れるかといった体制構築やノウハウの蓄積がある程度進んでいる。いずれにしても、先進国、途上国、そして多様な国際機関がすでにMDGsの延長として、また新たな取り組みとしてSDGsの実行を開始しており、今後活動は試行錯誤を続けながら本格化していくことが期待されているというのが現状である。したがって、各国がどの程度の熱意でSGDsに取り組んでいるのか、そして各国内の関係者(ステイクホルダー)がどのように関与していくのか、そして成果は各国で、そして世界全体でどうなっているのかを評価するには、今しばらく時間が必要であろう。逆に、このような胎動期にあるからこそ、ゲイツ報告が世界のリーダーに決断と行動を求めたということができるだろう。
 因みに、本年4月にOECD開発援助委員会が発表した2016年ODA実績(暫定値)によると、先進国であるDAC加盟29か国のODA実績合計(支出純額)は,前年比8.4%増(名目ベース)の1,426億ドルとなっている。ODA(支出純額)の対国民総所得(GNI)比は,DAC全体の平均で0.32%(前年は0.30%)と改善した。なお、2015年実績は同じく名目ベースで前年比4.4%減であったが、ドルベース換算前の実質ベースでは6.6%増であり、全体として望ましい趨勢が維持され、MDGsからSDGsに移行するこの時期においても、モメンタムは失われていないと評価してよいのではないか。しかし、SDGsという国際合意に対応して各国が予算増を行うには通常1-2年のタイムラグが必要であるし、為替レートの影響でドルベースの援助額は大きく増減するし、例えば欧州では近年自国への難民の急増に対応するといった特殊要素があることを踏まえると、2016年の援助額がトータルで増えたことをもって、SDGs合意による影響が早くも出たとみるのは早計であり、もう少し長期のトレンドを見なければならないだろう。
 実際、国連の報告を見ても、過去5年、災害による人道支援や国内に流入した難民支援への支出が増えており、その他分野の実質援助はおおむね横ばいになっていると指摘している(「進捗と展望2017年報告」(UN Inter-agency Task Force on Financing for Development)。

 この関係で、SDGs本文においては、「ODA供与国が、開発途上国に対するODAをGNI比0.7%」にするという先進国のコミットメントが確認されている。この0.7%目標は1970年に国連で定められたもので、達成期限は決まっているわけではない努力目標であり、SDGsの目標に向けて新たに設定された義務でもないが、先進国が目標の達成に向けて努力を続けるべきは言うまでもない。
 ところで、開発途上国におけるSDGs向けの必要資金額予測には諸説あるが、OECD開発協力報告書(2016年版)では年間約3.3~4.5兆米ドルという推計を使っている。これは2015年のODA供与額全体約1320億米ドルと比べると、その25~35倍の額であり、ODAを含む公的資金でSDGsに対処しようとするのは非現実的である。同報告書でも、「地球規模の相互に関連した問題に対処するには、民間部門を軸に多様な利害関係者が結集する必要があり、SDGs17分野の達成は民間部門の関与にかかっている」としている。
 したがって、SDGs達成の見通しを考える上で、0.7%目標にすべての先進国が届けば達成可能、少数にとどまれば達成不可能で、その責任は先進国政府にあるというような議論は適切とはいえないだろう。因みに、2015年実績で、0.7%目標を達成しているのは、DAC加盟の先進国28か国中、スウェーデン、ノルウェー、ルクセンブルク、デンマーク、オランダ、英国の6カ国である(2016年は暫定値ながら、ドイツが入り、オランダが落ちている。)。SDGsのための資金調達の方途を議論した第3回開発資金会議(2017年7月)においても、各国が自身の経済的、社会的発展に主要な責任を負うと明文で合意されており(アディスアベバ行動目標パラグラフ9)、それを国際的な経済環境が支援することとなっている。自国の開発の一義的責任がその国にあるというのは自明であり、SDGs本文にも同様の規定がある。しかしながら、同時に、国外からの支援であるODAが引き続き重要である点も確認されており、その拡大が求められるのも開発史を踏まえれば当然である。また、ODAを含む国際的な公的資金の活用は、民間資金を含め他の資源を動員する触媒としても重要である点が、同じくSDGs本文で指摘されている。開発にとってますます重要性が高まる民間資金を、公的資金が触媒する機能をいかに有効に活用するかの仕組みづくりについて国際的議論が始まっている。
 例えば、ブレンドファイナンスの拡大がそのひとつと言われている。商業的には融資条件をまだ十分に満たすことができないが、持続可能性の見込みが高いがリスクがあるプロジェクトなどに公的機関や公的資金が支援することで、民間資金が入りやすくする手法である。これまでも行われていたが、公的資金と民間資金をブレンドファイナンスする手法を大幅に拡大することが期待されている。

