IGESコメンタリー

中国共産党大会は環境政策を変えるのか

2017年10月18日

 本10月18日に始まった中国の共産党大会は、日本のみならず世界的に注目されてきているが、それはなぜなのか。そして、党大会の結果は、中国による環境問題の取り組みに影響を及ぼすのであろうか。

 5年ごとに開かれる中国の党大会が海外で高い関心を呼ぶのは、中国が中国共産党の一党支配下にあり、新たに決まる党の指導部の顔ぶれ、党内の力関係が今後の中国の内外政を方向付けるからである。現在の党トップである習近平総書記が二期目5年も総書記に選出されることが確実視される中で、今回特に注目されているのは、習氏以外の最高幹部(政治局常務委員など)が誰になるのか、特に習氏の側近がどのくらい指導部に入ってくるのかであり、その結果、習氏の権力基盤がどの程度強固で、今後5年、さらにはその後、習氏への権力集中がさらに強まっていく趨勢なのかがわかるのである。この結果、大方の予想通り、習氏の権限が強まっていることが今次党大会で明らかになれば、今後5年間、中国の内外政策において習氏の指導性がより鮮明となり、これまでの集団指導体制とは異なる方向に進む可能性が高い。その先が強いリーダーシップに基づく安定的な国家運営になるのか、逆に権力集中に伴いやすい危険で不安定なものになるのかは現時点でわかりえないが、日本にも影響が及ぶことは間違いない。

 本題である環境政策への影響であるが、結論を先に述べれば、これまで習近平体制が進めてきた強力な環境重視方針は継続されることになるだろう。しかし、中国の経済成長が今後鈍ったり、習氏の権力基盤が弱まれば、環境政策にも多かれ少なかれ後退がありうるというものである。

 習総書記は2012年から2017年までの5年間、権力基盤を徐々に強固なものにしてきたというのが、大方の見方である。その強権のもとに、いくつかの大胆かつ強力な国内改革を推進してきたし、対外的には大国主義を隠すことなく、自己主張が強く強硬な軍事、外交を進めてきた。国内改革でいえば、まず特筆すべきなのが汚職・腐敗の徹底的な抑圧である。約1400万にも上る党員が処分されるという徹底ぶりは、緩み始めた共産党の引き締めのためとも、習氏の権力維持のための反対勢力弾圧が目的だとも言われている。習氏は中央、地方政府の実力者のみならず、強力な権力機構である軍指導者にも切り込み、2015年末からは大胆な軍改革もおこなっている。同じく貧困削減政策も強力に進めてきた。貧困削減自体は30年来の政策であるが、習氏は2015年10月の世界貧困デーにあたり、2020年までに中国の残る絶対貧困7000万人を一掃すると世界に宣言した。習氏の総書記就任後、毎年1000万人以上が貧困を脱却し、残り5500万人に迫っている。中国の統計については疑義があり、絶対貧困の数は実際もっと多いといった批判もあるが、習氏の大号令のもと、さまざまな貧困削減対策が中央政府、地方政府、企業など多くのステークホルダーの参加と協力により強化されていることも確かである。そして、以下で述べるとおり環境対策も強力に進められている。こうして汚職・腐敗の取り締まり、貧困削減、環境改善といった課題に果敢に挑む習氏は国民の喝采を浴びているといってよいだろう。体制批判が許されない国柄であり、世論調査といったものがない国であるが、私が最近まで中国(重慶)に勤務していた経験でも、庶民レベルにおける習氏の人気は高かった。中国には西側のような民主はないが、世論を無視することは次第に難しくなり、逆に世論の支持を得ることが重要な権力基盤になる趨勢にあるといっていいと思う。

 また、彼が掲げる「中華民族の偉大な復興」という目標は、世界第二位の経済大国に発展した中国国民の自尊心を大いに掻き立てている。軍事面を含め拡張主義的、強硬な対外政策は、南シナ海問題をめぐる一連の政策にしろ、尖閣諸島をめぐる動きにしろ、最近のインドとの国境におけるにらみ合いにしろ、国際社会の警戒を高めている。しかし、中国の大衆レベルでは、自国に対する不都合な評判が情報統制で知らされていない点を差し引いても、世界に冠たる中国を実践する共産党指導部を高く評価していると思われる。とりわけ重要な経済でも、国有企業改革を掲げ、民間企業を重視する習氏の政策は国民の支持を得ているといっていいだろう。中国の経済成長が近年かげりを見せつつも、他国に比べれば高度成長を続けてきていることもまた習氏の権力基盤を強化している。

さて、本題の環境に入りたい。人類社会が直面する最重要課題といえる気候変動問題において、習近平中国が積極姿勢に転じ、2016年9月、地元中国開催(杭州)のG20サミットにおいて温室効果ガスの排出で世界一位と二位の中国、米国がともに取り組むと、習氏がオバマ大統領と握手した演出は記憶に新しい。習政権は、2030年ごろまでにCO2排出量をピークとし、さらに早期にピークを迎えるよう最大限の努力を払うとともに、2030年までにGDPに占めるCO2排出量を2005年比で60~65%削減するとの目標を2015年に公表、提出した。

中国の首都北京を中心に全国的に広がる大気汚染は、近年世界的に注目されているが、2015年8月に大気汚染防止法が15年ぶりに中国の国会(全国人民代表大会)で改正された。中国は石炭の生産、消費ともに世界の半分前後を占めるダントツの世界一であるが、温室効果ガス削減、大気汚染対策の双方から石炭燃焼の削減は急務であり、ここでも消費抑制の方針が打ち出され、2013年をピークに減少傾向にある。

 大気汚染のみならず、水質にしろ、土壌にしろ、環境汚染に対する中国国民の意識は高まっており習政権ではこうした国民の強い要請にこたえ、以上のような環境政策を時に大胆に採用するようになっている。2015年に純粋な学術出身の環境専門家である陳吉寧清華大学学長を環境保護部長(環境大臣に相当)に抜擢するという人事もあった。また、中国政府が、この9月に電気自動車(EV)への移行を強く促す規制を打ち出したのも、産業戦略の色合いも濃いが、環境改善とのコベネフィットを狙うものである。こうして日本人のイメージする以上に、中国政府が真剣に取り組んでいることは、小柳秀明・IGES北京事務所長の新著(「シャオリュウの中国環境ウォッチ」:環境新聞社)に詳しい。

 他方で、中国の広大な国土、引き続き拡大する経済発展、遅れてスタートした環境対策、遵法意識の弱い国民性などを踏まえれば、時間のかかる取り組みにならざるを得ないことも事実であろう。

 それでは、習氏の環境重視方針は今後も継続されるのであろうか。汚職・腐敗対策、環境重視、貧困対策重視のいずれも、大衆を味方に引きつける政策であり、政権基盤を強化するための非常に巧妙な政権戦略であったととらえることもできる。すなわち、習氏がこれまで「生態文明の建設」という旗印のもと、環境問題に優先度を置いてきたのは、共産党内の反対勢力に批判の口実を与えたくない、一歩進めて大衆の支持をえて自らの政策を進めるためにも、むしろ積極的に利用しようという側面があったであろう。そうであれば、共産党総書記に再選され、政権基盤を固めてしまえば、現行制度上、総書記ポストは三選できない以上、大衆迎合的な政策を真剣に続ける必要は必ずしもなくなるという考え方も成り立つ。しかし、筆者は、強力な環境政策は続けることになるとみている。それほどに環境汚染は深刻であり、国民生活に影響が出ているからである。昨年の米科学振興協会(AAAS)の発表によれば、大気汚染のため世界で年間550万人以上が死亡しており、その55%が急速な発展を遂げる中国とインドにおける死者だという。国民の不満が一定限度を越えれば、一党独裁の共産党支配体制を揺るがす事態にもなりかねないからである。旭硝子財団が毎年行っている国際アンケート調査(地球環境問題と人類の存続に関するアンケート)を例に見ても、中国人は、気候変動問題や生物多様性の問題よりも、環境汚染、水、食料など目に見えやすいより身近な問題に関心が強いのである。

 こうした大衆の切実な要請、共産党支配の継続を考えれば、政権二期目も環境重視政策は変わらず、ましてや巷間言われるように習氏が二期目終了後(2023年)も自分の後継者に影響力を残すことを目論むということであれば、環境政策は重要な課題であるととらえることが自然であろう。

 他方、今回の党大会の結果、習氏への権力集中の方向とならず、これまでのような集団指導体制となる場合には、以上のような経緯からも、ある程度環境政策の優先度が落ちてしまう可能性はあるのかもしれない。また、習氏の権力基盤の強弱にかかわらず、環境政策を大きく左右するのは中国経済の行方であろう。昨年の経済成長率は6.7%であったが、さらに成長が鈍化することとなれば環境重視政策も予算不足で翳る可能性がある。経済と環境が両立できないというよりは、経済成長が落ち込むことになれば失業率が高まり、政権ひいては共産党支配への不満を引き起こす恐れがあるので、失業対策のための成長こそが最優先になるからである。石炭関連産業の閉鎖・縮小といった大量失業を生む対策はとりわけとりにくくなる。こうして、経済が翳れば、共産党指導部は、経済と環境の間のジレンマ、そして共産党支配の維持・強化とのトリレンマに直面する恐れがあるのである。

 中国の安定的な経済成長、そして環境に対する適切な取組みは、世界、とりわけ隣国日本にも大きな利益であり、中国の新指導部による舵取りに期待したい。


本稿は個人的意見であり、当研究所の見解を示すものではない。

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