 こうした状況下、ゲイツ報告が2030年に向けたSDGsの達成に控えめな表現ながら早くも懸念を表明したのはなぜなのか。米国をはじめとする先進国の内向き志向もそうであるが、より広く国際情勢全般に理由があるととらえるべきであろう。
 ゲイツ報告が指摘したように、世界最大の援助国である米国の援助予算削減方向はSDGsに悪しき影響をもたらす恐れが高い。トランプ大統領の決まり文句である「アメリカ・ファースト」が示すように、世界が低成長経済の時代に移行しつつある中、自国の経済も良くないのになぜ外国や他人を支援しなくてはならないのかという内向き志向が米国のみならず先進国の中に広がり始めていることは確かであろう。筆者の記憶する限り、戦後70余年の開発史で内向き志向を主因として世界の援助が減るという状況はかつてなかった。冷戦終了後の1990年代に「援助疲れ」が出たことはあったが、むしろ厳しい冷戦対立から解放された安心感から来る性格が強かった。先進国の国民から出始めたこのような内向き志向に対し、各国政権が自国中心主義というポピュリズムで応えてしまう傾向が広がっていけば、援助に影響が出てSDGsの進展が難しくなるかもしれない。

 外交面を見ても、MDGsが始まった時代に比べ、米国の相対的国力が落ち、世界のパワーバランスが変化する中で、国際社会は求心力を弱めて散乱の度合いを強めている。安全保障上の脅威やテロの拡散によって自国の安全こそがより重要だと認識されるようになり、それを阻止しようとする強制力やメカニズムも弱まっているとの国際情勢認識が強まっているように思われる。そうした背景もあり、世界では紛争が止むことはなく、これら紛争地域ではSDGsの実行自体が妨げられている。こうして、国際社会が安全保障上の懸念の増大、難民への対応などにより、SDGsに集中しにくくなる度合いが高まれば、せっかくMDGs時代に一定の成功を収めた好ましい流れも途切れてしまう。ゲイツ報告はここまで具体的に説明しているわけではないが、こうした時代の趨勢を認識し、警告を鳴らしているものととらえていいだろう。

 同様の認識は、国連がSDGの進捗を金融面から報告した際にも出ており、「困難な国際環境が個々の、そして共同の努力を妨げており、実行において多くのギャップがある。」と述べている。その国際環境とは、現下の世界経済不振、自然災害、環境、人道危機、安全保障問題などを挙げ、全般的に困難な状況があるとして、SDGsの進展に必要な国内リソースは経済発展により生み出されるのであるから、2030年に向けたSDGs成功のためにはこうした流れが変わらなくてはならないと現状を評価している。(「進捗と展望2017年報告」(Inter-agency Task Force on Financing for Development)。
 この関連で想起しておきたいのは、2000年にMDGsが掲げられてまもなく、米国で衝撃の9.11同時多発テロが起こった。ブッシュ(ジュニア)政権はテロの温床は貧困にあると考え、国際援助を急拡大し、多くの先進国がこれに続くことで、世界中で貧困削減を重視する流れができ、これがMDGsの進展につながったことである。当時、「貧困がテロの温床だ」、であるからテロ予防のため貧困削減が必要だという論理が世界で説得力をもったが、テロの脅威が現在まで続いている過程で、テロと貧困の関係をめぐる議論もさまざまであり貧困削減援助にどのような影響を及ぼしていくのかは注目していきたい。また、気候変動を含む地球環境の悪化がどこまで顕在化し、自然災害がさらに頻発していくのか、紛争による難民の流出や帰還の成り行きがどうなっていくのかなどは、国際社会がSDGsにどれだけ大きな関心を向けられるのかを占う上で重要な要素となるであろう。

 以上について要約を試みれば、SDGsの取り組みは始まったばかりであり、まだ進捗状況を全体として評価するのは早計である。世界経済は低成長時代に入ったようだが、先進国のODAのトレンドは悪くない。世界政治の不安定や内向き志向は懸念材料であり、各国政府がSDGs目標に注力する妨げになりうる。民間資金を含めて、政府のみならずあらゆる関係者(ステイクホルダー)をSDGsに動員できるかは今後の国際社会の努力によるところ大である。2017年5月に提出された国連事務総長によるSDGs進捗状況報告をみても進展と後退の双方が淡々と記述され、今後の見通しを示すまでには到っていない。ゲイツ報告は、こうした国際情勢をトータルに見て、各国政府に更なる努力を求めたものであろう。
 MDGsの取り組みを最終評価する国連ミレニアム開発目標報告2015において、国連は「MDGアジェンダは、これまでの歴史で最も成功した貧困撲滅のための取り組みであった。MDGアジェンダの成功は世界規模での取り組みが機能していることを証明し、2015年以降に採択される開発目標の基盤となっている。」と総括した。国際社会にはSDGsの取り組みに一定の成功を収めたMDGs時代の経験と基盤があるし、それ以前にも長い経済開発、開発援助の歴史、経験がある。これらを活かしつつ、国際社会が新しい挑戦に一丸となれれば、SDGsでも大きな前進が可能であるに違いない。
 ゲイツ報告は、今後同様の報告を毎年出していくとしているが、SDGsのステイクホルダーでもある世界最大の慈善団体が、国際社会の取り組みを監視し、後押ししようとしたのはタイムリーであり、心強くもある。ゲイツ夫妻は自らを楽観主義者と称しているが、国際社会の先行きに悲観主義が漂いつつある中、MDGs時代に存在した好ましい楽観主義が遠からず戻ってくることを心から期待したい。

 本稿は個人的意見であり、当研究所の見解を示すものではない。

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